3.テーマ「3次元モデリングコンテスト」の実施

3.1. 計画立案
3.1.1 ねらい
ネットワーク上に構築する仮想展示空間を使ったコンテストを実施し、コンテストの理想的な開催形態を検証するとともに教育的効果及び課題を探る。
3次元という技術的、造形的にも高度なジャンルを設定し、高等学校や専門学校・大学など高等教育機関からの参加も促す。
また、VRMLなど先進的な技術を利用しての作品公開を行うことにより、ネットワークコンテストの技術的な課題面の検証に重点を置いた。作品制作に利用する3次元モデリングツールを「幾何公園」に限定して教育機関に無償配布することにより、3次元造形の普及を図った。



3.1.2 計画概要
実施計画の概要を次に示す。





3.1.3スケジュール計画
9月〜10月を準備期間とし、11月中旬から1〜2カ月間作品を募集する。
その後、作品公開、投票、審査、審査結果の発表を行い、各部門で表彰を行う。
コンテスト実施のスケジュールと作業分担計画について以下に示す。





準備(10月〜11月中旬)
* 実行事務局と審査委員会の設置と打ち合わせ
* 作品展示用WWWサーバ設計、構築
* コンテスト開催案内、広報案内
* 作品応募フォーマットの作成

作品募集(11月上旬〜12月)
* エントリーの受付
* 作品の受付
* 作品のWWWへの登録

作品公開・投票・審査(12月下旬〜2月中旬)
* 投票結果集計
* 最終審査
* コンテスト参加校へのアンケート実施

審査結果発表・各部門入賞作展示(2月中旬)
* 表彰
* 最優秀作品、優秀作品、入賞作品のWWWでの公開

まとめ、評価(2月中旬〜3月中旬)
* アンケート結果の分析
* NEWSの意見や感想の整理
* 反響、教育的効果、ネットワーク効果について評価

3.2 実施

3.2.1審査委員との会議
(1)審査委員との会議

95年10月19日にジャンル2のサブリーダの慶応大学千代倉助教授と打ち合わせを行い、3次元モデリングコンテストの実施詳細を検討した。

議題
1. 実施方法について
2. 幾何公園について

討議の結果、次のように決定した。

1. 実施方法について
* 環境の問題(VRMLブラウザ、幾何公園の動作する環境など)があり、審査委員はCGコンテスト「私たちのまちの未来」とは別に組織することとした。
* 運営は千代倉研究室に全面的にご協力いただくことになった。(研究室の大学院生に3次元コンテストの運営を手伝っていただくこととなった)
* 作品の展示などで利用するWWWサーバは千代倉研究室のものを利用することとなった。

2. 幾何公園について
* 幾何公園の配布について検討した。

(2)第1回審査委員会
1995年11月7日に第1回審査委員会を開催した。審査委員会はジャンル1を中心に討議を行ったが、その結果をジャンル2へ反映させた。
審査委員会では主にコンテストの実施方法の検討を行った。

議題
1. 実施方法について
2. 審査方法について
3. 企画評価について

(3)第2回審査委員会
1996年2月29日に第2回審査委員会を開催した。
委員会で、作品の最終審査と企画の評価方法の検討を行った。

議題
1. 現状報告と今後のスケジュール
2. 作品の最終審査
3. 報告書作成について

討議の結果、次のように決定した。

1. 作品の最終審査
* 3次元モデリング部門の受賞作品を決定した。(3.3.7参照)
(最優秀賞1本,優秀賞3本,入賞6本,特別賞3本)
* 中学校、高等学校、大学が1部門のため、作者の学年(年齢)を考慮した。

2. 報告書の作成について
* 次の項目から企画評価を行うこととなった。各項目について審査委員に執筆を依頼した。
* 作品評価
* 実施結果に対する教育面的
* 技術的成果と課題


3.2.2実施経過
コンテスト(3次元モデリング)の実施経過を以下に示す。

参加校募集 95年11月 6日(月)〜96年2月14日(水)
作品受付 95年12月28日(木)〜96年2月14日(水)
作品審査 96年 2月14日(水)〜96年2月29日(木)

