2.テーマ「身の回りで起きている問題について」の実施

2.1 計画立案
2.1.1 ねらい
メーリングリストなどの活用により、いろいろな立場の人の意見に触れることを通して、同じ問題について様々な角度から捉える視点を育成する。
立場の異なる多くの人の意見を理解し、それらの相違点を捉える力や自分の考えを整理して表現する能力を育成する。
メーリングリストのやり取りを通して、他の人の意見の内容を的確に捉えるなど情報の処理能力を育成する。

2.1.2 研究グループとの打ち合わせ
企画について、研究グループと3回打ち合わせを行なった。

(1) 第1回研究グループ打ち合わせ
1995年11月23日に第1回研究グループ打ち合わせを行い、主にテーマとスケジュールについての検討を行った。
議題
1. テーマについて
2. スケジュールについて
討議の結果、次のように決定した。
3. テーマについて
* 「高校生:インターネットの未来像」
* 「中学生:方言のおもしろさ(小学校1校含む)」
* 「小学生:うちらのじまん」
4. スケジュールについて
* 11月中旬:ML開設(「方言」最優先)
* 12/1 :討論開始
* 12月中旬:アンケート草案作成/チェック
* 1月上旬 :アンケート作成
* 1月15日:アンケートを各校に配送
* 1月末 :討論終了
* 2月7日 :アンケート回収
* 3月7日 :アンケート集計/報告書原稿作成
* 3月13日:報告書提出

(2) 第2回研究グループ打ち合わせ
1995年12月14日に第2回目の打ち合わせを行った。この時には、アンケートに関しての検討を行った。
議題
1. 現状報告
2. アンケートについて
3. 報告書について
討議の結果、次のように決定した。
アンケートについて
* 次の項目に留意してアンケートを行うことになった。
* 生徒用(小学生用/中高生用)と教師用の3種類を作成
* 学校はペーパーレスではないので、メールと郵送を併用

(3) 第3回研究グループ打ち合わせ
1996年2月20日に第3回目の打ち合わせを行い、アンケートの解析および報告書についての役割分担を行った。
議題
1. アンケート分析
2. 報告書について
討議の結果、次のような課題が浮上した。
3. アンケートについて
* 次の項目に留意してアンケートを行うことになった。
* 生徒用(小学生用/中高生用)と教師用の3種類を作成
* 学校はペーパーレスではないので、メールと郵送を併用


2.2 実施
2.2.1 実施経過
実施経過を以下に示す。


参加校募集 95年10月24日(火)〜96年12月31日(日)
討論実施 95年12月 7日(木)〜96年 1月31日(水)


運営 日付内容対象
10/13事前打ち合わせリーダ
事務局
参加校募集10/24企画案内(概要)
mado-minomawari@cec.or.jp
aimiteno
PC-VAN
Nifty Serve
11/01検討用メーリングリスト開設
kentou-minomawari@cec.or.jp
研究グループ
参加校
11/06テーマに関するアンケート実施研究グループ
参加校
11/22「身の回りで起きている問題について」
ホームページ開設
研究グループ
参加校
11/23第1回 研究グループ打ち合わせ
テーマ決定
研究グループ
11/29討論用メーリングリスト開設
ziman-minomawari@cec.or.jp
hougen-minomawari@cec.or.jp
internet-minomawari@cec.or.jp
参加校
討論開始12/07討論開始案内参加校
12/14第2回 研究グループ打ち合わせ研究グループ
事務局
12/31募集締め切り案内参加校
01/16アンケート送付参加校
参加校募集01/31討論終了の案内参加校
02/19アンケート回収参加校
02/20第3回 研究グループ打ち合わせ参加校
まとめ03/13報告書の提出審査委員事務局


2.2.3 実施経過
(1)参加校の募集
<窓口の設置>
参加申し込み窓口と問い合わせ用窓口の設置を行った。窓口は電子メールのみとし、参加申込みと問い合わせはメールのサブジェクトで分けた。
mado-minomawari@cec.or.jp
参加申込み Subject:sanka-minomawari
問い合わせ Subject:Q-minomawari

