・東京都立光明養護学校における利用企画の実践
(1)作品発表・自己実現の場としてのホームページ
肢体不自由児を対象とする養護学校では、従来から、肢体不自由児の移動の困難という社会的ハンディキャップを補う手段として、あるいは、児童生徒のコミュニケーションの表出手段として、パソコン通信などの情報処理機器の積極的な活用がなされてきた。インターネットでは、パソコン通信に比較して画像とか音声が容易に扱えるという利点がある。
光明養護学校は平成7年の夏休み中にインターネットに接続した。二学期早々の社会科の時間に、インターネットの概説の話をしてから、生徒たちにネットサーフィンを楽しんでもらった。居ながらにして世界の情報に接することが出来る(肢体不自由というハンディキャップを克服するツールとしての利用)などの理由から、生徒たちの歓迎度の大きさが予想されたが、実際はさほどではなかった。
しかし、一学期の間在宅療養していたO君。二学期早々の選択科の時間に、家にあるパソコンを使って、あっと驚くような「迷路」を描いてきた。迷路はたどっていくと絵が完成するようになっている(図4.9.3)。早々、Nifty-Serveの障害児教育フォーラムなどで紹介したところ、次の日の朝にはメールが届いた。そのメールに励まされて、O君は、インターネットのホームページ上に、次々に作品を発表するようになった。
以下が届いたメールである。
さっそくホームページ、会社で拝見させて頂きました。みなさんいい顔してますね。写真を取ったときの様子が思い浮かぶようです。
迷路、絵、物語、詩、とてもすばらしい作品ばかりですね。迷路は、あの細かさ、とても根気のいることでしょう。私は、分からなくて1つ答を見ちゃいました。あれは、解答が絵になるのですか?
絵は、夜の雰囲気出ていますね。電車が月明かりに照らされているように見えたのは私だけでしょうか?
物語は、実は全部読んでいないのですが、あれだけの物語書くのにどれくらいかかったのだろうと考えてしまいました。今度じっくり読ませて頂きます。
詩は、胸を打たれました。ああいう想いを抱いているって、あのように表現されるまで、分からないのかもしれませんね。考えさせられます。
でも、みんな、なんかしら手段があれば、あれだけのこと出来るんですよね。(わたしゃどれも出来ない)。それを世の中の人たちに知って頂けるだけでも、意味あるホームページだと思います。
まもるさん、そしてホームページに載っていたみなさん、次の作品を期待しています!!!(会社員:Hさん)
当時高3だった、Hさんのページより
私の夢
なぜ みんなは歩けるのだろう
なぜ うまく手が使えるのだろう
私だって手もある足もある
どうして歩けないのだろう
思いどうりに手が動かないのだろう
一日でもいい みんなと同じように
私の足で この足で一歩一歩ゆっくり
歩いてみたい そして おもいっきり走ってみたい
手も思いどうりに動いたら
体いっぱいに喜びを感じたい
夢でもいいから…
平成8年度は、高等部でも、文字だけによる表現活動が可能な生徒が少なくなってしまったということもあり(肢体不自由の養護学校では、従来から、児童生徒の障害の重度重複化・多様化が指摘されてきている。また、一般小・中・高等学校に比べて児童生徒数が少なく、年度によってその障害の様子は大きく変化する)、一年生にはパソコン操作に慣れるという意味からも、デジタルカメラで撮影した画像にコメントをつけるという形の通信を生徒が作り、それを教員がホームページに書き込むという指導から始めた。最初は自分の受けている授業の報告から入り、少しずつその報告の範囲を他の学習グループの様子の報告へと広げていった(図4.9.4)。
二学期の前半は、グラッフィック・ツールを用い校内の地図を作成(図4.9.5)、後半は初歩的なプログラミングの練習もかねてHTMLの学習、データ量が増えてきてわかりにくくなってきたホームページの整理をしながらの生徒自身の手によるホームページの作成に取り組んだ。
また、光明養護学校では、修学旅行・移動教室などの宿泊行事は学年単位で行う事になっている。従来から宿泊行事の際は、フィールドアクセスの一例として、移動端末としてノートパソコンを持っていき、現地から様子を逐次学校に送り、それを受け取った学校では、順次印刷し、宿泊行事が終わったときには、報告集を配布するというような取り組みを行ってきた。このことにより、報告を担当した生徒にとってはまたとない表現の機会を得る事になり、その報告によって、一学年の取り組みが他の学年の職員にも伝わり、結果的に、一つの行事を生徒・教員・父母の三者で共有する事が可能になる。平成8年に実施した高三の修学旅行・高二移動教室の時も、デジタルカメラで撮影した写真入りの通信を作成し、これをホームページにも書き込んだ(図4.9.6)。結果的に、このことにより、高等部のすべての学習グループの活動がホームページで紹介された事になった。
また、今では小学部の授業の中でも取り組まれるようになり、そのことを通じて、児童作品も発表されるようになった。
(2)インターネット上に展開されたイントラネット:チャレンジキッズ
子ども達は、ホームページ上で作品を発表するだけでなく、インターネット上に展開されたイントラネット(滋賀大学教育学部附属養護学校提案のチャレンジキッズ)で、活発な交流を行うことが出来た(図4.9.7)。ホームページが、基本的にオープンな場であるのに対して、チャレンジの場合は会員制なので、常に問題となる肖像権の事・プライバシーなどの事を考えても、相手が限定された場から交流を始めた方が、生徒達も、より自分自身を出せると考えたからである。
