3.テーマ「地域情報(文化情報・ローカルニュース)の交換」の実施

3.1  計画立案

3.1.1  ねらい

    本プロジェクト実施年となる1995年は、戦後50年という記念すべき
  年にあたったが、不幸にも1月、阪神地区は大震災に見舞われ、銀行の倒産
  や不祥ことなど関西を中心に様々な戦後問題が吹き荒れた年となった。また1
  1月には大阪でAPECが開催されたこともあり、関西地域を軸として先の戦争
  と深く関わりがあった沖縄、韓国、ハワイを結び、地域情報を交換し、生徒
  が他地域への理解を深めることで異文化や平和への意識を高めることを基本
  的な目標とした。

    互いの国や地域を、特に、その地域に住んでいないとわからない人々の暮
  しや考え方などの地域情報をインターネット上で、リアルタイムに送受信す
  ることにより、従来不可能であった速やかな情報交換を進めることができる
  が、これが生徒の他地域への理解のスピードや深まりにどのように影響する
  か研究調査するとともに、今後の方向性を探ることにした。

    韓国は、戦後50年を考えるにあたり、日本として、どうしても考えなく
  てはいけない国であるし、ハワイは太平洋戦争が開始された地域でもある。
  沖縄と戦後50年というテーマは大変重いものであるが、このような企画を
  きっかけに他地域の子どもたちに身近に考えさせることができるかどうか、
  日本の将来を考える上でたいへん重要なことではないかと考えた。

    実施に当たっては、電子メール、メールグループ(以下、ML)、アンケー
  ト実施と集計・グラフ表示、HTML記述の訓練とホームページ作成、写真・画
  像データ作成などの作業を生徒に行わせるとともに海外参加校の教員や生徒
  を招待し、face-to-faceの報告会を開催する中でプレゼンテーション能
  力を育て、CU-SeeMeやISDNによる遠隔地テレビ会議を体験させ、情報処
  理教育やインターネット利用教育を行うことにした。

    また、教員のインターネット利用を深めることもねらいの一つであった。
  本プロジェクトはインターネットが導入されて約半年しか経過していない段
  階で企画・実施に入ったため、プロジェクトを推進する教員側にインターネッ
  トの教育利用に関して十分な理解と準備ができていなかった。しかし本プロ
  ジェクトを行うことにより、具体的な目標を与えられることとなり、他校の
  目を意識してホームページの整備に拍車がかかるとともに、海外参加校と連
  携するという困難な作業を通じて、教員や生徒の間で国際理解を深めるとと
  もにグローバルなヒューマンネットワークの構築をはかることをねらいとし
  た。

    特に、海外からの参加地域となった韓国や日本の沖縄県は、修学旅行で生
  徒を送る学校も多いし、ハワイについては旅行で訪ねたことがある生徒が本
  プロジェクトに参加した生徒の中にも多く見られる。韓国側から見ても、正
  義女子高等学校は仙台の私立高校と姉妹校を結んでおり、毎年生徒を日本に
  送り出しているし、ハワイのプナホウ・スクールは、東京や名古屋に、また
  同じくハワイのメリクノールは群馬県や三重県の高校と姉妹校を結び、毎年
  ハワイに短期キャンプなどで受け入れている。これまでの交流をさらに深化
  させ日常的なものとするために、インターネットがどのような役割を果たせ
  るか、これも大きなねらいの一つであった。

    最後に海外との情報交換では、言葉の問題がある。本プロジェクトを通じ
  て日本の生徒の間に英語学習への意欲が芽生えるかどうか、あるいは、写真
  や画像・音声など言語以外の手段を用いることによって意志疎通が促進でき
  るかどうか、これもまた、大きなテーマとなった。


3.1.2  実施概要

 ・応募対象

  インターネット接続されている小・中・高等学校と韓国、ハワイの学校10
  校程度

 ・実施期間

    平成7年11月〜平成8年3月13日

 ・参加校

    95年11月中ごろから参加校を公募したところ、以下の12校の応募が
  あり、プロジェクトをスタートさせた。うち100校プロジェクト参加校は
  7校。インターネット環境にない学校は韓国の1校。

    (1) (北海道)歌志内高等学校
    (2)  大阪信愛女学院高校(以下大阪信愛とする)
    (3)  大阪府立四条畷高等学校(以下四条畷北とする)
    (4)  沖縄県立美里高等学校(以下美里高校とする)
    (5)  兵庫県立神戸商業高等学校(以下神戸商業とする)
    (6)  韓国正義女子高等学校(以下正義女子とする)
    (7)  帝塚山学院泉ヶ丘中高等学校(以下帝塚山学院とする)
    (8)  同志社国際中高等学校(以下同志社国際とする)
    (9)  名古屋市立西陵商業高等学校
    (10) 奈良県立高取高等学校(以下高取高校とする)
    (11) Maryknoll High School
    (12)  Punahou School