窓口はメーリングリストとし、事務局メンバに転送される仕組みとした。
事務局から参加校宛に返信メールを出す場合は、写しメールを窓口宛てに出すようにした。



<概要案内>
10月24日に企画案内を掲載し、企画への参加校を募集した。この時点では企画の詳細が決定していなかったが、参加校の応募準備期間をなるべく長く取り応募しやすくするために、概要案内とした。参加を希望した学校には後日詳細を送るという方法をとった。案内は次のところに掲載した。
* 100校プロジェクトメーリングリストaimiteno@woo.mir.co.jp
* Nifty Serve(FCAI/7番電子会議室)
* PC-VAN(STS/職員室)
* CECホームページ(http://www.cec.or.jp/CEC/)
案内掲載後に次の15校より参加希望があった。
申込日 学校名
10/24 前橋市立第四中学校
10/24 宮崎大学教育学部付属小学校
10/25 学校法人高橋学園 東金女子高等学校
10/26 愛媛県立新居浜工業高校
10/26 大門高等学校
10/26 島根県簸川郡大社町立大社中学校
10/26 名古屋市立西陵商業高等学校
10/31 福岡教育大学附属福岡中学校
11/01 北区立赤羽台西小学校
11/01 長野市立篠ノ井西中学校
11/04 滋賀県大津市立長等(ながら)小学校
12/05 小松工業高校
12/13 三重県立菰野高等学校
12/15 千葉県山武郡芝山中学校
12/27 北区立十条中学校

このうち、三重県立菰野高等学校については「高校生のアルバイト」というテーマへの参加希望であり、高校生のテーマは「インターネットの未来像」に決定後だったため、残念ながら不参加となった。また、学校法人高橋学園 東金女子高等学校からも後日「時期的に実際に生徒が参加できる見込みが少ない」という理由により辞退の連絡があった。
また、次の2校より問い合わせ連絡があった。

連絡日 学校名
10/24 輪之内町立大藪小学校
10/29 福井大学教育学部附属小学校

問い合わせ2校が参加となり、最終的な参加校数は15校となった。
また、参加募集は95年12月31日をもって終了とした。

(2)メーリングリスト
企画の事務連絡、意見交換、情報交換を行うため、メーリングリストを設置する必要があり、研究グループと参加校を登録したメーリングリストを用意した。

本メーリングリストでは、主に事務局から参加校への連絡を行った。全参加校が加入することを前提とし、企画への参加希望のメールが届いた際に、事務局からの返信メールで、メーリングリストに登録していただくように依頼した。

kentou-minomawari@cec.or.jp
登録メンバ
* 参加校
* 研究グループ
* 「身の回りで起きている問題について」事務局

参加校用メーリングリストへのメンバ登録は自動処理を行った。

kentou-minomawari-request@cec.or.jp
自動登録 Subject:subscribe
自動脱退 Subject:unsubscribe

(3)テーマ決定
討論テーマを決定するにあたり、テーマについての簡単なアンケートを参加校に対して行った。その回答を参考に、最終的には研究グループ側で下記の事項に留意し、テーマの検討を行った。
* 年齢差による討論の停滞を避けるため、討論は学校種毎に行う。
* 学校により参加形態が異なるため、教科にはこだわらない。
その結果、下記のテーマに決定した。


小学校の部:「うちらのじまん」 参加校=4校


1. 宮崎大学教育学部付属小学校
2. 北区立赤羽台西小学校
3. 滋賀県大津市立長等(ながら)小学校
4. 福井大学教育学部附属小学校






中学校の部:「方言のおもしろさ」 参加校=7校


5. 前橋市立第四中学校
6. 島根県簸川郡大社町立大社中学校
7. 福岡教育大学附属福岡中学校
8. 長野市立篠ノ井西中学校
9. 千葉県山武郡芝山中学校
10. 北区立十条中学校
11. 輪之内町立大藪小学校






高等学校の部:「インターネットの未来像」 参加校=4校


1. 愛媛県立新居浜工業高校
2. 大門高等学校
3. 名古屋市立西陵商業高等学校
4. 小松工業高校



(4)ホームページ開設

11月22日に情報基盤センターにホームページを開設した。情報としては下記のものを掲載し、討論中のホームグラウンドとした。

* 討論メール参照へのリンク
* 参加校の一覧
* 参加校ホームページへのリンク
* 研究グループメンバの一覧
* 研究グループメンバホームページへのリンク
* 参加募集案内文
* その他

(5)討論用メーリングリスト開設
11月29日に討論を行うためのメーリングリストが作成され、生徒アドレスの登録を開始した。本メーリングリスト宛に送付されたメールは登録者全員に配付される。また、自動的にホームページにもリンクされ、手軽に参照できるシステムを流用した。

