「世界の学校教育におけるインターネット活用」
新100校プロジェクト 国際シンポジウム'98
国内の事例発表 小学校
ミクロネシアとの交流を通して学んだこと
What We Learned through the Exchange Program with Microne

岡山県・久米南町メディア研究部 誕生寺小学校 教諭 國米孝志
Takashi Kokumai: Kumenan-cho Media Lab (Tanjoji Elementary School)

概要
 久米南町の3小学校はワ−ルドスク−ルジャパン(WSJ)を通してミクロネシアとインタ−ネット上で情報のやりとりをした。ゴミに対する考え方、戦争について、豊かさなど、いろいろなテ−マで交流する中で、児童たちは自分たちの地域や生活について振り返ることができた。
 さらに3小学校の児童は「子ども会議久米南」を開き地域の環境や自然について互いの考えを出しあい共に行動した。

An outline
Three elementary schools in Kumenan-cho participated in the World School Japan (WSJ) exchange program with Micronesea. Students exchanged opinions about trash, war and richness with Micronesean people through internet.
As a result, the students could think about their own community and life. The students of three elementary schools held "Childrens' Convention Kumenan" and exchanged their opinions about environmental problems and nature of their community and took action.

キーワード(key word)
行動と交流 action and exchange

1.交流の経緯
 久米南町には、誕生寺・弓削・神目の3小学校がある。その横断的な研究組織として、1993年に久米南町メディア研究部が発足した。様々なメディアを通して自分たちの情報を発信するとともに、地域の中で行動・交流していくことが目的であった。
 以来、児童たちは3校でのやりとりを通して、協同で学ぶ態度を身につけることができた。そして、地域をより広く深くとらえることができるようになったと考える。
 しかし一方で3校の学区の同質性は明らかになるが地域差は少なく、子供の理解・思考に限界があった。
 それを打開するためには、違った文化や生活を持つ人たちと交流することが必要であると考えた。
ミクロネシアの海
高野さんとミクロネシアの若者

 ワ−ルドスク−ルジャパン(WSJ)は世界各地の出来事と教室を最新の電子技術でつないでいる団体である。世界の子供たちの地球環境についての意識を高めながら地域に根ざした環境問題に取り組む姿勢を育てることを目標としている。1996年度、1997年度は、WSJの高野孝子さんがミクロネシア連邦に赴き、伝統的な島々の様子や現地の人々の暮らしを発信した。また、ミクロネシア、日本、世界の子供たちをコンピュ−タネットワ−クで結び、共に地球について考える様々なプロジェクトを実行している。
 久米南町メディア研究部はWSJの活動に意義を感じ、各種のプログラムに参加して活動している。

2.交流実践
 ネット上でやりとりする場合、テ−マの設定が大変重要になってくる。特に単なる自己紹介で終わるのではなく授業の中で効果を上げるものにするためにはお互いが共有できるテ−マが必要である。
 私たちが交流テ−マにしたものの一つにゴミがある。
 まず「ある日調べ」として日本の各地やミクロネシアでそれぞれの地域に落ちているゴミを同時に調べ、その結果を知らせあった。日本国内では、地域による差があまり見られなかったが、ミクロネシアからは、「落ちていたゴミは、ヤシの葉で編んだマットの古いもの、パンノミの葉などほとんど燃えるものでした。燃えないものはラ−メンの袋、ビ−ルの空き缶、飴の包み紙、ビンの破片など、外国から来たものばかりでした。」という返事が返ってきた。
ミクロネシアの海岸にうち寄せられたゴミ
日本のゴミ

