2 テーマ「全国市場調査」の実施

2.1 計画立案

 この共同利用企画「全国市場調査」は、いくつもの側面から、多様なねらいを内包している企画である。価格を扱う学習ということから、経済学習の側面。地域比較をするところから地理学習の側面。地域の物価を調査するところから、地域理解の側面。データ収集のための調査活動を伴うことから、調べ学習の側面。データを利用して分析を試みるところから、情報活用能力の育成の側面。継続的な活動を伴うことから、部活動なり委員会活動のような特別活動の側面。以上の側面からの視野に立つねらいがある。

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│経済学習の側面       │                        

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 国民生活を学ぶ上で、価格の学習は経済学習の重要な項目である。従って、各校種で価格の学習は重要な位置づけがされている。小学校では生活科で買い物の学習、社会科で商店で働く人々、中学校では社会科公民的分野の経済単元や消費者教育の一貫で取り扱われ、高等学校では公民科や商業高校においてマーケティングの学習などで扱われている。公民的分野または公民科での価格の学習は、価格の決定や物価の変動について学習する。ただし地理的分野や地歴科地理でも、価格変動は地域間の流通・物流の学習で取り扱われ、経済学習以前の既習事項となる場合もある。

 現在多様な経済活動が行われているために、価格決定の要因はひとつに限定できない。市場調査では、そのような多様な要因を含んだ価格が調査結果として出されるであろう。そのような諸要因を議論して挙げ、丹念な調べ学習の中から結論付をすることによって、現代社会の経済活動を学習するのは、有意義である。

 このように全国市場調査は、経済活動のしくみを追究する経済学習のてがかりとしていくねらいがある。

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│地理学習の側面       │                        

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 価格の決定要因には、地理上の背景も重要な要素である。中学校地理的分野では、宮崎県・高知県の促成栽培と長野県・群馬県の高原野菜を取り上げて、なぜ季節をづらして野菜作りをするのか考えさせている。どちらも気候を利用して、他地域と採り入れ時期をづらすことによって高値で販売することを目的にしている。また、産地と消費地の価格差、雪国や遠隔地の価格差など、地理上の要素や背景が検討される。つまり価格の学習を通して日本の諸地域の特色を学習することができる。また、これまであまり地理学習で取り上げられなかった物流の視点も得ることができよう。

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│地域理解の側面       │                        

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 市場調査によって集められるデータは、生徒自身が住んでいる地域である。調査結果の登録は、調べ学習の発表の場と考えられる。地域の価格調査によって、物流や物価などの経済活動面から地域理解がすすむと考えられる。身近な地域を理解することは、生活者としての視点を期待できる。この活動を通して、生徒は生活者として地域を説明することができるようになると期待できる。

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│調べ学習の側面       │                        

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 適切な課題を設けて行う学習が、学習指導要領に示されている。課題解決学習の主な学習形態は、調べ学習である。多くの場合調べる手段は、新聞、書籍、放送である。これに電子的に調べる手段がある。パソコン通信の商業データベースを利用することも可能である。しかし、情報活用能力が未熟な段階では、出来合いの学習用のデータベースが必要となる。また、自ら観測し、データを蓄積し、そのデータを活用することも情報活用の重要な手段となる。このようなところから、調べ学習の発達段階にあったデータベースの構築も大切なねらいのひとつとなる。

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│特別活動の側面       │                        

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 現在、生徒全員にインターネットの環境を保障できない。そこで多くの学校が、調査活動を部活動や委員会といった限定された生徒によっている。学習のリーダーを育てているとも言えるが、この場合、特別活動の枠で行われる。教師主導で生徒の自発的行為を期待できるものではない。この調査活動は、特別活動によって自己教育力の育成も期待できる。

2 実施

2.2.1 実施概要

 参加校は、3月現在で以下の8校である。

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  │北海道歌志内市立歌志内中学校                    │   

  │茨城県立岩井高等学校                       │   

  │栃木県立小山園芸高等学校                     │   

  │静岡県清水国際学園                        │   

  │京都府立商業高等学校                       │   

  │兵庫県立神戸商業高等学校                     │   

  │三重県立菰野高等学校                       │   

  │東京都墨田区立墨田中学校                     │   

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 このうち、3月中旬までにデータを入力したのは4校であった。

 調査項目は6項目と郷土自慢的なものの7項目を設定した。

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  │ イカ              │                   

  │ いちご、            │                   

  │ ピーマン、           │                   

  │ キャベツ、           │                   

  │ カセットテープ、        │                   

  │ フィルム            │                   

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 以上を調査項目として指定した。イカはどの港でも水揚げがあって、調べやすく、地域差も期待できるだろうと予想できる。ただし、比較するために価格を標準化しなくてはならない。一杯としたがイカには大きさにばらつきをなくすために、重量も調べている。いちごは、東西に産地があり、都市における需要もあるためおもしろいデータが得られるだろうと考えている。ピーマンとキャベツは、地理の教科書で、それぞれ促成栽培と高原野菜の学習で価格変動と産地を比較して学習する。また、工業製品の価格は、流通の問題で価格が左右される。比較ができるように、会社名、製品名などを示すようにしている。このような視点の他に、その土地ならではの情報が加わえることにより、膨らみがでてこよう。

