・福島県立盲学校における利用企画の実践
「100校プロジェクト」に参加する前の本校のパソコン利用は音声ワープロ(A OK)や点字エディター(BRAILLE STAR)などに限られていた。
このプロジェクトに参加することで生徒と教員が新たなパソコン利用への関心を高め た。また、ネットワーク社会の一端に触れることが出来、その大きな可能性を感じた。しかし、視覚障害者の利用環境は整っていない状態であった。このプロジェクトを通して本校生徒がどのような工夫をすればインターネットを利用できるようになるかを技術面と活用面で検討した。
(1)弱視の生徒の利用
(a)利用にあたっての工夫
弱視の生徒は画面の情報が確認できるようになれば、一般のアプリケーションを利用してインターネットへアクセスすることが出来る。画面を見やすくする幾つかの工夫でそれを可能にした。
工夫:画面の解像度をおとし画面に表示できる文字を大きくした。
例.640×480にする。
大きなディスプレイを使用する。画面が大きくなるだけで画面の文字は大きくすることが出来る。
例.21インチのディスプレイを使用する。
画面の配色を工夫する。マウスカーソルやアイコンを見やすくするために背景とのコントラストを考える。
例.背景を暗めにしてマウスカーソルを見安くする。
マウス拡大ソフトを使用する。
例.MouseCurを使用する。
(b)利用の実際
以上の工夫を行い、以下の実践を行った。
・Netscape Navigatorを利用してWWWを閲覧した。検索エンジンなども利用して自分の見たいページを自ら探してアクセスした。
・CameleonのMailを利用してメールの交換を行った。
・自分の作品をホームページに掲載した。
(c)利用の成果
環境が整うことで、興味のある物事について自ら情報の検索、発信を行う態度が見られるようになった。
(2)全盲の生徒の利用
画面の文字が確認できない視力の低い生徒がコンピュータを利用する際には音声合成装置を利用してきた。この技術を利用してインターネットへアクセスできるように工夫した。
(a)工夫の実際
Lynxを使用することにより音声でインターネットへアクセスできるようにした。 Lynxはネットワーク利用企画「特殊教育」のために試験的に本校サーバに導入されたものである。サーバが導入さている場合は第1、第2ケースともに音声合成装置、音声ソフト、LANボードがあればインターネットへのアクセスが可能になる。費用の面でも一般の機器に10万程度の加算で揃えることが出来る。
ア.クライアントの機器とソフト
第1ケース
パソコン本体 富士通 FMV-5133DE3
音声合成装置 富士通 FMVS-101
日本語音声ソフト VDM100 Ver1.0
OS MS-DOS Ver6.20
通信ソフト Hterm
第2ケース
パソコン本体 NEC PC9801US
音声合成装置 富士通 FMVS-101
日本語音声ソフト VDM100
LANボード TDK LAK98025
OS NEC MS-DOS Ver5
TCP/IP TDK
イ.サーバ
富士通 S-4/5モデル85
日本語 Solaris1.1.2
Lynx
LynxはUNIX上で動作するWWWを閲覧するソフトである、テキストだけが表示でき動きが軽快なソフトである。
(b)利用の実際
クライアントからサーバにloginしLynxを起動することでWWWを閲覧することが出来る。キー操作によりリンク先の文字の上にカーソルが移動しEnterキーを押すことでリンク先に行くことが出来る。実際に本校のホームページに各新聞社のホームページをリンクさせておき、そこから最新の記事を聞きにいっている。
全盲の生徒が今まで単独で新聞から情報を得ることは困難であった。しかし、インターネットの利用により最新の情報を手に入れることが出来るようになった。また、これまで本の新刊情報などは入手が困難であったがインターネットの利用により可能になった。有用な情報の収集手段が一つ増えたことになる。更に、自ら情報を検索する態度がみられるようになってきた。
(3)生徒が利用しやすいホームページの作成
音声でインターネットを利用してみて次の問題があることが分かった。
ホームページ上で音声化できるものはテキストだけである。グラフィックは音声にすることは出来ない。グラフィックの多いWWWで内容がよく理解できないケースがある。音声でWWWを聞くことは音声の聞き取り速度に限界があるため目で見ていくよりも時間がかかる。WWWの階層を進んでいき、さらに次の画面や前の画面に戻る操作に時間がかかる。
そこで、次のような改善を行った。
音声化できないグラフィックを使用しないテキストオンリーのホームページを作成した。もし写真などのグラフィックを使用するときには、必ずその写真の説明をテキストで加えた。次のページや前のページに戻る時間をできるだけ短くするために階層を深くしないようにした。