 ・計画

    実際にプロジェクトが動きはじめた95年12月より以下のように毎月ト
  ピックを一つに絞り、相互に資料交換を行った。先ず、95年のローカル・
  ニュースと国内外のニューストップ5をアンケートを実施し、これを各校の
  ホームページに掲載するか、ホームページ不可の学校はプロジェクト運営リー
  ダーが所属する帝塚山学院のホームページに掲載した。また、時期はかなり
  ずれ込んだが、互いに他地域に対して抱いているかも知れない偏見やイメー
  ジについてアンケートで調査を行った。12月以降は、知(情報)、夢、平
  和について理解を深め、3月には、実際に会うことにより、その理解の肉づ
  けを図った。3月の平和については内容が重いこともあって、直接交流を深
  めたあと率直なやりとりができるのではないかと考えられ、報告書作成時点
  ではまだ見るべき成果をあげていない。

  具体的には、以下のように計画を立案した。

    1) 11月  地域のプロフィール
      (1) 各地域についていだいているイメージに関するアンケートを出す
          各校50名
      (2) 各地域について5つの質問を出し合う
      (3) 5つの質問に対する各地域からの解答を出す
      (4) 結果をインターネット上に掲載する

    2) 12月  「知」、情報
      (1) 地域ニュース・トップ5:50人にアンケート(アンケート・写真・
          資料をインターネット上に掲載する)
      (2) 95年の国内ニュース・トップ5、50人にアンケート(アンケー
          ト・写真・資料をインターネット上に掲載する)
      (3) 地域ニュース・トップ5について他地域からの質問と解答を出す
      (4) 結果をインターネット上に掲載する

    3) 1月  「夢」
      (1) 将来に対する夢トップ5(アンケート・写真・資料をインターネッ
          ト上に掲載)各学校で50名に将来への夢について回答してもらう
      (2) 「夢」実現に向かって何をしているか、何をしなくてはいけないか
          を考える
      (3) 結果をインターネット上に掲載する
      (4) 新年の「初夢」についてまた、そのような習慣があるかどうかにつ
          いて語り合う
      (5) 結果をインターネット上に掲載する

    4) 2月  「平和」とインターネット
      (1) 日本が世界平和に貢献するために、個人として、学校として、何が
          できるか、何をしなくてはならないか、考える
      (2) 「平和」な世界を作るために、インターネットが果たす役割につい
          ても考える
      (3) 特に、日韓、日米、日本の中における沖縄、という具体的な環境を
          背景に議論を深める
      (4) 結果をインターネット上に掲載する

    5)3月 オフライン交流会
      (1) それまでの交流を踏まえ、実際にFace-to-Faceでの交流を行なう。
      (2) これまでの活動をまとめて分析を行ない、課題などを洗い出す。
      (3) WWWのデータなどを活動報告書としてまとめる。

