【1】  <実践事例>

【2】 タイトル: インターネットによるコミュニカティブな言語習得環境

【3】 概要(箇条書きとし、特徴を含む):

  1. 現在の高校英語教育は、「体系的に学習する」ことが中心となっており、「使って身に付ける(習得する)」ための場面が不足している。
  2. インターネット、日本国内の教室にいながら、海外の人々とのオーセンティックなコミュニケーションが可能となり、そのことを、言語習得に効果的に役立てたい。
  3. マルチメディアの発達により、コンピューターやインターネットを介して、画像や音声、動画を送受信できるようになった。これを利用して、「聞く」「話す」場面も確保したい。
  4. 交流校生徒と、相互の日常生活、文化などに関する情報交換、それに対するコメント交換などを、電子メール、WEBページなど、音声画像プレゼンテーションソフトなどを利用して行う。
  5. 教室内の教員生徒間の口頭のコミュニケーションも可能な限り英語を用いることによって、擬似的な異文化空間を作り出す。
  6. レポート形式の試験を行い、情報の効果的な収集、編集、発信の訓練も行う。
  7. WEBページ共同作成によって、コミュニケーションのニーズを作り出す。

【4】 キーワード(学校区分や、学年、教科などを含めない):
異文化交流、国際交流、言語習得、コミュニカティブ、マルチメディア、オーセンティック

【5】 学校区分:高等学校英語科

【6】 学年:2年生

【7】 教科・領域区分(いずれかを○で囲む):
    (外国語 )

【8】 学校名 三重県立川越高等学校(URL)http://www.mie-c.ed.jp/hkawag/

【9】 授業者名: 近藤 泰城

【10】 授業実施期間(月日,時間):98年4月〜2001年3月

【11】 単元・題材名:

【12】 単元の目標:

【13】 メディア活用の意義:

  1. パソコンに触ること自体が楽しそうで、動機付けとなる。 
  2. インターネットの活用により、擬似的なものでなく、海外の高校生とのオーセンティックなコミュニケーションを体験できる。
  3. マルチメディアの利用により、「聞く」「話す」の体験も可能となる。
  4. WEBページ作成などにより、テキストにとどまらず、画像などを利用した報告書作成など、情報の収集、編集、発信の訓練ができる。

【14】 メディア環境

  1. 使用機種:
    Windows98 Dos-V機 12台、(インターネット接続可)
    Windows3.1 NEC9821 20台(インターネット接続不可)
  2. 稼動環境:三重県の事業による、バーチャルイントラネット
  3. 利用ソフト:
    インターネットエクスプローラー、アウトルックエクスプレス、ウイズボイスマルチ(音声多機能メールソフト)フロントページエクスプレス、ネットスケープコンポーザー

【15】 単元の指導計画

指導計画(時間)

留意点

 
 

 
 

【16】 授業展開

学習活動・内容

留意点(活動への働きかけ・支援等)

自己紹介
小エッセイ

画像一枚と文とによる日本文化の紹介


WEBページ作成

「ウイズボイスマルチ」による画像+音声のプレゼンテーション作成

画像一枚と文とによる川越高校の紹介

ペルー、アメリカ、韓国、ドイツの生徒とのグループによるWEBページコンテスト

読む人が楽しめる文章には何が必要か考えさせる。

どのようなものを紹介すると興味を持ってもらえるか考える。

文、写真、デザインなど様々な面に気を配る。

効果的なプレゼンテーションについて考え、英語でのナレーションの分かり易さに気をつける。

面白いテーマを選ぶ。帰国子女の知恵を活かす。

出来るだけ多くメールを交換する。メーリングリストでの発言の仕方を理解する。

【17】 学習活動の実際(なるべく写真,ビデオを入れる):

