4.9.2 特殊教育における広域ネットワークを活用した教育のあり方と展望
「特殊教育」という用語は、諸外国で言うところの「スペシャル・エデュケーション」の直訳であり、元来は一斉指導に向かない個別の対応を必要とする児童生徒の「個に応じた教育的配慮」全般を指す言葉である。しかし、我が国ではこの用語は障害児に対する特殊教育諸学校(盲学校、聾学校、養護学校)および一般小・中学校におかれている特殊学級(障害種別ごとに大きく7種の学級種別がある)における教育形態のことを指していると考えられている。
こうした教育形態が成立するまでには、関係者による様々な努力の積み重ねがあったわけだが、個々の障害に応じた専門的な教育対応が実現してきた反面、学ぶ場が分断されたことにより、一般児童生徒と障害児の間に心理的な見えない壁を作る結果になったのではないかとの指摘もある。
学校あるいは学級種別の異なることによる相互理解の不足は児童生徒間のみに生まれているのではなく、教育関係者や社会一般の認識にも、障害児は学校教育の対象ではない、あるいは専門教育機関でのみ行うものという誤解が生じている。しかし、実際は特殊教育は特殊な教育課程と教育方法による普通教育の一環であり、障害児もその障害部位や発達に応じた特別な配慮点を除いては一人の子どもとして同等の学ぶ意志と権利を有する存在である。したがって、こうした障害児の教育に当たっては、学ぶ場の物理的な違いが、障害児の成長・発達にマイナスとならないよう、いわゆる健常児等とのふれあいの機会や交流教育を取り入れるなどの深い配慮が必要である。
また、障害の有無による学習上の不利を少しでも補っていく教育方法、あるいは機器の開発及び導入を欠かすことはできない。パーソナルコンピュータの特殊教育への導入は、障害を補う「アクセシビリティ(情報を入手することを可能にする、転じて障害を補完する機器ならびにシステムのこと)機器」として、あるいは学習を動機づけ、楽しくかつ効果的に学べる機器として様々な創意工夫の元に活用されてきた。
一方、インターネットを含む広域ネットワークの登場と急速な普及は、移動の不利や交流範囲の限定と言った障害児が交流教育を進める上での課題とされていた局面の一つの解決策として注目を集めた。実際のふれあいやスキンシップもむろん大切ではあるが、ネットワーク上のバーチャルな交流とはいえ広く世界規模に交流相手を求められる点や、どうしても不便な場所に建設されるケースが多い特殊教育諸学校の地域的な格差を埋めると言った物理的な場を広げる効果が期待される。また、電話などのメディアのようにオンラインでリアルタイムに関わるばかりでなく、各自の都合のよい時間に情報を受信し、発信できるという随時性は個々のペースでしか行動することが困難な障害児には最適なメディアといえる。さらに、前記アクセシビリティ機器を用いて時間をかけて発信情報を作る必要のある障害児にはこの随時性は障害故の不利を結果的に埋めてくれるメディアとして大きな意味を持っている。
また、メディア文化的な観点からみれば、ネットワーク上に展開されている人間関係は、人種や国境、性別や年齢、さらには障害の有無とは無関係な平等なフィールドであり、そこに積極的な関わりを持っていくことは、障害児の新たな社会参加の一形態となるものと考えられる。従来、人にしてもらう経験の方がどうしても多くなりがちだった障害児にとって、ようやく能動的に世界に関わりを持つことのできるメディアが身近なものとなったのである。
しかし、これらを具体的に支援し、育てていくためには、各学校単位では、教育課程にどのように位置づけるかの検討や、校内の共通理解・協力体制が必要であるとともに、効果的に指導ができる人材の育成や適正な配置に深い配慮が必要となる。また、自治体等には、各学校が指導しやすいように、児童生徒が可能な限り負担やストレスを感じずにすむようなアクセシビリティ機器の熟成や回線等の使用環境すなわちインフラの整備・充実を、障害に応じた深い配慮をもととしつつ積極的に進めることが求められる。
さらに言うと、社会全体が障害をもつ人々のこうした社会参加を積極的に認め、支援していくような体制と理解が必要であるが、諸外国と比較して我が国では障害児とパソコンというだけで奇異な目で見られるような風潮はまだ残っているうえに、パソコンメーカー等の障害児のためのアクセシビリティ機能の研究もまだ緒についたばかりである。
繰り返し述べるように、特殊教育におけるインターネット等の広域ネットワークの利用は、障害児の社会への関わりや能動的な生き方に重要な影響を与えるものとして期待される。しかし、それを日常の教育指導の中に位置づけるには、アクセシビリティのあり方、児童生徒自身の意志と教育的な観点の整理など多くの検討課題が山積している。
後述する各事例は、先進的な取り組みを試行した学校及び研究者の貴重な報告である。それらの中から今後の実践に繋がる課題と意義を読みとり、具体的な教育展開に生かすことによって、障害児・者のQOL(Quality
of Life:生活の質の向上)を追求していくことが内外の障害者、保護者、教育関係者から熱い期待を込めて求められていることがらである。
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