ネットデイ実施マニュアル『学校にLAN入しよう』よりの抜粋
出版:(株)NGS 〒532-0011大阪市淀川区西中島1-11-16
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第5章ボランティアの仕事マニュアル

子どもたちのために、大人である私たちにできること。それがネットデイです。
ネットデイの開催に向けて、ボランティアが果たさなければならない役割はとても重要です。
多くの仕事が待ち受けているので、漏れのないようチェックシートを作成して、1つ1つの仕事を確実にすませていくようにするとよいでしょう。

1  ネットデイボランティア心得10箇条

第1条ネットデイは格安の配線工事ではない
第2条ネットデイは1日だけのお祭りではない
第3条まず人のネットワークづくりから
第4条大切な守秘義務
第5条主体はあくまでも学校にある
第6条学校長や教育委員会との連絡を忘れずに
第7条必要な学校に必要なものを
第8条かならず記録を残す
第9条安全第一
第10条子どもたちのために

ネットデイは格安の配線工事ではない

 ネットデイを実施する上で、私たちボランティアもネットデイを開催する学校も、まずしっかりと意識する必要があるのは、ネットデイボランティアはタダで工事を請け負ってくれる配線業者ではないということです。たしかに、ネットワークの工事を配線業者に依頼すれば多額の費用がかかり、学校でその予算を負担するのは無理という理由もあるでしょう。ボランティアに頼めば、配線材などの最低必要な出費だけでおさえられるのも事実であり、経済的なメリットもネットデイのなかで大きな意味を持っています。
しかし、ネットデイの大きな目的は、学校が主体となり子どもたちの学習のための環境を整えるために、地域に住む私たち大人ができること(ネットデイ)をすることです。

 私たちはパソコンやネットワークに関わるなかで、それらを使いこなすには、与えられたものをそのまま受け入れるのではなく、自分から積極的に学び、体験することの重要性を知っています。メーカーの宣伝にあるようにパソコンやインターネットは買ってきたその日からなんの苦労もなく使えるような電化製品ではないということを知っています。また、インターネットを中心としたネットワーク社会(ネティズン)が、ギブアンドテイクやシェアー(共有)などの精神によって、相互に助け合いながら発展してきたことも私たちは知っています。

 しかし、学校の先生の多くは、今までそんな経験をしてきていません。

 そこで、ネットデイの活動を同時に体験してもらうことで、自分たちの手で、子どもたちにとって最も使いやすい環境を工夫しながら作り続け、改善を加えていくことの大切さを意識してもらうのです。 そのためには、ネットデイの意義や目的を明確に相手に伝え、理解してもらうことがなによりも大事であり、そのためにはこれからネットデイをおこなおうとしている私たちのひとりひとりが、そうした意識をしっかり持って作業にあたることが大切なのです。

ネットデイは1日だけのお祭りではない

 学校のネットワークの工事やパソコンの設定作業自体は、人数さえ十分にいれば、1日でおこなうことが可能です(もちろん、入念な下見や工事の準備はそれだけ必要になりますが)。

 しかし、ネットデイの活動は1日だけのお祭りではありません。インターネットに接続したい学校を探し、その学校のパソコンの担当者や校長先生と接触し、その活動を理解してもらい、工事の打ち合わせ、下見と手順を踏んで、工事完了。インターネットにも無事接続し、めでたしめでたしとなるはずですが、実際にはここからがネットデイの活動の始まりでもあるのです。

 インターネットに無事接続できた学校では、子どもたちの利用が増えてくるにつれ、さまざまな問題や要求が表面化してきます。ホームページの表示が遅い、メールアドレスの数を増やしたい、サーバが止まってしまった、生徒用パソコンの動作がおかしい??などなど。そうしたさまざまな要求やトラブルにどこまで対応するか、事前に話し合っておく必要があります。

 そして、私たちボランティアは、学校の担当者と緊密に連絡を取り合い、学校で今、パソコンやインターネットがどのように使われているのか、問題点はないか、改善したいことはないか、などを十分把握する必要があります。

 しかし、これはネットデイをおこなってきたボランティアにとって大きな喜びでもあります。ネットデイを実施した学校の担当者や子どもたちからインターネットを使ったときの喜びのメールをもらったりすると、今までの苦労などさっぱり忘れ、次の学校の工事に思いをめぐらすのです。

 まず人のネットワークづくりから私たちはネットデイの活動を自分たちの住んでいる地域から始めています。おそらくこの本の読者のみなさんも、自分の学校、あるいは自分の住んでいる地域の学校でのネットデイをまずは考えていると思います。インターネットはたしかに世界中の人たちとコミュニケーションがおこなえるすばらしい道具ですが、同時に地域に住む私たちを結びつけ、新しい地域のコミュニティを実現してくれる手段でもあるのです。

