「世界の学校教育におけるインターネット活用」
新100校プロジェクト 国際シンポジウム'98
国内の事例発表 高等学校
世界の高校生と環境問題を考える
Thinking About Environmental Problems with Students of the World
〜第1回国際環境サミット〜
-The First International Youth Environmental Summit-

富山県立大門高等学校 教諭 江守恒明
Tsuneaki Emori
概要
 インターネットを通じて知り合った世界6ヵ国(日本,アメリカ,オーストラリア,イスラエル,南アフリカ,ブラジル)の高校生が,アメリカオレゴン州セーラム市に一堂に集まり,世界の環境問題について議論する第1回高校生による国際環境サミットを開催した。10日間の日程で行われたこの会議では,各国のメインテーマ別分科会を設け,そこに各国より数名の生徒が参加し,ブレーンストーミンングで問題点や解決策を出し合い,議論を深めた。全体会では,生徒たちが考えた『環境に関する権利と責任』の宣言文とその解決策を採択した。また,自然の中でキャンプを行い,原生林の生い茂る自然に触れ,お互いの親睦を深めた。来年,オーストラリアパースで2回目の会議を開く予定である。

Abstract
The students of six different countries (Japan, America, Australia, Israel, South Africa, and Brazil) met through the internet and gathered together in Salem, Oregon, America to hold the First International Youth
Environmental Summit discussing the world's environmental problems. Each school's representatives chose one main environmental theme to study.
During this ten-day conference, representatives from each school attended one of six meetings based on these themes. Students discussed each environmental problem and brainstormed solutions to the problems.
Together, all of the students declared a list of their collective environmental Rights and Responsibilities. Furthermore, the students camped in forests among nature and deepened their friendships and understanding of one another's culture. Next year, the Second International Environmental Summit will be held in Perth, Australia.

キーワード(key words)
環境,権利と責任,国際会議,ブレーンストーミンング
environment, rights and responsibilities, international conference, brainstorm

1.交流のねらい
 インターネットを通して,世界の高校生の共通の話題である環境問題について,グローバルな視点から意見交換を行なうとともに,一堂に会しての議論を行なうことによって,高校生の立場で地球環境問題についての提言を行なう。併せて様々な活動を通して,国際交流と理解を深める。

2.相手校を見つけた経緯
 100校プロジェクト校としてインターネットが導入された1995年7月,全国に先駆けて英文のホームページを完成させた。時を経ず,アメリカのサウスセーラム高校から21世紀スクールハウス及び国際環境サミットの共同プロジェクト参加への誘いがあった。その後,サウスセーラム高校の教員が世界をまわり,このプロジェクトに賛同する6ヵ国の高校を募った。

3.交流内容の設定
 教員スタッフだけのメーリングリストを作り,日程や研究内容,具体的な会議の進め方などの連絡をとっている。また,本プロジェクト用のホームページを制作し,各学校の準備状況,研究成果などを公開している。

4.テーマ内容
 環境問題はいまや世界共通の問題である。この会議では,高校生が考えた『環境に関する権利と責任』の宣言文とその解決策を作り上げることが目的であった。
 各学校は,予め各々の国で最も重要な環境問題に関するテーマ設定し,その歴史的背景や現状を踏まえ,解決策とともに研究を行った。各国のメインテーマを記す。
 「資源・エネルギーの持続的利用」(大門高校,日本)
 「地域と社会の責任」       (サウスセーラム高校,アメリカ)
 「土地の荒廃と土地保護」    (ウォーンブロウ高校,オーストラリア)
 「急速な都市化」        (アレクサンダー・シントン高校,南アフリカ)
 「有毒廃棄物の持続的解決」   (環境学習高校,イスラエル)
 「森林破壊」          (レシーフェ高校,ブラジル)
 
5.活動領域
 国際交流にはじまり,国際理解,環境問題,体験学習,情報教育など数え上げれば切りがない。具体的な学校教科と関連させるならば,英会話での英語科,立法手続きや議論の技法,各国の地理・歴史などで地歴・公民科,環境問題での様々な取り組みで理科となる。しかし,国際人としての自覚と日本人の再確認など各教科の枠を越える活動内容であった。