3.2  実施

  トピック毎に順次、情報交換結果を記載する。

  1) 11月  地域のプロフィール

    本アンケートは、英日両方の言語で作成し、参加校にMLを通じて流すとと
  もに帝塚山学院のホームページに掲載した。

  【「資料1.他の地域に対するイメージ調査アンケート用紙・集計用紙」参照】

     
  ・アンケート実施校:以下の7校

      大阪信愛、正義女子、帝塚山学院、四条畷北、同志社国際、
      メリノール高等学校、高取高校

  ・アンケート結果の集計

    データを電子メールやファックスで送ってもらい帝塚山学院の生徒が
    EXCEL に入力し、グラフを作成して、ホームページに掲載。

  ・データ分析

    グラフをホームページに掲載するとともにデータ分析を行い、これをホーム
    ページに掲載。

    【「資料2.アンケート集計結果」参照】

  ・考察

    アンケートの第1問は他地域を先進国、途上国、中進国に分けた場合、ど
  れに当たると考えるかという質問であるが、この質問については後日、四条
  畷北高校より疑義が出された。また1月実施予定分として「将来の夢」につ
  いてのアンケートに対しては、美里高校より、質問の意図について疑義が出
  された。この「他地域に対するイメージ調査」アンケート原案では、かなり
  遊びを入れた内容であったが、同志社国際よりもう少し骨のある内容を問い
  たいということで「平和」をディスカッションのテーマに加えた。本プロジェ
  クトでアンケートを多用することになったのは、プロジェクト実施期間が短
  い中で、できるだけ中身のある内容にしたいと考えたからである。アンケー
  トを実施した第一の目的はアンケート結果をもとに各参加校が意見を出し合
  い、議論を深めるということであった。残念ながらこの点に関しては十分な
  成果をあげられなかった。その理由としては、時間的余裕がなかったという
  こと以外に、英語の問題があった。今回の参加校の中にはハワイや韓国とい
  う外国が含まれ、国内でも同志社国際のワイントラウブ氏のように日本語が
  読めない担当者もいた。逆にプロジェクト終了まぎわになって担当の教員が
  社会科の教諭であるため英語が不得手であり、主として英語で流れてくる情
  報交換についていけないということがわかったということもあった。今後、
  時間や空間を越えグローバルなコミュニケーションを特徴とするインターネッ
  トの世界で英語を使わざるをえないこの種の情報交換プロジェクトを実施す
  るにあたり、英語のヘルパー的なソフトやシステムが開発・利用される必要
  がある。

    ただ、アンケートを分析して生徒が強く感じたことは、国や地域、言語が
  異なるとともに、学校も普通科、国際科、商業高校、国際高校と多様であっ
  たため、それぞれの地域・学校の特徴が浮き彫りにされたことである。特に
  参加地域が歴史的にも政治的にも相互に複雑な関係をもつ地域であるため、
  単に異文化を学んだ、つまり互いに違いがあるということを知ったというこ
  とで終わらせることはできない。これまで蓄積した資料をもとに、理解を深
  めるよう努力していく必要があると思われる。

  第1問  「先進国、途上国、中進国」

    日本についての見方は韓国の生徒も日本の生徒もあまり変わりがなく先進
  国だと受けとめているが、韓国に対しては奈良県の高取高校をのぞいて韓国
  の生徒が一番韓国を遅れている、つまり途上国だという回答が多かったのは
  興味深い。逆に韓国に修学旅行にでかけ比較的韓国について知識を持ってい
  る帝塚山学院の生徒が、そのような背景のない大阪信愛の生徒より途上国だ
  と考える生徒が多いというのも興味深い。アンケート結果からだけ判断する
  と韓国を一番よく知っている韓国の生徒が自国を一番遅れていると考え、韓
  国について直接情報を持っていない大阪信愛の生徒が韓国を中進国ととらえ
  ている。

    回答者の半数が海外滞在経験者という同志社国際では、ハワイを先進国と
  見る生徒が6割を占めているが帝塚山学院は4割弱、韓国にいたっては数パー
  セントしかない。おもしろいのは、この数字がハワイの生徒がハワイを見る
  割合とほとんど同じであることである。
  
  第2問  「対日関係」

    韓国と日本の関係の良否について、韓国の生徒と帝塚山学院の生徒は同じ
  ように否定的な見方が圧倒的であったが大阪信愛は良と答えた生徒もかなり
  いた。おもしろいのは日本がハワイと良好な関係かどうかという点について
  帝塚山学院の生徒は圧倒的に良と答えたのに対し、韓国の生徒は意見が2分
  された。逆に沖縄については韓国の生徒は「日本」と良好な関係という回答
  が3分の2を越えたのに対し、帝塚山学院の生徒は過半数が「否」という回
  答であった。これは、韓国の生徒は日本がハワイの真珠湾攻撃で戦争をはじ
  めたことを歴史の授業で強調されていて現在もハワイと良好な関係を結べて
  いないという印象を持っているためかどうか、そのあたり、今後、掘り下げ
  るテーマとなりそうだ。

    海外体験者が半数という同志社国際はここでも特異な結果を出している。
  日韓関係と日本(本土)・沖縄の関係が、同様な結果となっており(日本と
  の関係は良くないが、それぞれ50%と55%)、むしろ韓国よりも沖縄の
  方が日本(本土)と良くない関係にあると見ている。これに対してハワイは
  日韓関係については良いと答えた生徒が54%と過半数を越えている(良く
  ないは44%)。沖縄と日本(本土)との関係、ハワイと日本との関係は9
  割以上、良いと回答しているが、これは日韓関係はあまり良くないというこ
  とは、ある程度理解しているが、日本の生徒のように米軍基地問題で本土と
  の関係が悪化しているとはとらえていないことを示す。米兵による暴行こと件
  については在ハワイの太平洋艦隊指令官が更迭されたこともあり、ハワイの
  生徒は周知しているが、この問題で日本とハワイ、沖縄と日本の関係が悪化
  したとはとらえていないようである。

    第1問で韓国が先進国だと答えた生徒が一人しかいなかった高取高校(途
  上国17、中進国4)は、対日関係では、沖縄、韓国との関係では、55%、
  83%が良い関係とかなり楽観的な結果を出している。古墳の上に学校が建っ
  ているという高取高校の生徒は、日韓の古来の交流に目を向けているために、
  そのような楽観的な見方を持っているのか、第5問で韓国の大統領の名前を
  帝塚山学院(40%)についでよく知っていた(36%)ところを見ると韓
  国に親近感をいだいているためなのか、このあたりも確かめたいところであ
  る。

