「世界の学校教育におけるインターネット活用」
新100校プロジェクト 国際シンポジウム'98

国内の事例発表 小学校
電子メールと実物の郵送によるニュージーランドとの交流
Intercommunication with the New Zealanders by means of the elctronic mail and the conventional mail

愛知県豊橋市立羽根井小学校 教諭 鈴木康弘
SUZUKI, Yasuhiro; teacher of Hanei Elementary School,Toyohashi,Aichi pref


概要
 本研究は日本の小学生と,ニュージーランドの小学生との交流をまとめたものである。
研究の特色として次の3点を掲げる。  子どもたちは文化の違いに驚き戸惑いながらも,電子メールによる意見交換や旗の共同制作によって,相手を理解し共に生きようとする気持ちを高めていった。

An outline
This project-report describes the experience of intercommunicationbetwee the elementary school children of Japan and New Zealand.
There are three characteristics on the project. In consequence, the participating children, who were puzzled at first by the cultural differences, raised their interest in the project through the above-mentioned various activities and enhanced consciousness to understand each other and to coexist together.

1.交流のねらい
 本市では,国際感覚を身につけた子どもを育成するため,昭和59年度から中学生を,平成6年度からは小学生の海外派遣を行っている。また,学校同士が友好提携を結び,作品交流と生徒代表の相互訪問を行う事例も報告されている。けれどもこれらの交流には三つの大きな壁が存在すると考える。それは,一部の児童生徒に限られている点,やりとりする時間がかかり即時性に欠ける点,共同学習の場が設定されにくい点である。
 本校は,平成7年度に全国放送教育研究大会の発表校になり,インターネットを開設し子どもたちは国内の小学校と交流を楽しんだ。6年3組の子どもたちも,3年前から学校に導入されたコンピュータを表現手段の一つとして親しんでいるが,英語に堪能な2名の帰国子女の影響もあって,英語圏の学校とインターネットを使った即時性のある国際交流をしたいという願いをもつ者が現われた。この機会をとらえて,学級全員をこの交流に巻き込み,新しい国際交流のあり方を模索してみたいと考え,学級全体に諮ったところ,2名の帰国子女の力を借りて学級全員で取り組んでみることに決まった。

2.相手校を見つけた経緯
 募集要項や学級の様子を載せた英語版のホームページを作成し,海外の検索エンジンに登録した。これを見た日本人を介して,志を同じくするニュージーランド(以下Nz)の小学校を見つけだすことができた。

3.交流内容の設定 ・交流期間,交流学年,交流内容を決めた。
・Nz側と日本側の意思の疎通を図るために,相手校に勤務している若杉氏にコーディネーターをお願いし,インターネットで通信することになった。
4.テーマ内容
 異文化理解と自国文化理解のために相互の紹介をさせるが,その際,学級レベルで取り組むもの(実物の郵送)と個人レベルで取り組むもの(電子メールの交換)の二つの柱だてを考え,指導計画をたてる。
指導計画

5.活動領域
 総合的単元「世界の人と私」全7時間を作成した。

6.交流実践の内容
6.1 ニュージーランドの文化を知る
 9月2日にNzの児童による学校紹介とペンパルの募集の電子メールが届いた。それに対してペンパルを決定するとともに自分たちの紹介新聞を画用紙で作成し郵送した。新聞の内容は日本の歴史を始めとして,授業や放課時間の様子,清掃,給食,部活動等が選ばれた。作品を見ると,辞書を引き,自分たちの分かる範囲で英語に直している努力がうかがわれる。この学習に関する子どもたちの感想を読むと,日本のことを分かってもらう作業を進める中で,より深く自国の文化を知ろうとする意欲が芽生えるとともに自国文化の理解が進んだことが伝わってくる。
 11月12日,ニュージーランドで作成された現地紹介が到着した。 いちばん人気のあったのはの食べ物に関する紹介である。「いったいどんな味なんだろうか,食べたいな」と子どもたちの食欲を誘ったようである。どの作品も鮮やかな色使いで仕上げられており,子どもたちは,自分たちとは感覚が違うということをすぐに悟ったようである。
 子どもたちは自分たちのまとめた紹介と共通点を見いだしたり,相違点を話したりして,Nzに対する関心が高まったようである。

6.2 文化の壁を知る
 さて,Nzからの紹介や個人レベルでの手紙の交換を通して,子どもたちの心にNzに共感する心が育ってきたように感じたのであるが,それはそれでとても大切なことである。しかし,文化を異にする人間とは共感できないものがあることも現実であろう。こういった受け入れにくい事実を知ることが,真の国際理解につながるという考えから,若杉氏に日本とNzの違いについての資料を送っていただき,子どもたちと一緒に考えた。その中で,「ハンカチで鼻をかみ,くしゃくしゃにしてポケットにつっこむ」という項目に子どもたちの意見は集中した。話し合いも,このことがいちばんの話題になった。
 ところが,初めは一方的に汚いと攻撃していた子どもたちが,話し合っていく中で,習慣は国によって大きく違うものだということに,少しずつ気がつきはじめた。そしてその習慣の違いに対して寛容になってきたのである。
 授業後,我慢できない子どもは,31人から9人に減少した。文化の違いは互いに乗り越えるべき大きな壁であるが,自分のものさしではなく,相手のものさしでものを見ようとした時に,「相手を受け入れる」という一歩を子どもたちは踏み出せたと思う。

