インターネット導入から,海外交流が始まるまで
 
千葉県柏市立中原小学校
教諭 梅津 健志
 
1.はじめに
 本校は千葉県柏市の南部,東武野田線沿線の新興住宅地に位置する。マンションや公務員住宅などの建設により,児童数が増加し現在は986名,学級数29と柏市内で2番目の規模である。
 本校へのインターネット導入は平成10年4月からである。
 本校が千葉県情報教育センターよりインターネット活用研究協力校に指定されたこと,文部省から帰国子女教育研究指定校に指定されたこと等々が重なり,インターネットへの道が開けることとなった。
 本稿では,接続への経緯と形態,校内LANの敷設,インターネット活用から海外交流への発展について報告をまとめる。
 
2.学校がインターネットにつながる
(1)インターネット開設の経緯
 本校にインターネット回線が引かれるまでは,資料になりそうなWebを教師側でファイル化したものを,ハードデイスクに保存し,それをブラウザソフトで閲覧する形式を取っていた。
 インターネット用のISDN回線の導入は,平成10年4月である。
 千葉県情報教育センターの「インターネットの教育利用」研究協力校に指定されたため,回線の開設となった。
 柏市では,今年度から市内の小中高等学校の接続を開始した所である。本校の接続は,早くてもコンピュータのリプレース後の2000年度以降であったが,研究協力でのインターネット接続が実現できた。柏市で本年度インターネット接続をしたのは,小学校4校,中学校1校,高等学校1校である。
 
(2)インターネット接続への協力体制
 本校を含め柏市内の小中高校は,全て柏インターネットユニオン(KIU)を通じて,インターネットに接続している。KIUは財団法人モラロジー研究所および学校法人広池学園が母体となって設立された柏市を中心とした地域の小中高校,近隣センター,図書館等の組織のLANを相互接続を可能にする非営利の団体で,教育利用のための研究会を設け,研究のために様々なインターネットの利用形態を提供してくれている。
 柏市教育委員会は柏市教育研究所を窓口に,KIUとの協力体制を持ち,市内各小中高校でのインターネット利用のあり方を研究し,有害情報のフィルタリングやファイアウォールを設けて不正アクセスを防止する等望ましい形でのインターネット利用を推進している。
(3)接続形態
 各小中学校は,ISDNによるダイアルアップでLAN間接続を行っており,効率よく利用できるために,KIU技術部会の支援によりcacheとDNSの機能を持つProxyサーバーをおき,グローバルアドレスでの利用を実現している。このProxyサーバには,mailサーバも置き,UUCP接続により校内のE-mailの利用も計画している。
 さらに本校では,マイクロソフト社のPersonal Web Serverを稼働し,ブラウザの稼働時には,校内専用のスタートページを作るなどして,効率の良い利用条件を実現している。
 
2.校内LANの構築
(1)本校PCの構成
 本校のPCは,FM-Towns7台(以下Towns),FMV-Towns2台,FM-V1台,Mac LC36台(KIU貸与)の計16台である。TownsはWin3.1環境,その他はWIn95,98環境とMacの混在型である。Win3.1にはTCP/IP認識ソフトをインストールし認識させている。
 
(2)第一期LAN工事
 今年度4月末にINS64回線の敷設と同時に,視聴覚室内のLAN工事を行った。
 対象となるPCは,TownsとMacである。
 画面共有用のS-VHS用ケーブルと10base2ケーブルでTownsのLANを構築した。
 MacのLANについては,10base-Tケーブルを利用してLANを構築した。
 この段階で,視聴覚室内の14台のPCからインターネットへの接続環境が整った。
 
(3)第二期LAN工事
 夏季休業中に職員に対するPC研修を実施すると共に,職員室へのLAN延長工事を行った。
 本校は築23年になり,ケーブル配管等の図面を参照してもそのまま利用できるものが見あたらなかった。そこで天井裏にケーブルを通し,現在未使用の煙突穴を利用して階下にケーブルを下ろすという方法で敷設した。
 職員室内では,各職員のデスクへのコネクター設置と職員室設置の事務用PCの接続も行った。
 プリンター・事務用PCのHD等も共有し,事務処理の簡素化を図った。
 
(4)第三期LAN工事
 CECの新100校プロジェクト自主企画公募の研究助成を受け,各教室へのLAN延長工事を行った。
 高学年教室を対象とし,延長600mのLAN敷設をし,高学年各教室に職員個人のPC又は視聴覚室内のPCを一部移動することによって,随時利用できる環境を整えた。
 
(5)今後のLAN予定
 2002年以降の学校インフラとして,校内LANは必要条件と考え,全教室及び特別教室へのLAN延長を予定している。この総延長は2000mを予定しているが,職員での手作業工事で本年度中に敷設を行う予定である。
 