 ネットデイを実現するには、まずそうした地域の人たちのネットワークづくりから始める必要があります。つまり、人のネットワークづくりです。

 ホームページやメーリングリストを上手に活用して、地域に住む人たちにネットデイへの参加を呼びかけ、ボランティアグループを作ることもそうですが、地域の学校のコンピュータ担当の先生や教育委員会の情報教育担当の指導主事とのつながりを作ることも大切なことです。

 学校のコンピュータ担当者や教育委員会の情報教育担当者は、かならずしもインターネットを使っているとは限りません。また、たとえメールが利用できる環境にあっても、ときには直接顔を合わせて、お互いに納得いくまで話し合うことが非常に重要になってきます。

 また、ネットデイに保護者に参加してもらうことができれば、ネットデイで敷設したネットワークの活用を促進する大きな力にもなります。学校の先生たちは保護者の目を意識するからです。

大切な守秘義務

 学校でネットワークの工事を実施すると、パソコン教室ばかりでなく、普通教室や職員室にも立ち入らなければなりません。場合によっては、生徒のデータが入っている職員室のパソコンの設定をおこなう必要も出てくるでしょう。

 学校には生徒の名簿や成績、健康診断の記録など、プライバシーに関わる情報がたくさんあります。また、工事の打ち合わせなどで、学校のコンピュータ担当者から学校でのパソコン活用の実体などを聞き、唖然とすることもあるかもしれません。学校の工事で知り得たそのような情報や担当者との話し合いの内容などは絶対に、外部に漏洩しないように配慮する必要があります。とくに職員室の工事や職員用のパソコンの設定は、かならず学校の先生に立ち会ってもらい、確認しながら作業をおこなうことも大切です。

筆記用具を忘れたからといって、子どもの机の中から鉛筆を借用するなどということは絶対に避けなければなりません。

 こうした個人情報の漏洩や万一の盗難や備品の紛失に備え、ネットデイに参加した人間の名簿とともに、入退校の時間、作業分担を明確にし、どの工事場所でもかならず学校の担当者に同席してもらいながら作業をおこなうことが非常に重要です。

主体はあくまでも学校にある

 ネットデイの活動の主体はあくまでも学校であり、私たちボランティアはそのための支援をおこなうのが基本姿勢です。したがって、ネットデイ当日はできるだけ多くの学校の先生に参加してもらえるようにお願いしておく必要があります。また、保護者の参加を要請するのもよい方法です。

実際の作業にあたっても、ボランティアだけで工事をすませて、さあ使ってくださいでは、配線業者のやっていることと変わりがありません。先に述べたように、ネットワークの技術は日々進化しているうえに、学校でのインターネットやパソコンの活用が広まるにつれ、学校内のネットワークもどんどん拡張されていきます。そこで、のちのち学校の先生方が自分たちの手でネットワークの拡張ができるように、配線や成端の方法、パソコンの設定、ネットワークの基本的な知識などを、実際の作業を通して身につけてもらう必要があります。

 実際にネットデイを実施した学校のほとんどは、その後、学校の先生が自分たちの手でネットワークの拡張をおこない、職員室のほとんど全員のノートパソコンがネットワークに接続しています。ネットデイでは工事ができなかった特別教室などに、自分たちで配線をおこなった学校も数多くあります。

そして、それこそが、ネットデイの目指している姿なのだと思います。

学校長や教育委員会との連絡を忘れずに

ネットデイをおこなううえで、たぶん最もやっかいで時間を要するのは、学校長や教育委員会の了解をとりつけることだと思います。

ボランティアの多くは、教育行政の流れを知りません。しかし、市町村立の学校である以上、1つの学校の工事といえども、その所属する市町村教育委員会の了解が必要です。 さびしいことですが、市町村教育委員会にとってボランティアという活動はほとんどなじみがありません。ボランティアというわけのかわらない団体が、インターネットやLANというわけのわからない工事をおこなおうというのですから、すぐに理解しろといっても難しい、ということをまずは認識しておく必要があります。

建造物に穴をあけたりすることにもなるわけですから、もし教育委員会の了解なしで勝手に工事をおこなった場合には、最悪、工事前の状態に戻せといわれる危険性もあります。また、そうでなくても1校だけをゲリラ的に工事しても、その後の他の学校への展開は難しいでしょう。

      学校の情報教育担当者
          ↓
      学 校 長
          ↓
      教育委員会の情報教育担当者
          ↓
      教育委員会の長

という踏むべき流れを意識して、学校の情報教育担当者とボランティアの話し合いの内容などはつねに上に報告してもらうとともに、ボランティアはできるだけ早い時期に学校長や教育委員会の担当者と話し合う機会を持つ必要があります。

 逆に、それさえできてしまえば、その後の学校での工事はもちろん、他の学校への工事に関しても教育委員会と協力しあいながら、好ましい関係でネットデイをおこなうことができるようになります。