98年一学期の実践
 一学期は、アメリカ、ロシア、スペインの生徒と相互に自己紹介、短いエッセイ、また、それに関するコメントを送信しあった。エッセイのテーマは、「将来の仕事」「お小遣いの入手方法、使い方」などであった。交流はすべて、文字のみを利用し、マルチメディア情報は利用しなかった。生徒は、二つのグループに分けられ、ひとつは、上記のように海外と交流に、もう一方は、教室内でのクラスメートとのコミュニケ−ションに限定した。実践の前後で、アンケート調査を実施し、英語学習に関する動機付けについて、質問した。
筆者は、これまでの英語学習を、これまでの理論、研究成果を元に、コミュニケーション、「流暢さ」を重視するものと、グラマーの教授、入学試験などに見られる「正確さ」を重視するものとに分けて、たずねた。興味深いことは、後者については、変化見られなかったが、前者については、有意差が見られたことである。詳しくは次項で述べる。

98年二学期の実践
 ロシア、スペインとの交流はなくなり、アメリカのミシガン州アダムス高校とのみ交流が続いた。筆者の学校の生徒は、画像を利用して、「日本にしかないようなもの」を紹介した。アダムス高校の生徒は、高校生のカルチャーについて紹介してくれた。この交流は好評で、両校の生徒、教員ともおおいに楽しんだ。この段階で、画像を導入したのは、成功であった。

 


双方の文化の紹介

 

 


 名古屋市立西陵商業高校の影戸誠先生から筆者が紹介された、「ウイズボイスマルチ」は、画像を数枚並べ、音声を録音することによって、紙芝居のようなプレゼンテーションが可能になるソフトウエアで、それを、利用して、自転車通学、毎日の掃除、校舎内でのスリッパ、昼食の取り方など学校生活を紹介した。これは、2〜3人のグループによる活動として行った。アダムス高校も同様のソフトウエアを入手し、クリスマスのメッセージを送ってくれた。

ウイズボイスマルチの編集画面

98年三学期の実践
 この時初めて、1対1のペアによる交流を試みた。これは良い面と悪い面とがあった。パーソナルなメッセージは、動機付けを非常に高めるようであり、書く量も増加した。しかし、相手からメッセージが来ないことが、該当生徒にとっては、予想以上にショックのようであった。

99年度の実践

 99年度は,動機付けにとどまらず,実際に英語のコミュニケーション能力が高まるように,交流を増やしたいと考えた。しかし,現実には,前年よりも交流量は減ってしまった。生徒自身は比較できないので,満足してくれているようであるが,筆者にとっては,失敗という感が否めない。しかし,同時に,改善すべき点がよく見えた面もある。
 前年同様,オリエンテーションの後に,自己紹介を書かせ始めた。ウインドウズ,アクセサリーの「メモ帳」のみの使用であるが,当初はこれにも,指導の時間が必要であった。

(1)"American Heritage" ウイズボイスマルチメッセージの到着

 99年4月7日,交流相手のアダムス高校から,生徒それぞれの家族の民族的ルーツを紹介するウイズボイスマルチの作品が到着し始めた。前回のアダムス高校による作品は,読む速度,アクセントの点でリスニングが大変難しかったため,次回はテキスト(読まれた台本)を添付してくれるようにお願いしたが,その通りになっていて,今から考えると非常に優れた異文化理解の教材であった。また,アダムス高校の生徒たちは,年度末が近づき,授業の総仕上げのようなつもりでこの作品を作ったのであろう。残念ながら、これらの作品に対して,十分なフィードバックが出来なかった。これがこの年の最も大きな失敗であるような気がする。テキストがついているにしろ,当時の本校生には,荷が重く,また「まずは自己紹介を終えて」というところに固執してしまったため,交流,相互援助という視点が軽んじられてしまった。思いきって,作品を数名の生徒に割り当て,読ませてコメントを書かせ,送信するべきだったと後悔している。
 いずれにせよ,この作品を利用できなかったのは,大変残念である。

 