    第1問で韓国が先進国だと答えた生徒が一人しかいなかった高取高校(途
  上国17、中進国4)は、対日関係では、沖縄、韓国との関係では、55%、
  83%が良い関係とかなり楽観的な結果を出している。古墳の上に学校が建っ
  ているという高取高校の生徒は、日韓の古来の交流に目を向けているために、
  そのような楽観的な見方を持っているのか、第5問で韓国の大統領の名前を
  帝塚山学院(40%)についでよく知っていた(36%)ところを見ると韓
  国に親近感をいだいているためなのか、このあたりも確かめたいところであ
  る。この点について高取高校の杉崎忠久教諭は、アンケート回答者(女子生
  徒)は1年間の学習を積んだのち昨年訪韓し韓国の学校と交流をしているこ
  と、日程の関係から(帝塚山学院のように)自由行動をせず(従って不愉快
  な目に合うということがなかったこと)、交流相手が男子校だったことなど
  が好印象を持った理由ではないかと話している。

  第3問  「他地域で一番関心のある部分」

    韓国の生徒は日本人が韓国をどのように見ているかという点のみを挙げて
  いるのに対し、帝塚山学院の生徒は、韓国の人々の対日観とともに韓国の人々
  の考え方、伝統の順で、大阪信愛は韓国の人々の暮らしぶり、音楽・スポー
  ツ・文化、対日観の順となっている。帝塚山学院、大阪信愛、高取高校、い
  ずれもそれ以外の項目にも関心を持っているのに対して、韓国の生徒は、ア
  ンケートが(内容が)正確に理解されているとしたら、日本人の対韓国観の
  みを挙げていることから、理解の幅が小さいと言えるかも知れない。

  第4問  「他地域を訪問して、してみたいこと」

    帝塚山学院の生徒は韓国については「食こと」を一番に挙げ、次にショッピ
  ングを挙げている。沖縄とハワイについては水泳やマリン・スポーツがトッ
  プで戦争に関する遺跡見学を挙げた生徒は少数である。四条畷北も韓国や沖
  縄では「食こと」が一番で沖縄では次に水泳がくる。ハワイでは水泳がトップ
  でショッピングが次にくる。全般的に他地域を観光スポット的にとらえてい
  る面が強いように思われる。ハワイの生徒が日本に来てやってみたいことの
  トップは観光(32%)、次にショッピング(26%)が続き、かなり下がっ
  て3位にテクノロジーと東京ディズニーランドが各6%上がっている。おも
  しろいのはハワイの生徒は沖縄を水泳のスポットと見ている生徒は少なく
  (8%)、最も多いのは、観光してみたい(40%)、その後に生活様式や
  伝統・文化などを知りたい、と続く。

  第5問  「総理、大統領・知ことの名前を知っているか」

    韓国の生徒は、日本、ハワイ、沖縄、いずれもほとんど知らないという回
  答。また大阪信愛や四条畷北の生徒も韓国の大統領はほとんど知らないと回
  答しているが、帝塚山学院の生徒は韓国研修旅行に出かけていることもあり、
  イエスと答えた生徒は4割にのぼる。韓国に行かない男子生徒の回答も含ま
  れているので女子のみだと過半数を越えるものと思われる。高取高校は36
  %が韓国の大統領の名前を知っていると答えている。

  第6問  省略

  第7問  「他地域に住んでみたいか」

    韓国の生徒、帝塚山学院や高取高校の生徒は互いの国に住みたくないとい
  う回答が圧倒的であったが大阪信愛は3割程度住んでもよいという回答であっ
  た。ハワイについて韓国の生徒は5割強が住みたいと答えたのに対して帝塚
  山学院の生徒は圧倒的に住みたいと回答。韓国の生徒が比較的韓国志向と考
  えるべきなのか、それともハワイ以外に住みたい地域があるのか今後おもし
  ろい項目である。これまでのアンケート結果のみから判断すると韓国の生徒
  が比較的他地域に対して理解の幅が狭く、日本の生徒と比べると国内志向の
  ように見える。今後、韓国の「国際化」が問題となってくるのではないかと
  思われるが、この辺もディスカッションのテーマとなりえる。