6.交流実践
6.1 事前準備
 生徒は,日本のメインテーマの下,5つのサブテーマ(ごみ問題,自動車問題,水資源と水質汚染,エネルギー資源と原子力,重油汚染と海洋保護)に分かれて調査研究した。その内容は,日本語と英語で制作し,ホームページに公開した。
 環境に関する知識を得るため,校内での学習会や富山県環境科学センターの見学と富山県の水質・大気などの実態についての講義,黒部浄化センターの見学と浄化についての講義,富山地区広域圏リサイクルセンターの見学と廃棄物処理の現状についての講義など様々な見学と講義を行った。また,国立立山少年自然の家で宿泊研修を行い,自然観察などの体験を通して環境を考えた。並行して,会議で必要となる英会話やプレゼンテーションの練習も継続して行った。また,それらの活動は「サミットへの道」と題するビデオに収めた。


図.1 きれいな海岸にも存在するごみ

6.2 現地での活動(日程順に記す)
・オレゴンコーストにて海岸清掃(図.1)
 3人で他国籍チームを作り,海岸のごみ回収を行った後,各種類ごとに区分け調査を行った。きれいに見えた海岸も様々な種類のごみがあった。

・「サミットへの道」のプレゼンテーション各国が自作したビデオ(サミットまでの活動の様子)による紹介と自国紹介のプレゼンテーションを行った。

・同時ワークショップ(前文委員会,適格委員会)
 話し合いに使う「立法手続き」カードの説明を聞き,2つの委員会に分かれた。前文委員会は,各国が持参した前文を話し合い,適格委員会は各国から提案された「権利と責任」のすべての条文を吟味した。

・開会式典
 正装に着替え,夕食会の後に行われた。
 各国の代表から「サミットへの希望」と題するスピーチ,David Brower氏による基調講演「維持と責任」などが行われた。また,ゴア副大統領からのメッセージも紹介された。

・全体会議(図.2)
 オレゴン州の環境に関する政策紹介の後,各国より研究内容のプレゼンテーションと事前に提案されていた各国の『権利と責任』の発表が行われた。

図.2 緊張した全体会議

・分科会ワークショップ
 各国のメインテーマ別分科会を設け,そこに各国より数名の生徒が参加した。分科会では,ブレーンストーミングで問題点や解決策を出し合い,議論を深めた。この分科会は,3日間続けて行われた。全体会のプレゼンテーションで使用するディスプレイの製作も行った。

・全体会議(図2.)
 ディスプレイを利用し,各分科会での『権利と責任』の序文,条文,解決策のプレゼンテーションが行われた。

・閉会式典
 宣言『環境に関する権利と責任』及び宣言についての解決策が採択された。Laila Kaiser氏による基調講演「持続と責任」が行われ,次回開催国のオーストラリア代表に大会旗が渡された。

図3.自然の中へハイキング

・キャンプ(図.3)
 再植林地見学の後,カスケードキャンプ場にて宿泊した。翌日,オパール・クリークへハイキングを行い,原生林の中で自然を満喫した。

6.3 帰国後の活動
 学園祭や校内教養講座,北陸JICA主催の「国際環境フォーラム」,省資源・省エネルギー運動富山県民大会などで,このサミットの報告を行った。生徒は,どの発表会においても堂々としたプレゼンテーションを行い,会場から大きな賞賛を受けた。
 また,各新聞紙面での紹介,地域でのパネル展示,本校のホームページ,報告書などに研究成果を報告した。

