5. テーマ「生物生態調査(一本の樹)」の実践

.1 計画立案

(1) はじめに

「インターネットは『道具』であるということ。」

 学校の現場の先生方と話をしていると「インターネットを学校でなぜ使わなくてはいけないの?」という素朴で根元的な問いが出されることがよくある。

 そして、その答えとして「インターネットは、これからもっともっと使われるようだから、子どもたちも早めに慣れておく必要があるから使うんでしょ?」ということをよく聞くことがある。これは、インターネットブームという現在の状況を考えての答えである。

 最近のインターネットブームは、とにかくインターネットに触ることができれば目的を達成してしまうものが多い。しかし、100校プロジェクトは、この「インターネット」を学習の道具として活用していくときにどんな使い方ができるのかを探っていくということで本質的に大きな違いがある。

 ここで学習の「道具」としてのインターネットを考えていくときに、「道具」の意味をもう一度見直していきたい。

 コンピュータという「機械」を子どもたちの学習の「道具」として活用していくということは、どんなことなのだろう。「機械」と「道具」には、どんな差があるのだろう。

 私自身は、次のような比喩を用いて説明することにしている。それは、「ジュースの自動販売機と金槌は、使い方ではどんな違いがあるだろう?」というものである。

 ジュースの自動販売機(機械)は、110円を入れて好きなジュースのボタンを押すという「決まった手続き」をすれば、ジュースが出てくるけど、ただ、そのためだけのものである。それに対して、金槌(道具)は、釘を打つのが主な目的だけど、使っている人によっては、肩たたきになったり、重石になったり、下手をすれば、人間の頭を割ってしまう凶器にもなることができる。つまり、機械は一つの目的だけを定型的な命令でしか使えない。それに比べて、道具は使っている人が何に使うかによって幾通りにも使うことができる。

 インターネットも教育の内容の問題ではなく、「道具」なのである。だから、その「道具」としてのインターネットを上手に使っていくかは、使い手の問題になってくるのである。

 授業のデザイナーとしての教師の存在は、どの場面でも大きなポイントを握っている。そして、インターネットという道具に教師がどのような意味を与えて授業の中で子どもたちとインターネットの出会いを作っていくかは、その授業のデザイナーとしての教師が決めていくことなのである。教師は、インターネットという道具を使ってどのような働きかけを子どもたちにしていくかという問題がもっとも大切な課題なのです。

(2) 「生物生態調査(一本の樹)」の目標

 インターネットのように電子メールのやり取りだけではなく、ホームページという掲示板を各自が持っていくことができるような仕組みのメディアを教育の中で活用していくときに一番適していると思われるものの一つに「定点観測の共有化」型の活用がある。

 これは、定点観測を自分の学校で行い、それだけでも授業としては、成立していくが同じような定点観測をしている学校とデータの交換をしていくことで子どもたちに他の地域と比較することで自分たちの周りの自然だけを観測していたことに広がりを持たせた授業である。

 また、「学びは子どもたちの生きている世界の出来事として存在する」という言葉のように、学習は、子どもたちにリアリティーのある納得感を持たせていくことが大切なのである。ともすれば、コンピュータなどを活用した学習には、リアリティーが欠けているや体験がないなどの批判的な意見が寄せられることが多いことも配慮して、子どもたちの学習をフィールドワークを基盤にしたものにしていくことが大切である。

 以上のことを考慮して、「生物生態調査(一本の樹)」の目標は図5.1のように設定した。

 

 


図5.1 「生物生態調査(一本の樹)」の目標

(3) 「生物生態調査(一本の樹)」の構想

 「生物生態調査(一本の樹)」を支えていく授業観としては、図5.2のようなものを考えてみた。

 今回のプロジェクトに限らず、子どもたちは、自分の目を通して、新しい発見や疑問に感ずることを大切にしていくのが授業である。そこでは、子どもたちは、知識を得るだけではなく、自分の感じ方や考え方を常に再構成していくことが望まれている。そのような意味からすると「授業は自分らしさとの出会いの場」なのである。