  第8問  省略

  第9問  「他地域に知人がいるか」

    韓国・日本双方とも相手の国に知人がほとんどいないのだが、ハワイにつ
  いては韓国の生徒の4割がイエスと回答しているのに対し、帝塚山学院の男
  子は2割強にとどまり、帝塚山学院の女子と大阪信愛ではゼロである。日系
  人がハワイに多いと言われてきたハワイの歴史を考えると不思議な結果であ
  るが、最近韓国からハワイに移民する人が多く、日本からハワイへの移民は
  最近はあまり無いためなのかも知れない。帰国生の多い同志社国際でも韓国、
  沖縄、ハワイに知人は少ない点はあまり変わりない。

    これに対して、ハワイの生徒の回答は大きく変わっている。沖縄に知人が
  5人以上いるという回答は48%、5人以下は30%もあり、知人がいない
  は、わずか20%に過ぎない。韓国の知人にいたっては、5人以上が52%、
  5人以内が36%で、知人がいないは、わずか12%となっている。日本で
  の知人は80%が5人以上と答え、いないは、わずか6%である。これは在
  韓、在日、在沖縄の米軍基地の存在が大きいのかも知れない。つまり、日本
  人や韓国人の知人ではなくこれら地域にいる米軍関係者を知っているという
  ことなのかも知れない。質問項目の再検討を要するかも知れない。

    なお高取高校は、韓国に知人が一人以上いるという答えが36%とかなり
  多く、韓国の大統領の名前も知っている生徒が多いが、回答校の中で韓国を
  一番遅れていると考え、住みたくないが圧倒的である。これは、帝塚山学院
  とよく似た結果であるが、日韓関係を良いと答えた人が過半数を越えたとこ
  ろが、大きく異なっている。

  2) 12月  「知」、情報

  95年のローカル・ニュース、国内外のニューストップ5を参加校がリスト
  アップして比較した。
  
  アンケート実施校:以下の5校

  大阪信愛、帝塚山学院、西陵商業、同志社国際、正義女子(韓国)

    このアンケートは趣旨がマスコミからは流れてこない地元のニュースを相
  互に紹介しあうことで他地域に対する理解を深めることを目的としたのであ
  るが、大阪信愛や西陵商業のように校内ニュースをリストアップしたところ
  と帝塚山学院や同志社国際のようにローカルニュースをとりあげたところに
  分かれたため比較するのが難しい面があった。また、地域に限定されたニュー
  スで注目すべきニュースをピックアップするのが困難な作業だったためか、
  回答校も少なかった。ただ、韓国の正義女子高校の回答ではローカルニュー
  スのトップに校内暴力が挙げられていたのは注目される。校内暴力はひと昔
  前、日本で問題となったが現在の韓国の社会・経済・教育状況と当時の日本
  の状況を比べてみるのもおもしろいかも知れない。来日した正義女子の生徒
  の話では、昨年、生徒同士で大きな暴力こと件が校内で発生し、そのため髪型
  などの規制が厳しくなった。ということで、暴力こと件、ボブヘア強制という
  ニュースが上がったという。なお韓国の国内ニュースとして、Kim Sung Jae
  という歌手の死、サンプン百貨店の崩壊こと故、元大統領の不正資金、実名貯
  金制度の順に上げられていたが教育改革も5番目に上げられている。この教
  育改革は、大学受験機会の複数化という入試制度の改革も含まれるが、文法・
  訳読中心の英語の授業からスピーキングも取り入れるというカリキュラム内
  容の改革も含む大規模な教育の変化をもたらすものである。ここにも新しい
  時代に対応した教育への胎動が感じられ、韓国が国際化への対応を真剣に考
  えていることがうかがわれる。

    日本の生徒は、阪神大震災やオウムこと件、核実験などを共通して上げてい
  たが、核実験については帝塚山学院のようにフランスの核実験のみをとりあ
  げたのに対して、同志社国際では中国の核実験もとりあげていた。このあた
  り、視点のちがいがあるのかも知れない。また、ローカルニュースとして道
  頓堀に投げ込まれて死亡したホームレスのこと件や一時大阪を中心に騒がれた
  毒グモこと件など新聞報道で知り得たニュースが上がっていたが、ローカルニュー
  スといえどもマスコミ報道に頼らざるをえない状況があるのかも知れない。
  また学校生活が生徒の中心となっていることから、地域社会の情報より校内
  でのニュースの方が情報量が多いのは当然のことかも知れない。ただ、校内
  ニュースは他の学校の生徒と共有して相互に関心をもつことができるニュー
  スが少ないことも考えられ、深まりを持たせていくことが難しい面もある。
  例えば○年○組がクラス対抗で優勝した、というようなニュースは広がりを
  持ちにくい。この点、同志社国際のように、「いじめ」問題を挙げ、それを
  考察するグループを作り、自分達の意見発信をホームページ上で行って意見
  を求めるという形は、今後の情報交換型教育の方向性を指し示しているよう
  に思われる。