 「ほとんどのゴミは自然にかえるものだ。」ということはミクロネシアの生活の実態から、児童たちにも納得できた。しかし、「ミクロネシアにさえ、日本と同じゴミが落ちている。」ということに児童は驚きを感じとった。
 そして、ある日調べやミクロネシアとのやりとりをもとに「子ども会議久米南」を開き、3校で意見交換をする中で子供たちのゴミに対する意識に変化が見られた。同時に、自分たちが地域でできる行動を考えることができた。
 具体的には、以前から続けていた、クリ−ン作戦(児童により地域の清掃活動)に対する意識が、「ゴミが落ちているのが当たり前。」という感覚から、「こんなに落ちているのはおかしい。」というように変化していった。また、地域のゴミの量を参観日・文化祭などで親に知らせていくとともに、親子で一緒に地域の清掃活動に取り組んだ。
 他に、交流したテ−マに「電気と文明について」がある。日本では電気がある生活が当たり前であるが、ミクロネシアの島の中には、電気をあえていれず、自分たちの昔からの生活を大切にしている島々がある。ある島では、一度電気を島の中に入れたにもかかわらず、「長老会議」で話し合った結果、元の電気のない生活に戻すことになった。
 それを知った子どもたちは、自分たちも電気のない生活を体験してみることにした。時間は児童下校後から午後7時までの3時間足らずである。「電気を使わなくてもやることはあります。ピアノもひけるし外で遊ぶこともできます。
 ちょっと暗いけど、本を読むこともできました。でも大好きなゲ−ムをすることや、テレビを見ることはできません。たった3時間でも大変でした。ミクロネシアの人達はなんでこんな便利なものを利用しないのだろうと、不思議でした。」「家の人達も、一緒にがんばってみました。でも、ごはんの時間だったので炊飯器やレンジを使ってしまいました。電気のない生活は難しいです。」などの感想があった。
 「電気を使わない日」のあとミクロネシアの島で考えたのと同じように子どもたちは、「電気は必要だ」と「電気はなくても生活できる」の二つに分かれて話し合った。その結果、現在の日本では電気のない生活は無理だという意見が大半であった。
 その結論をもとに、子どもたちはミクロネシアの人達に、なぜ、電気を島に入れなかったのかを質問した。ミクロネシアからは、「電気を入れていいことは、夜中に物が見えること、テレビやテ−プレコ−ダ−を使えること。悪いことは、お金がかかることや、事故がおこること。それに電気に頼ることによって、技術や知恵をなくしてしまうことです。」、「私たちには伝統と知恵があります。自然や海に囲まれて生きている私たちに電気は必要ありません。」、「島では資産や食料を近所の人達と分け合います。電気のある島で暮らしたとき、私は魚を分け合わないのを見ました。私はとても残念に思い、島に電気が入ったらいつか同じようなことになるのではないかと思いました。」などの答えが返ってきた。
 次にミクロネシアの人達に豊かな生活をするために必要な物は何ですかとたずねた。「清潔な家・緊急時のお金・文化・生活ができる海や森・人々が尊重しあうこと。」
 子どもたちは、ミクロネシアの人達が、優れた知恵と技を持っており、誇り高く生きていることを知った。そして、人間にとって本当の豊かさとは何かを話し合った。
子ども会議久米南の様子
ミクロネシアの話し合いの様子

3.活動領域
社会科、特別活動として位置づけた。

4.成果と課題
 児童が交流後に書いた作文の一部を紹介する。
「高野さんに教えてもらったミクロネシアのゴミの様子も印象に残っています。誕生寺地区には一ヶ月に千個以上ゴミが落ちているのにミクロネシアにはほとんどゴミが落ちていないそうです。ミクロネシアの学校の周りをそうじしてでてきたゴミは、ラ−メンの袋やビ−ルの空き缶など、海岸にうち寄せられたものばかりでした。・・・誕生寺地区のゴミを減らすためにはまず、参観日や文化祭などを通じてゴミがこんなに落ちているということを知ってもらいたいと思います。そして、ポイ捨てしないように地域の人に呼びかけていきたいと思います。また、私たちは児童会で、地域の清掃活動をこれからもずっとずっと続けていきたいと思います。もちろん私たち自身が捨てないようにすることが一番大切なことです。」「たとえ電気がなくても誰一人として心の貧しい人はミクロネシアにはいないと私は思います。日本はとても便利な物に囲まれているから、どんどん自分勝手で心の貧しい人になっています。ゴミはいたるところに落ちていてとても汚いところになっています。日本人や世界中の人達は、ミクロネシアの人達をお手本にしなければいけないと思いました。」
 交流によって児童たちは、世界には自分たちの生活や文化にほこりをもって、生きている人たちがいるということを知った。そして、地域や自分たちの暮らしについてより深く考えるきっかけを作ることができた。
 日本の各地及び世界で何か共通テ−マを決め、同時に行動し情報を共有できるのは電子メディアだからこそと言える。
 人間はお互いの考えをやりとりすることにより、自分の生活を見つめ、より深く考えることができるようになる。遠くにいる人を身近に感じることができ、考えをやりとりする手段としてインタ−ネットは大変有効である。
 ただ、リアルタイムの交流は児童の関心を高める反面、計画が難しいという課題をかかえている。今回の場合、ミクロネシアからこちらが期待した反応が得られた。しかし、すべての交流で同じような成果を上げるためにはかなり綿密な計画と教師側の意図が必要である。
 一見無機的に見えるパソコンも使うのは人間である。人の心を育てるのは人でしかない。

5.その他
 ワ−ルドスク−ルジャパン  http://www.ecoclub.or.jp/   NIFTY FWSCHOOL
 久米南町メディア研究部   http://www.lucksnet.or.jp/~mediakn/
               kokumai@lucksnet.or.jp


1998.6.16 Update