技術解説「ネットワークサーバ管理入門」

教諭  前田 真理

1.はじめに

 「ネットワークサーバ」をこの文章においては「クライアント/サーバシステムによる分散処理型ネットワークにおいて,クライアントからの処理要求に応じて,サービス(処理)を提供するコンピュータ」と定義する。「強大な主(あるじ,ホスト)であると同時に忠実な従業員(サーバント)」が,サーバのイメージである。これを実現するサーバで動作するOSには厳しい条件が要求される。

2.サーバ導入にあたって

 ネットワークサーバOSを選択するポイントは次のように考えられる。

(1)コストおよびライセンス

(2)機能性

(3)信頼性

(4)システム管理

(5)処理性能

(6)セキュリティ

3.ネットワークサーバOSとしてのPC-UNIXWindowsNT比較

 ここでは,一般的なパーソナルコンピュータ(以下PC)でサーバを構築できるOSとして,FreeBSD(フリーなPC-UNIX)とWindowsNTserver(以下NTserver)を取り上げる,前述の条件をどのように満たしているか比較するにあたって,私はNTserver4.0,NTworkstation4.0,Windows95,FreeBSD2.2.5からなるLANを構築し,実際にFreeBSDおよびNTserverのinstall,管理機能試用,標準サーバ機能試用,NTserverの標準外(または問題ありと報告されている)サーバ機能補完ツールのinstall,設定,試用等をおこなった。

 (注,文章中の「PC-UNIX」とは,Solaris等商用UNIXとLinux,FreeBSDなどフリーのPC-UNIXの両方をさす。)

(1)コストおよびライセンス

 サーバOSを選定する場合,コストやライセンスの問題は単純にOS単体の価格として考えてはならない。考慮すべき事項は次の通りである。

ハードウェアの価格

ソフトウェアの使用料

技術サポート料

最新版や修正版の料金

ハードウェアの更新に掛かる費用

システムが停止時の損失,(時間的,経済的,人的)

OSやハードの欠陥によって停止した時の復旧に必要な人的費用

システム管理のための人的費用…等

NT サーバOSそのものは比較的安価(10万円前後で購入可)
  クライアントの数に応じたライセンス料金は必要。
  システムリソースをたいへん要求する,(メモリ,HDD,CPU)。
  バグフィクスの対応,サービスの修正追加の別途ツール群の購入の問題
PC-UNIX 商用UNIXはハイスペックなWS上で動作することが前提でユーザ数に応じたライセンス料金は必要。
  FreeBSDやLinux等を使用するとOSがフリーで,ライセンス料も不要。数年前のマシンがサーバになりうる。

(2)機能性

 どちらがより初心者向けかといえばNTserverに違いない。しかし,「管理用のGUIがあるから,熟練者は必要ない。設定ファイルがテキストであるから,熟練した運用管理者が必要。」という理論は正しくない。NTもPC-UNIXも既定の設定をするのは易しく,込み入った設定には経験が必要である.NTでも,インターネット,イントラネットサーバ構築にTCP/IPの知識は必要である。そして,高度な運用のノウハウが蓄積されているのはUNIXの方である。ただし,イントラネットや小規模LANで,これまでのデータ類を有効活用し,豊富な教育用ビジネス用アプリケ―ションを使用することを考えて,目的に応じたサーバOSが混在することは構わないのではないかと考える。

NT NTserverは,正当なユーザーチェックをし,ユーザごとに細かい環境設定をすることも可能。
  NTのネットワークでは一般ユーザはファイルやプリンターへのアクセスのみ可。ハードウェアの処理能力を低下させないよう,一般ユーザログオン時は,クライアント/サーバー・アプリケーションだけ動かせる。
  GUI中心,CUIの機能もあるがUNIXにくらべ貧弱。
PC-UNIX ログインしたユーザーは,実行許可があればどのようなアプリケーションも動作,終了させられる。
  CUI,GUIいずれも可能(Xサーバー・ソフトは標準)。

(具体例)

事例1.電子メールの運用と管理

事例2.プロセスの自動実行機能(スクリプト実行)

事例3.各種サーバおよびサービスの設定,運用

(DNS,メール,WWW,メーリングリストソフト等)

(3)信頼性(クラッシュとその主たる原因)

