川崎市における学校へのインターネット導入状況
川崎市教育情報ネットワーク
KEINS−NET(ケインズーネット)
Kawasakishi Educational Information System-Network
 
川崎市総合教育センター
研修指導主事 西田政吉
 
1.はじめに
 高度情報通信社会の進展は目覚ましく、世界のさまざまな情報が瞬時に送受信され、その情報が家庭にも送られてくる時代になってきた。国や県および市町村でも、教育情報のネットワーク化が重要視されている。こうした動きに対応するため、川崎市においても平成6年11月より川崎市教育情報ネットワーク(KEINS-NET)を構築し、センターと市立学校・学級とのネットワーク化を推進している。
 KEINS-NETでは、児童生徒のネットワーク利用を可能にすることを重点において整備を進めている。平成9年度よりインターネットとの接続も完了し、現在、パソコン室からの情報の送受信も進めている。
 
2.KEINS−NETの目的
 @ 教育に関する資料・教材のデータベース化を推進しており、過去の実践事例や研究を一元管理することにより、利用者全体で共有化でき、相互に利用が可能である。さらには、今までの教育資産を長期保存でき、有効活用が可能である。
 A 利用者にとって、日々の教育活動の中で、必要な教材・資料・情報(他校での実践例等)を必要な時に瞬時に入手でき、教育実践活動の中で有効活用できたり、利用者の教材開発を促し、援助することにより、教育活動の活性化が期待できる。
 B 教材研究の中で、市内ですでに実践された資料等から自身の普段の授業に工夫を加えたり、組立を考えたりし、指導方法の改善が行われることは、利用者自身の研修になる。
 C 教育関係職員間の情報交換が可能になり、利用者間のコミュニケーション、連絡等に利用可能であり、教育活動に活用できる。
 D 情報教育の推進が求められている今、情報ネットワークは、この情報教育を、実践事例の紹介やパソコンソフトの提供等、側面から支援することができる。
 E 児童生徒が利用することにより、児童生徒の主体的学習(例えば、児童生徒自身が疑問を見つけ、その疑問を解決する方法や調べる手立てを考え、必要な情報を探す事等により、自身で疑問を解いて行こうとする学習)を促し、援助することができる。また、児童生徒同士で情報交換をしたり、作品の交換(作文や感想文)もできる。
 
3.KEINS−NETの構成
 川崎市総合教育センターのコンピュータをサーバとし、各学校に設置されたパソコン端末と教育センターのサーバをISDN網の高速デジタル回線(INS64)を通して接続し、各学校間をつなぐネットワークになっている。各学校からはデータベースの検索をして教育情報を入手したり、パソコン通信機能を利用し、各学校間での情報交換ができる。パソコン端末は、各学校の職員室に設置し、利用者がいつでも気軽に利用できるようにしている。さらに、職員室に設置されたパソコン端末と児童生徒が学習で利用するパソコン教室をケーブルで接続し、パソコン教室から直接KEINS−NETを利用できるようにしている。
 
4.KEINS−NETの内容(利用できる情報) (平成10年10月現在
 @ データベースからの情報検索
川崎市総合教育センターの資料 40,084件
社会科郷土資料教材データベース 12,355件
社会科郷土資料教材データベース(児童生徒用資料) 4,114件
算数・数学科教材データベース 2,681件
教育実践データベース 532件
幼児教育教材データベース 2,457件
コンピュータ教育利用教材データベース 636件
映像・視聴覚教材データベース 3,943件
マルチメディアデータベース 80件
国立教育研究所の移植データベース(S56〜H3) 67,375件
総合計
134,257件
  国立教育研究所が構築(S56〜H3)し、当センターにデータ移植したものである。
 現在、KEINS−NETのデータベースには13万4千件を越える情報が蓄積されており、必要な時に必要な資料を検索することができる。さらに、パソコン端末から即座に提供できる一次情報(資料・教材の現物)も数多くそろえている。図書の目次や各教科の指導案、指導計画、地図、ワークシート等のイメージ情報(画像)が1万件以上、社会科の絵や写真、読物資料等のカラーイメージ情報が約4千件、算数・数学のプリント教材(一太郎の文書形式)が約1千件、パソコン用自作教材・データが等も含まれ、必要に応じて、画面表示やプリンタ(カラー)から印刷したり、保存したいデータはフロッピィディスクに保存することもできる。
 A パソコン通信機能
  ● 電子メール(E-mail連携で利用できる)
   利用者個人間または学校間で手紙の交換ができるので、利用者相互の情報交換に利用できる。
  ● 電子掲示板・会議(フォーラム)
   利用者個人や学校、研究会等から利用者全員に知らせたい事をメッセージとして電子掲示板に書き込んで情報交換したり、一つのテーマについて、自分の意見を会議室に書き込んで、大勢の利用者で意見交換をすることができる。
   現在の内容は、KEINS-NETからのお知らせ、自己紹介、学校紹介、喫茶室、相談室、お知らせ、ネットワーク研究、コンピュータ教育利用、インターネットの広場、プログラムの部屋、プログラムの評価室、資料室、図書室、職員室、研究会&教科の部屋、英語の学習、社会科の学習、センター内掲示板等が設定されている。また、児童生徒が利用できる「子ども広場」や児童生徒の作品を載せる「子ども作品展」も設定している。
  ● ライブラリー
   利用者が共通に利用できるライブラリーで、資料や教材を蓄積して、利用者相互に利用することができる。
  ● カレンダー
   利用者個々のスケジュール管理から、機器の予約、会議室等の予約等に利用できる。
 B インターネット
  ● ホームページによる情報発信(情報の送受信)センター紹介、研究研修一覧、出版物、学区地図、データベース等
  ● E-mailの利用
  ● ニュースの利用
 
