高速回線を用いた共同学習実験報告
浅野 智子(大和市立林間小学校教諭)
佐藤 慎一(三菱総合研究所 研究員)
1.はじめに
1998年1月28日、新100校プロジェクトの高度化技術企画の一つとして、高速回線を用いた共同学習実験が、東京都港区立神応小学校(4・5・6年)と神奈川県大和市立林間小学校(6年1組)の間で、情報処理振興事業協会の東京都港区と神奈川県藤沢市の両施設を使い行われた。
実施にあたっては、情報処理振興事業協会・コンピュータ教育開発センター・港区立神応小学校・大和市立林間小学校・三菱総合研究所の関係者で研究グループが組織され、学習面、技術面のそれぞれの予想される問題点について話しあいを重ねた。そして共同学習実験は、(1)両校の児童はそれぞれの観点から調べ学習を行ない、調べ学習からわかった事を実物やビデオやWebやNetMeetingを用い発表しあうが、それらの活動を通して「ものごとに対する考え方・見方」が育っていくことを望んで、(2)また将来予想される高速回線を用いた動画や音声等を活用したリアルタイムの共同学習を先駆的に行い、高速回線を用いた教育の効果と課題を明らかにするために実施された。
2.学習について
共同学習は「わが町紹介」をテーマに以下の計画で実施された。
2.1 指導計画
表1 指導計画
第1次(事前交流) |
学習用Webページを学校に立ちあげ、電子メールを使い両校で自己紹介・質問の交換等を行う。 |
第2次(2時間-本時) |
高速回線を用いた合同授業で、第1次で出てきた質問を受け両校はそれぞれ自分の住む地域の紹介を行ない、他地域を知ることから自分の住む地域を見直すきっかけとする。 |
第3次(事後交流) |
学習のまとめとして、合同授業に参加して得たことは何だったのか感想文を書き電子メールを使い交換する。 |
2.2 本時のねらい
2.3 授業タイムテーブル
表2 授業タイムテーブル
時間(分) |
場面 |
内容 |
0〜5 |
はじめに |
授業開始にあたっての挨拶を授業担当の先生が行う。 |
5〜30 |
林間小学校発表 |
林間小学校が発表を行う。 |
30〜55 |
神応小学校発表 |
神応小学校が発表を行う。 |
55〜60 |
林間小学校質問整理 |
神応小学校から送信された質問感想カードを整理する。神応小学校側は相手校の整理の様子を観察する。 |
60〜70 |
両校質問整理 |
両校とも相手校から送信された質問カードを整理する。 |
70〜78 |
林間小学校回答 |
整理された神応小学校からの質問に回答する。 |
78〜86 |
神応小学校回答 |
整理された林間小学校からの質問に回答する。 |
86〜90 |
おわりに |
授業を終わっての挨拶を授業担当の先生が行う。 |
3.技術的内容紹介
3.1 システム構成
研究グループにより検討された実験授業内容を実現するためには、以下の各機能が必要ということになった。
HTMLで用意されている発表用の素材を、発表者側の操作(次画面の表示など)により視聴者側画面にも同画面が自動的に表示される。
発表・質問など、各場面で映像及び音声を用いる。
発表に関する質問・感想の収集方法に関しては研究グループにて様々な議論がなされ、最終的に質問感想カード(紙媒体)に児童が記入する方式が採択された。この方式に基づき質問感想カードを画像としてコンピュータに取り込み、整理・分類・回答を行うため、本機能を用いる。
上記機能を実現し、本実験で用いたシステム構成の概要を図1に、利用したハード・ソフトの一覧を表3に示す。
図1 システム構成概要
表3 利用ソフト・ハード一覧
利用ハード・ソフト |
スペック、用途等 |
WWWサーバ 1台 |
富士通製SparcStation 5 32Mbyteメモリ |
発表者用PC |
IBM製PC MMX-Pentium200MHz 64Mbyte<メモリ |
質問感想カード用PC |
富士通製PC Pentium166MHz 48Mbyteメモリ |
ビデオカメラ |
ビデオキャプチャカード経由で発表者用PCと接続 |