 問題はクラッシュの頻度,およびそれに至るまでの経過および対応のあり方が容易であるかどうかである。

NT NTserverのクラッシュの主たる原因はメモリー・アクセス違反とI/Oエラー(クラッシュの原因となるモジュールはWindows 95など他OSでは,多くの場合問題なく動作する)。ほかにはNIC,ビデオボード,サウンドボードとの相性,プロトコルの問題。
ソフト,ハードいずれの原因でも,多くの場合クラッシュは突然生じる。イベントビューアのエラーメッセージが非常に難解。
“Blue Screen of Death”
PC-UNIX サーバクラッシュの主たる原因は殆どの場合ハードウェアの何らかの障害(ハードウェアのアップグレード. 長期停電による緊急停止,カーネルのアップグレード等)。
UNIX環境下でソフトウェアが問題を起こした場合,兆候を示すのが普通(システムの性能低下等)。
管理者は原因究明や修正,問題を起こしたそのプロセス(まれには,システム全体)の再起動など対応可。

(4)システム管理

 Windows95とWindowsNTは別物なので「Windowsだから扱いやすい」と考えるのは問題がある。管理ウィザード(Administrative Wizard)を用いると小人数管理は楽である。しかし,大規模で分散したネットワークになると,NTには困難が多い。

NT 管理ツールはGUI中心。ルータ超えの場合(リモートメンテナンスの場合は通常ルータを越える)の問題。大規模な分散したサーバ群の管理には,各地に熟練した管理者が必要。
PC-UNIX リモートアクセスを標準コマンドで可能にしている。レベルも調整可。
分散したネットワークの管理補修に強い。

(具体例)

事例1.ログオフとシャットダウン

事例2.リモートコンピュータの管理

事例3.パスワードによるセキュリティー

図1 Ntserver終了時ダイアログボックス

(5)処理性能

NT 適切なシステムリソースが提供されればかなり安定。同スペックのIntelマシンでのLinuxあるいはFreeBSDとの比較して大差ない。
PC-UNIX 必要とするリソースが少ない。不要なoptionやデバイスは再構築によってカーネルレベルで拡張削除可。システム管理者が必要と考えたソフトウェアだけを含むため,効率的に動作する。

(6)セキュリティ

NT WINDOWSに特化した閉じた小人数ネットワークネットワークで,ファイルやプリンター共有するには最適。
PC-UNIX 各プロトコルレベルで,セキュリティの細かい設定が可能。
  世界の大企業の基幹をささえるOSとしてPC-UNIXが稼働中 → セキュリティの強さ

(具体例)

事例1.ファイルシステム

事例2.パスワードによるセキュリティー

事例3.ウィルス問題

4.小規模LANでのPC-UNIXNTの連携活用

NT 小規模のイントラネットでWindows95クライアントなら便利である。
多くのWindows95と同じ,最新機能のアプリケーションが使える。
NTFSは95/98に比較すれば,圧倒的に堅牢である。
PC-UNIX

ネットワーク機能の柔軟性や堅牢さをダイアルアップ環境でも活用する。

ppp接続にNAT機能を持たせ,LANごとインターネット接続可。
異OSの混在する環境でのファイルサーバ,プリンタサーバ(samba,rumba,netatalk)ローカルなwwwサーバやメールサーバ。
DHCPサーバでより快適な環境に。

図2 小規模LANでの連携活用モデル

5.まとめ

(1)教育現場とネットワーク管理

 教育現場に置いてのネットワーク活用のはじまりは,数台によるファイル・プリンタ共有であったり,インターネットへの接続はダイアルアップで1台だけであったり,という可能性は高い。が,ネットワークはその真価が理解されはじめた時,必然的に拡張が始まる。したがって,ネットワークにつながるPCには,管理者がいるべきである。

 この管理の仕事では「ネットワーク技術」は重要だが全てではない。配線工事や設備整備といった「物理的な環境整備の技術」, 対外・構内の交渉や啓発活動,高いモラルといった「人としての資質」,定型業務を着実に行い,ドキュメント化する「事務処理能力」などさまざまな能力を要求される。一人の教員が,その教員としての業務をまっとうしつつこれをこなすということは,不可能ではないが本人及びその周囲に多大な負担をかけるのは間違いない。

(2)学校教育の現場にふさわしいサーバOSの条件

 初等中等教育は今,ネットワーク導入開始の重要な時期にある。私はLook Feelや,Point and clickの操作としての容易さのみに注目して,そのOSの難易の議論をしてはならないと考える。今後とも,より安定し,快適な環境構築をめざし,継続研究してみたい。

参考文献およびURL

『プロフェショナルBSD』(砂原秀樹,石井秀治他著 アスキー出版局(1994)

UNIX MAGAGINE 1997年5月〜10月号「おうちでらんランLAN」(1997)

SOFTWARE DESIGN 1997年1月号「登場!WINDOWS NT4.0」(1997)

The FreeBSD Project (Japan) http://www.jp.freebsd.org/

Unix - Windowsネットワーキング http://www.city.fujisawa.kanagawa.jp/~odagiri/

伽藍とバザール http://tlug.pht.co.jp/docs/cathedral-bazaar/