  【「資料3.同志社国際中高等学校におけるいじめに関するページ」 参照】

  3) 1月  「夢」

    夢について帝塚山学院の生徒は、初夢と将来の夢、二つの問を作り、正義
  女子、帝塚山学院、四条畷北の3校。また、将来の夢については、美里高校、
  正義女子、帝塚山学院、四条畷北の4校が回答した。

    帝塚山学院の生徒の初夢は、歌手やタレントの夢が多く、四条畷北はクラ
  ブや対外試合の夢が多かった。韓国では龍や魚など動物の夢が多く、中には
  先輩に竹刀でたたかれたり、皿を割ったという夢などもあった。共通してい
  るのは、警察や中年の女性など誰かに追いかけられている夢、空中や海中を
  遊泳している夢が多かった。

    韓国でドラゴン(龍)の夢は王様になるという縁起のよい夢であるらしい
  が、富士山に登る夢を見た日本の生徒もいて、「一冨士二鷹三なすび」とい
  う諺があるように、縁起がよい夢である。そこで、これを絵にしてみようと
  いうことで、スーパーペイントを用いて生徒が絵を描きホームページに掲載
  した。

    韓国の生徒がこの絵を見た時に、韓国の人がイメージする絵と変わらない
  と話していたが、夢を互いに絵で描いて比較することも意味のあることであ
  ろう。今回は帝塚山学院の生徒が絵を描いたにとどまったが、夢の意味やい
  われなどとともに、絵なども比較していくことを通じても他地域に対する理
  解が深まるのではないかと思われる。

    将来の夢についても、違いが見られた。美里高校は保母・幼稚園の先生、
  教員、公務員などが多いが帝塚山学院は国際科の生徒の回答ということもあっ
  て、通訳、スチューワーデス、英語教師など英語関係が多かった。韓国は看
  護婦、公務員とともに歯医者、微生物学者、医者など理科系の職業を志向す
  るものが多い。このアンケートは職業を訊ねるものか、もう少し抽象的なも
  のか曖昧だったため疑義が出されたが、世界平和や環境問題解決に貢献した
  いなどという回答もあった。アンケートに工夫がいるようである。

  4) 2月  「平和」とインターネット

    インターネットが世界平和に貢献できるかどうか、どのように貢献できる
  かというテーマであるが、正義女子は、1)本プロジェクト、2)国際交流、3)
  ペンパル(電子メール交流)4)グローバル・ビレッジ、を通じて平和に寄与
  できると考えている。また個人としてグループとして平和のために貢献する
  にはどうすればよいかというテーマについて正義女子では、日本に対してか
  なり厳しい意見が出されている。特に韓国、沖縄、ハワイなど太平洋戦争で
  辛酸をなめた地域にあって平和のために何ができるかという問については、
  正義女子の意見は以下のようにストレートなものであった。

    1)歴史を歪めない
    2)互いに理解しあい、責めないように。ただし、日本が過去に犯した失敗
      を認めなければならない
    3)日本は罪がないと主張してはいけない。罪を認めることははずべきこと
      ではない。
    4)日本の極右翼はまともな考え方に戻るべき
  
  3月9日実施の交流会で、正義女子の生徒は、学校創設の由来を紹介した。
  それによると、正義女子の「正義」はjusticeを意味するが、創設者は3・
  1独立運動に参加した時、仲間の活動家が次々と日本側に転向していくこと
  を見て、正しい教育の必要を痛感し、特に教育の担い手は母親だと考えて、
  女子の学校設立を50年間暖めてきた。戦後、資金も整い、20数年前に創
  設したという。このような歴史をもつ学校の生徒ということもあったためか、
  平和の問題について韓国側から多くの意見が送られてきた。

  ハワイからは交流会で、the Spark Matsunaga Institute for Peaceという
  平和研究所について紹介があった。沖縄の美里高校は、「沖縄と基地」をテ
  ーマに生徒にアンケートをとりホームページに掲載した。

  【「資料4.沖縄美里高校におけるアンケート集計結果」参照】

    アンケートの結果を見ると、沖縄の生徒は80%の生徒が沖縄に生まれて
  良かったと考えているが、沖縄はこのままでよいという回答は50%余り
  (よくないと分からないが各半々)沖縄から基地が多少減ることはあっても、
  なくなることはないと考えている生徒が圧倒的。沖縄が本土と異なっている
  と違和感を抱いている回答が75%(同じと分からないが14%と11%)
  であった。このアンケートの趣旨は、まず、自分の住む土地について生徒が
  どのように見ているのか調査するということであったが、他の地域で同様な
  調査をして比べてみることも今後の課題である。

