4 作品展示型利用企画の教育面での効果・課題に関する調査

4.1 広域ネットワークを利用したコンテストの教育的効果
(1)新しい創作活動の提供
今回のコンテストへの参加を通して、児童生徒は普段の図画工作や美術の授業では得られない経験をしたと期待できる。従来の絵の具やクレパスと言った描画材料とは全く違った描画ツールとマウス、キーボードを利用して、コンピュータ画面に表示された画像を扱うことに加え、何度でも書き直すことができ、また組み合わせやコピーが可能という、描画ツールの機能を活用することで、その中から新しい表現方法をも身につけ発想するきっかけとなったと考えられる。特に、3次元モデリングという従来の経験とはまったく異質な体験は、知的好奇心を醸成する上でも非常に意義深いものとできたのではないか。

(2)ネットワークを利用して新しい環境を提供
一方ネットワークを利用することで、児童生徒が参加するコンテストとして従来にない環境を提供することができた。
例えば、WWWにより作品を全国に公開することから、より完成度の高い作品を目指そうとする意欲が見られたが、創作にかける意気込みも違っていたと想像できる。時間的なゆとりがあれば、他の参加校の作品を鑑賞し、地域性の違いや、環境による発想の違いを認める機会も設けられたと考えられる。各作品を制作過程の段階から公開し、参加者全員が参照しながら、作品を完成させることもネットワークの利用方法の1つである。
今回、ネットワークを利用することで審査委員各自の職場のコンピュータ上で評価することが可能であった。このことは、効率よくコンテストを運営するために非常に有効であった。このようなネットワークの特性を活かし、審査の段階で「だれでも、いつでも、どこからでも」投票できるシステムを実現することで、より特長的なコンテストが実現できると期待できる。
また、文章や数値による審査のみならず、音声・動画を用いた評価を行うことも新しい審査方法として期待できる。

(3)指導者の役割と支援
上記のような教育効果は、各参加校の先生方の献身的な努力により達成されたと考えられる。今後、指導にあたる先生方への支援に対する配慮が積極的に求められる。
今回のコンテストでは、3次元のコンピュータ・グラフィックスのモデルを作り出すプロセスそのものについて、幾何公園を配布した先生方に対してフォローできてきないという点があった。できれば、指導者の方々を集めて講習会のような形で基本操作や簡単なモデリングプロセスをレクチャーするか、または、こちらから人を送ってある程度指導した方が望ましい。


4.2 広域ネットワークを利用したコンテストの今後の課題
(1)教育の必要性
コンテストの運営やアンケート結果などから、参加する児童生徒に対して、作品の実例や簡単な理論、ノウハウなどを解説することの必要性が明らかになった。特に3Dモデラの機能を使いこなすには十分に時間をかけた教育やトレーニングを必要とする。このような点を補うために、文字のみのMLだけでなく簡易に通信可能なマルチメディアメールのような通信手段の開発と学校への配布が期待される。

(2)指導者の支援体制
同時に指導者への作業についても十分な支援が必要である。特に応募作業については、従来利用している手法と異なる場合も多く、そのような作業についてアドバイスが必要との意見が多数見られた。児童生徒が利用する描画ツールを使いこなすための指導者向けのサポート体制づくりも必要である。

(3)コンピュータ環境の整備
残念ながら、3次元モデリングでは、今回児童生徒は他社の作品を鑑賞できなかった。
各学校において他の学校、生徒の作品を鑑賞できることは、児童生徒の創作意欲を高める上で重要なことである。この点は、各学校に必要なソフトウェアが配備されれば解決される。ソフトウェアの配布を含め、ネットワークを通して作品鑑賞できるようにすることが今後の課題の1つである。
一方、コンピュータグラフィックスにおいても画像転送速度やサーバのレスポンスが遅く、作品数に比べ、審査は容易では無かった。同様の問題は参加校にも見受けられた。マルチメディアデータの送受信を円滑にするためのネットワークの高速化は重要な課題であり、早急に対応すべきである。ネットワークの画像転送速度の高速化や100校のサーバの高速化が期待される。