チャレンジキッズでは児童生徒用メイルサーバFirstClassが設置され、Macintosh・Windows両方での利用が可能となっている。また、画像ファイル・動画ファイルや音声ファイルの添付も非常にわかりやすく、子どもたちが使いやすいGUI環境での操作ができるようになっている(図4.9.8)。
(3)情報交換・教員支援ツールとしてのネットワーク利用
本校は、100校プロジェクトの中で唯一の肢体不自由児を対象とした学校であり、ある意味で、全国の肢体不自由養護学校のテストケースとでも言うべき立場にある。そんな事もあって、上に書いたような児童生徒の教育活動の紹介だけにとどまらず、都肢研(東京都肢体不自由教育研究会)で発表された研究資料なども、全国の先生達が閲覧できるように、本校のホームページで公開した。
また、利用企画のためのメーリングリスト上で、石川県立七尾養護学校の実践が紹介された。「七尾養護学校は、知的発達障害児のための学校であるが、ごくわずかではあるが肢体不自由をあわせもつ生徒もいる」「肢体不自由児用入力装置は知的発達障害児にも有効であることが予想された」などの理由から、コンピュータ入力補助機器のKe:nxとIntelliKeysを貸し出し(図4.9.9)、共同研究を開始した。周囲からの情報収集が困難な状況に陥りやすく、それ故に子どもも教員も孤立しやすい地方こそ、インターネットのニーズは大きいと思われる。
(4)今後の課題
平成8年度についても、<生徒自身の作品の発表の場としてのホームページ>をキーワードに、ホームページの充実化をはかってきた。また、こういった情報発信ツールとしてのインターネットの利用の他に、情報収集ツールとしての利用・・・例えば、平成9年になって話題になった重油流出事故の記事の検索をしてみたり、飛行機の予約状況を検索し、チケットを予約するまでを模擬的に体験してみたりした。
コミュニケーションツールとしての利用としては、平成8年度は前述したように、主に滋賀大学教育学部附属養護学校のネット(インターネット経由で接続が可能)上で交流を行った。クライアントの台数を5台に増やしたことで、生徒二人に一台という環境を構築することが出来たという事もあり、比較的スムーズに授業が出来た。内容としては、「ネットワークとは」「ネットワークで出来ること(メール・BBS・作品の公開&鑑賞・テレビ会議など)」を解説しながらの授業となった。ホームページが基本的に公開の場であるのに対して、このネット上では、「お互いの顔が見える」というメリットがあるので、生徒たちも安心してネットの利用を楽しむことが出来た。特殊教育におけるコミュニケーションの特殊性を考えても、今後もこのような利用形態の検討も進めていく必要があると思われる。
平成8年度は、主に高等部3グループ(教科学習対応グループ)の生徒を対象に実践を進めてきたが、宿泊行事の紹介などを通じて、他の生徒たちの利用も少しずつではあるが進んできた。知的発達障害も合わせ持った児童生徒への実践の公開については、彼らをとりまく周囲の理解の問題などともあいまって、場合によっては、彼らに不利益を生じることにもなりかねない。その公開の仕方については、引き続き検討を加えていく必要がある。
また、在宅学習支援のためのテレビ会議システムの利用についても、平成8年度も引き続き検討を加えてきたが、回線の太さからくる制約などがあり、検討課題が積み残されている。
平成7年の夏にインターネットに接続して以来、実質的には二年弱が経過した。今振り返ってみるに、長いようで短い期間であった。最初は、「子どもに・・・特に、体に不自由を持った子どもにとっては必ずいいことがあるだろう」といった漠たる思いはあったものの、当初インターネットに対して抱いていたイメージと、実際に日常的に使うようになって初めて実感している感覚とは大きく異なった。特に、「肢体不自由児の移動のハンディを補うためのツール・・・情報収集ツールとして有効であるはずだ」という予想は、「それももちろんではあるが、それよりは(それ以前に)教育的には、子ども自身の自己表現の場として有効である」という事に気づかされた。他者を意識することによって初めて自分自身の存在を実感できる・・・「人間は社会的存在である」とは、よく言われることではあるが、今更ながらそのことを実感した次第である。
技術的な面から言うと、サーバが校内に設置されていることにより、クライアントの増設・アカウントの発行・管理・メーリングリストの作成などが、比較的簡単な手続きで可能になった反面、「外部からのセキュリティに不安が残る」「メンテナンスのための人的配置のないままの運用は問題が大きい」などの事を考えると、今後拡げていく場合には、慎重な対応、わけても教員の本務とは何かをきちんと見極めながら、周囲からの強力なサポート体制が必要不可欠だと思われる。
そういう意味では、二年間にわたって展開された、ネットワーク利用企画「特殊教育」のためのメーリングリストは、担当教員にとってよき研鑽の場所であり、そこでの議論を通じて、児童生徒への日常的教育活動に大きく役立てることが出来た。
最後に、これまで物心両面から強力に支援して下さった関係者各位に謝意を表しておきたいと思う。