1 共同学習型利用企画の実施

1.1 概要

 技術革新の進展、高齢化社会の到来、環境問題の地球的広がり等、激動する社会環境のなかで、教育上の諸問題は、高度化、多様化の度合いが一層拡大してきており、総合的な問題解決が望まれている。日々刻々と進展しつつある高度情報化社会にあっては、コンピュータやネットワークの先進的な機能を活用することにより、新しい学力感に基づいた「能動的な学習」の実現が重要視されている。

 こうした、知識習得型だけではなく、将来にわたって主体的な学習能力を育成していくため 、これからの時代を担う子供達に問題に対する考え方や判断力、思考力を育てていくことに配慮することが重要であると考えられる。

 本共同学習型利用企画では、先進の情報技術を用いて新しいコンセプトの教育システム構築と、広域ネットワークの利用技術をベースとした広域的共同学習の実戦研究により、ネットワーク利用環境上の諸問題解決のための有効な知見が数多く得られることを目指した。

 本調査研究では、学校共域における共同学習を取り上げ、インターネット接続された小中高等学校を対象に、インターネットの広域性を活かし教室や学校の枠を越えた学習の企画を通じ、ネットワーク上で教師・児童生徒が協調しながら問題解決を進めていく実践過程上で有効な知見を得ることを目的とした。

1.2 企画実施のためのテーマの検討

 本調査研究では、共同学習場面において教師と児童生徒が協調しあいながら問題解決を進めていく過程における課題を検討するため、以下の3項目に分けて調査研究を進めた。

 ・ 広域ネットワークを利用した共同学習の利用計画策定

 ・ 広域ネットワークを利用した共同学習の利用企画の実施

 ・ 広域ネットワークを利用した共同学習の利用企画の運営支援

以下、各項目の作業内容について示す。

(1) 利用企画の実施計画策定

 ネットワークを利用し児童・生徒が、教室や学校の壁を超えた共同学習を行うのに適切な内容、効果的な方法について検討した。共同学習を前提として、実現が要求されている機能、利用場面として以下を想定した。

・教師・児童生徒が共同で調べ学習、研究や作品製作が行なえる。

・様々な種類の情報を扱うデータベースを利用して必要な情報を入手、提供できる。

・研究結果等をプレゼンテーション・ツールを使って発表し、批評しあえる。

・共同作業の相手の距離を意識せずに、上記の作業をスムーズに移行しながら行なえる。

 学級内のグループによる共同学習との比較により、ネットワークを利用した共同学習の特色を明らかにする。 実際の研究テーマ設定にあたっては、以下の4つの研究テーマを選定し、利用企画の具体的計画を策定した。4つのテーマの概要を表1に示す。

表1 研究テーマの概要と選定理由
テーマ名概 要 ねらい選定理由
全国市場調査 各地でも品物の種類や価格調査を行い、物価や季節・地域による商品の違いをまとめる。 ネットワークの広域性を利用し、地域性の違いの認識、情報の整理・活用の仕方を身につける。 社会学習の例として適切。ネットワーク上の電子商業行為は今後拡充する見通しである。
特定テーマのデータべースの共同製作 名所DB、算法解法DB、県の鳥・花などのDBの制作 FTPの利用により画像データ等バイナリデータの転送ができるようにする。キーワード等を自ら設定することによりデータベース活用能力を育成する。 ネットワーク上で、自らデータベースを活用できる能力は、育成すべき能力として優先度が高い。格納する内容として種々拡張性が期待できる。
環境に関わる合同調査 酸性雨、環境破壊、大気汚染等各地の化学的な測定を行い、全国的に比較する。 Newsやメーリングリストへの情報提供能力、収集能力を育成する。 いわゆる「環境学習」の目標として設定されている、積極的に情報を活用し環境に対する理解を深めるに合致したテーマである。
生物生息調査 動植物の生息分布マップを作成したり、渡り鳥の渡りの様子・桜前線の移動等を実感してとらえたりする。 Newsへの情報の投稿や情報の収集能力を養う。画像等のバイナリデータが扱えるようにする。 理科学習の例として適切。マルチメデイア情報を活用することにより、地域差等の実感体験も高まり、学習効果が期待できる。

