「世界の学校教育におけるインターネット活用」
新100校プロジェクト 国際シンポジウム'98
国内の事例発表 小学校 
よみがえれ 青い目の人形たち
The revival of the "blue-eyed dolls"
〜70年の歴史を越えて,今インターネットへ〜
More than seventy years of history, now on the internet
 
横浜市立本町小学校 出口和生
Mr. Kazuo Deguchi / Honcho Elementary School, Yokohama City Schools
 
概要
 昭和2年にアメリカと日本との友好の証として贈られた「青い目の人形たち」。その数は,約1万2千体。しかし,両国が戦争を始めると,人形たちは次々と破壊されてしまった。平成10年に確認されている人形たちは約280体。今も全国各地で国際交流と世界平和を願って保存されている。そして,少しずつインターネットで結ばれ,アメリカ側との国際交流が再会したところもある。70年の歴史を越えて,よみがえった人形たちは,今インターネットではばたこうとしている。

An outline
  In 1927 America presented approximately 12,000 "blue-eyed dolls" to Japan as a symbol gesture of friendship. However, upon the outbreak of war between the two countries, the dolls became destroyed one by one, and only about 280 of the dolls remain today, in 1998. Currently, all over the country, the preservation of international exchange and world peace are being wished for. Little by little, tying-up through the internet allows the re-introduction of international exchange with America. After seventy years, the "revival of the dolls" is now spreading it's wings through the internet.

キーワード(key word)
国際交流 世界平和 青い目の人形 インターネット
International exchange, World peace, "blue-eyed dolls," Internet

1.交流のねらい
 このプロジェクトは,一言で言うと

「全国に残る青い目の人形をインターネットでつなぎ世界平和を考えよう!」
というものである。
 しかし,青い目の人形(次項にて詳述)自体が日本全国で約280体しかなく,しかもその中で現在インターネット接続がされている学校や公的施設にあるものは,ほんの数体に過ぎない。したがって,ここで報告するものは,数年がかりのプロジェクトのスタートにあたるものである。本報告が契機となり,数年後に全国の青い目の人形保存校が中心となって「インターネット上で世界平和をアピールする運動」そして「インターネットを活用した国際交流」へと発展していくことを願っている。

2.青い目の人形について
 「青い目の人形」とは,昭和2年にギューリック1世が日米友好のために働きかけ,アメリカ合衆国から日本の小学校などに贈られた人形のことをいう。また,渋沢栄一を中心として答礼人形と呼ばれる市松人形58体がアメリカに贈られている。しかし,当時は「日米親善の象徴」だった人形が,太平洋戦争のころには「敵国の人形」として,かなりの数が処分されてしまった。約12000体が贈られたのに,現存数は約280体ほどしか確認されていない。
 終戦後,昭和の終わりまでの間に,隠されていた人形たちが発見されるたびに,NHKテレビで放映されたり,武田英子さんの書籍が発行されたりして,この「青い目の人形」のことが何度かクローズアップされてきている。しかし,一時的なブームとなることはあっても人々の記憶からは忘れ去られた存在となりつつある。
 現在でも,ギューリック3世(1世の孫)が中心となって「新・青い目の人形」を贈る活動を続けたり,武田英子さんも調査活動を続けられている。また,平成9年になって,北海道で新たに発見されたという情報があったが,かつての木造校舎が鉄筋コンクリートに改築され尽くしている現在,新たな人形の発見は望めないようである。「青い目の人形」は「平和」を考える意味でも貴重な資料であり,その数奇な運命と歴史的事実を全国のより多くの小学生に伝えることができれば思っている。

3.相手校を見つけた経緯



 平成8年までに,100校プロジェクト参加校の中で神奈川県横浜市立本町小学校と滋賀県大津市立平野小学校の2校に「青い目の人形ページ」があることが確認された。更に,個人的にページを作成していた埼玉県越谷市立大沢小学校と愛知県設楽町立田峯小学校にインターネットメールでの連絡が取れ,青い目の人形リンク網を作成するに至った。
 平成10年6月の段階では,13体の青い目の人形がインターネットで結ばれている。まだ280分の13でしかないが,少しずつ着実に増えている。これからインターネットの普及とともに更に発展するよう活動を続けていきたいと思っている。