3.インターネットを利用した実践
 校内の教師用PCにMS社のPersonal Web Server をインストールし,そこに学習用リンクページを作成した。各PCのブラウザのホームをそこに設定することにより,子供達が学習環境で利用しやすいようにした。
 また,同様のページを千葉県情報教育センターのWeb Server に置くことによって,家庭からも学校と同じ環境で利用できるようにし,URLを保護者向け文書で連絡をして利用を促した。
 家庭からのアクセス数は,10月11月の2ヶ月で700件を数えており,利用はかなり頻繁になっている。
 
(1)Webの利用
@ 学習用リンクページの作成
 学年別に調べ学習等で利用できるページのリンク集を作成した。各学年の進度状況に合わせて,社会科及び理科を中心としたリンクができあがりつつある。
 当初,情報教育担当者が作成していたが,少しずつ各学年での作成を促している。指導者としても単なる事務的作業というよりは良い教材研究の場となる。
A 学習での利用
 高学年の社会科及び理科での利用が多く見られる。有効に活用が図られた場面は次の場面であった。
 5年生理科「天気の移り変わり」の学習で,気象衛星ひまわりの画像と各地の定点カメラを利用し,天気の予想と現地の様子がリアルタイムでわかった。台風の動きなどの理解にも役だった。
 社会科の学習では,調べ学習の中にWebの利用が定着し,関係のページにアクセスし必要な資料を引き出し,プリントアウトすることが日常的に行われつつある。家庭学習としてアクセスして調べてくる子供も多い。
 社会科の学習で利用するにあたり,子供用の検索エンジンの使い方についても指導した。
 子供自身が検索し,教師に良いページを教えてくれるような場面も見られるようになった。
B 休み時間の解放
 LANの延長によりケーブルが入っている教室では,休み時間に自由に利用をさせている。
 子供達の多くは,子供用検索エンジンを利用して,人気アニメやゲームのページを閲覧していることが多い。
 当初このような状況が主流であったが,徐々にオンライン図書館,教科学習の発展等のWeb利用が増えてきている。
 
(2)海外日本人学校との交流
@ 交流までの経緯
 千葉県情報教育センターの研究協力の一環として,「文部省在外派遣教育施設との交流プロジェクト(CLALINET)に参加した。また,本校の平成10年〜11年度文部省帰国子女教育研究指定校としての実践でもある。
 海外日本人学校と日常的な交流をベースにしながら,授業での交流を目指して行っている。
 日常的交流では,千葉県情報教育センターのServerに開設した掲示板を通じて,情報交換を子供達が自由に行っている。また,授業としてはCU-SeeMe等のテレビ会議型のソフトを利用した授業の実施を計画している。
A 交流体制
 現在,パース・ジャカルタ・ブエノスアイレス・香港・カイロの5校と,アメリカ現地校フロリス小学校の日本語クラスとの交流が進行している。各校と本校の5年生の5クラスがペアーを組んで交流体制を作っている。
 教師同士は,メーリングリストで情報交換を行うと同時に,授業レベルの実践計画を話し合っている。
 ブエノスアイレスとカイロとは,時差が大きいためテレビ会議型の授業構築は困難であるため,ビデオメールを主体とした交流を計画中である。
 テレビ会議型ソフトでの交流に対しては,1学期半ばより教師同士の実験接続を試み,CU-SeeMe,iVisit,NetMeeting等のソフトで実験を繰り返してきた。
 現在ジャカルタ及びパースの2校とは,授業レベルでの利用段階まで実験が進んでいる。
B 実践

*パース日本人学校との交流授業
 パース側は児童数が4名と少ないため,「国・勉強・スポーツ」の3つのテーマごとに,掲示板を利用したチャットで交流授業を試みた。
 子供達の活動の様子を伝えるためと教師同士の連絡用にCU-SeeMeを同時に起動させて行った。
 子供達同士のやりとりは,1時間で5〜6回のやりとりであったが,南半球に住む友達とのリアルタイムの交流は,表1のような感想に表れている。

      表1 児童感想
 この間のチャットはとても楽しかったけどキーボードを打つのが遅かったので、こんどはもっと早く打つ様に努力します。そして今度はもっと色々な話をしましょうね。この後も、もっといっぱいチャットをして、交流を深めていきましょう。
・とても楽しかったです。声がはっきりと聞こえて、うれしかったです。 画像にモザイクがかかったのが残念でした。となりのトットローのところが、はもっていてきれいだったです。またやりたいな
・今日は、みなさんの顔を見れたり声が聞けたりしてよかったです。いろいろおしえてもらいありがとうございます。 みなさんの住んでいる所や学校の様子がよくわかりました。またこちらのこともよくわかりましたか?なにかわからないことがあったらメールを送ってください!みんなと仲良くなれてよかったです。また機会があったら会議をしましょう。楽しみにまってます!!

