1.実践研究

2.タイトル:日本史においてデータをグラフ化し、考察する授業

3.概要
(1)教員が設定した近代史のテーマをひとつ選ぶ。
(2)教員の指導・助言を受けながら、図書館で自分の選んだテーマ名の数字資料を探し出す。
(3)パソコンを利用して、数表をグラフ化し、併せてそこから歴史事象を考察し、説明文を完成させる。
(4)冊子化されたレポートを活用して、新たな課題に答えるべく、情報の収集・選択を行い、処理する。
   そして生成された新しい情報を、発表形式で、他人へ伝達する。

4.キーワード:図書館・調べ学習・ワープロソフト・表計算ソフト・グラフ
        情報活用能力の育成

5.学校区分:定時制・通信制・単位制高校(実践校:商業高校)

6.学年:3学年(情報処理科)

7.教科・領域区分:地理歴史(2単位)

8.学校名:東京都立新宿山吹高校(実践校:東京都立牛込商業高校)

9.授業者名:若菜 初

10.授業実施期間:10月〜12月

11.単元・題材名:第3章・近代産業の発展と国民の生活、第4章・第一次世界大戦と日本、第5章・第2次世界大戦と日本

12.単元の目標: 近現代史を中心とする我が国の歴史の展開を、世界史的な視野に立ち、我が国を取り巻く国際環境などと関連付けて考察させることによって、歴史的思考力を培い、国民としての自覚と国際社会に主体的に生きる日本人としての資質を養う。
 【1】開国以降、明治維新を経て近代日本が急速に形成された過程を、国際環境と関連づけて理解させる。
 【2】第一次世界大戦前後から第二次世界大戦までの我が国の状況について、国際情勢と関連づけて考察させる。

13.メディア活用の意義:生徒の情報活用能力を育成する場合、パソコンは有力な道具となり得る。このことが、今回の実践で証明された(後述)。

14.メディア環境
 a)使用機器:富士通FM−V
 b)稼働環境:Windows95
 c)利用ソフト:ワープロソフト「一太郎」・表計算ソフト「Excel」

15.単元の指導計画
★第3章・近代産業の発展と国民の生活、第4章・第一次世界大戦と日本、第5章・第2次世界大戦と日本<すべてをまとめて取り扱う。> 14時間
 *テーマの割り振り(29人に29テーマを割り振る。)   ……………1時間
 *学校図書館での、図書からの数字資料(数表)検索     ……………2時間
 *データ・文章の打ち込み    ………………………………………………4時間
      ・データ打ち込み<グラフ作成>2時間
      ・文章打ち込み<説明文完成> 2時間(1時間目が本時)
 *教員作成課題に、冊子から読み取らせることから、回答させる。…………7時間
      ・明治末〜日中戦争開始   2時間
      ・第二次世界大戦開始〜集結 4時間
      ・生徒発表と解説      1時間

16.授業展開

過程

学 習 内 容

指導上の配慮事項
(評価・教材など)

情報活用能力が育成される具体的な学習場面

導入
5分

・本時の課題を把握する。 ・本時の作業内容を聞かせる。 ・コンピュータの起動

展開
40分

・グラフを完成させる。

・グラフから歴史事象を考察し、説明を入力する。

・調べてきたデータを、正しく入力させる。グラフの作成法を指導する。
・生徒の状況を考え、場合によっては参考文献を示唆する。

・状況に応じて、ヒントを与えながら、生徒をあきらめさせない。
入力技能が稚拙な者には個別に指導を行う。

・データの入力、グラフの選択(整理・処理・情報技能)
・文献探索(収集・選択・判断)


・情報の吟味・総合化(整理)
・データの入力(処理・情報技能)