価格について、客観的な数値を突き詰めてはじき出すことは、していない。それは、報告された価格が、いかに客観的なものかよりも、価格の決定要因を推測するところに関心がある。

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  │・全国の最新市場比較       │                   

  │・絵で見る全国の最新市場比較    │                   

  │・地図で学ぶ地方別調査報告     │                   

  │・地名で選ぶ地方別調査報告     │                   

  │・調査結果の登録         │                   

  │・地域自慢のコーナー       │                   

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 「全国最新市場比較」は、表計算のままダウンロードできるようになっている。

 「絵で見る全国の最新市場比較」では、絵の大きさによって一目瞭然の表し方に工夫されている(図2.1〜2.3)。「調査結果の登録」は、入力しやすいような工夫をしている(図2.4)。産地は県名を応えさせている。「地域自慢のコーナー」は、各学校で地域学習をする動機付と、他校が物価の情報を判断するための素材が提供される。

図2.1 絵で見る全国の最新市場比較(1)

http://www.cec.or.jp/cgi-bin/cgiwrap/~satoshin/market_alldata2.pl

図2.2 絵で見る全国の最新市場比較(2)

http://www.cec.or.jp/cgi-bin/cgiwrap/~satoshin/market_alldata2.pl

図2.3 絵で見る全国の最新市場比較(3)

http://www.cec.or.jp/cgi-bin/cgiwrap/~satoshin/market_alldata2.pl

図2.4 調査結果の登録画面

http://www.cec.or.jp/cgi-bin/cgiwrap/~satoshin/market_passwd1.pl

2.2.2 実施成果

 全国市場調査は、参加募集を11月下旬に行った。参加の意思を表明したのは、上記の8校である。

 現段階での成果は、ホームページとそこに入力された4校分のデータである(図2.5)。4校分ではあるが、その内一校は3回データ入力している(図2.6)。このデータを教科指導に活用したという例は聞かない。その中で、議論を呼び起こすデータであったことがなによりの成果であろう。

 「地域自慢のコーナー」は、地域学習の動機付と文化の地域的背景を推測するための手段として設けた。しかし、情報は現在「事例1 墨田中学校」のみで、このコーナーの設置が有効であるか否かの判断はつきにくい。

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│ 事例1                                  │

│墨田区立墨田中学校の地域自慢                        │

│ 東京都墨田区〜                               │

│ 東京都墨田区。墨田とは隅田川からとった名前です。謡曲「隅田川」が有名ですが│

│それにちなんだ神社も近くにあります。浅草の対岸、業平橋、押上、曳舟が最寄り駅│

│になります。わたしたちの町は、墨田区向島そして押上です。アサヒビールのビルは│

│高速道路からもよく見えて有名ですね。春のうららの隅田川。隅田公園の桜は見事で│

│す。                                    │

│                                      │

│                                      │

│                                      │

│                                      │

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図2.5 参加校により登録された最新データ(地域比較)

http://www.cec.or.jp/cgi-bin/cgiwrap/~satoshin/market_alldata.pl

図2.6 参加校により登録されたデータ(時系列)

http://www.cec.or.jp/cgi-bin/cgiwrap/~satoshin/market_localhis.pl

2.3 教育面での効果・課題に関する調査

 立ち上がりが遅かったために、データが集め切れているとは言えない状態である。これは、各学校の事情も重なってしまったこともある。3月12日現在で、4校のデータの入力があった。データは4校のデータだけでも興味深いものになっている。例えばいちごの価格は、石垣苺として有名な清水市の学校の価格が最も高かった。また、イカの価格は産地の北海道と並んで大消費地の東京が安かった。いったい流通はどのようになっているのだろうか。様々な疑問を投げかけられることだけでも成功していると言えよう。

 しかし、実践事例は、指導事例についても活動例についてもほとんどなく、実践研究としてまだ不十分である。また、教科指導において限定された単元で扱うデータを年間通して調査し続けるためには、まだ動機付が十分与えられるとは考えづらい。もっとホームページ内で生徒の疑問や問題意識に応える内容があるとよいのではないだろうか。また、調査活動を通して発見を発表し合う場が、「調査日記」「郷土自慢」と限定されている。

 価格に関する段階的な取り組みを期待するために、市場調査や産物などのコメントを加えていける。このコメントは専門家や詳しい立場の人によるものである。このような説明が新しい展開に欠かせないと考える。

 今後、生徒の疑問や問題意識から、さらに多様な活動を呼び起こし持続させる手だてを考えていくとともに、実践事例の積み重ねによって、この取り組みの有効性を示すことができると考えている。