必要としている学校に必要としているものを

 ネットデイは学校にインターネットやLANを強要する押し売りではありません。インターネットやLANの意味がわからず、それらが必要だと思っていない学校に「どうだ、いいだろう」といくらいっても、結局は活用されずに終わってしまうことでしょう。したがって、まずはインターネットに接続したい、学校内でLANを構築したいと思っている学校からネットデイを実施する必要があります。

 また、仮に必要性を感じている学校でも、とりあえずパソコン教室のパソコンだけ接続したいとか、全部の教室にLANを構築したいとか、さまざまな要求があると思います。

学校のコンピュータ担当者は専門家ではありませんから、ネットワークの構成などはほとんどわからないと思います。大切なのは、学校でどのようにインターネットやパソコンを使おうとしているのかをよく聞き出し、それをもとに、私たちボランティアの力量に合った最適なネットワーク構成を提案することです。将来の拡張も十分に考慮する必要がありますし、学校の担当者が管理しきれないような構成にするのも考えものです。

また、学校のネットワークでは通信速度はそれほど重要ではありませんが、子どもたちが同時に数10台のパソコンを使って同じ操作をするという学校独自の特性を理解し、安定して動作する環境を第一に考えたネットワークのデザインが必要です。

かならず記録を残す

 ネットデイを終えたら、できるだけ早いうちに作業記録を作成し、配線経路図、ネットワークトポロジー図、作業内容一覧、参加者名簿、パソコンの設定内容などを書類にして学校と教育委員会に提出し、どのような工事を実施したかについて説明をおこなう必要があります。また、今後の支援体制とその内容についても確認をしておく必要があります。

 こうした作業はつい面倒で省略してしまいがちですが、作業記録をきちんと取ることで、作業の実績を理解してもらえるとともに、今後ネットワークを独自に構築したり拡張する場合には、非常に有益なマニュアルとなります。

 また、学校の担当者の電子メールアカウントをかならず確認するとともに、問題が生じたさいの連絡先を伝えておくことを忘れないようにしましょう。学校が独自に接続箇所の追加などをおこなった場合には、そのつど記録を追加し、ボランティアにもかならず報告してもらえるようにしておくと、その後のトラブル対策においても重要になります。

 ネットデイの作業が終わって無事インターネットに接続できたら、かならず学校の先生や保護者の人たちにインターネットを体験してもらう時間を設けるとともに、最後にそれぞれの作業分担ごとに作業の反省や感想を発表しあうことも重要です。

 たとえ今回ネットデイをおこなうのは1校だけだとしても、今後他の学校でも実施することを考慮して、作業を進める必要があります。必要とされる工具や部材の確保、参加者の募集など、それに関わる作業はもちろん、当日の作業の様子も作業内容と要した時間とともにできるだけ具体的に記録として残すことが大切です。必要な工具や部材を一覧表にまとめ、ネットデイ・キットとして標準化するのもよいでしょう。

安全第一

 ネットデイを成功させるかどうかは、ほとんど事前の準備段階にかかっています。学校との打ち合わせを入念におこない、ネットワークの基本構成を決定し、下見で配線ルートを確認し、設計や部材のリストアップをおこない、必要とされる人数や時間を割り出します。

しかし、どんなに入念に準備をしても、実際に工事が始まると、配線経路や工事方法の変更を余儀なくされることがあります、そのような場合には、責任者や学校担当者と打ち合わせをおこない、臨機応変に対応することが大切です。

 しかし、防災上必要な防火壁をむりやり貫通して配線をおこなったり、著しく美観を損ねるような露出配線は避けなければなりません。

 また、場合によっては学校の外壁にそって配線したりする必要があるでしょう。もちろん下見の段階で、最も施工上安全なルートを探すことが基本ですが、どうしても外壁に身を乗り出さなければならない場合には安全ベルトを着用することや、天井の板を外す場合には防塵マスクを着用するとともに、頭部を保護するために帽子をかぶること、軍手や上履きはかならず全員が用意することなど、基本的なことはきちんと守るようにします。

 また、万一怪我をしたり、学校の器物に損害を与えてしまった場合に備え、参加者全員がボランティア保険に加入しておくとよいでしょう。

子どもたちのために

最後に、私たちが何よりも大切にし、忘れてはいけないのは「子どもたちのために」という意識です。ネットデイを実際におこなおうとすると、多くの困難が待ち受けています。そんなとき、ともすると、私たちは大人の論理で妥協したり、あきらめてしまいがちです。

 自分がなぜボランティアとして学校をインターネットに接続しようと思ったのか考えてみてください。きっと、それは目の前にいる子どもたちのためでしょう。

そう、あなたの目の前にいる子どもたちは、待っていられないのです。私たち大人が手をこまねいている間にも小学校を、中学校を卒業していってしまうのです。

 あれこれ迷ったら、それが目の前にいる子どもたちにとってどうなのかを考えてみることです。迷っている暇はありません。小さな一歩でもかまいません、今すぐ行動しましょう。

 ボランティアにとって、その一歩から、ネットデイは始まるのです。


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