 次の内容で利用企画の計画策定を行なった。

 ● 企画実施の目標と研究評価の視点の設定

 ● 学習テーマの目標(効果)と内容の検討

 ● 学習内容の詳細化

 ● 共同学習における学習評価の内容と方法

 ● 共同学習を実施運用していく上での課題

 ● 共同学習環境を構築するための技術的課題

 

図1、図2に環境に係わる合同調査と生物生息調査に係わる概念イメージを示す。

図1.1 「環境に係わる合同調査」に係わる概念イメージ

図1.2 「生物生息調査」に係わる概念イメージ

(2) 利用企画の実施

1)事務管理

 広域ネットワークを利用し企画に参加できる学校等への参加方法、実施方法等を広報し参加者の募集、集約を行った。

 2)で設置を予定している研究グループ運営に係わる管理事務および、その他企画実施に係わる事務的作業全般を実施した。実験評価システムの利用上における実用性をより確かにするため、ヒアリング等により、先進的教育システムにおける共同学習環境に対する要求事項や導入・利用の条件の明確化や、問題点を調査した。

2)研究グループの設置、管理

 企画毎に教育工学またはネットワークの教育利用を積極的に研究している研究者をリーダーとした研究グループを設置した。グループのメンバーはテーマ実施に際し適切な助言のできる教育関係者や教育に関心を持つその他の方々から構成するものとした。4つの学習テーマ毎にワーキンググループを設置した。100校プロジェクトの参加校の先生がたで本テーマに賛同いただいた学校先生方より選定し、協力を依頼した。

 企画を円滑に進めるために、研究グループのミーティング(オフライン)を実施した。加えて、オンラインの意見交換を定常的に支援した。設置グループ構成を以下に示す。
テーマ名取りまとめ 協力メンバー参加校
全国市場調査 三橋 秋彦先生

(東京都立中央区墨田中学校) 

永野 和男 教授(静岡大学)

和田 芳明さん

(日本銀行)

8校
特定テーマのデータべースの共同製作 成田 雅博助教授

(山梨大学)

栗田 真司助教授

(山梨大学)

長瀬 広先生(愛媛県新居浜市立東中学校)妹尾 晶さん

(鳴門教育大学修士課程)

17校
環境に関わる合同調査 長沢 武 副校長(広島大学附属福山中・高等学校) 中根 周歩教授

(広島大学)

40校
生物生息調査 苅宿 俊文先生

(東京都立港区神応中学校)

斉藤 等先生

(東京都港区立神応小学校)

4校

  

(3) 広域ネットワークを利用した共同学習の利用企画の運営支援

 企画の実施にあたっては、メーリングリストやニューズグループ等を利用し、意見やデータ等の交換を行った。

 さらに企画に適したインターネットのサービスを情報基盤センターを利用し、企画の運営支援を実施した。

 ネットワークの管理/運用にあたっては、プロジェクトの円滑かつ効率的な実施と安全性に対して特に留意し、以下の点に配慮してプロジェクトを遂行した。

 ・メーリングリストの管理に当たっては、メンバー同士の情報交換が円滑に進むよう配慮した。また、エラーメールの扱いには特に注意し、エラーメイルのメンバへの配送、ループなどが発生しないよう対処した。

 ・IP接続している学校に対しては、WWWによるリクエストにも対応できるよう、

WWWのサーバを立ち上げ、調査の進行状況や過去のメール、ニュースでの議論などを

参照できる環境を提供した。サーバへ入力された情報は、必要に応じて集計する環境を提供した。

 ・参加者が収集した情報を自由に転送/登録できる環境を提供した。

 ・WWWやftp,telnetなどのインターネットサービスに対してその利用状況を監視し、不正利用がないかどうかをチェックした。

(2)広域ネットワークを利用した共同学習の教育面での課題

 ネットワークを利用し共同学習を行うにあたり、セキュリテイやプライバシー保護等、留意すべき事柄、障害となりうる事柄等を検討し、これらを踏まえネットワーク技術に依存する以外の教育的側面で課題となる点、解決方法を検討した。