4.9.6 ネットワーク利用の技術的な課題

障害児がインターネットをはじめとした広域ネットワークを利用するにあたり、技術的な課題としては、次の3点が考えられる。

 @障害を補完し、機器の利用の負担を軽減するアクセシビリティ機器の開発と適応

Aネットワーク環境、あるいはサーバ等のメンテナンス

 BCU-SeeMe等のマルチメディア環境を押し進めたシステムの開発と応用

 アクセシビリティ機器の開発や児童生徒への適応について、詳細は別項4.9.4〜4.9.5を参照いただきたいが、あらためて各障害種別に応じたアクセシビリティのあり方をここに提案する。

<視覚障害児に対するアクセシビリティ>

視覚障害には、視力の低下、視野の狭窄などのために生じる「弱視」と、視力を全く持たない「盲」という状態に分けられる。弱視の場合は、単に視力のレベルが低いと言うことだけではなく、見え方、視覚情報の伝わり方は千差万別であり、大きなディスプレイに大きな文字ということだけですべて解決すると言うものではない。ケースによっては、かえって小さいディスプレイで視線移動を少なくした方がよい場合や、色使いや文字フォントへの配慮が必要な場合などが考えられる。

視覚情報をもたない盲児の場合は、視覚情報を音声情報に変えるシステムの研究が進んでいるが、GUIであることが大きな特徴として発展してきたWWW画面の読みとりについてはまだ課題も多い。今後、テキストのみのページ作成をすることや、項立てにおいて、行頭に番号を振るなどの配慮によって、音声化した場合の理解のしやすさに配慮が欲しいものである。

<聴覚障害児に対するアクセシビリティ>

聴覚に障害をもつ児童生徒がネットワークを利用する場合、聴覚的な情報の受容ができないため、音声データの含まれたWWW画面等では不便が生ずる。現時点では音声データは補足的な情報となっていることが多く、大きな問題になってはいないが、マルチメディア環境の進展に従って、「今こういう音声データが出ている」と言ったことを表示するような配慮が必要になろう。これらはホームページの作り方のガイドラインを検討する機会があれば取り入れたい課題である。

また、これはアクセシビリティの問題では必ずしもないが、聴覚障害児の場合、往々にして発語が困難であるために日本語表現そのものの習得が遅れがちであり、テキストによるメッセージ交換を通じた交流でも表現が未熟であったり、相手に対して失礼な表現になってしまったりする場合もある。そこで、総合的なコミュニケーション能力を伸ばす指導を心がける必要があるが、ネット上のエチケット(ネチケット)も含めた指導を行うには、広域ネットワークの利用は学習の場として最適なものの一つである。

<知的発達障害に対するアクセシビリティ>

知的発達障害児は、その障害の状態や程度の幅も大きく、一概に必要なアクセシビリティを述べることは困難である。年少児、あるいは障害の重い児童生徒の場合は、機能的な補完と言うより、操作系列の単純化や理解しやすい配慮の方が大切である。キーボードやマウスによる操作は児童生徒によっては適切な操作が困難な場合もあり、手の操作と画面上の情報が一致することによる理解のしやすさをねらって、透過型のタッチスクリーン等の導入が効果的と考えられる。また、これも技術的課題と言うよりは画面の作り方の問題ではあるが、画面情報を読みやすく、理解しやすくするよう、整理した表現にすることや、わかりやすい画面構成をはかる必要がある。特に、「図と地の関係」を十分に配慮し、背景に目的図形や文字がとけ込まない配慮は重要である。脳に器質的な障害をもつ障害児には、往々にして図と地の関係について認知が混乱するなどの症状があるが、これらの認知の未成熟や混乱は障害児ならずとも幼少児や高齢者にもあり得ることである。障害児にとって使いやすいものは、すべての人にとっても使いやすいものとなることを理解しておくことが大切である。

一方、軽度の知的発達障害児にとっては、アクセシビリティの機器構成の工夫が有効か、教育的効果によって習熟してしまうことが先行するか、十分に検討した上で取り組みを考える必要がある。得手不得手はあるものの、多くは多少の練習によって機器の操作を確実に習得することができるようになる。

<肢体不自由児に対するアクセシビリティ>

肢体不自由児には、手、足といった四肢に障害をもつ場合と、体幹すなわち身体の保持が困難な場合とがある。さらに重度な肢体不自由児は、立位(立っていること)や座位(座った姿勢)をとることができず、身体を横にした状態でパソコンを操作するケースも考えられる。このように、個々の肢体不自由の状態に応じて、適切な入力デバイスを適用する必要があり、多くの研究と実践が報告されている。

マウスなどのポインティングデバイスによるオペレーションが一般的であり、その扱い易さに特徴があるWWWブラウザなどには、肢体不自由児はかえって困難が大きい。そこで、前述のような、スイッチやセンサーでマウスオペレーションを代替えするような工夫が検討されている。

また、肢体不自由児のアクセシビリティはスイッチ類等だけの問題ではなく、体幹の支持の仕方や姿勢など、総合的な養護・訓練的な配慮のもとに計画していく必要がある。

さらに、肢体不自由児の中でも多くを占める中枢神経的な障害(たとえば脳性まひ児等)の中には、知的な障害を併せ持つものも多いことから、知的障害児に対するアクセシビリティへの配慮がそのまま応用できると考えられる。

<病弱児に対するアクセシビリティ>

病気療養児のために必要な配慮として、たとえば「筋ジストロフィ症」のように機能上の制限が出てくるようなケースでは、肢体不自由児に対するアクセシビリティの工夫がそのまま応用できる。一方、ベッドサイドで教育を受けている児童生徒については、とりうる姿勢の中で操作ができるスイッチやセンサー等を個別に検討していく必要がある。

運動制限や随時治療が必要で、特に機能的な支障のない児童生徒は、疲労や健康安全などに対する配慮を十分にすることが大切となろう。

次に、各学校におけるネットワーク環境やサーバ等のメンテナンスについては教員が行うのではなく、可能な限り専門機関や支援機関が定期的に行うことで、各学校の担当教員の負担やストレスを軽減するシステムを作ることが必要である。

パソコン等の機器を用いた指導では、どうしても専門的知識や時間が必要になりやすく、それらを学校内で管理するシステムをとっている場合は担当教員の負担が大きくなりすぎる傾向にある。ましてや、インターネットサーバのメンテナンスやWWWの更新、メールの管理など、ネットワーク環境の整備は技術的、時間的な負担が大きい。さらに障害に応じたアクセシビリティなどに至っては、相当の知識と経験が必要となり、とても教員個人の抱えきれる範囲ではない。

このように自治体や国レベルでも情報教育担当教員の授業時間の軽減や専科配置などの人材面での可能性を検討すると共に、福祉機関やリハビリテーション機関とも連携を深め、適切な支援機関を緊急に設置する必要性をもっと認識するべきである。

マルチメディアシステムの開発と応用については、回線速度やパソコンの処理速度の問題など、純粋に今後の技術の進歩を待つ部分も大きい。しかし、CU-SeeMeなどの技術の進歩によって、必要に応じて顔を見ながらのコミュニケーションができたり、在宅児や近隣に通級学級等が設置できない場合の対応などにおいて、遠隔教育の一形態として活用の可能性は高い。技術の進歩は多様な教育形態を生み、その選択肢の豊富さが個別に対応する必要のある障害児にとって、教育の可能性を広げることになるのである。


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