運営日付内容対象
参加校募集10/31コンテスト窓口開設事務局
11/06企画案内(概要)aimiteno
PC-VAN
NIFTY-Serve
NetNews
11/07第1回 審査委員会審査委員
11/13審査委員メーリングリスト開設
参加校メーリングリスト開設
審査委員
参加校
11/20
〜22
NICOGRAPH '95(企画案内文配布)一般
12/12情報基盤センターFTP/WWW準備事務局
作品受付12/28作品受付開始(応募要領配布)参加校
01/17作品応募の締切延長参加校
02/05作品募集締切参加校
02/14募集終了の案内aimiteno
02/15企画アンケート送付参加校
作品審査02/20審査用WWWの公開審査委員
02/20企画アンケート締切参加校
02/20作品審査開始審査委員
02/29第2回 審査委員会(受賞作品決定)審査委員
03/12審査結果の公開参加校
まとめ03/13報告書の提出審査委員
事務局


3.2.3実施結果

(1)準備作業
企画の実施にあたって、運営事務局で以下の準備作業を行った。




(2)参加校の募集
1)窓口の設置

コンテストの参加申込み窓口と問い合わせ窓口を設置した。窓口は電子メールのみとし、ジャンルごとに設置した。参加申込みと問い合わせはメールのサブジェクトで分けた。

ジャンル1 3次元モデリング 窓口アドレス
mado-3dgcontest@cec.or.jp
参加申込み Subject:sanka-3dcontest
問い合わせ Subject:Q-3dcontest

窓口はメーリングリストとし、事務局メンバに転送される仕組みとした。事務局で受け取ったメールは幾何公園窓口(千代倉研究室)に転送した。参加校への返信は幾何公園窓口から行った。
事務局および幾何公園窓口から参加校宛に返信メールを出す場合は、写しメールを窓口宛に出すこととした。




2)案内
95年11月6日にコンテストの企画案内を掲載し、企画への参加校を募集した。この時点では企画の詳細が決定していなかったが、参加校の応募準備期間をなるべく長く取り応募しやすくするために、概要案内として出した。参加を希望した学校には後日詳細を送るという方法をとった。3次元モデリングでは教育機関への3次元普及を考慮して、学校単位の参加のほかに学生個人での参加も認める方針とした。
案内は次のところに掲載した。

* 100校プロジェクトメーリングリストaimiteno@woo.mri.co.jp
* NIFTY Serve(FCAI/電子会議室/国際)
* PC-VAN(STS/フォーラム/職員室)
* CECホームページ(http://www.cec.or.jp/CEC/)
* ニュースグループ(fj.education.announce)
* NICOGRAPH '95(展示会でコンテスト案内を500部配付)

案内掲載後に次の18校(学生2人を含む)より参加希望があった。
(1/2)
申込日  学校名
11/06 東金女子高等学校
11/09 東京学芸大学教育情報科学科(学生)
11/10 三重県立飯野高等学校
11/10 美川村立美川中学校
11/14 下関市立長府中学校
11/14 茨城県立岩井高等学校
11/15 広島大学附属福山中学・高等学校
11/15 熊本国府高等学校
11/18 宮城県石巻工業高等学校
11/20 兵庫県立出石高校
11/22 広島市立美鈴が丘高等学校
11/24 大阪大学 工学部 電子制御機械工学科
11/26 広島市立矢野中学校
12/04 北海道歌志内中学校

(2/2)
申込日  学校名
12/06 東京学芸大学
12/07 東京学芸大学附属高等学校大泉校舎
12/11 会津大学(学生)
12/22 熊本県立小川工業高等学校


応募校の分類(全体)
中学校    4校
中高一貫校  1校
高等学校   9校
大学     4校 (大学には学生の個人参加2名を含む)
合計     18校


3)幾何公園の配布
参加希望があった学校には、3次元モデリングツール「幾何公園」(*1)および『幾何公園 たのしい3次元造形』(*2)を無償配布した。ツールと本の郵送は幾何公園窓口(千代倉研究室)で行った。
幾何公園の著作権は情報処理振興事業協会(IPA)と(株)リコーが所有しているため、配布に関してIPAとリコーと調整を行った。また配布の際は、使用許諾書(*3)を添付した。

(*1)「幾何公園」
* 平成6年度に情報処理振興事業協会(IPA)が開発した3次元図形をデザインするソフトウェア。
* 教育機関に対して無償配布可能。
* 以下のオペレーティングシステムで動作する。
Microsoft Windows 3.1, Windows95, Windows NT 3.5
* 幾何公園のサポートについては、コンテスト参加校に限り、千代倉研究室で対応していただいた。

(*2)『幾何公園 たのしい3次元造形』
産業図書発行 石川直太、前田雅子 千代倉弘明 共著

(*2) 幾何公園 使用許諾書

幾何公園 Version 1.0 使用許諾書

Copyright (c) 1995 Ricoh Company, Ltd./ IPA
     All Rights Reserved.