4.国内交流に向けて
 全国の青い目の人形情報を交換したり,合同イベントを実施したりする際の連絡用としてメーリングリストを立ち上げている。

  メーリングリストの名称 
     「青い目の人形」メーリングリスト blue-eye@cec.or.jp
  メーリングリストの目的
     ・「青い目の人形」を通した「平和教育」「国際交流」
     ・「青い目の人形」ページ掲載校及び関心を持つ参加者の情報交換
     ・各地「青い目の人形」情報を集約して公開
     ・全国同時イベント(夏休み頃及び来年3月3日)の呼びかけ
     ・全国約280体の青い目の人形保存校の横の連絡をとる組織機能
     ・インターネットを通じて,アメリカ側人形保存あるいは提供校との交流 
     ・「横浜人形の家」からの青い目の人形関係公開情報を随時転載

5.青い目の人形を囲む平和教育実践
 平成9年3月3日。横浜市立本町小学校では,前年の青い目の人形ブロッソン里帰り集会に引き続き,ひな祭りの日に全校集会を開いた。そのときに6年生が,インターネットを通じて次のようなメッセージを発信した。
 わたしたちはこの友情人形を大切にしなければいけないと思います。アメリカの子どもたちが心をこめて贈ってくれたものだからです。今日はひな祭りです。70年前のように大きな式典はできないけれど,せめてクラスで「青い目の人形の歌」や「ひな祭りの歌」などを歌ってみて下さい。70年前のように青い目の人形と一緒にひな祭りを祝いたいとは思いませんか?私たちの学校では祝いたいと思っています。みなさんの学校でも祝ってみてはどうですか。

 こうした子どもたちの声を受けて,全国で3月3日に「青い目の人形の時間」をもつことができないだろうかと考えている。平成10年の段階では,インターネット上で連絡の取れる人形保存施設は12あまりであったので,全国規模というわけにはいかなかったが,いくつかの施設で3月3日前後の活動をインターネット上で公開している。

6.国際交流の実際
 平成10年現在,アメリカと日本とでインターネットを活用して定期的に交流するには至っていない。青い目の人形がアメリカのどこの町から贈られたものであるか特定できるものが少ないことと,日本のインターネット普及が遅れていることとが大きな原因である。そのような中で,素晴らしい国際交流を行っているところがあるので紹介する。
 愛知県田峯小学校には「青い目の人形グレース」があり,この人形を通してシカゴのラスキン小学校と現在も交流を続けている。平成2年/5年/8年には,地域の協力も得て夏休みに相互にホームステイを実現して友好関係を深めている。最近では,インターネットを活用したメール交歓にも取り組み始めている。
 また,香川県ではアメリカから里帰りした「ミス香川」の歓迎式典の様子をインターネットで公開している。

7.教師の立場での成果・課題
 初めにも述べたとおり,この「青い目の人形交流」は数年かかりのプロジェクトがスタートしたところでもある。いや,昭和2年から70年以上続いているプロジェクトがインターネットと結びつこうとしているところとも言える。5年後の2003年に全ての学校がインターネット接続されたとき,280余体の青い目の人形がインターネット上で集まり,アメリカとのインターネット交流が軌道に乗っている日が来ることを夢見て,これからも活動は継続していきたい。
 平成8年には2校であったリンク網が12校にまで増え,メーリングリストで連絡が取り合えるようになったことや,その発展としてテレビ会議システムを活用した交流を行うことができたことは大きな一歩である。また,社会科や道徳の授業の中で「青い目の人形」を取り上げる学校が増えたこと,「横浜人形の家」と連絡を取り情報交換ができたこと,各地で「青い目の人形」の所在を確認する活動が広がっていることなど大きな成果をあげている。今後も国内の「青い目の人形」を通した平和教育の充実と,アメリカ側相手校との国際交流の拡大をはかっていきたい。

8.ワンポイント・アドバイス
 本報告は,インターネットを通した国際交流の実践という息にまでは達していない。しかし,子供たちの国際意識や平和意識を高めることには大きな成果をあげている。今後の発展として,「青い目の人形」という具体物とその歴史にインターネットが絡んで必ずや素晴らしい実践として身を結ぶことであろう。そのために,まず国内交流を充実させることも大切であろう。


1998.6.17 Update