デジタルメディアを利用した高校生のコミュニケーション能力の育成

北海道大成高等学校
商業科教諭 入澤 幸博

  1. はじめに

  2.  本校は、北海道南部檜山管内の日本海に面した全日制普通科・一間口の町立高等学校である。生徒たちは、幼少期から引き続いた人間関係を持ったまま高校へ進学し、生徒間では非常に強い絆で結ばれ自由に意見を交わしまた積極的に行動し、協調性や友愛の精神が培われている。
     しかし一方では、僻地の特性から学校や地域を離れた場面では、積極的に行動することができず、就職や進学への適応力について不安が感じられる状況である。
     このようなことから、本校の生徒たちには、これからの変化の激しい社会の中で多くの人たちと協調しながら個性を発揮し生きるための能力を身につけさせることが、学校課題の一つとして取り上げられている。
     この課題解決の一つの方法として、本校のインターネットとマルチメディア会議システムで多様なコミュニケーションの場面作りに努めてきた。
     この研究発表において、本校が行ってきたインターネットとマルチメディア会議システムの実践法と課題・問題点について触れてみたいと考えている。

  3. インターネットとマルチメディア会議システム導入と活用の経緯
  4. <平成8年度>
     本校にインターネットが導入されたのは平成8年9月である。インターネット導入と時を同じくして、NTTこねっとプランに参加できることとなり、マルチメディア会議システムもほぼ同時に本校に導入された格好となった。当時コンピュータ教室には、アナログの電話回線が設置されていたが、これを機にISDN回線へと移行し、本格運用となった。
     当時のインターネットは、教師用PC(NEC9821Ap3)−TA(NTT V1−S2)の一台で運用された。アカウントも1つのみ(現在に至っても)で、メールもネットサーフィンもこの1台のみでしかできなかった。
     マルチメディア会議システムを搭載したパソコンは視聴覚教室にある液晶プロジェクターに接続され、主にこねっとセミナーに利用された。
     このころ、インターネットもマルチメディア会議システムも運用環境の問題、指導教員の能力不足により、生徒の学習活動に積極的に活用されることは無かった。この時期は、生徒の学習活動に生かせるように必死にインターネットやマルチメディア会議システムの活用法について勉強していた時期でもあった。

    <平成9年度>
     平成9年度に入り、商業科目における年間指導計画にインターネットとマルチメディア会議システムを利用した授業を組みこむことになった。限られた設備と人材の中、1年間でどれだけの効果的な導入ができるか未知数であったが、3年生の情報処理(3単位)では「ホームページの作成」、文書処理では(3単位)では「インターネットメールの交換」を計画し、マルチメディア会議システムを利用した学校間交流も視野に入れた。
     先に述べたように、インターネット接続環境(回線について)は平成8年度から整備されていたが、肝心のコンピュータ室のクライアントマシンは旧式であった。(生徒用 NEC 9801 BX2 24台 10BASE2でLAN構成)16色表示のクロック25Mzの486マシンでWIN95を動かし、テキスト形式でHTMLを作成したりと、非常に機械的にも精神的にも負担が大きかった。

    <平成10年度>
     コンピュータの実際的な運用に障害が出てきたため、平成9年度から大成町教育委員会にコンピュータの更新を粘り強くお願いし、本年6月にNEC VALUE STAR NXに更新された。クライアント全機からのインターネット接続が可能となり、ホームページも視覚的に作成できるようになった。また、マルチメディア会議システムの画像もクライアント全機に画像転送ソフトを使って転送することも可能となった。

3.具体的活用

  1. ホームページの製作
  2.  本校のホームページは、平成9年1月にはじめて公開された。これは、テキスト形式のHTMLエディタを使って私が作成したものであった。自分で実際にホームページを作成してみて、「これは授業で使える」と判断し、早速、2月から授業に取り入れ、翌年にまたがった形で授業を行った。
     マシンの制約もあり、フリーウェアのHTMLエディタを使い、タグを組んで作成した。本校生徒にとって、簡単な英単語であるタグも非常に難解なものであり、論理的にプログラムを組むやり方の指導は非常に困難であった。
     こうして生徒が作ったホームページは、平成9年6月に公開された。このページの中には「大成町の方言」や郷土芸能である「久遠神楽」のページを盛り込み、地域色豊かなものにした。