1.著作権 ;本プログラムの著作権は、(株)リコーと情報処理振興事業協会
       が所有しています。

       本プログラムの利用は、教育機関においてのみ、無償で行う事
       ができます。

       なお、本プログラムの再配布は、いかなる形においても、一切
       禁止させていただきますので、ご了承ください。

2.免責事項;本プログラムを使用した事によって発生した損害は、一切保証
       しません。
       本プログラムに不備があっても、作者はそれを訂正する義務を負
       いませんので、ご了承ください。

3.サポート;本プログラムのサポートは一切ありません。また、本プログラム
       に関する問い合わせなども、一切受け付けませんので、ご了承く
       ださい。

                             以 上

(3)メーリングリスト
コンテストの事務連絡、意見交換、情報交換を行うため、審査委員用と参加校用の2つのメーリングリストを設置した。

1)審査委員用

本メーリングリストでは、コンテストの実施方法の検討や、事務局からの途中経過の報告を中心に意見や情報を交換した。

hyouka-3dcontest@cec.or.jp
登録メンバ
* 審査委員
* コンテスト事務局(CEC / NECソフトウェア)

2)参加校用
本メーリングリストでは、主に事務局から参加校への連絡を行った。応募詳細や作品の公開など、必要に応じて随時情報を掲載した。
本メーリングリストは全参加校が加入することを前提とした。企画への参加希望のメールが届いた際に、事務局からの返信メールで、メーリングリストに登録していただくように依頼した。(ただし、必要に応じて事務局で登録を代行した)

kentou-3dcontest@cec.or.jp
登録メンバ
* 参加校
* 審査委員
* コンテスト事務局(CEC / NECソフトウェア)

参加校用メーリングリストへのメンバ登録は自動処理を行った。

kentou-3dcontest-request@cec.or.jp
自動登録 Subject:subscribe
自動脱退 Subject:unsubscribe

(4)作品の応募
1)応募概要
作品の応募ではFTPと郵送を利用した。応募の詳細は参加校宛にメールを出すとともに、WWWにコンテストホームページを作り掲載した。
ホームページURL:
http://pegasus.sfc.keio.ac.jp/geopark/contest/

◇ 応募資格
中学校・高等学校・専門学校・高専・大学の生徒、学生
(100校プロジェクト参加校に限定しない)

◇ 作品規定
* ファイル形式: 幾何公園形式(拡張子.dbd)

◇ 応募方法
* FTPまたは郵送(FD)にて受け付ける。
* 共同で制作した作品も応募可能とする。
(ただし、一人で複数の作品を提出することはできない)
* 作品はコンテスト申込み者がまとめて送る。
* 各学校における応募点数に制限は設けない。

◇ 応募締切
96年1月20日(金)まで
※ 最終的には、96年2月5日(月)まで延長した。

◇ 著作権
送っていただいた作品の著作権は主催者に帰属する。
応募いただいた作品については、主催者がインターネット上のWWW・FTP等、および印刷物、電子メディアにて公開、掲載、配付することに同意していただくものとする。


2)FTP
作品の送付では情報基盤センターのFTPの利用方法に従った。
FTPでの作品送付手順を次に示す。

[参加者]


3)郵送
FTPを使うことのできない参加校もあることが予想されたため、FDの郵送にようる応募も取り入れた。郵送先は幾何公園窓口とした。

[参加校]


4)応募結果
参加校に送付した応募要領では、応募期間は95年11月20日から96年1月20日までの約2ヶ月間とした。参加者が幾何公園の使い方に慣れるのに時間がかかり、満足できる作品ができていないような状況であったため、審査委員と事務局で調整し、2月5日までの応募締切の延長を決定した。
11月20日から2月5日まで作品を募集した結果、全部で4校より19作品の応募があった。

