6 共同学習型利用企画実施における教育面での効果・課題に関する調査

6.1 広域ネットワークを利用した共同学習の教育的効果

(1)学校の校種だけでなく、学校の中における様々な集団、あるいは個人を包括した

   多様なグループによる共同学習が可能になったこと。

 今回のプロジェクトは、小学校・中学校・高等学校・工業高等学校・商業高等学校・ろう学校・園芸高等学校等、多数の校種にまたがった企画である。しかしグループの多様性は、それぞれの学校の中においても見ることができ、例えば取り組みの形態として一番多いクラブ活動についても、地学部・生物部・科学部・コンピューター部・化学部など様々なクラブが参加している。現状では先生だけが取り組んでおられるケース、授業の中で位置づけがなされているケースなど、共同学習の基盤となるグループの多様性はきわめて大きい。このような学習は、ネットワークの利用なくしてはけっして実現しなかったものである。もちろんこのような共同学習体制が実現したのは、スタートにあたって参加グループについて条件をつけなかったこと、申し込みを全部受け入れたことも関係している。インターネットという開かれたシステムの中においては、今までにない自由な雰囲気の中での教育活動が可能になる。学習が開放的な雰囲気のもとにすすめられ、子供たちにとって楽しいものになると考えられる。

(2)共同学習の目的は、実施している学校によって自由に設定することが可能になる。

 プロジェクト参加校として、必要な作業を実行しておれば、そのほかのことは、参加校の自由裁量ですすめることが可能になる。

 このような教育活動の設計は、いままでの学校教育には見られなかったものであり、広域ネットワークの充実によって、学校教育の個性化などに大きく寄与するものと考えられる。

(3)広域ネットワークを利用した共同学習においては、学習のテーマの設定が重要であり、テーマとして酸性雨調査プロジェクトは妥当であったといえる。妥当であった理由は次のように分析できるが、これは今後このようなプロジェクトのテーマの選択の指針となるであろう。

   1.酸性雨の調査は、すべての校種の生徒に対して理解しやすい内容であった。

   2.継続的に活動出来る内容のもので、しかもあまり負担が大きくないこと。

   3.内容が全国的にまたがっているもので、グローバルな視点での把握が必要なも

     の。

   4.学習の目的などについて、学校によって自由に設定できる、自由度があること。

   5.事務局からの指示は最小限にとどめ、各学校の活動にゆだねることが可能なも  

     のであること。

(4)WWWのホームページを通じて、生徒の情報が広く公開されるため、また、他の参加校           と同様の情報を調査・記述するため、他者を意識したライティングに対する興味・関心を高め、そのためのスキルが向上すると思われる。

(5)本物の世界に関する調査,その表現により,当該領域に関する,認知,情意,

両面での学習効果があがる。

(6)コミュニケーションの向上を図ることができる。

(7)WWWによる表現とリンクさせながらメディア・リテラシーを養うことができる。

6.2 広域ネットワークを利用した共同学習の今後の課題

 (1)ネットワーク利用環境の充実

 ここまでの報告でも理解していただけるように、学校教育への広域ネットワークの利用は、大きな教育効果が期待できるが、その前提となる重要なことが、利用環境の充実である。インターネットが注目され、その可能性がマスコミでもとりあげられている現在であるが、学校における設備の状況は皆無にひとしい。毎日新聞の記者の谷口氏によると、今後利用できる学校と出来ない学校の格差がどんどん拡がっていく傾向にあるとのことであったが、回線料のことも含めて、国政レベルでの解決がのぞまれる。

 (2)学校に設置するネットワーク関係の設備の開発と、メンテナンスを含めた維持体

    制の確立。

「学校で安心して利用できるインターネット」をめざして、学校用の設備の開発と、現在は一部の教師によってささえられているシステムの維持を、小さな学校でも安定した形で運用出来るシステムの維持体制の開発とを、早急にすすめるべきである。

 (3)インターネットに対する理解をすすめるための継続的な活動を

    インターネットの学校教育への利用については、さまざまな問題点が指摘されて   

   いる。問題点だけが先行すると、インターネットの可能性までつぶしてしまうこと

   になりかねない。関係者の努力によって理解をすすめるための努力と、問題点の解  

   決を全体の熱意で図る必要がある。

 (4)学習活動期間の十分な確保

 共同学習プロジェクトの活動として、共同学習の前提となるメーリングリストを介した情報交換が全般的に低調であった。その原因として,学校においては現在ネットワーク環境を前提としたカリキュラムがほとんど行われていないため、ネットワークを使った学習者の活動時間を十分にとることが困難であることがあげられる。以上に加えて、担当教師がもともと多忙である上に、教師を支援するテクノロジー・コーディネータ等の不在から,技術的なトラブルへの対応に費やされる時間が多く、メールは読むことはできてもメールを送ることが困難であることがあげられる。これらの解決のひとつの方法としては,プロジェクトのスケジュールをたてる際,十分な期間的な余裕をもつことがあげられる。