(4)盲学校における技術的な課題
(a)弱視児における課題
視力0.08〜0.1程度で視野欠損がない生徒は一般のソフトに少しの工夫をすることでインターネットを利用することができる。
・文字を大きくするために画面の解像度をおとす。
例.640×480にする。
・文字を大きくするために、大きなディスプレイを使用する。
例.21インチのディスプレイを使用する。
・画面の配色を工夫する。
例.背景を暗めにしてマウスカーソルを見安くする。
・マウス拡大ソフトを使用する。
例.MouseCurの使用
視力が0.07程度以下で視野欠損がない生徒がインターネットを利用するには以下のソフトを用いたほうが良い。
・画面拡大ソフト ZoomText for Windows
このソフトは画面を2倍から16倍まで拡大することが出来るソフトで、 各視力の程度に合わせて拡大する倍率を変えることが出来る。
視野欠損がある生徒における課題を次にあげる。
・視野が狭い生徒がマウス操作を行うとき、視野からマウスカーソルが消えてしまい利用するのが困難な事が多い。キー操作と音声を合わせた補助機器の使用が必要であると思われる。
以上のことから技術的な面で視野欠損のない弱視児には問題が小さいように見える。しかし、この技術を利用するにはある程度の投資が必要で、その負担は決して軽いものではない。
(b)全盲生における課題
全盲の生徒がコンピュータを利用するには音声合成装置を利用してきた。今回のプロジェクトにおいてもこの技術を利用し、ある程度の成果を上げることが出来た。この試みを通して次の幾つかの課題があることが分かってきた。
・機器やその設定に関する情報が少なく、一般のユーザが機器をセットアップすることは難しい。
・音声を利用しての長時間のインターネットへのアクセスは難しい。音声で ホームページの内容を理解するには集中力が必要で、その持続時間は1時 間が限度である。インターネットの利用を考えたときに音声以外の補助器具 が必要である。ピンディスプレイの併用が有用であると考えられる。
・現在、使用しているOSはDOSである。主流となっているWindows95では音声ではインターネットを利用できない状況である。一部にはスクリーンリーダーが出てきているが機能的にも性能的にも難しい点がある。晴眼者との共用を考えたときに、また今後のOSの動向を考えたときにもWindows95が音声で利用できる環境が求められる。
(5)今後の課題
WWWの音声化により視覚障害者のインターネット利用は可能になったが、Mailなどの利用は音声では困難である。今後はインターネットのその他の機能も音声で利用できるようにしていく必要がある。
また、盲学校現場でのインターネットの利用も進んでおらず、これからの実践の積み上げが必要である。
学校でのインターネット利用を充実させていくためには、学校全体の支援が不可欠である。インターネット活用班などの組織をつくり、機器の設定や授業へのインターネット活用などを行っていく必要がある。また、サーバの管理やホームページの作成なども分担し行っていかなくてはならない。組織の力がなくては先細りしていく心配がある。
(6)おわり
本プロジェクトをとおして、盲学校の生徒がインターネットを利用するための基礎的技術を養うことができた。しかし、音声でのインターネット利用は始まったばかりで、多くの改善すべき点がある。
外に向かってはインターネットは晴眼者だけでなく視覚障害者も利用していることを知ってもらえるような活動をしていかなくてはならない。知られることにより視覚障害者への配慮がなされ、利用しやすい環境が出来てくる。その環境は少しの工夫で可能になるケースが多い。
視覚障害者が利用しやすいインターネットを作るために音声化しやすいテキストオンリーのページを合わせて作成するように声を出していくことが大切である。
さまざまな課題は残されているが、インターネットの利用が盲学校の児童生徒に及ぼす影響は大きく、更にインターネットの活用を深めていく施策が不可欠である。
[参考資料]
1)東京女子大学現代文化学部の新着情報:すべての人にアクセス可能なHTML文書を書く,http://apricot.twcu.ac.jp/twcu/mure/WhatsNew.html
[補足]
自校のサーバにLynxが導入されておらず、インターネットかパソコン通信が利用できる学校は以下の方法でLynxを利用することができる。
1)インターネットかパソコン通信に入る。
2)TELNETを起動する。
3)千葉大学附属図書館情報システムにアクセスする。IPアドレスは 133.82.217.1 である。
4)接続されると login と聞いてくるので culis と入力する。
5)次に、日本語コードを聞いてくるので sjis と入力する。
6)千葉大学附属図書館情報システムのメニュー画面が表示されるのでスペースキーでLynxを選択し利用することが出来る。