 学校名 作品数
美川村立美川中学校 15
茨城県立岩井高等学校 1
東京学芸大学附属高校大泉校舎 2
東京学芸大学 1


部門別の作品数
中学校     15作品
高等学校     3作品
大学       1作品
合計      19作品



5)応募作品一覧
応募作品の一覧を以下に示す。
最初の計画では、中学校の部、高等学校の部、大学の部の3部門に分け、部門ごとに審査することにしていた。下記のように全体で19作品で、予定していた高校部門では3作品、大学部門では1作品となり、部門ごとの審査ができなくなったために、審査委員と事務局で調整し、3次元モデリング全体を1つの部門として、審査することとした。
(19作品)
学校名番号作品タイトル
美川中学校1チューリップ&ちょうちょの
ささやかな憩いの場
2開拓地
3tree
4未来都市
5My Car
6宇宙空間
7宇宙
8夏の海に行こう!
Let's go to summer sea.
9空間
10ペンギンダンス
11建物
12ウェイトリフティング
13秘密兵器
14溶ける物体
15遊園地
岩井高校16水の踊り
学芸大学附属
大泉校舎
17ROOMS
18コンペイトウ接近中!
学芸大学19わにわに

(5)作品の公開
1)概要
幾何公園窓口(千代倉研究室)に3次元モデリングコンテストのホームページを作成していただいた。WWW内に、非公開(審査委員と事務局のみ公開)の審査ページを作り、参加校から送られた19作品を掲載した。作品は2次元のコンピュータグラフィックスによるものと3次元のVRML形式のものを用意した。参加校には結果発表を公開することとした。
コンテストホームページには、コンテストにおける「幾何公園」FAQを掲載し、また、幾何公園ホームページにリンクを張った。幾何公園ホームページには、幾何公園を使ったモデリング例を掲載し、参加校を支援した。

コンテストホームページURL:

http://pegasus.sfc.keio.ac.jp/geopark/contest/

2)ホームページの構成

(6)アンケート
1)アンケート調査の概要
コンテストの実施上の問題点、教育的効果、技術的課題など調査するため、アンケート調査を実施した。
3次元モデリングでは応募申込用紙にアンケート項目を含めたため、生徒用を省き、教師用のみを作成・配布した。教師用アンケートは本企画に参加した学校の教師(コンテストの直接の担当者)を対象とした。
アンケートの送付と回収は電子メールを利用した(回答期間5日)。
本企画の参加校(個人参加を除く)全15校に送付し、10校より回答があった(回収率67%)。

2)アンケート内容
応募申込用紙での生徒用アンケート
* 幾何公園を使ってみての感想

教師用
* 企画参加に関する質問
* 教師の取り組み関する質問
* 児童生徒の取り組み関する質問
* 教育的効果について
* 企画の実施について
* 企画全体について
* 運営について

3)留意点
* 質問数が多いため、見やすく回答しやすいレイアウトとなるように配慮した。
* 作品を応募できなかった学校に対しても回答いただくようにした。

(7)作品の審査と表彰
1)概要
計画では一次審査を行う予定であったが、作品数が予想より少なかったことと、応募締切を延長したことなどから、一次審査を行わないこととした。
審査は、コンテストホームページを審査委員に見ていただき、審査結果を書き込み、集計するという方法をとった。審査は、VRMLビューアを使い、仮想空間内で作品を動かし様々な角度から見て行った。
審査基準を第1回審査委員会で決定し、受賞作品の最終決定を第2回審査委員会で行った。
コンテスト審査ページURL:
http://pegasus.sfc.keio.ac.jp/geopark/contest/sakuhin.html

2)審査手順


3)審査項目
3次元モデリングでは、第1回審査委員会で定めた「表現力・発想力・技術力・地域特色・ユニークさ」の5つの審査基準から、「地域特色」を除いた4項目で審査を行った。各項目を5段階で得点化し、4項目の得点合計から審査を行った。