まとめ
5分

・次時の予定を確認する。

・入力したデータを正しく保存させる。
・次時の予定を聞かせる。
・放課後などに自習する場合の注意を与える。

・コンピュータの終了

※コンピュータ活用に関わる学習の展開について
 長期的視野に立ちながら、日本史においてパソコンを活用して、情報活用能力を育成することを考えた場合、従来のチュートリアル形式やドリル形式のソフトのみを利用しただけでは、なかなか成就しないのではないかと考えた。
 そこで、情報処理科の生徒がふだん授業で学んでいるウィンドウズ用のワープロソフト(一太郎)や表計算ソフト(Excel)を活用させながら、情報の加工(整理・処理)をさせ、さらに学習意欲を高めることを主なねらいとした。
 特に情報処理科を選んだのは、彼らが他教科授業において、ワープロソフトや表計算ソフトについて、基本操作技能に習熟しているため、操作技能を教授する必要がほとんどないので、余分な授業時間を割く必要がないことが大きな点であった。
 生徒は、これらの学習を通じて、情報機器の利用が様々な分野に応用できることを理解すると同時に、情報に関する諸能力の必要性を実感することが出来るであろう。
 以上のことより、生徒は情報化社会への理解が深まるであろうし、それを期待するものでもある。
 なお、これらの学習は、個別学習的な側面もあるため、本時は各生徒の進度により、個々の生徒への柔軟な対応が望まれる。

17.学習活動の実際
《導入》
・前時間までに保存したファイルを呼び出して、画面上に提示する。
 【手慣れた手付きで、直ぐ提示した。】
《展開》
・必要な情報を整理しながら、数値を入力する。一番ふさわしいグラフを選択し、管制する。
 【試行錯誤しながらも、グラフを選び取っていた。】
・必要があれば、学校図書館で参考文献を探し出す。
 【途中で図書館へ行く者もいた。】
・探し出した参考文献の必要な部分をまとめる。
 【まとめを行っている生徒は少なかった。】
・説明文を打ち込む。
 【原稿を必死で打ち込んでいた。】
《まとめ》
・データを保存して終了する。
・次回の作業手順を聞く。
 【夢中で作業している生徒が多かった。】

18.授業の成果(生徒の反応、メディア活用の効果)
※地理歴史科レポート作成に、パソコンを活用することをどう思いましたか。
 ・期間が短かったことと、カラー印刷がうまくゆかず、時間がかかりすぎてしまったのは、大変だった。(女)
 ・レポート作成は、決して簡単じゃないうえに、パソコンを使ったら操作で困ってしまうので、手作業の方がいいと思いました。(女)
 ・マルチメディアなどの情報に興味があるので、パソコンを活用した授業を楽しめたし、これから多く取り入れていって欲しい。(男)
 ・はじめてカラープリンターを使ったけど、すごくきれいにできてうれしかった。(女)
 ・日本史が好きでもパソコンは苦手。だからはっきりいって面倒。わざわざパソコンを使わなくても日本史は勉強できる。(女)
 ・良いと思う。けれど難しかった。(女)
 ・あのやり方だと、一定の範囲しか理解できない。自分の担当以外も理解できるようにしたい。
 ・コンピュータを使うことで、ワープロやグラフ作成の技術が伸びるだろうし、同時に学習も出来るので将来の役に立つとは思うが、学習時間がかかりすぎることや、コンピュータを使える能力に個人差があることが欠点であろう。(男)
 ・難しいと思っていたが、意外に楽しくできた。社会科以外でもパソコンを活用できた  らいいと思った。(女)
 ・良いことだと思う。でも、もう少しパソコンに慣れている世代からやった方がもっといい結果が出たかもしれない。(女)
 ・小学1年生からパソコンを利用すれば、このような授業は簡単とは思うが、私たちはこのように習っていないのでとても難しかった。(女)
※一連の授業を受けて、感じたことを自由に述べて下さい。
 ・もう少し時間をかけてゆっくりとやりたかったです。(女)
 ・他のクラスの人はいいと思ったかもしれないが、私は普通の授業の方がいいと思った。
  処理科だけれどパソコンは得意ではないからです。だけど自分で調べると頭に残るからよかったと思います。(女)
 ・なぜもっと早く実施されなかったのか。こんな授業がもっと普及し、多くの学校で行われると面白いのではないか。(男)
 ・自分が作ったレポートは、自分でも理解していなかった部分が多い。もっと理解してからやった方が良かった。(女)
 ・コンピュータを使うのは人間です。人間が使わなければ、ただの役立たずの機械です。
  いくらコンピュータの技術が高くなっても、人間が頭を使わなくては、世界の役には立たないと思います。(女)
 ・コンピュータはこれからどんどん活躍するものだと思いました。(女)
 ・とても楽しく有効に勉強できたと思った。(男)
 ・できれば習ったことをやりたかった。知らないこばかりで図書館で資料を探すのが大変だった。(女)