マイク |
サウンドカード経由で発表用PCと接続 |
スピーカ |
サウンドカード経由で発表用PCと接続 |
OHC |
ビデオキャプチャカード経由で質問感想カード用PCと接続 |
プロジェクター |
林間側は備え付けの背面投写式プロジェクター |
画像切替器 |
プロジェクターに投影する画面を、必要に応じて発表者用PCの画面、質問感想カード用PCの画面と切替えるために用いる |
NetScape ver3.0 |
発表用コンテンツ表示用 |
NetMeeting ver2.1 |
映像・音声双方向通信、ホワイトボード、画面共有(上記NetScape画面を発表者・視聴者間で連動させて動作) |
3.2 実験の実施
実験は表2に示したタイムテーブルに従い、両会場とも児童、教師2名にサポート要員を加えて行った。すべての場面を教師・児童のみで対応するのが理想的と思われるが、今回の実験では、現状のソフトの操作性、スケジュール的な問題を考慮してサポート要員を配置することとした。具体的には、発表時、質問時など、各フェーズごとのコンピュータ画面、プロジェクター投影画面の切替え、トラブル時の対応といった作業を行った。実験授業のメインは各学校からの発表、質問、回答部分となるが、当該部分の実験の流れを以下に記述する。
3.3 実験時のシステムの状況
何度かトラブルは発生したものの、予定したことはすべて、ほぼ時間通りにこなすことができ、はじめての試みとしては概ね順調であったと言える。
しかし、現状ではすべてのソフトが何の問題もなしに順調に動くとは言えないのも事実であり、実際、本実験でも何度か問題が発生した。その際、コンピュータの回線だけでは相手の状況を把握するのは困難であり、現状では何らかの代替手段により相手校の状況を把握せざるを得ない。本実験では、やむを得ない場合には、サポート要員同士が電話連絡をとることによりトラブルへの対応を行った。
どの障害時も、コンピュータのリセットにより改善されたことを考えると、OSあるいはアプリケーションソフトのソフトウェア的な問題に起因するものと考えられ(システムリソースの食いつぶし等)、今後の成熟が待たれる。
一方、正常時には画像、音声とも十分な品質での送受信を行うことができた。質問感想カードに関しても、画像として取り込まれた文字を読むという性質上、高解像度が必要であり、また多くの質問感想が寄せられたため、ファイルサイズとしては6〜7Mbyteほどの大きさになったが、送受信に要する時間は気にならず、高速回線のメリットを生かせたものと思われる。
4.おわりに
終了後にアンケート調査を実施したが、多くの児童が興味を持って学習に参加できたと述べている。感想のいくつかを以下に示す。
今さら言うまでもないことであるが、インターネットを学習の為の道具として考えるとその双方向を活かした共同学習に思いあたるであろう。高速回線を用いた共同学習の話が持ち上がってから実際の学習までの期間は、冬休みをはさんでいたこともあり大変短いものであった。そのため学習を終えて考えれば、授業構成を含め様々な場面でもっとこうしたらより効果があがったのではないかと思う所もあるが、1.5Mbpsという回線を学習に利用する事が可能ならば、学習を効果的に行なう為の大容量の画像や音声データをファイルサイズを意識せず自由に用いることができると実感できた。
学校におけるインターネットの活用も、黎明期を過ぎ普及の時代に入ってきている。文部省も全国の学校にインターネットを整備する具体的計画を提案したが、配備された後は全国規模で多くの共同学習も行なわれるようになると思う。そうなった時に第一に考えていかなければいけないのは、「何」について共同学習することが児童・生徒にとって教育的に効果があがるであろうかという事であるが、今回の実験に参加して回線の問題も授業を考えるについて大きな要因になっていると思った。
なお、新100校プロジェクトは来年3月をもって終了するが、文部省は光ファイバーの接続校について内定していた第一次分の学校を正式に決定、10月末に県及び政令市に委嘱通知を出した。