     


  3. インターネットメールの交換
  4.  当初、メールの交換はインターネット接続機1台のみでしかできなかった。そのため、生徒の利用はほとんど無く、専ら教員が事務的にインターネットメール(以下メール)を利用しているにとどまっていた。
     しかし、インターネットを教育の現場に導入しようとする場合、「生徒に体験させる」ことが必須となる。そこで、まず平成9年度にはLANのなかで生徒同士のメール交換をはじめた。取るにも足らないメールの内容であったが生徒にとってはいきいきと楽しくメールを交換し、生徒はメーラーの操作の仕方、ネチケットについてまずLANの中で学んだわけである。
     その後、神奈川県立大師高等学校からメール交換を含めた学校間交流の依頼があり、生徒ははじめて外部にメールを出す機会に恵まれた。本校のアカウントが一つしかないため、生徒が書いたいくつかのメールを私が1通のメールにまとめ、大師高校の代表アドレスに送信する手段をとった。この方法だと、生徒が出すメールの内容をチェックできることはメリットだが、大人数の場合教員に相応の負担となる。
     従来のインターネットメール交換は、本校の生徒Aと相手校生徒Bの「1対1」のやり取りであるため、2人の話題は他に周知されにくく、多くの生徒間で共通の話題が持てなかった。また、自分が興味を持っていることを話題提供したくても、誰に当ててメールを出してよいかわからなかったり、話題を持ちかけても、そのメールを受け取った人が興味を示さない場合もあった。この場合、生徒は自らすすんで話題を提起することに抵抗感を持ち、消極的になってしまった。このような点を改善すべく、大師高校で新たに開設されたメーリングリストを利用させていただくこととなった。
     メーリングリストを利用すると、生徒が話題提起すると興味関心のある参加者が反応し、すべてのメールはすべての参加者に配信され、活発な意見交換・討論へ発展していく。生徒は共通の話題を持つことができるのである。
     自分の投げかけた話題に、たくさんの人たちが反応を示してくれると生徒はうれしくなり、またさらにそのテーマについて話を深め、積極的なコミュニケーションに発展していくようになった。
     このようなメリットがある一方、自分の書いたメールがすべての参加者に見られるといった面で消極的になる生徒も出てきた。多くの人たちに自分の考えや気持ちを伝えることが大切なコミュニケーションなのだという意識を持たせる指導法の工夫が必要と感じた。

  5. マルチメディア会議システムを使った学校間交流

 本校はNTTこねっとプラン推進協議会より、マルチメディア会議システム「フェニックス」の贈与を受けた。本校ではこのシステムを利用し、遠隔授業や学校間交流をおこなってきた。マルチメディア会議システムには次のようなメリットがある。

    ・ 言葉だけではなく、映るもの、聞こえるものすべてがコミュニケーションの手段になりうる。

    ・ 相手から受ける印象から物事の表現の仕方、礼儀、あいさつなどの対人マナーの習得に役立つ。

    ・ 対外的に発言することによって、緊張感を味わい、人前で発言力が身につく。

 このメリットを生かし、生徒のコミュニケーション能力育成のために平成8年度は大師高等学校と二度の学校間交流をおこなった。
 第1回目の交流では、互いの学校や町を紹介しあった。生徒は、マルチメディア会議システムではじめてかつ初対面の人とコミュニケーションする緊張感に襲われていた。第1回目は型どおりの内容で終わった感がある。
 第2回目の交流では、見学旅行についての発表や質問、本校の行事の紹介、方言当てクイズなどをおこなった。レクレーション的要素を取り入れた結果、打ち解けた雰囲気が築かれ、生徒同士の活発な交流に発展した。特に方言当てクイズは、HTMLで問題画面と答えの画面を作成し、「アプリケーション共有機能」を使いブラウザを互いの画面に共有させおこなった。方言の面白さと、フェニックスの新しい使い方があいまって、非常に盛り上がった。

