これまで、アクセシビリティ機器について深い配慮のもとにその活用をはかった実践事例として、肢体不自由養護学校ならびに盲学校(視覚障害)についての何校かの優れた実践を紹介してきた。以下には、その他の障害種別として特殊教育の対象児の中でも数的にはもっとも多い知的発達障害児(精神薄弱児)の養護学校についての事例を取り上げる。知的発達障害児はその障害の態様が幅広く、配慮点が機能的な課題より知的発達の状態や学習経験の有無の方が大きいなど、きわめて個々にわたるため多くの可能性と同時に指導上の課題を抱えている。
これらの学校における、導入から活用に至るまでの実践の経緯を次に導入を志している新たな学校の計画や準備に役立つことを願って紹介する。
・福井大学教育学部附属養護学校における実践
ネットワーク会議ソフトを利用した遠隔地の大学生とのリアルタイムコミュニーケーションについて
1.はじめに
平成7年10月より電子メールの交換をしている県外の大学生にネットワーク会議ソフトを利用したコミュニケーションの試みに参加してもらった。相手は養護学校での実習経験があり、特殊教育に理解のある大学4年生女子1名と技術的な利用環境準備並びにネットワーク会議にも一部参加する男子大学院2年生の2名である。
この学生はメーリングリストaimitenoでの呼びかけに応えて電子メールの交換に参加してくれた学生である。プライバシー保護のため、個人が特定されるような氏名、住所をはじめとする個人情報は出さない方針で取り組んだ。
ネットワーク会議の時間は平均約30分間程度で、平成9年2月7日現在、5回程度の実践を行ってきている。なおインターネットを含めたパソコンを利用する活動は高等部女子生徒4名が正規の授業が終了した放課後(3時30分〜4時30分)に活動しており、その中で取り組んだ。
2.実践
(1)利用環境
本校 ノート型パソコン PC9821Na12/H10を中心に
デスクトップ型パソコン PC9821Xt16/R16を試験的に利用
本校は、福井大学と64Kの専用線で接続している。
(2)使用ソフト
Microsoft社 「NetMeeting 1.0」
(3)利用の様子
相互にパソコンの機種を変更したりして試行錯誤的に取り組んでいる。
最初は校内で生徒同士でソフトを立ち上げて会話してみた。生徒が興味を示したので、それまでメールのやりとりをしてくれていた人たちにお願いし、その中からお互いに時間の都合がつき、環境を準備してくれた学生と交信することにした。
第1回目は、それまで電子メールのみの交流だったが、音声で交信できて生徒たちは具体的なイメージを持てたこと、2名の生徒が参加したために、交代しながら話したり、友だちの話を聴くことを楽しめたためにかなり盛り上がった状態で会話したり、チャットを試してみたり、お絵描きしてみた。相手の学生にとっても意外なほど活発に聞こえたのだろうか、「ずいぶん盛りあがっているね。」との言葉も聞こえたほどだった。
以後、例えば学校祭をテーマに会話を考えていたが、実際には会話の準備も十分でないことなどで会話はあまり続かずに、相手の画像をホワイトボードに貼ってもらったりホワイトボード画面を共有してのお絵描きが中心となった。
パソコンの機種を変更するに伴い、音声がほとんど聞こえない時もあったが、お絵描きだけでも生徒が交替で描いて、十分に楽しめる場面が見られた。
(4)効果的だった点
利用したネットワーク会議ソフトは音声が比較的はっきりと聴くことができ、イメージが持ちやすいためか、本校生徒、担当教員、相手の学生ともに強い興味を持つことができ、喜んで楽しく取り組めている。
また参加した生徒の中には、家庭生活でも電話をよく利用している生徒もおり、学生が優しく接してくれたこともあり、インターネットで一番やりたいことのようである。
ネットワーク会議ソフトの機能の中では、ホワイトボート機能が特に生徒たちの興味・関心を引いたようで十分楽しめる機能のようである。
またネットワークでの会話等に留まらず、自分が仕事学習で製作した焼き物の湯呑みやペン立てを郵送したりして交流を深められた。また諸般の事情でできなかったものの実際に会ってみることも考えてみたこともあった。
以上のような状況を考えるとリアルタイムなコミュニケーションは生徒たちの世界をより豊かに広げてくれているのではないかと思う。
なお利用したソフトは、フリーソフトであり、相手の学生に経済的な負担を与えずに用意してもらいやすかった。
(5)問題点
ネットワーク会議はリアルタイムのコミュニケーションのために時間をお互いに合わせる必要があるが相手の学生がそれぞれ卒論、修論などを抱えており、忙しくなると取り組めなかったり、念のために教員がそばでパソコン操作等を助言、援助しているために、学生、教員の都合で取り組めなかったことが多かった。
また一種の電話感覚で手軽に会話を楽しめたり、近くで友だちが話をしていると自分も参加したくなり、平成7年度から電子メールを書いて返事が来るのを楽しんでいる生徒は別にして、平成8年度から新しく電子メールを書き始めるなど経験が浅く、電子メールの面白さや便利さを十分に体験していない生徒は、通常の電子メールには興味を示さなくなったような印象を受けた。
また半2重のカードを用いているためにインターホン的な利用状態であり、また音声が一部切れてわかりにくい時があった。
3.まとめ
軽度の知的発達障害を持つ子どもたちにとって音声だけでもある程度、具体的なイメージを持つことができるようであるが、自分の顔や相手の顔の動画像が見えるとなお一層、相互理解が深まり、ミュニケーションが深まることが予想される。
現在、パソコンTV会議システムが次々と開発されてきている。またより高性能なパソコンが出荷される状況で、今後ますますリアルタイムな音声や動画像の送受信や画面を共有しての共同作業の教育利用を模索すべきだと考える。