アダムス高校生徒の民族的ルーツに関する作品

(2)プロムやサマージャブ紹介のWEBページ

 5月上旬,アダムス高校から,プロム(アメリカの卒業式後のダンスパーティー)やサマージャブ(夏休みのアルバイト)紹介のWEBページ作成したというメールが届き始めた。デザインもよく出来たWEBページで生徒も楽しむことが出来た。ここでも,もう少し,フィードバックをしておきたかったが,十分に出来なかった。
 しかし,本校の期末テストには,このWEBページを利用し,プロムなどに関する情報の収集,編集,レポート作成という,教科「情報」や「総合的な学習の時間」などに関連づけることができるような取り組みができた。

アダムス高校生徒によるプロム紹介のWEBページ

(3)川越高校を紹介するWEBページの作成

 前年度、ウイズボイスマルチで紹介した,川越高校の様子を今回は,WEBページで紹介することにした。生徒たちは二人一組で、校内をデジタルカメラを持って取材して回り、紹介文を作成し、ウインドウズ98標準添付のFRONTPAGE EXPRESSで作成した。写真の挿入やフォントの大きさ、色、背景の色などを簡単に変えられることに生徒は、たいへんうれしそうであった。この作品には、全員にではないが、アダムス高校の生徒がコメントを書いてくれた。
 また、昨年度まで、これらの作品は評価の対象にしなかったが、今年は、これを評価の一部に加えた。

本校生徒の学校紹介 ALTを紹介

(4)男女の役割の違いに関するエッセイ
 今年度のテーマは、「多量のコミュニケーション」ということであったが、二学期初頭の段階では、コミュニケーション量は、むしろ昨年より少ない現状であった。昨年度ほど、アダムス高校と歩調が合っていなかったのが主な原因である。
 そこで、互いに驚きの伴うような、議論を沸騰させるようなテーマをということで、「男女の社会や家庭における役割の違い」というテーマを設定し、エッセイを書かせた。この面では、日米で大きな違いがあると考えたからである。本校生徒は、「家事は女性、男性は外で働く。変化はあるが、古い伝統がある。」というようなことを書いた生徒が多かった。筆者は、これを読んだアダムス高校の生徒たちは、「信じられない」というようなコメントを多数送ってきてくれるものと期待していた。ところが実際に届いたものは、「男性は外で働き、家計を支え、女性は家事」といったコメントが多く、本校の生徒たちは、返事を書くように指示しても、「あんまり差がないから、書けない」と不満を漏らしているものが多かった。筆者の目論見は大きく外れてしまった。生徒から話題について意見を求めたり、こういった実践をしている方々が、よいテーマを共有しあうなどの取り組みが必要だと感じた。

(5)日本の文化を紹介する☆ウイズボイスマルチによる作品作成
 上記の「男女の役割分担エッセイ」の返事を待つ、あるいは、グループによる進捗度の差を補うために、導入した課題であったが、生徒も積極的に取り組み、よい作品が出来た。日本文化の中の面白いものを紹介するもので、まず、昨年度のWEBページによる日本文化の紹介、ウイズボイスマルチによる川越高校の紹介などを見せて、イメージを持たせ、各グループにテーマを選ばせた。テーマが重ならないように調整をした。受け取る方にしてみれば、同じものの紹介がたくさんあるより、多種多様なものを見る方が楽しいと思われたからである。ただ、こうするとグループ間で不公平があるような気もして、なかなか難しい問題である。

2000年度の実践

一学期
 前年の反省を基に、交流量をふやすべく、異文化交流支援サイト(参考URL欄に記載)に投稿を行い、アメリカ、オクラホマ州のモイヤーズハイスクール、ドイツ、ベルリンの新設高校、韓国の高校の三つの交流相手を得ることが出来た。また当初から、http://www.epals.com/において、全員にWEBメールアカウントを発行した。これは80人分の名簿をフォームのテキストボックスにコピー&ペーストするだけで、一気に作成が可能で、大変助かった。ぜひ利用されることをお勧めする。
 これまでと同様に、テキスト、続いて、画像と文での文化紹介と進んだ。一学期の期末試験は、ドイツから送られてきた画像と文による文化紹介に、質問と、日本でその文化に相当するものに関する情報を含んだ返事を書くという課題を出した。作成後は、ドイツに送信した。レポート課題であると同時に、交流の材料にもした。本校の英語科の生徒にとっても、英文を作成するのは、しんどいことであるようで、課題レポートのような補助的な動機付けも必要なようであった。