 
視聴覚教室にて液晶プロジェクタを使用(9年度)   41インチ大型モニターを使用(10年度)
大人数に適しているが、会場を暗くしなければならない。   小人数に適している。 クライアントにも画像が配信できる。

4.実践の成果と今後の課題

  1. 実践の成果
  2.  本校が行ってきたデジタルメディアを用いたコミュニケーションの研究は、現在各学校で積極的に行われている。ただし、多くの場合「施設・設備」が強調され、肝心の「生徒の変容」が置き去りになるケースが少なくない。本校が行う研究は、常に生徒を第一に考えることに留意して進めてきた。
     本研究の出発点である「引っ込み思案な子供を社会で生き抜ける生徒に」という目標は必ずしも完全に達成できたわけではない。しかし、この目標に近づいたことは事実である。コミュニケーションは、言葉、文字、身振り手振り、表情などいろいろな手段があるんだという意識が生徒の中にも芽生えてきた。
       本研究によって、生徒は、
     ○デジタルメディアを通じて、対外的な交流を主体的にできるようになった。
     ○自分の意見や考えを他人に伝えることの大変さと、その重要性を知った。 
     ○引っ込み思案だった子が、デジタルメディアを通してではあるが、新たな人間関係を築くことができた。
     ○コミュニケーションにおけるマナーを体得できた。

  3. 今後の課題

  4. @ 交流相手校の選択
     デジタルメディアでの学校間交流を行う場合、必ず相手校が必要になってくる。当然相手校も同様の研究をしていなければ互いの授業内容に組み込むことはできない。本校も交流相手校を検討する際、なかなか見つからないのが現実である。本校は平成9年度10年度の2年にわたり「神奈川県立大師高等学校」と交流を行ってきたがいろいろな地域の高校生と交流を図るために、デジタルメディアを利用している学校を紹介する機関があると一層活発に交流が行えるものと期待できる。
    A 間接的コミュニケーションから直接的コミュニケーションへ育成
     人格が形成される長い期間を僻地で育ってきた生徒の対外的なコミュニケーションに対する内向性と消極性は簡単に直せるものではない。入学から3年かけても難しいものがある。デジタルメディアはコミュニケーションツールとして通用はするが、デジタルメディア = コミュニケーションではない。デジタルメディアで培ったコミュニケーションの手法を、これからの実社会でどう生かすかが大切である。
    Bこれからの情報教育の在り方
     本校は、平成元年にコンピュータが導入されて以来、多方面で情報教育を展開してきた。しかしながら、コンピュータやデジタル電話回線、インターネットなどの浸透が進み、今日の情報教育は、単に情報機器の使い方を教え、ワープロや表計算を教えるだけにとどまることはできない時代になっている。
     また、コンピュータが浸透する中で、小中学校においても情報教育が始まっている。従来は「はじめてコンピュータに触る高校生」を指導すればよかったが、情報教育の基礎を学んできた生徒が高校へと進学してくる。そうした環境の変化にも即座に対応できるよう十分な教材研究を考えていかねばならない。
     本校においては、積極的に情報を発信し、そこから出会いを求め、生徒間の輪が広がっていけるような情報教育を進めていきたいと考えている。

    <参 考 本校のコンピュータシステムについて>

     コンピュータ教室には、生徒用20台と指導用2台、NTサーバー1台が設置されている。
     主な利用ソフトは、MICROSOFT OFFICE97、一太郎8、PAINT SHOP PRO、アカデミックウェア(画像転送ソフト)など。
     他に、イメージスキャナ、ページプリンタ2台、カラープリンタ、インターネットルータ、MPEGボードなどを設置。 ネットワークは校内全体を100BASE/Tで構成。
     
    職員室には2台設置。その他各職員のデスクにもLANケーブルを配線。プリンタ・インターネットが利用可能。   事務室には1台設置。主に事務的書類の作成に利用。