(4)指導上の課題
3Dモデルを理解し複雑な形状を作成するには、かなり高度な数学的知識を必要とする。平行移動してから回転する場合と回転してから平行移動する場合では、立体の最終的な移動位置がことなるといった数学的な事実をきちんと理解することはそれほど容易ではない。このような点について寄りよい指導法を模索していくことが重要である。

(5)運営上の課題
今回のコンテストは時期、期間の問題から参加を見合わせた学校が多く見受けられた。学校行事との調整が可能な時期、期間を設定することが大切である。
また、今回のコンテストでは問題が生じなかったが、作品の応募並びにコメント者の認証については課題が残されている。
教育においても、サイバーショッピングなどで既に活用されている個人認証や電子署名の技術を早急に取り入れ、教育ネットワークセキュリティとして研究・開発を進めるべきであろう。


4.3 まとめ
100校プロジェクトの一つとして、インターネット・コンテストを試みたわけであるが、総じて興味深いものであった。十分に検討されたスケジュールに従って委員の方々が手際よく対応して下さり、十分な配慮のもとでコンテストの実施、評価が行われた。そして多くの関係者の御支援で良い結果を出せたことに主査として満足しているしだいである。
ところで、少し前にインターネットとマルチメディアの教育利用調査でアメリカを廻った。確かシアトルであったと思うが、スピーク・イージー・カフェと呼ばれる喫茶店において、若い世代の人々はもちろんのこと、お年寄り、女性がコーヒーを啜りながら、インターネットを利用し、電子メイル、ネットニュースさらにWebによる様々な情報を視聴する光景を見て、なるほどアメリカだな、と感心した次第である。
そこでは極めて無造作にコンピュータが置かれ、客は喫茶店で新聞や雑誌を読むが如く、それらを操作している。その姿とコーヒー一杯分の値段(多分2、3ドル程度だったように記憶しているが)が印象的であった。しかも客によっては数時間居座っていることも少なくない。ふと我が国ではどうなるであろうかと想像し、時間いくら、インターネット使用料いくらといったことを考えた。
今、インターネットという新しい情報通信技術によって、新たな動きが世界で起こっている。その教育利用においても過熱気味である。一時的な風邪であろうか。しかしながら熟考してみると、人間が持つ本性、つまりコミュニケーション欲求を満たすべき新しい手段であり、思考活動の増幅器として人間が待ち望んできたものの一つではなかろうかと思うようになった。人間の身体的移動の増幅器が自動車に例えらるとするならば、インターネットは当に、コミュニケーション・表現活動の増幅器であろう。それによって教育の内容、形態、方法も多様性を持たせていかなければなるまい。一言でいうならば、教育のグローバル化の幕開けである。折しも21世紀に向かっての学校の情報インフラが取り沙汰されているが、学校における情報化の意味は、ひょっとするとここにあったのではないかと感じるしだいである。
このような動向の中で、児童・生徒達が、「私たちのまちの未来」というテーマのもとで、思い思いのイメージを抱き、コンピュータ・グラフィックス・ツールを利用し自己表現してくれ、また3D−グラフィックス・ツールを利用してた自らのアイデアで作品を創造してくれた意義は大きい。そしてそれらをインターネット利用し、公開するという活動が”オリジナルな創作的活動と発信”を意味し、子ども達、教師においても貴重な体験であったのでなかろうかと思うしだいである。将来、これらの一連の企画が子ども達自身の手で行われることを期待したい。
最後に、このプロジェクト活動を通じて私自身、また新しい方々と知り合えることができ、コミュニケーションの輪が広がったことに感謝したい。インターネットは、個人と地域と世界を結びつけるコミュニケーションの一手段であるが、これを機会に再度、学校の情報化の意味を21世紀を視点に入れながら見つめ直したいものである。