* 小学校の部:「うちらのじまん」
ziman-minomawari@cec.or.jp

* 中学校の部:「方言のおもしろさ」
hougen-minomawari@cec.or.jp

* 高等学校の部:「インターネットの未来像」
internet-minomawari@cec.or.jp

(6)討論の実施
討論は95年12月7日から96年1月31日にかけて実施した。司会役として事務局や研究グループが加わり、討論の活性化に努めた。メール発信数としては以下のような成果を挙げることができた。



* 小学校の部:「うちらのじまん」


福井大学教育学部附属小学校 45通
滋賀県大津市立長等(ながら)小学校 10通
研究グループ 11通
事務局 1通
その他 1通
合計 68通



* 中学校の部:「方言のおもしろさ」


島根県簸川郡大社町立大社中学校 2通
千葉県山武郡芝山中学校 2通
研究グループ 2通
事務局 6通
その他 1通
合計 13通



* 高等学校の部:「インターネットの未来像」


名古屋市立西陵商業高等学校 11通
大門高等学校 2通
小松工業高校 1通
研究グループ 9通
事務局 2通
その他 1通
合計 26通



総計 107通



(7)アンケート
<発信>
企画実施後、メールでアンケートを参加校宛に送信した。また、学校社会がペーパーレスではないことを考慮し、同様の内容で印刷したものを各校に郵送した。回収は締め切り期日を設け、メール/郵送どちらでも都合の良い方で返信を可能とした。

* アンケートメール発送 96年1月16日
* アンケート印刷物郵送 96年2月 4日
* 回収締め切り期日 96年2月19日

なお、アンケートは記入者に合わせ、3種類作成している。

* 教師用 :担当教官が記入。
* 中高生用:中学生・高校生の参加者が記入。
* 小学生用:小学生の参加者が記入。中高生用のアンケートを易しくしたもの。

<回収状況>



* 教師用


島根県簸川郡大社町立大社中学校 1通
名古屋市立西陵商業高等学校 1通
長野市立篠ノ井西中学校 1通
滋賀県大津市立長等(ながら)小学校 1通
福井大学教育学部附属小学校 1通
合計 5通





* 生徒用


島根県簸川郡大社町立大社中学校 5通
名古屋市立西陵商業高等学校 31通
滋賀県大津市立長等(ながら)小学校 1通
福井大学教育学部附属小学校 4通
合計 41通



2.2.4 実施結果と考察
電子会議(ネットワークカンファレンス)型利用企画「身の回りで起きている問題について」の目的は、テーマごとの意見交換を通して他校との交流を深め、様々な立場の人の意見に触れ、様々な角度から問題を捉える視点を持ち、異なる多くの意見を理解し、相違点を捉える力や相手の意見に対する自分の考えを整理し表現する力を育成することであった。また情報リテラシーの視点からは、メールやホームページの特長を利用し、多くの情報を整理する能力や相手に分かりやすい情報を発信する能力の養成を目的とした。アンケート作成にあたっては、この目的とコミュニケーションにおける発展段階を踏まえ、最初の意見交換、二回目以降の意見交換、情報交換終了時での質問を設定し、児童・生徒の自己評価と教師の観察を通して、その変容が明らかにできるような配慮を試みた。

以下、児童・生徒の調査結果(41名)、教師の調査結果(5校)の順に分析を行う。

・最初の意見交換に関する質問

Q正確な情報伝達に不安はありましたか
→あった(12%)・少しあった(32%)

Q情報を巧くキャッチできたと思いますか
→できた(15%)・ある程度できた(53%)

「情報発信」と「情報受信」では、明らかに心理的な重さの違いが見られるとともに他人の意見を聞けたことに対して、満足(51%)・ある程度満足(34%)との評価が示された。

・二回目以降の意見交換に関する質問(複数回答可)

Qどのような点に困難を感じましたか
自分の考えを正確に伝えること(20名)
相手が見えないこと(19名)、
意見交換を行う際の時間差(18名)、
相手の考えをきちんと理解すること(13名)
テーマに沿った意見交換を行うこと(12名)

Qどのような点に気を付けましたか
自分の考えを整理して発言できるように(24名)
言葉遣いなど相手に対するエチケット(23名)
できるだけ相手の考えを尊重する(20名)

これらの点に関しては、名古屋市立西陵商業高等学校の山口清子先生が「話すことはできるけど、文章にするのは…」との指摘と一致している。

・情報交換終了時における質問

Q表現能力が身についたと思いますか
→多少ついた(37%)・どちらともいえない(39%)

