「世界の学校教育におけるインターネット活用」
新100校プロジェクト 国際シンポジウム'98
国内の事例発表 中学校
「日英共通教科書づくり」と「演劇」での交流
Making a history textbook about the relationship between Japan and the U.K. and Making a video of the drama performance by students about Japan and the U.K.
山口大学教育学部附属光中学校 教諭 加藤裕久
Hikari Junior High School attached Yamaguchi University  Hirohisa Kato

概要
 このプロジェクトは、イギリスのホーリークロスコンベントスクールと主にメールやテレビ会議等で交流したものである。活動は、「共通歴史教科書づくり」や「演劇の上演」を中心としている。
 海外との交流は、決して異質なものに触れさせて終わるだけではいけない。これらの活動を通して、我々は生徒に外国で生活している人々を自分たちと異なった個性や習慣をもつ遠い存在ととらえることなく、むしろ自分たちと変わらない人々であることに気づいて欲しいと考えている。

An outline
This project is the collaboration with the Holly Cross Convent School on E-mail and TV conference. We have two plans as follows.
To make a history textbook about the relationship between Japan and the U.K.
To make a video of the drama performance by students about Japan and the U.K.
We hope the students realize that English people have the same personalities and honors as Japanese by this international exchange.

キーワード(key word)
“Who is the foreigner? Who is the neighbor ?”

1 交流のねらい the purpose of this exchange
 本校では、昨年度から「生きる力を育てる教育課程の創造」というテーマを掲げ研究を進めている。その際に、これから必要とされる授業やカリキュラムのイメージを明確にするため、まず、「生きる力」の側面を次のように分析し、生徒への働きかけを構想することにした。

 今回紹介する「イギリスとの交流」の実践は「人と人の関係をつくり上げる力」と、「文化的価値を発見する力」の2つを身につけさせることに貢献するものである。中でもプロジェクトは、「人と人との関係をつくり上げる力」に注目したいと考えている。
 「海外と交流する」、「お互いを理解し合う」といっても、まずお互いの違いに向かい合わせないことには、何も生まれない。その違いを乗り越えてこそ、真の理解が生まれると信じる。我々とイギリスに住む人々との間には、様々な違いが横たわっているが、その中の1つに歴史認識の違いがある。誤解を恐れることなく、あえて挑戦したいのである。さらに、演劇の上演においても同様のことができると考えている。

2 相手校を見つけた経緯とイギリスと交流を行うことの意義 the meaning of the exchange with the U.K.
 このプロジェクトは、大阪教育大学助教授の田中博之先生にご紹介いただいたものである。
 海外との交流を進めていく上で、交流相手をどのような理由でどのように選ぶのかということは大きな問題である。本校は、イギリスとの交流に次のような意義を見出している。

3 交流内容の設定 the content of this project
3.1 共通歴史教科書「第2次世界大戦」づくり
 このプロジェクトは、日英双方の生徒で「第2次世界大戦」に関する共通の歴史の教科書をつくることを通してお互いの歴史認識の違いに気づき、それを乗り越えともに、平和な世界の達成に向けて自分たちにできることは何かを考えさせることをねらいとしている。
 私が初めに提案したのは、「日英共通歴史教科書づくりであった。その提案に対して相手方から指摘があったのは、「このテーマでは、あまりにも大き過ぎて、なかなか終わらないであろう。しかし、1つの事件に絞った教科書づくりは可能なのではないか。」というのである。そこで、相手校から提案されたのが第2次世界大戦である。この事件を扱うことによって、生徒に「日英関係最悪の数年間に向かい合わせる」ことや「平和とは何かを見つめなおさせること」ができる、そこで、最終的に共通歴史教科書「第2次世界大戦」をつくることにしたのである。
 ただ、相手校が日本について学習を始めるのは、「Summer Term」ということなので、現在その開始を待っている状態である。

3.2 「演劇の上演」について
 ホーリークロスコンベントスクールは演劇教育に対して熱心な学校である。このプロジェクトを進めていく上で、本校の演劇担当の教師は、次のように考えている。
 「自分たちの言葉で、自分たちの生活を素直に表現させることで、お互いの違いを感じ合わせたい。そのために、現代劇の戯曲を準備し、演劇を通して等身大の自分を表現したい。」
 もちろん1つの交流の形としては、相手校と本校とで、一緒にドラマをつくっていくことも考えられるが、彼の意思にはまず母国語を大切にした交流が必要であるとの思いが強いのである。

