4.9.7 教育利用についての効果・課題

本利用企画及び実践事例に現れているように、インターネットを含む広域ネットワークの導入により、もっとも子どもたちに変化があったことは、自ら社会に関わろうという意欲が引き出されたことである。どうしても受け身的な生き方になりがちな障害児に対して、自ら世界を広げようとする気持ちを育てることにより、「生きる力」をのばしていくことに成功している。広域ネットワークは、適切なアクセシビリティ機器の適用により、これまで周辺の狭い社会との交流にとどまっていた障害児に、新しい広域な社会参加の機会を与える効果があった。そして、地域の格差を埋め、学校や個々の障害児が外の世界に向かって自己発信をし、その過程で世界に向けて心が開かれていくことによって、社会の構成メンバーとしての自分を自覚することになり、外の世界をたえず意識することで、良い意味の緊張感を持って学校生活を送ることができるようになった。このことは、これまでの特殊教育が積み重ねてきた教育理念の根底を変えうるほどのインパクトのある成果である。

障害児には、もちろん実体験の積み重ねや、直接的な人やものとの関わりは重要である。しかし、そうした経験にとどまらず、障害の有無などを超えたバーチャルな関わりによってもたらされる「世界観」の形成は、障害児の社会生活の質(QOL:Quality of Life)の向上に大きな意味を持っている。

このように、広域ネットワークの利用は、単なる情報収集の技術習得や国際理解のきっかけというレベルにとどまらず、障害児にとって、もっとも大切な生きる勇気と社会生活に直結する学習機会として、ますます注目と期待を集めていくことになると考えられる。

一方、今後の課題としては、別項で述べた技術的課題のほかに主に次の4点が上げられる。

 @教育課程上の課題

A施設・設備的課題

B教員の意識改革・研修等の課題

C行政、学校体制の課題

教育課程上の課題は、こうしたネットワークを利用した教育を、どの教科・領域に位置づけるかということである。特殊教育においては、教育課程編成の特例事項により、異なる教科同士、あるいは教科と領域をあわせた、合科・統合という指導形態をとることができる。さらに、指導方法として生活単元学習のように、総合化・単元化した指導展開を柔軟に行うことができる。こうした中にネットワークを活用した授業を効果的に取り入れることが可能であると思われるが、従来から中心的に行われてきた「生活」「経験」主義的な教育課程編成と、こうした新しい教育内容・方法を、どう組み合わせていくかが大きな課題となる。社会の変化と多様化にあわせて、特殊教育における教育課程編成も、大きな転機にさしかかっている。「新しい学力観」と言われる、教育の見直しの観点は、特殊教育においても、21世紀を生きる障害児の幸福の追求をめざして、議論を尽くさねばならない課題である。

次に、施設・設備的な課題では、特に回線の利用形態の充実が望まれる。どうしても操作等に時間がかかったり、健康状態、身体状況等からネットワーク利用時間が限定されることになりやすい障害児には、高速で、かつ安定して接続できる回線環境が必要である。 授業を始めようとしたら回線が混んでいてつなぐことができないなどと言うことがないよう、事情が許せば専用線によって常時回線接続ができることが望ましいが、その場合はサーバメンテナンス等で担当教員に過大な負担がかからないような配慮が大切である。

いずれにしろ、そのための基盤整備や費用等については教育のみの立場に限らず、福祉、労働、医療、そして各企業が十分に連携した上で、限りなく豊かに提供されるべきである。 どうしても情報不利に陥りがちな障害児にとってインターネット等の広域ネットワークのもたらす教育意義の高さは繰り返し述べているが、今後の21世紀における福祉優先社会において、真っ先にこうした最新技術の恩恵に浴するべきなのは、障害児や高齢者などをはじめとした、社会的な支援の必要な人々なのである。

また、技術的、費用的な基盤の充実に加えて、欠かすことができないのは、人的な環境整備である。教員に対しての研修の実施や人材育成は当然のことであるが、単に技術の習得だけではなく、社会学的に今後の教育をどう考えていくかなど、広域にわたる見識とメディアリテラシーを持つ人材の確保と配置が大切である。保守的な傾向の強い我が国の学校教育においては、こうした新しい教育内容・方法はなかなか受け入れられにくく、情報教育といったたえず新しい概念が形成され、情報が流通しているような分野においては、よほどの知識と、柔軟な姿勢を持つ人材の育成が最重要課題と言うことができる。それには、従来の技能優先の研修カリキュラムではなく、大学教育、現職教育両面から、教育関係者の意識改革をめざしたアプローチの研究に着手する必要があると考えられる。

最後に、行政や学校の体制の課題であるが、情報および、それによってもたらされる教育的意義についての認識の不足などにより、主体的な情報発信を極端におそれたり、インターネット等の設置を忌避したりする傾向が一部に見られるのはまことに残念なことである。

インターネット等の広域ネットワークは、学校や障害児が社会と具体的な関わりを持つための窓であり、その窓は基本的には両方向から素通しであるべきである。個人情報の管理や保護と言うことに対する配慮は当然なされなければならないが、インターネット等の広域ネットワークは、情報を双方向に受信、発信すること、すなわち相互に情報を流通させることによって、その意義と価値を維持しているものといえる。学校だけが閉ざされた環境にいて、欲しい情報だけを手に入れればよいと言った独善的な考え方ではそもそもネットワークとは成り立ち得ないものであることを、導入する立場の自治体、行政、学校等は十分に理解しておきたいものである。

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