Qネチケットの学習に役立ちましたか
→少し役立った(41%)・どちらともいえない(24%)

・利用状況の変化に関連する質問
Qパソコンの使用頻度は変わりましたか
→増えた(63%)・少し増えた(29%)

Qパソコンの使用目的は変わりましたか
→変わった(61%)・少し変わった(17%)

Qどのような変わりましたか(記述)
→絵やゲームからネットワーク(インターネット)へ

次に、教師の事後アンケートについて考えてみる。今回、滋賀県大津市立長等(ながら)小学校の松田一彦先生は「3台しかないコンピュータで文章を打たせて、家に帰って私がメールで送る。家で受けて学校に持っていきます」という環境での参加であった。事後アンケートの中で「私にとっても初めての経験なので、今になってこうすればよかったという点はいろいろあります」と、改善点を提起されている。「今回は教科の中に組み込まなかったので、メールのやりとりが休み時間になったり(中略)コンピュータと聞いただけで後込みした児童がいたのではないかと思っています。そのため、国語の作文指導の時間にメールを書く時間をとれば、もっと結果がかわったのではないかと思います。あと一つは本校の問題なのですが、(中略)休み時間と精神的余裕が他のこと(学校行事の準備等)でなくなってしまったことです」と校内調整の難しさを指摘された上で「今後このような企画が有りましたら今回の反省を元にもっと活発にメールの交換をしたいと思いますので是非お知らせいただきたいと思います」と述べられている。
また、今回は十分な情報発信が行えなかった学校からも「国語の先生にインターネットに参加していただける機会ができた」(長野県篠ノ井西中学校)「(今回の)共同プロジェクトを校内への普及の手段に考えておりましたので私自身は参加しないことにしていました」(島根県大社中学校)といった報告や「受信内容を印刷して、担当者(国語の先生)が授業で紹介した」結果、「(生徒たちは)面白がる、何故そのような言葉になるか理由を考える」と実際に授業で活用された事例も報告された。また「発信している生徒がうちの生徒だけだったので、模擬的に行ったクラスのメーリングリストと同じような感覚で反応があまりなかった」(西陵商業高校)や「もっと多くの人たちが利用しないと会話が成り立たない」(福井大学教育学部附属小学校)との指摘もあり、企画する側と受け止める側(学校)のズレを埋める努力が、双方において必要であることが明らかになった。
また、テーマ設定では、高等学校の「インターネットの普及について」が問題とされた。「インターネットが使える環境にある生徒」に真っ正面から問いかける意味合いが強く、生徒の自由発言を期待するには重いテーマであった。アンケートを見る限り、恋愛や趣味といった個人レベルの会話を好む高校生の実態を考慮すべきであったとの反省もある。
最後に、アンケートに見られたそのほかの特徴を挙げておく。今回の企画では、実施時期等の問題もあるが、教師にとって情報発信・情報受信の回数は不満の残る結果となった。しかし、意外にも児童・生徒では満足度の高い結果が得られた。これは「身の回りで起きている問題」との距離の置き方にも関係あるが、それ以上に児童生徒にとって「受信」することの意味が大きく、情報発信を行わない、いわゆる周辺参加であっても、それなりの満足が得られることに関係があるようだ。また、教師の関わりも重要であった。長等小学校では児童に伝達する際「プリントを本人に渡すとともに、あと一枚を掲示してみんなに見せた」ことが「見知らぬ相手から返事が来たのでとても喜んでいた。また返事が来ないときはそれをまだかと待っていた」という「ワクワクする気持ち」を呼び起こしていると考えられる。さらに、福井大学附属小学校の宇野秀夫先生の「励ましたり、共感したりするような内容を書くような」指導が、生徒たちの「変容」に結びついたことは、その後の意見交換の中から読み取ることができる。
ネットワーク社会で大切なものは、<ハード>ではなく、子供達の相手を思う「優しい心」とそれを支える教師の「情熱」という<ハート>ではないだろうか。こうした「まごころ」さえあれば、たとえ相手が見えなくとも相互に信頼関係を築いていけるだろう。


