5. 電子会議型利用企画の教育面での効果・課題に関する調査

5.1 電子会議型利用企画実施の教育的効果

今回の利用企画の実施では、実施の期間が短期間であったこと、および冬季休業を間にはさんだこともあり、検証項目を十分に検証しつくせてはいないが、以下の点について教育的な成果が得られた。

・通常の授業においては、教師から生徒へという方向での情報の流れ方が多いのに対して、電子会議型利用企画では、生徒自らが主体的に意見を発信する能力や態度が養われている点にも、重要な意義が認められる。
・ネットワークを利用した会議では、当初は慣れていないこともあり、抵抗感も覚えるようである(特に高学年程)が、だんだんと楽しみながら意見を発するようになる。特に内に閉じこもりがちになる、発達段階の子供にとっては、コンピュータネットワークを活用した情報交換の場が、自己を他者に向けて開いていく上で、また、他者との間の時間的,空間的な壁を低くしていく上で、有効な手立てとなり得る可能性がある。
・コンピュータ通信によって異なった地域の異なった文化を持つ人と直接、意見の交換をすることは、自分たちの個性を再確認させ、かつ、お互いの個性を尊重しあうことにつながるものであることを認識する手だてとなる。WWW等による情報だけでは、十分に得られない体験となるものである。
・電子会議型利用企画への参加を通じて、「自分の意見を気楽に表明できるようになった」、「視野が広まった」、「自分が一段と大人になった」などの感想が出されていた。このことは、国際化や情報化といった、社会の変化に主体的に対応することのできる人間を育成する上で、今回のプロジェクトが有効に作用し得る力を持つことを示すものであるといえる。
・遠いところの見えないもの、事柄が、手に取るように見えるようになり、実感的、共感的なコミュニケーションがきることである。
・インターネットを用いて、自分の思いを込めて、伝達・表現することができる。このことによって、子どもの創造性、着想力を形成することができる。
・インターネットを使うことは、ことがらの情報交換をすることだけでなく、相手のよさを認めながら自らを振り返るという人間的生き方を学ぶことが出来る。
・電子会議では、時間が経過するに従って参加者の気持ちが緊密に連結し,同じ教室で議論しているような雰囲気になってくる。特に、その過程で文字だけでなく、映像等の情報を混ぜると、より効果を高める。

総合的にまとめると、電子会議型利用企画は、広い視野に立った多角的なものの見方や、自己理解と異文化理解の深まり、コミュニケーションを通じて共に心豊かに生きようとする公民的資質などを育てる可能性を持っているといえるであろう。


5.2 電子会議型利用企画実施からみた今後の課題

電子会議型企画の実施を通じ以下のような今後の課題をまとめることができる。技術的的な問題については、電子会議に限られるものではないであろ。

・このような企画の実施には、各学校の年間教育計画との整合性が、大きな課題の一つである。特に中学、高等学校ではカリキュラムとの関連付けが難しい。しかし、事前に時間的な余裕を持って、各学校のカリキュラムに組み込む作業を行うことによって、このような企画が、円滑にかつ効果的に展開され得ることも可能であろう。
ただ、それをとりまとめる支援の仕組みも必要である。
・企画の実施では、時期をいつにするかということも大きな問題となる。学校行事との関りも考慮する必要があるだろう。
・実際の授業でネットワークを活用するとなれば、児童・生徒の人数分だけのコンピュータの台数が必要であり、これらがネットワークに接続されていなければならない。特に電子会議のような内容では、効果に関る部分が大きい。しかし、実際は、このような設備をもっている学校はほとんどなく、放課後とか昼休みの時間に利用するということになる。数台のコンピュータを限られた時間で使うとなれば、自由に使えないことは明らかである。中学生や高校生では、放課後の部活動等で時間が限られている。活動の時間をどこに設定するかは、現実的に難しい問題である。
・意見交換を行うテーマの選択は、重要である。発達段階によってもテーマの性格が異なる。どのようなテーマを選ぶかは、意見の活発さに直接反映される。
・電子会議の実施における指導者の関りかたに、非常に大きな役割がある。しかし、指導者の経験が少なく、事例がほとんどないため、試行錯誤の状態である。
・しらない者同士の会議では、共通のルールが必要であることは言うまでもない。このエチケットも問題ははじめは小規模で実践し、大きく輪を広げていくような方法が、効果的であろう。その時のルールもグループの間で自然に了解されるような方法が望ましいが、このエチケットの問題はさらに検討する必要がある。
・電子会議では、画像等を利用すると親近感をもち、議論が深まる傾向があるが、技術的に手間がかかったり、慣れない指導者にとっては難しいものもある。今回実施したCu-SeeMeを使った会議でも、回線の調整にかなりの専門家が関った。