 (5)テクノロジー・コーディネータ(技術的支援者)の確保

 上記とも関連し、コンピュータおよびネットワークに関しての支援者が巡回する等して、機器の利用上での技術的な障害を可能な限り除去できる体制をとり、教師にはカリキュラム、教材開発、学習指導、評価により力点をおいた活動ができるよう援助すべきである。

 (6)モデレータ(教育内容・活動に対する支援者)の確保

 題材とする当該領域についてのある程度の知識をもった人による、メーリングリストのモデレートが必要である。当該領域の研究者(県教育センター等の研究員,企業の研究所,大学教官や大学院生,学生等)または、担当教科・領域の教師が専門の見地からメーリングリストでやりとりする情報を整理したり関連情報を提供することが重要である。当該領域の専門家を専任のモデレータとして手当できなかったプロジェクトにおいては、結果として研究グループがモデレートを行うこととなったが困難であった。

 (7)データベースへのデータ登録・検索が柔軟にできるシステムの実装

 共同学習をすすめると学習者から予想していなかった登録項目の変更(追加,削除等)や,学習形態,学習活動に応じたデータ入力,検索方法の変更が必要である。4つのうち3つのプロジェクトでは、WWWページの普通のFormにより学習者が入力したが、このような投稿型のWWWサーバに関して、上記のような変更に柔軟に対応できるよう、サーバおよびクラアントが協調してはたらくシステム開発の必要がある(たとえば,CGI 等でサーバにプログラムを組んでおく等)。データを集めてくる子どもたちは、自分たちが集めてきた画像や文書,音などを駆使してデータベースをつくりたいであろう。一方、共同制作したデータを利用するためには,ある程度の一様性が必要である。そこで、たとえばサーバに入力する際は,記憶エリア内のスロットにキーワード等をつけて登録するようにし,クライアントであるタイプの構造にあわせた検索・表示を,リクエストに応じておこなえるようなシステムが必要である。

 また、調査結果が結果として目に見えにくいものに関して、メーリングリストで調査の継続を促すことは大変困難であった。調査結果が反映されるもの、今回の場合はプロジェクト参加校の閲覧・利用するWWWホームページを早期に立ち上げてから、プロジェクトを進行していくことが理想的である。また、成果物としても一度作成したら、あとは調査データを登録するだけといった硬直的なものではなく、実際にデータが登録されていくに従って、参加校の意見を取り入れた柔軟なものとしていく必要がある。繰り返しになるが、そのためには十分な時間的余裕を持つ必要がある。

 (8)学習者グループ単位の活動を重視したカリキュラム開発

 ネットワークを用いた共同学習は、学校を単位とするより,興味をもつ学習者グループ(たとえば学校のある授業のあるテーマに関するグループ,クラブ,病院内学級,フリースクール等の学習グループ)が単位の方が,より活動を行いやすいので、このような学習形態での利用を推進すべきである。

6.3 まとめ

 100校プロジェクトのようなインターネットを用いた学習は、時間的な制約、地理的な制約を乗りこえた共同学習を可能とする画期的なプロジェクトである。学校教育における実験的な試みを、全国的規模の支援体制のもとに展開していくことは、大変意義のあることである。

 今年度、広域ネットワークを利用した共同学習はある程度の成果をえたが、継続的に続けてこそ意味のある学習において、プロジェクト自体まだはじまったばかりであると言える。参加校からも、今回のようなプロジェクトの継続を望む声も多い。しかし、プロジェクトを継続していくにあたり、学習のための教材、データも益々増えていくこととなり、参加者の中でどのように共有するか、どのようにそのデータを管理するかなどを含めて、新たな課題が生じることとなると思われる。また、コンピュータを用いてデータを登録してみんなで眺める、といっただけに終わらせないためにも、登録されたデータ・みんなで集めた教材の比較・検討を、より行いやすくするための仕組みも必要となるであろう。これらを克服し、広域ネットワークを利用した共同学習を、より実り多いものにしていくためには、先生方の手腕が求められるのはもちろんのこと、従来の学校で通常必要としていた学校外の人たちとは異なったグループの人たちと共同し活動をすすめていくことが重要である。

 今後、様々なグループの協力関係・支援体制が益々充実し、教育の有効な一手段として、「広域ネットワークを利用した共同学習」がより多くの学校へと根付いていくことを願う。