*ジャカルタ日本人学校との交流授業
 ジャカルタ日本人学校は規模が大きく,5年生も20名の3クラスあり,CU-SeeMeを利用した交流授業を試みた。
 双方の子供達があらかじめ質問事項を メールで交換し,授業当日はそれぞれの質問をしてそれに対して応えていく形式で行った。授業は双方共に保護者参観の中での授業として行った。
 1回目は授業開始後,回線状況が悪化し25分間やりとり不能という事態に陥り,回復後も音声が聞き取れる状況ではなく,教師側のチャットを利用して会話を成立させていった。
 2回目は回線状況も良く,音声・画像が明瞭に表示され,子供達同士が十分に交流することができた。

 ジャカルタ日本人学校は,米づくりを中心に据えた総合的な学習を行っている。
 そこで,本校5年1組が取り組んでいる古代米づくりと合わせた,総合的な学習としての交流授業を12月9日に予定し,準備している。Cu-SeeMeだけでは,全員が交流するために十分とは言えない。
 そこで,チャットルームをテーマごとに設定し,学習としての交流が成り立つように工夫を重ねていく予定である。

 参観した保護者の感想は,ジャカルタ側も中原側も,概ねこのような授業に対して賛同を寄せている。

      表2 保護者感想
 私たちが子供の頃には考えられないことです。遠く離れた子供達ともこのようにして交流できる経験は,これからの世の中を生きる子供にとって大切な経験だと思います。
・子供は,昨日からジャカルタの位置を地球儀で確認したり,質問の練習をしたりと楽しみにしていたようです。今後もこのような交流が続けられるといいですね。
・詰め込み学習でない経験がとても大切だと思います。
   
 C 課題
*テレビ会議型の交流では,海外回線の混み具合によって左右されることが多い。事前に同じ時間帯で試験通信を重ねた上に実践を組み立てる必要がある。
*掲示板交流が盛んになるにつれて,不適切な書き込みも現れ,情報リテラシーとしての指導をきちんと行っていく必要がある。
*授業で交流した子供達同士が,今後も交流をし続けていくための手だてと保護者啓蒙が必要である。
 
(3)校内のコミュニケーションツールとして
 本校は児童数1000人余り,学級数29学級と大規模校であるため,同じ学年であっても毎日顔を合わせることがない子供たちも多い。
 そこで,校内掲示板を利用して遊び紹介をしたり,委員会からの連絡用掲示板を設置したり,新聞をWebで紹介したりする環境整備に取り組んでいる。LANを敷設した後のPCをどう確保するか,先生方の使い方や子供達の使い方の規定など,環境整備と同時に取り組みを試行している。

4.まとめ
(1)成果
 インターネットの導入は,学習に大きな変化をもたらした。
 ・調べ学習の幅が広がり,従来の教科書や資料集,図書室資料だけを利用している場合と比較すると,子供達が求める資料を見つけだすことができるようになった。反面,資料ごとの数字の違いや記述の違いが問題となることがあり,さらに再調査をする場面もでてきた。
 ・ライブカメラを利用することにより,今までは不可能だった天気の予想と実際の様子の検証することができた。子供達の意欲化に大きく役立った。
 ・実際に専門家に質問をすることができたこと。
 ・遠く離れた友達との掲示板による交流や交流授業は,校内だけでは絶対に経験できないことができた。子供達の興味関心を広げたり,学習内容に深まりを与えることができた。社会科で学習した貿易のことなどを,実際にどう行われているのか質問する光景もあった。
 ・校内LANを利用した掲示板を利用することにより,子供達の人間関係やコミュニケーションの輪を広げることにつながりつつある。
 ・校外学習の準備段階での天候調査が詳細にできるようになった。
 ・教育情報に関して手に入れることが容易になった。
 ・職員間でのメールによる情報交換が広がった。一部であるが,事務連絡用に利用することも行われるようになった。校内メールの稼働をしていくことにより,さらに広がる可能性がある。
 ・校内LANを手作りで敷設することにより,共同作業の場から職員間のつながりが強くなった。
 ・教員のメールアドレスを保護者に公開することにより,日常的な交流が広がった。特に父親からのメールが増え,学級経営等についても母親とは違った視点での感想をもらえた。また,教育相談的内容も寄せられることがあり,子供への適切な指導に生かすことができた。
 ・市内の教員間でのメールによる日常交流が行われるようになった。このことにより他校の活動が手にとるようにわかったり,お互いの指導上の課題を交流しあうことによって,よきアドバイスをし合えるようになった。また,情報担当の指導主事との連絡が密になり,情報教育の適切な指導についてのアドバイスを容易に受けることができるようになった。
(2)課題
 ・インターネットの利用はまだ一部の教員に限られている。広く一般的に利用できるようにするための研修やインターネット利用環境づくりが必要である。
 ・子供達を受信型の学習から発信型の学習へと転換を図るための基礎基本学習の徹底として,コミュニケーション能力の育成と共に,話すこと,聞くこと・読むこと・書くことの指導が大切である。