  5) 3月  Face-to-Face交流会

    3月9日(土)大阪私学教育工学研究会とAGENE主催で富士通株式会社の
  協力を得て実施。100名余参加。午前中は4教諭による研究発表と日立情
  報システムの協力によるISDNテレビ会議システムPictureTelを用いて、
  東京の100校プロジェクト成果報告会と接続して、地域情報交換プロジェクトに
  ついて20分間の報告を大阪から行った。

    午後は、参加校生徒による学校紹介や各地域の紹介と本プロジェクトにつ
  いての取り組みの報告とレセプションが行われた。

    前日、当日の準備を終えた後、生徒22名、教員20名が夕食会を持ち、
  親睦を深めた。

    前日は、沖縄、韓国、ハワイの招待客9名と帝塚山学院泉ヶ丘中高等学校
  の辻が同じ宿に宿泊した。夕食会はたいへん盛況で次回は、参加者がそのま
  ま全員宿泊できるようにして一層の相互理解を深めたいと痛感した。

    9日の交流会では、ビデオやオーディオテープはもちろん、インターネッ
  トやプレゼンテーション・ツールを用いた報告が続き、生徒のプレゼンテー
  ション能力の高さが示された。神戸商業の生徒はインターネットによる交流
  もface-to-faceの交流も挨拶を交わした後何を話してよいかわからない、
  交流を深めるためには自分を高める必要があると発表していた。そういう意
  味ではアンケートやトピックを決めてこと前にオンラインで議論を進めた後、
  直接顔を合わせて意見交換をすることは大きな意味がある。

    東京会場とのテレビ会議では、東京会場から高取高校の杉崎氏による本プ
  ロジェクトの紹介があった後、帝塚山学院の辻と同校の生徒(本年3月卒業)
  がウィンドウズとパワーポイントを使って報告を行った。

    レセプションでは、大阪信愛のハンドベル演奏と帝塚山学院の「晴れたら
  いいね」のコーラスの後、談笑しながら、各地域からもちよったクッキーの
  説明をした。
  


3.3  教育面での効果・課題に関する調査

3.3.1 成果

  本プロジェクトを通じて得た成果として以下のものが挙げられる。

  (1) 生徒のインターネット技術の習熟

    本プロジェクトでは参加校のデータの収集・グラフ化・図示・分析という
    作業を多用した。具体的には、e-mail、excel、superpaintなどのソフ
    トを使用しhtmlをワープロソフトで作成。

  (2) 問題分析・解決能力の育成

    (1)のインターネット技術を駆使しながらデータを分析する中で、色々な
    疑問が生まれてくる。これをどう解釈・分析していくかという能力が養わ
    れた。

  (3) プレセンテーション能力育成

    上記(1)(2)の作業は、ホームページに掲載するという形で外部に公表する
    機会が持てるわけであるが、これをface-to-faceの報告会で実際に直接人
    前でプレゼンテーションを行うことは、オンライン上でのプレゼンテーショ
    ンとは異なる教育的効果がある。例えば、今回、東京会場と行ったテレビ
    会議については、帝塚山学院の生徒はNHKteensねっとわーく、テレクラス・
    インターナショナル主催の衛星・ISDNテレビ会議などを通じて多くの人の
    前で発表してきた経験を持っている。こういう積み重ねが日本の教育に欠
    けていると指摘されている発信型教育を伸ばすことになる。

  (4) ホームページの充実

    100校プロジェクト参加校はほぼすべての学校でホームページを立ち上
    げている。しかし一通り学校紹介を終えた後、何をしてよいか分からない
    というところも多いと考えられる。本プロジェクトは、アンケートなどに
    より集められたデータをもとに議論を深めていくことを目的として薦めら
    れてきたが、そのプロセスをホームページに逐次、記載していく中でホー
    ムページの充実が見られた。またテーマがその地域・学校に限定されたも
    のでないため色々な問題意識を持っている人が関心をもってホームページ
    を訪ねてくることになる。そのことがまた、ホームページ作成者の意欲を
    かきたて、ホームページの充実が進むという好循環ができた。

  (5) 教員のインターネット技術の向上

    本プロジェクトでは多用なインターネット技術が使われるため生徒を指導
    する教員もそれにふさわしい技術を身につけなければならない。そのため、
    サーバ管理以外にインターネットの諸機能について、また、各種ツール類
    を駆使する中で、教員自身のインターネット技術の向上と理解が深まった。

  (6) face-to-faceによる相互理解とセカンド・ステージへの準備

      コンピュータネットワークでの交流では、様々なデータや文章、写真な
    どを通じた相互理解を行なうことができる。しかし、今回のように、沖縄、
    韓国、ハワイを結び、「平和」という重い問題を話あうためには、このよ
    うな手段だけでは限界があるし、逆に誤解につながる恐れもある。ネット
    ワークの背後には人間がいる、ということを実際に顔をあわせることで実
    感し、その後、再び、ネットワークを通じた討議を進めることにより、単
    なるテレビ会議などに比べても非常に価値のある体験となる。