5.KEINS−NETの機能
 @ 汎用コンピュータからサーバへ
  平成6年度まで利用していた中型汎用コンピュータを平成7年度よりサーバに変更し、コンピュータをそれぞれの機能ごとに分け、コミュニケーションサーバ(パソコン通信機能)、データベースサーバ(情報検索機能)、ファイルサーバ(映像検索機能)を独立させた構成にしている。これにより、ネットワークの運用を効率的に行い、しかも高速処理を可能にしている。
 A ISDN網を利用した高速デジタル通信
  データ量の多いマルチメディア教材やパソコン教室から同時に多数の端末が利用できるように、総合教育センターと各学校間をISDN網を利用した高速デジタル回線を利用して接続している。学校側はINS64、センター側はINS1500を利用している。
 B LAN−WAN−LANの形態をとるLAN間接続各学校に設置した職員室のパソコン端末とパソコン教室のコンピュータをつないだLAN(ローカルエリアネットワーク)形態と、総合教育センターの所内LANとをWAN(ワイドエリアネットワーク、広域な公衆回線)で接続するLAN−WAN−LAN接続にしている。
 
6.教育情報ネットワークの利用を推進する事業
 @ 教育情報ネットワーク研究会議(平成10〜11年度)
 A 教育情報ネットワーク研修(平成10年度)
  ・ネットワーク初級 8月17日〜20日
  ・ネットワーク中級 8月21日〜26日
 B パソコン・視聴覚養成講座(研修番号206)学校単位での研修
 C 端末導入校 ネットワーク研修  担当者研修  管理職研修 
 D 教育情報ネットワーク学校担当者会(各校1名)年間3回
 E 教育情報収集委員会(幼・小・中・高・特殊の各研究会との連携による資料収集)
 F 川崎市教育用ソフトウェア開発委員会の設置と運営
 
7.KEINS−NETの利用状況と設置校数 (平成10年10月現在)
 @ ID発行数 個人ユーザ数735名 機関ユーザ数61件
 A KEINS−NETの端末の設置校数 合計60校+教育委員会
   小学校30校 中学校27校 特殊教育諸学校3校 教育委員会1
 