6.3 共同学習で心を合わせる
 子どもたちの発案で言葉の壁に影響されないですむ絵を使った共同作業をすることになった。Nz側の了解もとれ,愛子の発案で旗を作ることになった。旗作りのテーマは,友情,花,鳥,食べ物,漫画などの多岐にわたった。旗は「友情の旗」と名付けられ,どの子もNzの子に喜んでもらおうと,真剣に作成する姿が見られた。
 12月12日,待望の「友情の旗」が到着した。どの子も大喜びで友達と見せ合っていた。

6.4 電子メールによる友達作り  個人レベルでの交流のために,インターネットでの電子メールを利用した。Nzからの最初のメールに日本と文通したい子どもが載っていたので,国際係が本学級の希望者に振り分けた。抽出児童として,本学級の美砂とNz側のニクの手紙から検証する。  まず初めに,ニクが自分の友だちや,ペットの猫のことを紹介した。それを受けて,美砂は,私も猫が好きだと返事をし交流し始めた。 手紙
 ニクの4通目の手紙では自分の名前をニックネームで呼ぶようにいっている。ニクは,美砂と親しくなろうとしていることが分かる。また,ニクは美砂の写真を欲し美砂とも会うことができたらと考え始めているようである。こういったニクの働きかけに,図2で美砂はニクを友だちとしてはっきりと自覚をしている。
 また,先程述べた友情の旗では,美砂の旗にニクは「ともだち」とわざわざ日本語で書いていることからも,二人の友達意識は相当高くなっているように思う。
 さて,ここで,一つ留意したいことがある。それは図2において,美砂は実際に会うときのために英語を勉強し始めたと述べていることである。言葉の壁を乗り越えようとする気持ちが生まれていることが分かる。

7.児童の変容
交流前交流後
優しい0.60.4
おもしろい0.41.4
好き0.61.1
変わっている1.41.6
表1 Nzの子をどう思うか。

 表1で注目したいのは,Nzの子どもを変わっていると思いながらそれでも好きだと感じている点である。また,相手をおもしろいと思う子どもの急激な増加からも考えると,子どもの成長の様子が次のように浮かび上がってくる。
 それは,異質な文化の違いを違いととらえながらも興味をもち好意的に受け入れる姿である。ここからお互いのそれぞれの価値観を尊重し合う態度が育ってきていることが分かる。これは,昨今のいじめにみられるような,異質なものを排除しようとする態度とは正反対のものであり交流の大きな成果である。
 また,英語を介した電子メールは,Nzと日本の子どもとの友達意識を育み,国境をこえて人間が存在していることを肌で感じさせることができた。(実物を郵送したことは子どもたちのメールのやりとりに格好の話題を提供した)そして,言葉の壁を体感させることで英語を学ぼうとする意欲も生まれてきた。
 さらに,交流後の感想から子どもの意識が意外な方向に展開し始めたことが分かった。それは,日本国内に住んでいる外国人への意識の変化である。今まで近くにすむ外国人を怖れていたのだが,相手のことを知ろうと努力する姿勢に変わったのである。

8.教師の立場での成果
 本校流の成果は全て子どもたちのものである。ただ,この実践のまとめをいろいろな場面で発表する機会を得て,多くの先生方と知り合えた。また,情報教育について研究する「東三河スクールネット」を設立するきっかけになったのは望外の成果である。

9.苦労
・電子メールの翻訳は交流が盛んになるにつれ困難になった。しかし,献身的な二人の帰国子女により完遂できた。
・メールの交換を行うことを約束したにもかかわらず,(こちらからは一生懸命メールを出しても)返事を返してもらえない相手校の児童が一人いたことが困った。

10.ワンポイントアドバイス
・交流校は英語で自分のホームページを作成し,外国の検索エンジンに載せておく。それを見た外国の学校から交流の申し込みがくる。ホームページに交流条件を書く。
(参考 http://www2a.meshnet.or.jp/~yasu)

11.その他
・相手校の概要 Hampstead School(Ashburton,New Zealand)
  全校10学級 児童数約300人 教員数13人 対象児童5.6年生
・本校の概要 19学級 児童数約550人 対象児童6年3組(男子19人女子14人)
・交流期間  平成8年9月から平成8年12月まで
・ネットワーク環境 PC17台 商用プロバイダーにPPP接続
・愛知県豊橋市立羽根井小学校 教諭 鈴木康弘
・y-suzuki@mxd.meshnet.or.jp または yasu@mikawa.gr.jp
1998.6.15 Update