2.3 教育面での効果・課題に関する調査
2.3.1 カリキュラムとネットワーク利用
今回の試みを通じて、特に中学校及び高等学校のカリキュラムの濃密性が浮き彫りになり、このようなプロジェクトの実施には、各学校の年間教育計画との整合性が、大きな課題の一つであることが確認された。このことは、裏を返せば、事前に時間的な余裕を持って、各学校のカリキュラムに組み込む作業を行うことによって、このようなプロジェクトが、十分に円滑にかつ効果的に展開され得ることも、示しているものと考えられる。
小学生については、積極的に自分たちの「じまん」できる情報を発信するとともに、それへの反応や、他者の「じまん」を紹介した情報を心待ちにし、情報交換自体を楽しんでいる様子がうかがえた。これは、現代の子供たちに不足しがちな社会性の育成,及びそれを支えるコミュニケーション能力の育成という点において、電子会議(ネットワークカンファレンス)型利用企画が非常に有効に機能し得るものであることを示している。
また、教師の適切な働きかけもあって、子供達同士の情報交換を通じて、互いに励まし合ったり共感し合ったりする姿勢も培われていた。お互いのよさを認め合うということは、民主的で平和的な社会生活を展開するための基盤となる事柄である。
さらに、ふだんの授業の中では、教師から生徒へという方向での情報の流れ方が多いのに対して、電子会議(ネットワークカンファレンス)型利用企画に参加することを通じて、自分から主体的に情報を発信する能力や態度が養われている点にも、重要な意義が認められる。
中学生については、会ったこともない人に対して自分たちに関する情報を発信することに、初めのうちは抵抗感も覚えたようであるが、やがて楽しんで行うようになっている。ここでは、青年前期という、自己の内側に眼が向きがちな発達段階にある中学生にとって、コンピュータネットワークを活用した情報交換の場が、自己を他者に向けて開いていく上で、また、他者との間の時間的,空間的な壁を低くしていく上で、有効な手立てとなり得るものであることが確認されたといえよう。
また、各地の中学生は、自分たちの日常使用している言葉について、方言であるかいなかということをふだんは余り意識しないでおり、今回の試みを通じて、改めて、自分たちの言語の特性に気付いたという様子もうかがわれた。このことは、コンピュータ通信によって異なった地域の異なった文化を持つ人と接することが、自分たちの個性を再確認させ、かつ、お互いの個性を尊重しあうことにつながるものであることを示している。
高校生については、電子会議(ネットワークカンファレンス)型利用企画への参加を通じて、「自分の意見を気楽に表明できるようになった」、「視野が広まった」、「自分が一段と大人になった」などの感想が出されていた。このことは、国際化や情報化といった、社会の変化に主体的に対応することのできる人間を育成する上で、今回のプロジェクトが有効に作用し得る力を持つことを、明確に示すものであるといえよう。
総じて、今回のプロジェクトは、電子会議(ネットワークカンファレンス)型が、広い視野に立った多角的なものの見方や、自己理解と異文化理解の深まり、コミュニケーションを通じて共に心豊かに生きようとする公民的資質などを育てるものであることを、示したといえよう。

2.3.2 ネットワークの光と影
(1)子ども達はどのようなテーマに積極的に対応するか
・校種別テーマは、子ども達の要求、願いに対応しているのか疑問である。テーマを設定するためには、事前のイメージ調査をしておく必要がある。
・特にテーマは、子どもが生活経験したことがらから選定するのよい。例えば、「学校の給食」「家の自慢」等が考えられる(自己対象化できるもの)。または、現実的な課題であり、切実な課題あることが望ましい。例えば、「不良債権に税金を投入することはよいか」「今、海はピンチだ。あなたはどうするか」などの問題を提示する方がよいと考える(「いのち」「環境」問題等)。

(2)ネットワークの役割
・インターネットは、双方向コミュニケーションの1つの手段であって、目的ではない。インターネットを使うことによって、「たて」「よこ」の人間関係を調整する役割を果たすことである。
・遠いところの見えないもの、事柄が、手に取るように見えるようになり、実感的、共感的なコミュニケーションがきることである。
・インターネットを用いて、自分の思いを込めて、伝達・表現することができる。このことによって、子どもの創造性、着想力を形成することができる。
・インターネットを使うことは、ことがらの情報交換をすることだけでなく、相手のよさを認めながら自らを振り返るという人間的生き方を学ぶことが出来る。

(3)本プロジェクトの役割(今後のあり方をめぐって)
・本プロジェクトは、ユーザとメーカとそれを媒介する教師及び研究者とが一体となって、インターネットの果たす教育的意味、価値を総合的に検討することを今後も継続的に展開する必要がある。
・インターネットの持つ機能を単なる長短で決めることではなく、今回の「身の回りで起きている問題」についての電子会議(ネットワークカンファレンス)型の特徴を生かし得るか、問題と思われるものはないか、つまり、ネットワークの光と影の部分に着目した分析、検討が必要である。
・インターネットの普及の裏に見えかくれする人間的な心くばり、人間らしさをどう表出できるか。単なる個人的キャラクターの問題、基礎的技能の問題とかたづけられることであろうか。これらの「問い」に適切に応えられるようにすることが、インターネットの持つ価値を生みだし、生かせる道であろう。