 

ドイツから送られてきたフリークライミング用の人工岩の写真

二学期
 もっともっと交流量(メールの数)を増やしたいと考え、数ヶ国の高校生からなるグループ同士で、WEBコンテストをやるという企画を立て、また新たな交流校を探した。これまでの交流校は、クラスの人数が少ないため、本校の84人の生徒とうまくグループが組めないからである。結果、ペルーに83人の生徒を抱える学校が見つかった。ここの生徒2名と本校の生徒2名でもって、コアになるグループを組み、そこへ、一学期の交流校である、ドイツ、アメリカ、韓国の生徒を1〜2名加える形でグループ分けを行った。また、http://egroups.com/で、ペルーのコンピューターサイエンスの先生であるダニエル氏が、42個のメーリングリストを作成してくれた。このおかげで、交流が深まるのではと考えている。コンテストはこれから(2000年11月以降)である。

【18】 授業の成果(生徒の反応、メディア活用の効果等):
 98年度前期は研究のため、異文化交流が生徒の動機付けにどのような影響を与えるかなどを調べるため、比較調査を行った。実際に電子メールで海外と交流する実験群とクラスメートとの電子メール交換を行う統制群とで比較した。現在の日本の英語教育に欠けていると思われるコミュニケーションのための英語力の獲得への動機付けについて調査した。『流暢さ(fluency)』に当たる部分である。質問項目は、以下の通りである。

コミュニケーション英語学習への動機付けの質問項目

学校の英語の勉強や受験のための英語の勉強以外の、自分の英語力を高めるための自主的な英語の学習についてのやる気を教えてください。

 分散分析の結果、交互作用は、1%水準で有意であった(F(1,64)=7.802,p<.01)。この項目に関しては、海外交流群と教室内交流群の処遇の差が影響を与えた。海外交流群では、動機付けの大きな向上が見られる。海外の高校生との交流が、コミュニケーション志向の英語学習の動機付け向上に効果を持っていると判断できる。時期の主効果は、有意傾向であった(F(1,64)=3.348,p<.1)ので、この実践授業が持つ動機付けを高めると思われる要素(海外か教室内の他生徒と交流ができる、ALTとのティームティーチングによるコンピューターを使った英作文授業で、指示は全て英語で行う)が、コミュニケーション志向の英語学習の動機付けを高めることも分かる。この項目は、海外交流がコミュニケーション志向の英語学習の動機付けを高めるとともに、本研究にある様々な要素もこの動機付けを高めることが明らかとなった。研究の目的からしても、非常に重要な結果であると筆者は考えている。

【19】 ワンポイントアドバイス(今後の課題等): 交流はシナリオ通り進まない。生徒が割ける時間も違っている。許された条件の中で、出来るだけ意義ある交流が出来るように、プラスに考える必要がある。大げさにお礼を書くというのも大事である。

【20】 参考資料・参考URLなど(協力者,協力団体含む):

  1. Epals 交流相手探し、無料WEBメールなど、異文化交流活動のために様々なサービスを提供している素晴らしいサイト http://www.epals.com/
  2. Intercultural E-mail Classroom Connection 交流相手を探すの最適なサイト、メーリングリストに登録している何千人もの教員に自分のメールが届く。http://www.iecc.org/
  3. genroku.com 画像処理、ロゴマーク作成などがWEB上で可能 高価な画像処理ソフトなしでもかなりのことが出来る。http://www.genroku.com/
  4. egourps.com メーリングリストの無料サービスサイト、コマーシャルも控えめで好感が持てる。WEB上に共有フォルダがもてたり、予定表を作ることも出来る。英語版が、http://www.egroups.com/ 日本語版は、http://www.egroups.co.jp/