審査項目
1. 表現力
2. 発想力
3. 技術力
4. ユニークさ

留意点
* 「技術力」には、3次元という特色を生かしているかどうかの評価を含めた。次のようなものは3次元の特色を生かしていないと判断した。
* 平面の上に立体が並んでいるだけでまとまりがない
* 上下方向に重なっているべき立体が重なっていない
* 3次元の特性を満たしていないものに関しては、ある視点からみると立体的に見える場合がある。その場合はその視点における2次元の絵としての評価を行った。
* 幾何公園のソフトウェア上の制限のため、作品はすべて水色一色となっていたが、作者によっては色を塗ることを前提としている場合があることを考慮した。
* 「特別賞」には、もう一歩で入賞という作品を選んだ。


4)審査結果
第2回審査委員会で、最優秀賞1本,優秀賞3本,入賞6本,特別賞3本の受賞作品を決定した。(全体を1部門とした)

賞  番号  作品タイトル 学校名
最優秀賞 作品18「コンペイトウ接近中!」 学芸大学附属
  大泉校舎
優秀賞 作品17「ROOMS」 学芸大学附属
  大泉校舎
作品12「ウェイトリフティング」 美川中学校
作品14「溶ける物体」 美川中学校
入賞 作品15「遊園地」 美川中学校
作品19「わにわに」 学芸大学
作品 1「チューリップ&ちょうちょの
ささやかな憩いの場」 美川中学校
作品 2「開拓地」 美川中学校
作品13「秘密兵器」 美川中学校
作品16「水の踊り」 美川中学校
特別賞 作品 4「未来都市」 美川中学校
作品10「ペンギンダンス」 美川中学校
作品11「建物」 美川中学校


5)表彰式
ホームページ上で表彰式を行った。

コンテスト表彰式ページURL:
http://pegasus.sfc.keio.ac.jp/geopark/contest/result.html

コンテストホームページ

ネットワークコンテスト表彰式
* 最優秀賞(1作品)
* 優秀賞 (3作品)
* 入賞  (6作品)
* 特別賞 (3作品)

参加者への受賞作品には、賞状と賞品を授与した。
賞品の内容を以下に示す。

最優秀賞(各1作品) シャープ液晶パッド ウィズ
優秀賞 (各3作品) ソニーポータブルCD ディスクマン
入賞  (各6作品) シャープ 英和・和英辞書メモ
参加賞 (全応募作品) スタンデックス 原稿ホルダーペンセット
特別賞 (各3作品) ルーペ付き双眼鏡

優秀賞以上の作品4点と大学生の作品1点については、上記の賞品のほかに、作品を3次元造型機によって実体化を行ったものを併せて贈呈した。実体化は1作品につき2つ製作し、情報基盤センター内にも展示を行った。


3.3 教育面での効果・課題に関する調査
3.3.1作品評価
CGには大別して2DCGと3DCGがあり、2DCGと3DCGをたとえていうと、美術の中では絵画と彫刻のような違いとなり、デザインの中ではグラフィックとプロダクトのようなちがいであろう。実際コンピュータのモニタは平面なので、触れて確かめる訳にはいかないが、2DCGの利点は従来の道具と同じような感覚で絵を描いたり、レイアウトしたりすることができ、色を変えたり、コピー、移動、拡大・縮小、特殊効果なども容易に行うことができる便利な道具といった感じである。また、3DCGは私たちが今まで体験しなかったような方法で表現していく。まず、立体の形態を生成し、その物体に対して色、質感、光源などをコンピュータに情報として与え、それを任意の位置から見た場合の状態を計算させることにより画像を作る。3DCGはリアルな画像を表現する時に便利であるが、空間や立体の感覚、そして光を利用してどのようにみせるかの能力が必要になるであろう。
今回のネットワークを利用したコンテスト参加者はコンピュータは初めてではなくとも、3DCGは初めてという生徒が多いような感じを受ける。そして、3DCGの評価の方法として重要となる色、構成、質感、空間の把握、光の中でも、今回使用のソフトウェアのバージョンは一部機種により、色と質感表現にあまり応用の幅が無かったために、全体的に暗いイメージになってしまったのが残念でならない。そして、XYZの感覚の把握が慣れないことで非常に難しく感じてしまった感が作品の中から読みとれる。そのようなことにより、作品内容にあまり大きな格差はなかったと思うが、作品をさまざまな方向から見てみると、「コンペイトウ接近中!」「溶ける物体」などの制作者は、3DCGにおけるある種の才能を感じる。
3DCGは今までの描くという表現では見られなかった方法であり、長い間さまざまな技術、技法の研究の成果でほぼ完成されたといわれているが、これからは専門学校や大学だけでなく、義務教育の場でも利用されることにより、絵具や粘土と同様に表現の1つとして画材のように扱われる日を楽しみにしている。そしてたくさんの3DCGの作品を見てみたいと思う。