2.3.3 いくつかの課題
今回の実験によって得られた課題を以下のようにまとめて述べる。

(1)時期の問題
一番の問題は、時期をいつにするかということであった。10月や11月の文化祭や体育祭の時期であれば好都合であったが、開始時期が遅すぎた。12月に入ると試験等で生徒が忙しくなる。進路の問題も絡んで、入学試験が気になってなかなか実験に参加できないという問題があった。時期については、このような実験を継続するのは、事前によく企画する必要がある。特に中学校と高等学校では重要である。先生方も忙しい時期では、協力することができにくい。

(2)教科との関わり
茂木先生も指摘されているように、教科との連携が難しい。ネットワークの教育利用では、正解が只1つに決まるような内容はふさわしくない。ネットワークで議論する必然性がないからである。お互いの意見や考えを共有できるような内容がふさわしいのである。しかもそれが、グローバルであれば、もっと効果的である。したがって、環境問題や人間の問題平和の問題等が適しているが、教科との連携が難しいという訳である。さらに方言調べのテーマで中学校で実験したが、これも教科には教える時期があるので、その時期と一致しなければ、教科との連携がさらに難しくなる。

(3) 活動時間の課題
実際の授業でネットワークを活用するとなれば、児童・生徒の人数分だけのコンピュータの台数が必要であり、これらがネットワークに接続されていなければならない。このような設備をもっている学校はほとんどない。したがってほとんどが放課後とか昼休みの時間ということになる。数台のコンピュータを限られた時間で使うとなれば、自由に使えないことは明らかである。中学生や高校生では、放課後の部活動等で時間が限られている。活動の時間をどこに設定するかは、現実的に難しい問題である。

(4)テーマの課題
情報交換できるテーマの選択は、重要である。今回の高校生のインターネットの未来像というテーマは、難しすぎたかもしれない。小学生のうちらの自慢のテーマは、自慢するのであるから、情報を発信したいという気持ちが起きたかもしれない。逆に中学生の方言については、この年齢では恥ずかしい気持ちがあって、情報を発信しにくい点が考えられる。いずれにしてもどのようなテーマを選ぶかは、意見の活発さに直接反映される。

(5)意見交換の活性化の課題
メイルの中で、高校生がいくら問いかけても反応がないと面白くないと書き込んでいた。確かに反応がないほどつまらないものはない。反応があるかどうかが、意見交流の活性化の鍵になる。ではどうすればいいのか。テーマの設定も重要であるが、次のコーディネータ役が必要である。

(6)コーディネーターの課題
児童・生徒に任せていれば、意見交流がうまくいく訳ではない。コーディネータ役が必要であった。児童・生徒だけでは、勝手な意見を述べるだけで、議論が深まらない。かといって教師が指導すれがいいかといえば、そうではない。指導ではなくて、ガイド役やコーチ役か、コーディネータ役が重要なのである。どんな会議でも必ず司会者がいて全体を運営するように、司会者が必要である。

(7)エチケットの課題
このようなグループの会議では、共通のルールが必要であることは言うまでもない。このエチケットも問題ははじめはこのような小規模で実践し、大きく輪を広げていくような方法が、効果的であろう。その時のルールもグループの間で自然に了解されるような方法が望ましいが、このエチケットの問題はさらに検討する必要がある。
本プロジェクトを通して経験的に得られたいくつかの課題を述べたが、にもかかわらずネットワークの教育利用は大きな意義と教育を変革する可能性をもっている。高校生がメイルの中で、世界中の人々と交流できることは信じられないようだと述べている.文字どおり世界中の人々と交流することが、現実に起きたのである。世界中のコンピュータとつながっていることは、それらの情報をすべて利用できることと同じである。インターネットは学校にルネッサンスのような夢を与えてくれた。だから今この実験に意義がある。それは、年齢、国籍、性別、職業等のすべての壁を取り除いてくれたのである。筆者もこの実験を通して、小学生と交流した。初めての経験であった。不思議な感覚がしたが、新しい変革を身近に感じた。このような学校に訪れた明るさを今後も大切にしていきたい。