5.情報交換型利用企画の実施における教育面での効果課題に関する調査
5.1 広域ネットワークを利用した情報交換の教育的効果

  これまでの三つの情報交換のプロジェクトを通じ、その教育的な効果という
  べきものには以下のようなものが見られる。

 ・生徒のコミュニケーション能力の育成

    ネットワークを含めコンピュータ自体は、単なる機械である。過去、コン
  ピュータといえばスタンドアロンのパソコンやファミコンなど、単なる機械
  としてしか使っていなかった人々にとって、それを「他の人間とのコミュニ
  ケーションのための通信機器」として使う、ということは、大きな視点の転
  換が要求される。情報が交換されるためには、その情報を交換しあう他の人
  間とのコミュニケーションができなければならない、という前提を理解する
  時、生徒のコミュニケーション能力は大きく成育することが期待できる。

    特に、今回「生徒による自主的な情報交換」および「地域情報の交換」の
  二つのプロジェクトでは、ネットワークを通じたコミュニケーションを行な
  うだけでなく、各参加校の教師・生徒が実際に顔を合わせた会合を行なう、
  といった機会を設けることができた。この場において、生徒は自分たちの活
  動に関するプレゼンテーションを行なったり、他の学校の生徒たちと討議を
  行うなどの活動を行なった。これらの活動はすでにきわめてレベルの高いも
  のであったが、この活動を通じてさらに一層の教育的効果を得ることが期待
  できる。

 ・幅広い教育素材の蓄積

    音声・画像などを含むマルチメディア素材の教育的な効果は既に多くの場
  所で指摘されている。これに対する需要は今後さらに増えるであろうが、現
  場で必要とされる素材の供給は、すぐには得られないであろう。多くの教師
  が参加して協力することにより、豊富な教材を産み出すことが実現できると
  したら、それは大きな効果を教育にもたらすであろう。今回のプロジェクト
  はその可能性を示したと言える。

 ・生きた素材による教育の効果

    「教育素材・教材の交換」では、市販の教科書や図鑑などで得られるのと
  は違う「生きた素材」が、大きな教育的効果をもつことが期待されている。
  特に、同じ小学生や中学生の目でありながら、自分たちとはまったく異なる
  視点でとらえられた素材に対しては、新鮮な驚きを持って接することができ
  るであろう。

    また、「地域情報の交換」においては英語を基本としたコミュニケーショ
  ンが行なわれたが、これは、今後のより発展的な学習のきっかけとなったと
  同時に生きた外国語の素材としてそのまま生徒の教育に大きな効果をもたら
  したものと思われる。


5.2 広域ネットワークを利用した情報交換の今後の課題

  ・オフラインミーティングの必要性

    既に述べた通り、ネットワークを利用した情報交換においては、ネット
  ワークの背後にある他人とのコミュニケーションが非常に重要な役割をしめ
  る。従って、「生徒同士のコミュニケーション」をテーマとするプロジェク
  トでは、多くの場合、実際に生徒同士が直接会って会話を行なうといったス
  テップをもつことが望まれるだろう。今後、広域ネットワークの教育的利用
  のひとつのテーマとして「生徒同士のコミュニケーション」をどこまで重要
  視するかは、教育機関や行政の判断によるところが大きいが、「ネットワー
  クがあれば、わざわざ会う必要はないのではないか」といった安易な発想で
  は、期待される教育的効果は得難いという点に注意しなければならないだろ
  う。

  ・十分な実施期間の必要性

    また、教育素材の交換のプロジェクトは、他の二つと異なり、むしろ「教
  師同士のコミュニケーション」という側面が強いものであったが、これに関
  しても、より効果的な教材の収集と蓄積を行なうためには、まず参加者が実
  際に顔を会わせて綿密に計画を練る、というフェーズをとるべきであった。
  時間的な制約も大きかったが、今後同様のプロジェクトを実施する際には、
  全国での展開実施に到るまでの準備期間も含めて十分な実施期間を設けるべ
  きであろう。

  ・技術的サポートの必要性

    一部の進んだ工業高校などを除くと、特に小中学校や普通高校などでは、
  まだまだインターネットやマルチメディアの機器やソフトを使いこなすのは
  非常に困難というのが現状だろう。今回のネットワーク利用企画プロジェク
  トは、このような技術サポートとは基本的に独立したものであったが、実施
  にあたっては機器・ソフトの活用という面で切り離せない部分があった。今
  後このようなプロジェクトをさらに実施する際には、対象校の実情に応じた
  技術的サポートの準備を十分に考えておく必要がある。


5.3  まとめ

    94年にスタートした100校プロジェクトでは、95年春に実際に学校
  へのインターネット環境の導入が行なわれた。現在ではこのプロジェクト参
  加校以外の学校を含め、何らかの形でインターネットへの接続を行なってい
  る学校が国内にもかなり増えつつある。しかし、ほんの1年余り前まではI
  Pリーチャブルな初等中等教育機関が殆んどゼロであったことから考えると、
  非常に短期間に多くの学校に与えられたインターネットを、実際の教育に役
  立てるために活用できるようになるのはまだまだこれからだ、と考えるべき
  であろう。本利用企画は、このインターネットの教育利用という大きなテー
  マに近付くためのごく小さな一歩であり、一つの試行であったと言わなけれ
  ばならない。

    しかし、短期間ではあったが、本企画実施中に多くの先生や生徒が見せて
  くれたインターネットの教育利用の可能性は、現在の100校プロジェクト
  やネットワークの普及が確実に教育の中にもたらす意義を示したものである。
  今後、このような活動がさらに深化・継続されることを期待したい。