3.3.2実施結果に対する教育面での考察
(1)コンテストの実施方法
3Dモデリングでは、ある特定の視点だけでなく様々な視点から作品を観賞してみないと、その作品の本当の価値を評価するのは困難である。今回のコンテストの作品においても、例えば「ウエイトリフティング」は視点の位置によって見え方が様々に変化しとても興味深い「形」がデザインされている。これを一つの視点からのCGとして見たのでは正しく評価することは出来ない。3次元立体をそのまま評価するには3次元データを作品として提出してもらうことが不可欠である。
形状が複雑になれば作品のデータは膨大な量となり、これをネットワークを利用せずに、フロッピーディスク等の2次媒体を使って提出するのはかなり手数のかかることになってしまう。3次元データから何らかの方法で、例えば、光造形法をつかって実体モデルを作成し、それを提出してもらう方法も考えられるが、技術的な、あるいはコスト的な問題がある。
以上の点を踏まえて、今回のコンテストでは3Dモデリングソフトウエアである「幾何公園」により作成された形状データを作品として、ネットワークを利用して提出された。ネットワーク利用により、提出は非常に簡単に行なうことが可能であった。また作品の評価においても、作品を最新の技術であるVRML(Virtual Reality Modeling Language)のデータに変換し、ネットワークを利用することによって評価委員各自の職場のコンピュータ上で評価することが可能であった。このことは、効率よくコンテストを運営するために非常に有効であった。

(2)コンテストの教育的な効果
3Dモデリングは、CGやマルチメディア、CAD/CAM(Computer Aided Design/Computer Aided Manufacturing)の中核となる技術であるのにもかかわらず、学校教育や社会生活の中に十分浸透しているとは言い難い。しかしながら、形状のデザインは機能性や意匠性の向上のために重要なファクタであり、将来的にはその重要度がますます高くなることが予想される。
こうした状況において、ネットワークの利用が不可欠と考えられる3Dモデリングのコンテストは、児童生徒の創作意欲を強く刺激すると思われる。特に、「紙」と「鉛筆」という2次元の道具しか持ち得なかった児童生徒にとって、3次元立体を次元を落さずに扱える3Dモデリングというまったく異質な体験は知的好奇心を醸成する上で非常に意義深いものとなろう。

3.3.3技術面成果と課題
(1)幾何公園に関して
我々としては、産業図書から出版した「幾何公園」に登場するモデル程度のレベルの作品が集まることを期待していたが、現実はそういったところまではいかなかったようだ。中学生たちが作ったものは、多角柱や円錐などの基本立体をいくつか作って平面的にレイアウトしただけのものがほとんどで、現実に存在するものに似た形を作り出すことは困難であったようだ。高校生にもなるとかなり意味のある立体を作り出しており、「コンペイトウ接近中」、「ROOMS」といった作品のできにはかなり満足している。大学生の立体にもなると、位相的にも幾何的にも気を配られており、これからもいい作品が期待できると考えられる。
我々はグラフィカル・ユーザ・インターフェース(GUI)さえお絵書きツールのように容易なものになれば、使い勝手がよくなり、いい作品がたくさん生まれてくると考えていたが、今回課題として挙げられる点は、モデラーの GUI よりも、3 次元のコンピュータ・グラフィックスのモデルを作り出すプロセスそのものについて、幾何公園を配布した先の方々に対してフォローできていないという点である。
特に中学生に多かった間違いは、視点変更しなければ見た目が良いが、視点を変更するとじつはとんでもないレイアウトになっていたりして、3 次元的な奥行き情報が生かされていないことがわかった。また、モデリングプロセスの基本としては、現実に存在する立体を直方体、円錐、球、多角柱などの基本立体の集合として各要素ごとに分解してとらえ、積木のようにそれらを 3 次元的に配置して立体を構成する、という手法がある。こういった方法について各指導者の方々から生徒たちへ伝わっていなかったのではないか、と考えられる。次回はできれば、指導者の方々を集めて講習会のようなかたちで、基本的な操作方法、そして簡単なモデリングプロセスについてレクチャーするか、またはこちらから人を送ってある程度指導した方が好ましい。
また、生徒たちもモチーフにかなり苦しんだ跡が見られるが、始めのうちは、「家具」「身の回りのもの」「建物」といったように観察しやすいものを決めた方がいいと考えられる。そしてそれを注意深くいろいろな方向から観察させて形を認識させる訓練をある程度積むべきである。そういったことに慣れていない子供たちが急に自分でかたちを作り出すのは困難であるようだ。