8.まとめ
(1)川崎市教育情報ネットワークの活用状況
 川崎市教育情報ネットワークの端末設置校の増加に伴って、ネットワークを活用した授業を数多く行った。小学校の中では、今までは、公共の施設や図書館の資料等を中心に調べ学習を進めてきたが、「川崎市の教育情報ネットワーク」や「インターネット」を活用しての情報収集や情報の送受信を行った交流がすすめられた。調べ学習をする中で、メールを使って外国のことについて質問する実践なども行われた。
 インターネットで調べ学習をするには、小学生では難しい漢字が多かったり、用語が難解だったりで今後の活用方法の工夫が必要となった。調べた資料の信頼性においては、十分に吟味する場合も出てくる。そこで、インターネット等で調べ学習をするときには、メールボランティア(子どもたちの質問や疑問に応えてくれる方)と言われる人々の存在が大切になる。地域の先生の発掘はもちろん、このメールボランティアの発掘もすすめる必要がある。
 中学校では、テレビ会議の後、メールでの交流が進められた。特に学校で行われる行事や日本の文化等の紹介も含めて、メールの日常化を図ることができた。
(2)ネットワーク構築の見直し
 川崎市のコンピュータ導入については、各学校への研修用コンピュータの導入に始まり、続いて平成2年度より中学校へのコンピュータの導入がすすめられた。現在中学校へ導入されたコンピュータの更新がすすめらている。また小学校については、平成6年度よりコンピュータ室の導入が始まり、平成12年度までに完了する計画である。
 今後コンピュータを使った授業の中では、新しい機種で行う学習と、古い機種でも可能な学習を上手にすみ分けながら、有効に活用することが今後ますます必要になってくる。
 平成10年度からのインターネット正式運用に伴って、現行の運用規程・利用規程・実施要項の見直し、さらに学校でインターネットを活用する際に個人情報・著作権・肖像権の保護に基づいたガイドラインの吟味が必要となる。特にインターネット接続に対しては、有害情報の規制、ネチケット(ネットワークエチケット)についての情報倫理の啓発に向けての教職員への研修が必要である。ネットワークの運用面に関しては、センターから職員室端末、そしてコンピュ―タ室への接続には、それぞれ導入された年度や機種やOS等が違うために、接続のための調査が必要となる。安定した運用やセキュリティ確立のためのシステム構築が必要となる。市のネットワーク事業等、関係諸機関とも連携し、円滑にインターネット事業を促進しなければならない。今後、各学校のコンピュータ室導入に合わせてネットワークの構築を並行してすすめる等、導入計画の見直しが必要である。
(3)情報化の「影」の部分への対応
 コンピュータ等の情報機器を使った授業で常に留意しなければならないことは、情報化の便利さの影の部分への対応である。インターネットで調べた内容の信憑性はもちろんのこと、自分が直接調べたことや聞き取ったことではなく、あくまでもコンピュータ等を通して体験するものは間接体験や疑似体験である。実際の直接体験こそが大切であることを、今一度しっかりと指導者が認識して学習をすすめなければならない。インターネットで調べた内容をそのまま書き写しただけでは、まとめとしては不十分である。調べた内容が本当なのか確かめようとする態度が大切である。さらに、新たな疑問や課題が生まれてはじめて、自分で主体的に情報を探そうとする力がつくのである。
 子どもたちがネットワークを使い情報を送受信するときの留意点についてまとめたビデオ「ネットワークのやくそく」(センター制作)を、今後、活用したい。
(4)指導、操作できる教員を増やす手だて
 今後、市内小中学校のすべてにコンピュータ教室が設置される予定で進められている。
 川崎市内の中学校にはすべてコンピコータ室が設置されているが、さらに平成11年度、12年度で小学校にもすべての学校にコンピュータ室が設置され、市内全学校にコンピュータ室ができる予定である。しかしながら、コンピュータを操作できる教員、さらに指導できる教員となると実態は極めて厳しいものがあり研修を充実させる必要がある。(表参照)
校 種 調査年度 教員数 操作可 割 合 指導可 割 合
  H9全国 408,908 160,137 39.2% 68,141 16.7%
小学校            
  H10川崎 3,400 793 23.3% 316 9.3%
  H9全国 250,076 127,297 50.9% 56,818 22.7%
中学校            
  H10川崎 1,556 730 46.9% 308 19.8%
 ここ2〜3年にかけて,コンピュータの入れ替え(更新)や新規導入が市内の学校へすすめられている。このコンピュータ導入により、教員への操作方法や活用等の研修が急務となっている。当センターでは夏季研修中ばかりでなくコンピュータ研修を通年にわたってすすめる必要がある。今後、研究協力校と研修を重視した研究の方向性も考えられる。
(5)情報発信のすすめ(学習の成果のまとめやホームページ等)
 学習の成果物を市内外に発表したり、ホームページに登録公開したりすることにより、学習情報の改善や資料の継続等を図ることができる。また、情報の創造・生成・加工の段階をふまえ、より適切な発表方法も学ぶことができ、まさしく主体的な学習をすすめる上において、貴重な学習経験となる。イントラネット内によるホームページの登録を経て、今後はインターネットへの発信も含め、学校からの情報発信を大いにすすめたい。そのためには、発達段階に合わせ、メールの送受信やインターネットで検索したりする時の「ネットワークを利用するためのマニュアル」を作成する必要がある。さらに、コンピュータ室からの情報検索だけでなく、各教室からの検索が可能にするための、校内LANのシステム(校内ネットワーク化)を構築しなければならない。
 
9.資料
 ・「インターネットの教育利用と有効活用」情報発信基盤の整備 平成9年度 
  川崎市総合教育センター研究紀要
 ・川崎市教育情報ネットワーク実践事例集 1998年 3月発行
 ・平成7〜10年度「共同研究報告書」  1998年11月発行