 生徒に自己評価アンケートを行わせた内容を分析する。図表1は生徒への質問事項を、思うを4点、以下3点・2点とし、思わないを1点として回答させ、平均値を出したものである。それぞれ1〜4は「パソコン利用について」、5〜6は「課題解決学習について」、7〜11は「操作能力の自己評価」である。一見して分かるように、課題解決については点数が低い。これは、生徒の感想にもあるように、今まで調べ学習になじんでいなかったことが大きい。これに比べ、他の二分野は平均値が高く、肯定的に評価している。特に「操作」の中のマウス利用については他を圧しており、ウィンドウズ活用の学習に慣れ親しんでいることが分かる。

[図表1]










10
11

パソコンを利用したので、楽しく授業できた。
全体的に集中してできた。
パソコンを利用した授業の方がよいと思った。
これからもパソコンを使って授業したい。
図書館での資料探しは易しかった。
自分で解説をまとめるのは簡単だった。
データを入力するのは簡単だった。
グラフの作成は簡単だった。
文章の入力は簡単だった。
グラフの貼り付けは易しかった。
キーボードよりマウスの方が簡単である。

2.92
2.62
2.62
2.73
1.96
1.77
2.65
2.38
2.46
2.50
3.19


[図表2]

 図表2は、個人別「操作能力の自己評価値」平均点を横軸にとり、個人別の「パソコン利用」・「課題解決学習」の点を平均し、縦軸上にドットにして落としたものである。いずれの場合とも、右上がりのグラフであり、生徒にとって「操作」が易しくなるほど、「パソコン利用」・「課題解決学習」ともに評価が高いことが分かった。

19.ワンポイントアドバイス
【1】性能の良いカラープリンターの導入。(1ページ印刷するのに、場合によっては5分以上かかった。これでは、授業時間内に処理するのは、大変難しい。)
【2】パソコン活用授業への時間増加の必要性。(本事例の場合、少なくともあと3〜4時間欲しかった。)
【3】パソコン活用授業を行う普通科教員への人的支援。(一人で生徒30人以上に対応するのは難しい。サポーターが必要である。)
【4】教員側のソフト習熟技能向上の必要性。(生徒の想像もしない操作に、瞬時に対応できなかった。)
【5】図書館における学習活動への司書の支援。(資料検索には、司書の支援がないと授業が成立しない。)
【6】検索資料の希少性。(高価な図書が多く、図書館にそろえるのに苦労した。また、テーマ選びにも困難がともなった。戦後史はともかく、前近代において行うのは至難の業である。)

20.参考資料・参考URLなど(協力者、協力団体を含む)

*朝鮮人強制連行者数
*軍事費について
*日本の人口推移について
*アメリカの恐慌の実相
*主要資源外国依存度
*各国の鋼鉄・石炭生産
*主要生活物資一人あたり年消費指数
*沖縄戦における戦没者数
*都道府県別および主要都市空襲死者数
*第二次世界大戦推定死傷者数
*在日朝鮮人人口
*製糸業について
*戦前の主要輸出品・輸入品
*日本の失業状況
*戦時における保有船舶推移

   

*開戦時の就役主要艦艇数
*神風特別攻撃戦果一覧
*日米航空機生産推移
*広島・長崎原爆投下による被害一覧
*敗戦時外地部隊地域別人員数一覧表
*第一次世界大戦の人的被害
*紡績業の発達について
*戦前の東京小売り物価指数
*日米重要物資倍率比較
*(日本の)生産指数の推移
*太平洋戦争における各国別人的被害
*太平洋戦争地域別死没者数
*東京都空襲災害月別一覧表
*兵力動員の実態(戦死者数)
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