7.児童・生徒の変容
 放課後や夏休みを利用し研究を続け,環境問題や英会話の勉強,野外活動合宿まで行ない,生徒たちは,自信を持ってこの会議に望んだはずであった。しかし,アメリカでの会議は,彼らの自信を根底からくつがえすのに充分であった。日本以外は,ほとんどの国が英語を話せるという語学の不利はあったが,通訳がついたにもかかわらず,日本語ですら自分の意見を発表することが困難であった。それに引き替え,外国の生徒は,ブレインストーミング等の討議の方法に慣れており,どんどん自分の意見を述べ,議論を重ねることができた。何もしゃべれない自分が情けなく涙する生徒も多くいた。しかし,このプレッシャーを跳ね返すように,夜遅くまで,渡された書類の英訳をしたり,日本に国際電話をかけ,先生に質問をする生徒も現われた。
 3日目ぐらいから少し慣れ,英単語をつなぎ合わせながら,英語を話せるようになった。このころから生徒はかなり変わり始めた。自律を重んじるアメリカになじんだのか,自分のことは自分でする,自分のことは自分で表現しなければいけないと感じ始め,積極的に外国の生徒へ話しかけるようになってきた。
 帰国後,ビデオレター,国際郵便,国際電話などあらゆる方法で海外と連絡をとっている。なかでもメールの利用は多く,毎日のように送受信している生徒もいる。また,英会話学校などに通う生徒も現われ学習に対する意欲が高まった。
 10日間の活動が生徒にあらゆる面での積極性をもたらした。大学進学にも環境に関するところを目指したいなど,将来を左右するほどの衝撃を受けた生徒もいた。

8.先生の立場での成果,課題
8.1 成果
 辞書を片手に深夜まで英訳をしたり,真剣に相手の意見を聞いたり,すべての活動において一生懸命に取り組んでいる姿勢に,むしろ教員の方が教えられることが 多かった。 6カ国の生徒が一堂に集まるこの会議は,同時に様々な価値観や文化の集まりであり,生徒は身を持って様々なことを体感できた。また,1教科にとどまらない,総合的な学習として国際交流から得るものは大きいと実感できた。そして,日本の教育にプレゼンテーション能力,コミュニケーション能力の育成が急務であると感じた。

8.2 課題
 生徒には,単なる知識だけでなく,日頃から何事に対しても問題意識を持つとともに,考える力や表現する力を身につけさせておくことが必要である。また,このような新しい取り組みは,全職員の共通理解の下に,学校全体として取り組んでいく難しさを感じた。

9.苦労したこと又は失敗談
 英語による討議であったため,語学力不足を痛感させられた。そして,ネイティブな英語のスピードにもなかなかついていけなかった。また,飛行機の長旅や連日の睡眠不足で疲れており,会議で少し寝てしまった。外国人と比べて基礎体力不足も痛感させられた。

10.ワンポイントアドバイス
 国際交流を学校の教育活動全体の中にきちんと位置づけること。また,インターネット上での交流にとどまらず,一堂に会して交流を行なうことにすばらしさがあると思う。

11.その他
・相手校の簡単なプロフィール(各高校のホームページアドレスを記す)
 サウスセーラム高校  http://www.viser.net/~sshs/real-ind.htm
 ウォーンブロウ高校  http://203.59.48.130/
 アレクサンダー・シントン高校  http://www.geocities.com/RainForest/Vines/4181/
 環境学習高校  http://environment.negev.k12.il/engmain.htm
 レシーフェ高校  http://www.netpe.com.br/cimc/
 21世紀スクールハウスのホームページ  http://www.viser.net/gs21/index.html
・当該校の簡単なプロフィール
 富山県の西部に位置し,周囲には田園風景が広がるのどかな学校である。普通科単独校で,1学年6クラス,2年生より情報コース(理系)を設置している。
・交流時期,期間
 メールなどのインターネットを利用した交流は,通年おこなっている。みんなが集まるサミットは,2年に1回のペースで主催国を持ち回り,隔年にスタッフだけが集まるミーティングを予定している。
・実践上の簡単なネットワーク環境
 インターネットに接続可能なコンピュータが約70台,64kの専用線で接続されている。
・学校名,作成者
 富山県立大門高等学校,江守 恒明
・E-Mailアドレス: emori@daimon-hs.daimon.toyama.jp
・URL WWW: http://www.daimon-hs.daimon.toyama.jp
・FAX:0766-52-5711


1998.6.18 Update