 そして、「授業」は、「子どもたち」「教師」「メディア・道具」の三つで構成されている。この構成する三つの要素を今回の「生物生態調査(一本の樹)」では次にような展開が望まれているのである。

 「子どもたち」は、自分たちがそれぞれの学校のある樹(桜)を観察していきながら、そのゆっくりではあるが着実な変化にまず目を向けていくことである。そして、普段何気なく見過ごしていた自然の変化に気づき、その変化が気温などの条件によって起こるという自然界の「必然」にまで、観察の目が拡がることが望ましい。

 「教師」は、学習素材としての「生物生態調査(一本の樹)」を自分の授業や学校の授業の中での位置づけを明確にしながらも、教科や学年の枠にこだわらず、「自然」と「子ども」とのかかわりを大切にしていくことを第一にしていくことが望まれる。また、子どもたちが身近な自然に目を向けていくときに興味・関心が高まるような樹に関する指導や観察を進めていく上での方法などのアドバイスや共感的な支援が必要である。

 「メディア・道具」としてのインターネットは、同様の観察をしている学校を結びつけることによって、お互いの観察結果の共有化の「場」として活用されることが望まれる。

 全国でいくつかの参加校が自分の学校の樹(桜)を観察して、その様子をホームページに登録する。当然、地域によって、桜の開花の時期が違ってきたり、回りの様子が違ってきたりする。その違いをホームページなどを見ながら、いろいろな角度から比べてみて、自分たちにとって当たり前であったことが他の地域では、そうではないという知識ではわかっていたことを観察結果を共有することで再確認していくのである。

 また、地域差だけではなく、学校の高度との関係や観察していた樹の場所や種別などの個体差など、比較するためには、さまざまな要素があることも知りながら、比べることができ、そして、それに関した子ども同士の意見の交換や教師や専門家との交流が図られたら、「メディア・・道具」としてのインターネットは、有効なひとつの手段であるといえる。

 活動の中でこんなことも予想される。それは、子ども達の中でテレビでいっている桜前線と自分たちの桜前線に誤差が出てきたときに気づいたときなのである。気象庁が出している「桜前線情報」の決定の仕方を調べたりするだけではなく、「情報」の意味を知ることができるからである。




図5.2 「生物生態調査(一本の樹)」を支えていく授業観

 子ども達は、本やテレビの情報を正しいものと考えている。その正確なはずの情報と現実が違ってきたときのかかわりの仕方をぜひ子どもたちと考えていきたいのである。このことは、情報教育の根幹ともいえる大切な部分の一つではないだろうか。

 子どもたちがたった一本の樹(桜)を通して見えていくことがたくさんあるということを知るということも大切なことのひとつである。

 桜に限定することなく、他の自然環境の観察記録も共有できる余地は十分に残しているがどのレベルの学校にも参加が可能になるために基本的な枠組みは桜の年間の観察においている。

写真5.1 観察している桜の樹

5.2 実施

5.2.1 実施概要

(1) 「生物生態調査(一本の樹)」の方法

 「生物生態調査(一本の樹)」は、今年度、2回の募集を行った。

 一回目は、昨年秋に「紅葉前線」の観察の共有化を図ったのだが、時期が切迫していたということと一回目の募集要項でもわかるように「毎日の観察」があったために、参加校が少なかった。

 そこで二回目の募集では、毎日の観察がデータを活用していく上でも必ずしも不可欠なものではないと判断して、下記にあるような募集要項に変更した。

 観察の方法は、基本的には変わらず、観察する樹の写真を撮ってホームページに登録していくというものである。

 現在、3校が観察を継続しており、その後、参加希望もきている。

 1) 1回目の募集要項

事務局からのご案内

        「(仮称)1本の樹」に関して

 本調査は100校プロジェクト共同企画の1テーマとして実施をして

おります。調査によって得られたデータは、WWWで公開し測定に参加

していない学校でも、利用可能となるようにしていきます。本調査に参

加を希望される学校におきましては、以下に記しますアドレスにメール

を送付の上、あらかじめ、以下に記しますデータを取得しはじめておい

て頂きますようお願い致します。詳細につきましては、おって連絡致し

ます。

 なお、本テーマは、小学校における授業で活用することを前提としま

すが、企画にご賛同いただき生徒さん主体で継続的にデータ提供いただ

ける場合は、小学校以外でもご参加を拒むものではありません。

(本テーマは,当初「生物生息調査」としてご案内したものです。対象

 を身近な樹木に絞り込み実施していくことになりました。)