(2)樹脂模型用データ作成に関して
今回初めて生徒が幾何公園で作った立体を樹脂模型化することに挑戦した。結果は非常によい作品をいくつか樹脂模型にすることができた。だが樹脂模型用のデータは、簡単に作り出せる、というものではない。
樹脂模型は下から薄い板を積み重ねるようにして立体を作り出すため、ところどころで上の方を支えるような支柱を必要とする場合がある。現在この支柱は樹脂模型メーカーで手動で入れられているが、かなりノウハウを必要とする作業であり、あまり複雑な立体を作っても製作にコストがかかるようになってしまう。そこで今回は樹脂模型作成用に選定した立体ひとつひとつに対して、あまり複雑な形状でないような立体にするために手を加えてた。また、複雑な曲面の部分や位相的に正しいかどうか、自己干渉していないかどうか、立体ごとに最低の z 座標はそろっているか、各立体ごとに干渉していないかどうかなど、立体のすみからすみまで確認しなければならない。また、今回多かった間違いは、一見一つの立体なのだが、実は同じところに同じ形の立体がいくつか重なっていることである。おそらく同じ形状ファイルのデータを何度も読み込んでしまったためだと考えられる。こういったよく起こしがちな間違いについては、生徒たちに「こういった立体は作ってはならない」「こういった操作はしてはならない」とあらかじめ指導しておくことが必要である。


(3)問題点
今回、評価に関してはネットワークを利用して作品を直接観賞することが可能であったが、児童生徒は他の作品を観賞することができなっかった。これは、各学校に必要なソフトウエアが入手されれば解決される問題である。
3Dモデラの機能は直方体や円柱といったプリミティブの生成から始まり、立体同士を足したり引いたりといった集合演算、尖った部分を丸めるといった局所変形操作というように多様であり、その機能を使いこなすには十分に時間をかけた教育やトレーニングを必要とする。
また、今回コンテストに用いた「幾何公園」は、中学生・高校生にも理解しやすいようにより直観的な操作によって形が作れるように設計されているが、3Dモデリングを十分に理解し、より複雑な形状を作成するにはかなり高度な数学的知識を必要とするのも事実である。視点の位置の違いによる見え方をきちんと理解するためには投影法の知識が必要である。また、立体の平行移動や回転といった比較的簡単な操作であっても、平行移動してから回転する場合と回転してから平行移動する場合では立体の最終的な移動位置が異なるといった数学的な事実をきちんと理解することはそれほど容易ではない。まして、複雑な曲面の性質といった高度な知識は大学生であっても理解するのに困難を伴う。

(4)今後の課題と対応
各学校において他の学校、他の生徒の作品を観賞できることは、児童生
徒の創作意欲を高めるうえで重要なことである。ネットワークを通して観
賞できるようにすること(必要なソフトウエアの配布等)が今後の課題の
1つである。
今回のコンテストでは、時間の制約上ソフトウエアについての十分は教育やトレーニングを行なうことはできなかったが、指導者や児童生徒に対する講習会、ネットワークを利用してのQ&A等、ソフトウエアの使いこなすためのサポート体制作りも必要である。
ソフトウエアを使い込むことによって, モデラがどのように作成されているのかといった内部構造に対する興味や、立体の表現法や座標変換といったモデラを支える数学的基礎に対する興味も自然に生まれる思われる。そうした自然発生的な興味に対して、学年に応じたどのような教育を施していくのかは今後のもっとも大きな課題である。この課題の解決に向けて現場の指導者と十分にコミュニケーションを保ちながらよりよい指導法を模索していくことが重要である。