4 活動領域 the scope of this project in total study is English communication and computer education
 今回の実践は、時差等の問題もあって教育課程上の時間を使ってはいない。ただ、現行の教育課程上に位置付けるとすれば、「学校裁量」、「選択教科」、「横断的・総合的学習を行うことを前提とした教科」の時間が考えられる。必修教科として位置付けるためには、さらに教材化のための研究が必要となる。
 また、次の学習指導要領では、「総合的な学習の時間」(仮称)で行わせることが考られる。
 「総合的な学習の時間」(仮称)の構想の仕方は、未だ明確ではないが、海外の学校と交流するという今回の課題は、ある程度、生徒の選択にゆだねる学習として位置づけていく必要があると思われる。

5 交流実践 the practice of this project
 最初にも断った通りこの実践はまだ始まったばかりであり、しかも、言葉を使った交流を中心にしているので、なかなか進んでいない。ここで、紹介できるのは以下の通りである。

5.1 イギリスに関して学んだことをメールで送り、意見を求める
 「共通歴史教科書づくり」は、相手校の「日本カリキュラム」が夏から始まるために、まだほとんど進んでいない。現在、相手校の準備が整うのを待っている状態である。そこで、本校の生徒がイギリスの歴史に関して学んだことを英訳したものを相手校に送り、それに関する意見をもらうという試みを行った。7月2日の発表の時点では、イギリスからどのような反応があったかについてお知らせできるかも知れない。

5.2 戯曲の朗読
 本校では、毎年5月から9月をめどに演劇を製作している。相手校をそれまで待たせるわけにはいかないので、3月25日のテレビ会議で、生徒が製作した台本の朗読を行わせた。先にも述べたように、本校の演劇担当の教師は母国語を大事にしたいと考えている。日本語での朗読がどれだけ相手校の生徒の心をうったかに関しては、はっきりつかんではいないが、今後、本校の製作に向けた活動の様子や制作した作品のビデオをイギリスに送りたいと考えている。

5.3 インターネット書道
 これは、本校の取り組みではないが、テレビ会議の日に福岡県の研修センターの真鍋先生が来校され、イギリスの生徒に書道を教えるという取り組みを行われた。相手校の生徒は、自分の英語名が習字で表現されていく様子を楽しんでいた様子であった。

6 今後の方向性 the conclusion of this announcement
 今日発表したのは、本当にささやかな事例であるが、様々な問題点が浮かび上がっている。交流をさらに充実したものにするためには、ネットワークを用いた海外との共同学習を指導する教師が自分の語学力を伸ばすことは不可欠であるが、特に、ネットワークを用いた海外との共同学習を正式に教育課程上の授業として位置づけられないという問題に直面している。
 中学生は、コンピュータを使った授業が好きである。しかし、全ての授業でコンピュータを利用させれば、生徒の興味・関心がさらに高まるかというとそうではない。
同じ形の授業を続けていると、どんなに工夫しても生徒は飽きてくる。また、コンピュータの操作や外国語でのコミュニケーションを使いこなすための能力や適性には、生徒一人一人で能力適性に大きく差が出てくることは否めない。また、外国語でのコミュニケーションも、同様である。その意味においては、選択教科としての位置づけが無難なのかも知れない。
 これ以外にもこれまでの実践を通して様々なことが明らかになってきた。特に、驚きだ
ったのは、イギリスと日本における教師の教育観の違いである。日本人は、交流を通して何かを育てようとする。ところがイギリスの教師は、交流そのものを目的としているように見受けられた。このような違いに出会うことができたことも、この交流の大きな成果であった。
 その他にも、ふだんからのメール交換の重要性を痛感した。生徒は相手の生徒一人ひとりと結びつこうとする。書道をする中で相手の名前が分かり始めると、生徒の集中力が高まり始めたことからもわかる。日常からの結びつきが深ければ深いほど、交流の実があがるのである。


1998.6.16 Update