               記

テーマ名       (仮称)「1本の樹」

内容

 1. 1本の木を選び、紅葉から落葉の様子を報告しあう。(その後、

   芽生えから開花も追う予定。) 可能であれば桜でお願いします

   が、特に制限は設けません。

 2. (1). 葉、 (2). 枝(葉のついている)、(3). 木全体

   の3枚の写真を、デジタルスチルカメラにて毎日撮影する。

 3. 8:30、13:30の気温を測定し、感想、気付いたこと

   を記述する。

 4. その他、観察事項を若干追加する予定ですが、基本的には写真・

   気温・一行観察日誌です。

 5. これらの映像・データを参加校ごとに並べ、時系列で変化させる

   ことにより、地域による紅葉具合の違いなどがわかるような、

   WWWサーバを立ち上げる予定です。

参加希望校にあらかじめ取得しておいて頂きたいデータ

 1. 選ばれた1本の木の「葉、枝(葉のついている)、木全体」

   の3枚の写真。(デジタルスチルカメラにて撮影されたもの)

 2. 8:30、13:30の気温。およびその時の感想、気付いたこと

   に一枚の写真(何でもよい)を添えたもの

   (太陽の位置等も含めた情報も収集予定)

参加申込方法

 参加希望の旨を記したメールを以下のアドレスに送付して下さい。

   tree@cec.or.jp

 2) 2回目の募集要項

事務局からのおしらせ

    共同利用企画「一本の樹-SAKURA-」のご案内

拝啓

 いつもお世話になっています。

 先日の小学校の活用研究会で話が出た「一本の樹-SAKURA-プロジェクト」に

ついて、骨子が決まりましたので、ご案内します。

 去年の秋に共同利用企画として提案された「一本の樹」プロジェクトがあり

ました。しかし、当初の予定では、毎日の観察があったりして、参加校の負担

が大きく参加する学校が少ないため、見直しを図ることにしました。

 この企画は、自分の学校のまわりの自然を見直していくこと。また、このデー

タを共有する事で「季節前線」の様子を観察していくことの二つをテーマにし

ています。

 先般のお話し合いでは、「一本の樹-SAKURA-プロジェクト」が継続できる条

件として、参加する学校が観察する範囲を選択できるような仕組みと外部で補

助してくれる機関が必要とのことでしたので、このことも併せて、下記のよう

に提案します。

目的

 「一本の木の観察を通して、自分の学校のまわりの自然を見直し、日本各地

と比較することで季節前線を知ろう。」

内容

 1、各校で観察する木を決める。(できれば、桜)

 2、活動内容を選択する。

 3、活動頻度を選択する。

 4、データの処理方法を選択する。

活動内容

 a、樹の全体の写真を撮る。

 b、葉の写真を撮る。

 c、気温を測る。

 d、観察日記をつける。

 ※※※できるものをすべて選択して下さい。

活動頻度

 あ、毎日

 い、週2〜3回

 う、週1回

 え、2週に1回

 お、不定期

 ※※※あくまでも目安です。プロジェクトを進めていくにあたり、実態に

    変更することは可能です。

データの処理方法

 イ、自校にあるホームページに自分で登録する。

  (テンプレートを準備します。)

 ロ、事務局の開設する「一本の樹-SAKURA-プロジェクト」ホームページに登

   録してもらう。

  (処理方法は事務局にて検討しています。)

事務局について

 100校プロジェクト事務局では、引き続き運営・技術面で本企画の支援を

行なっていきます。

申し込み方法

  1) 学校名:

  2) 校長(または機関代表者)名 : 

  3) 代表担当者名 :

  4) 住所:         

  5) 電話:                FAX:

  6) メールアドレス

 に加えて、活動内容、活動頻度、データ処理方法を選択し、

以下の宛先までメールを送付下さい。

宛先:tree@cec.or.jp

   Subject: sanka-sakuraとしてください。

                           以 上

※なお、現在のホームページは

http://www.cec.or.jp/es/kyouiku/100/project/prjlist/joint/tree/index.html

をご覧ください。

5.2.2 「生物生態調査(一本の樹)」の実施結果

 今年度の「生物生態調査(一本の樹)」の内容は、神応小学校と全国版の二つのホームページの内容を見ることが一番的確に把握できる。

 それぞれのホームページは、次ページのような構造を持っている。

  図5.2 「神応小学校」のホームページの構造

  


 図5.3 「生物生態調査(一本の樹) 全国版」のホームページの構造



図5.4 神応小学校「一本の樹」メニュー画面

http://shinno1.shinno-es.minato.tokyo.jp/ippon.html

神応小学校のメニューは、週単位に登録される。利用者は、任意の週を選ぶ。

図5.5 神応小学校「一本の樹」週画面

http://shinno1.shinno-es.minato.tokyo.jp/IPPON-KI/951023.htmlなど

週単位で「葉」「枝」「樹」という三つの撮り方の写真が曜日順に並んでいる。利用者は、任意の写真を選ぶと拡大された写真になる。

図5.6 「一本の樹」全国版ホームページメニュー画面

http://www.cec.or.jp/es/kyouiku/100/project/prjlist/joint/tree/index.html

全国版のメニューは、「地図から選ぶ」「学校で選ぶ」「日付で選ぶ」の三つのカテゴリーに分かれており、利用者は、任意のものを選ぶ。

図5.7 「一本の樹 全国版」 「地図で選ぶ画面」

http://www.cec.or.jp/es/kyouiku/100/project/prjlist/joint/

tree/selectfromMap.html

現在は、参加している三つの学校が日本地図から選択することができるようになっている。

図5.8 「一本の樹 全国版」 「地図で選ぶ」 「神応小学校画面」

http://www.cec.or.jp/cgi-bin/cgi-wrap/~satoshin/tree_school.pl

現在は、参加している三つの学校が日本地図から選択することができるようになっている画面から神応小学校を選ぶ。

図5.9 「一本の樹 全国版」 「地図で選ぶ」 「福井大学付属小学校画面」

http://www.cec.or.jp/cgi-bin/cgi-wrap/~satoshin/tree_school.pl

現在は、参加している三つの学校が日本地図から選択することができるようになっている画面から福井大学付属小学校を選ぶ。

図5.10 「一本の樹 全国版」 「地図で選ぶ」 「広島大学中高等学校画面」

http://www.cec.or.jp/cgi-bin/cgi-wrap/~satoshin/tree_school.pl

現在は、参加している三つの学校が日本地図から選択することができるようになっている画面から広島大学中高等学校を選ぶ。

図5.11  「一本の樹 全国版」 「学校で選ぶ」画面

http://www.cec.or.jp/es/kyouiku/100/project/prjlist/joint/

tree/selectfromSchoolName.html

現在は、参加している三つの学校が表から選択することができるようになっている。

  図5.12 「一本の樹 全国版」 「日付で選ぶ」 「特定した日」画面

http://www.cec.or.jp/es/kyouiku/100/project/prjlist/joint/

tree/date-selector.html

現在は、参加している三つの学校の記録を日付または週から選択することができるようになっている。

図5.13 「一本の樹 全国版」 「日付で選ぶ」 「特定した週」画面

http://www.cec.or.jp/cgi-bin/cgiwrap/~satoshin/tree_week.pl

現在は、参加している三つの学校の記録を日付または週から選択することができるようになっている。その中から「特定した週」を選ぶ。

  