      3月8日の夕食会や9日の交流会を通じて生徒同士の交流が活発に行わ
    れたが、美里高校の本村氏金三氏は以下のように沖縄に帰った直後の生徒
    の様子を伝えている。
      「昨夜空港で生徒を迎えましたが,私の顔をみるなり,機関銃のように
    大阪でのことをしゃべり始めました。はじめの不安は,どこへやらとても楽
    しい交流会になったようです。  なかなか,こういう機会に恵まれない生
    徒たちですので,これまでにない経験と刺激を受けたようです。正直いっ
    て生徒たちが,れほど楽しい思いをしてくれるとは,思っていませんでし
    た。」


3.3.2 課題

    本プロジェクトでは成果も大きかったが課題も多い。

  (1) 実施時期・期間

      本プロジェクトが実際にスタートしたのは予定の11月が12月にずれ
    込み、本格的に進めることができるようになったのは1月であった。3月
    初旬で完了ということだから、実質的には3カ月あるかないかという状況
    であった。また、韓国は1月が冬休みで新学年が始まる3月まで動けない
    という状況だった。もっとも正義女子には、そのような中、多くの資料を
    送っていただいた。やはり、夏までに企画を立て、9月開始、12月で区
    切りをつけるという形が望ましいのではないか。

  (2) 教員の負担

      プロジェクトの実施時期がずれ込んだこともあり、短期間で計画こと項を
    すべて実施しなくてはならず、担当する教員に多大の負担をかけた。その
    ため、当初参加を表明した学校もなかなかデータを送ることができないと
    いう面があった。

  (3) 本プロジェクトの趣旨が不徹底

      12月というあわただしい時に動きはじめたため、参加校間の連絡はメー
    ルグループを通じたメールが中心となった。そのため参加校の教員の間で
    も趣旨が徹底されず、理解不十分のまま計画実施なり、足並みが揃わなかっ
    た。

  (4) 参加校の意見を反映する余裕がなかった

      ホームページが充実して本プロジェクトが終盤にさしかかった頃、よう
    やく参加校からプロジェクトの趣旨が理解できた。そこでアンケートや進
    め方について提案したいことがあるというメールが届き、参加校が主体的
    にとりくもうという時期になってプロジェクトが終了しなければならない
    状況だった。特に終盤、色々なアイデアが出され、実行しようとしたが時
    間切れとなった。

  (5) 生徒相互のオンライン交流の欠如

      これも時間的問題が絡んでいるが、本プロジェクトの本来の趣旨である
    生徒同士の情報交換がオンライン上で見られないことは大きな課題である。
    生徒のメーリングリストを作ったり、各校のL.I.E.P.ホームページにその
    学校の生徒の文章や意見に対して、意見を下さいと呼びかけても自分のと
    ころのホームページ作成や定期考査や行ことなどの時期的問題などから、な
    かなかコメントや意見が返ってこなかった。

    以下、同志社国際中高等学校のHillel Weintraub氏のコメント

     The one area of weakness of the project is lack of network
    interactivity amongst the students at the different schools.
    For the next project, it would be good to have the students
    communicating more with each other before the face to face
    gathering.

  (6) 言語の障壁

      (5)と関連する問題として言語の壁がある。韓国、ハワイ、日本を結ぶ
    共通語として英語を使わなければならないので、どうしてもオンラインで
    の交流が停滞してしまう。英語の苦手な教員・生徒も気楽に参加できるよ
    うな方策(翻訳ソフトなど)を取り入れていく必要がある。

  (7) 難しいインターネット技術

      指導する教員は本来業務をかかえながら本プロジェクトを実施したため、
    時間的・精神的余裕がなく、インターネットの各種ツール操作の習得やメ
    ンテナンスに要する時間がなく、負担が大きい。インターネットを利用す
    るためには一つの統合ソフトを覚えれば済むというわけにはいかないため、
    例えば、海外から送られた画像データを見る場合にも変換方法がわからず、
    戸惑ってしまう。このあたり、メールグループや本プロジェクトのサポー
    トをしている富士通株式会社のスタッフの協力を得て、解決していくこと
    ができたが、時間と人的資源をとられる。

      また、本プロジェクトへの関心度を知るためホームページに海外からど
    れだけのアクセスがあるか、あるいはホームページ作成作業を速やかにす
    るためにサーバの日本語化をはかるなど当初考えていなかったインターネッ
    トに関する技術的なニーズも生じたが、このような問題は、技術的な協力を
    得ないとなりたたない面がある。