(2) 「生物生態調査(一本の樹)」での児童の活動の様子

  1) 児童の活動の様子

 現在、神応小学校で観察の中心になっている児童は、六年生である。そのなかでも意欲的に取り組んでいる子どもたちは、登校した後すぐに、昼休み、放課後に観察をしている。基本的には、写真を撮ったり、気温を測ったり、観察日誌をつけたりしているが、そのほかにも気がついた点などを調べたりして、数年来、毎年の六年生を中心に観察をしてきた記録を保存してある「神応植物図鑑」でも活躍している。

   2) 児童の感想文

 観察をしている子どもの感想文の一部である。

 1、木の外側に赤や黄色の葉が多い。10月30日(月) 天気(くもり)気温 1、もう1枚葉が黄色くなった。  10月31日(火) 天気(くもり)気温 1、黄色くなった葉がオレンジ色っぽくなった。

11月 1日(水)天気(晴れ) 気温    1、木の真ん中の方に黄色い葉が多い。11月 2日(木)天気(晴れ後曇り)気温  1、緑色からだんだん色がうすくなってきている。11月 4日(土)天気(晴れ)  気温 1、虫くいの穴のまわりがオレンジ色になっている。11月 6日(月)天気(曇り)  気温 1、もう1枚葉が半分黄色くなった。黒く丸い模様ができている。

11月 7日(火) 天気(曇り) 気温 1、半分黄色くなった葉のもう半分も色がうすくなった。11月 8日(水) 天気(晴れ時々曇り) 気温 1、半分黄色くなった葉が全部黄色くなった。11月 9日(木) 天気(晴れ) 気温  1、オレンジ色の葉が増えてきた。11月10日(金) 天気(晴れ後曇り) 気温 1、紅葉していた葉が2枚落ちた。11月13日(月) 天気(曇り) 気温  1、上のほうに前よりオレンジ色の葉が増えた。11月14日(火) 天気(曇り) 気温 1、枝の上にオレンジ色の葉があった。11月15日(水) 天気(晴れ) 気温   1、葉が2枚散った。11月16日(木) 天気(曇り) 気温 1、全体的に葉が散ってきた。

11月17日(金) 天気(晴れ)  気温        1、下の方の枝の葉がなくなってきた。  今日の出来事

11月18日(土) 天気(晴れ)  気温 1、一部分が茶色くなっている葉があった。 今日の出来事 学芸会があった。足が少し震えた。 

11月20日(月) 天気(雨)   気温   1、オレンジ色の葉が赤くなってきた。 今日の出来事 音楽会の練習があった。

   指揮にもなれてきた。

11月21日(火) 天気(曇り)  気温 1、もう1枚葉が半分オレンジ色になった。 今日の出来事

11月22日(水) 天気(曇り) 気温 1、赤い葉が全体に広がってきた。 今日の出来事  朝日中の説明会があった。

   騒がしかった。

5.3 教育面での効果・課題に関する調査

(1) 「生物生態調査(一本の樹)」の今後の課題

 今年度「生物生態調査(一本の樹)」に参加して感じたことにネットワークを活用した定点観測の共有化ということは、大変可能性のあるプロジェクトであることを確信した。

 しかし、このプロジェクトを運営していく上で、「三つの広い心」を持つことの大切を知った。その「三つの広い心」というのは、一つ目が学習形態が多様であっても問題にしないという「広い心」である。自分の学校が理科の授業で使っているからといって、どの学校も理科で使っているとは限らない。クラブでやる場合もあるし、放課後の自主学習で取り組んでいることもある。それをすべて理科の授業でやるような感覚を持っているとせっかく、参加しようと思っても参加できない状況を生み出していくのである。

 二つ目の「広い心」は、観察が予定通りに行われなくても気にしない「広い心」である。学校というのは、いろいろと忙しいものであるし、定点観測は、単純な作業の繰り返しということで子どもたちの興味を継続させていくときに工夫が必要な面がある。そのような事情をよく配慮して、計画通りいかなくても気にしないことが大切である。そして、参加を呼びかけるときには、できるだけ負荷が少なくなるような工夫が絶対必要である。もっとも大切なことは、継続することなのである。

 三つ目の「広い心」とは、「ネットワークの憂鬱」を認める「広い心」である。「ネットワークの憂鬱」というのは、電子メールが送られてきたときに忙しくて返事がすぐできない場合がある。このときに必要以上に気にしてしまう人がいる。そして、メールをやり取りすることが精神的な負担になっていくのを「ネットワークの憂鬱」と呼ぶ。つまり、返事をださなきゃ、観測結果をおくらなきゃと参加校の先生が負担になって、メールでのやり取りも憂鬱になったら問題である。

 ネットワークで呼びかけたら、すぐに自分の思い描いたとおりに返事が来るということはないことが当たり前だという「広い心」は、こうようなプロジェクトを進めていく上で必要な心構えだと思う。

 この定点観測の共有化というものは、これからネットワークを活用した学習が発展していくときの中心的な分野になる。

 この「生物生態調査(一本の樹)」も、季節前線の移動を中心に、来年度はいろいろな季節前線を観測していきたい。また、専門家と結び、季節前線の科学的な根拠などを子どもたちとともに明らかにしていけることができると素晴らしい実践となるであろう。

 また、海外の学校には、桜の木があるアメリカ・ワシントン/ドイツ・ベルリン/オーストラリア・シドニーなどを中心に樹の様子を送ってもらえる環境を探っていきたい。

(2) おわりに

授業の意味を問い直す「ネットワーク環境」

 私たちは、ここ2〜3年でこれからの学校教育の方向が見えてくる施策や技術を目の当たりにするといわれている。学校教育もさまざまな面で変容していこうとする流れが出てくることであろう。

 特に、情報化と国際化というふたつの将来の教育に向けたキーワードの一体化した技術としてネットワークは、これまで以上に注目を集めることは必至である。しかし、この状況を情報教育を学校現場で試行していた私たちが「我が世の春」として喜んでいられるほど、状況は甘くないように思えて仕方がない。

 それは、「ネットワーク」という“技術”が、いままでやっていた授業を新しい“技術”の上に載せていけばそれでおしまいというこれまでの視聴覚教育とは、質的に異なり、授業における教師の立場を変えてしまい、最後には、「学校」の在り方そのものを問い直してくるような“技術”だからである。

 このまま“技術”を何の吟味をせずに教育の中に持ち込んでいくと、その技術革新の勢いに流され、翻弄されて、学校が本来的に担ってきた「学習共同体」としての意味を変えてしまうことになるかもしれないのである。

 私は、自分のコンピュータやネットワークを活用した授業だけでなく、すべての授業をもう一度吟味し直していこうと考えている。

 コンピュータの活用に関してつぎのような考え方を持っている。それは、「補完型の活用から再構成型の活用への移行」ということである。これまでのコンピュータ活用は、一斉画一授業の補完型、教師代替型といわれるものが中心ではないだろうか。

 私は、コンピュータを「思考の道具」「表現の道具」「コミュニケーションの道具」としてとらえ、児童が自らの学習を省みて、再構成していくことが学習の最も重要な一面の一つだと考え、それにコンピュータの特性である「階層性」や「検索性」などを重ね合わせて児童が自分でコンピュータの機能を意味づけしながら「自分らしい」使い方ができるようにしている。

 ネットワーク環境は、子どもたちにとって人と結び合う意味をもう一度再確認したり、自分では当たり前に思っていたことを揺さぶっていく道具として活用している。

 やはり、ネットワーク社会の学校に不可欠なコンセプトは、「コンピュータを使える子どもを育てるのではなく、コンピュータに使われない子どもを育てる」だと感じる。

 子どもたちにとって、ネットワーク環境というものは、自分と自分自身や他の人などとの関わり=コミュニケートをもう一度見直させていくメディアなのである。

 コミュニケーションの元の意味は「向かい合う」ことだそうである。教師は、子どもたちが「向かい合う」さまざまな相手とどのように出会わせていくかに腐心していくことが大切なのである。