4.特殊教育共同利用企画の実施における教育面での効果・課題に関する調査

4.1 広域ネットワークを利用した特殊教育共同利用企画の教育的効果

 障害をもつ児童生徒にとって,その社会経験を広げ,積極的な自己表現を引き出すためにもインターネットをはじめとした広域ネットワークは大きな教育的意義を持っている. 広域ネットワークには障害児の移動の困難や社会経験の不足を補うと言った,「代替え的」な効果も確かに大きいが,パソコンというアクセシビリティを補う機器を介することによってリアルタイムにはできない自己表現を持って望むことができると言ったコミュニケーションの「基盤確立」の意義にも着目すべきである.またインターネットならではの「双方向性」は,障害の有無,人種,性別,年齢などの障壁を取り払った公平でありかつシビアな世界である.地域や一般社会への「完全参加」をめざす一方で,より積極的に,能動的に自己表現と自己決定を迫られる,自ら関わっていく「世界」を持つことは,障害児のライフステージを展望する上で重要なことである.

 障害児はこれまでの障害児教育観,あるいは社会観の中では,「保護されるもの」であったり,哀れみで見られるものであったりした.そして,いつも受け身に「してもらう」ことが多い生き方になりがちであった.学校教育もそれを受け入れ,おとなしい,受け身の障害児を作ってはいなかっただろうかという反省の声が最近ずいぶん聞かれるようになった.

 広域ネットワークには障害児の移動の困難や社会経験の不足を補うと言った,「代替え的」な効果も確かに大きいが,パソコンというアクセシビリティを補う機器を介することによってリアルタイムにはできない自己表現を持って望むことができると言ったコミュニケーションの「基盤確立」の意義にも着目すべきである.またインターネットならではの「双方向性」は,障害の有無,人種,性別,年齢などの障壁を取り払った公平でありかつシビアな世界である.地域や一般社会への「完全参加」をめざす一方で,より積極的に,能動的に自己表現と自己決定を迫られる,自ら関わっていく「世界」を持つことは,障害児のライフステージを展望する上で重要なことである.

 障害児はこれまでの障害児教育観,あるいは社会観の中では,「保護されるもの」であったり,哀れみで見られるものであったりした.そして,いつも受け身に「してもらう」ことが多い生き方になりがちであった.学校教育もそれを受け入れ,おとなしい,受け身の障害児を作ってはいなかっただろうかという反省の声が最近ずいぶん聞かれるようになった.

 確かに,社会福祉をもっと進め,障害者も含めたハンディキャップを持つ人たちに対して積極的に街づくり,体制づくりをはかるべきである.社会参加の場を与えたり,多くの優遇措置を講じるべきである.しかし,それは障害児自身の自己主張を妨げるものであってはならない.第2章で触れたとおり,特殊教育(障害児教育)は特殊な教育法方と教育課程による普通教育である.すべての子どもたちと同じように,障害児が正しく自己主張をしていけるように,力を貸していくことが今後の特殊教育の目的であり,展望でもあろう.

 インターネットは,その世界的規模やwwwの機能など,障害児が積極的な社会参加をしていく一つの形態として,従来の障害児教育観を見直させるだけのインパクトを持っている.むろん,インターネットだけがその教育手段というわけではないし,すべての障害児がインターネットを使うべきであると言っているわけではない.特殊教育は,あくまで個の教育ニーズに沿った多様で柔軟な教育形態である.その形態の一つとして,今後のインターネットを利用した教育の発展に期待したい.

とはいえ,こうした新しいメディアや教育内容が学校教育の中に位置づけられ,推進されて行くには,今少し時間がかかると思われる.

4.2 広域ネットワークを利用した特殊教育共同利用企画の今後の課題

今後の利用企画と研究の課題としては,大きくは学校の内部の問題と,周辺の問題に分けることができる.

 学校の問題とは,言うまでもなく,インターネット等の広域ネットワークを活用した情報教育をどのように教育課程の中に位置づけて,効果的に進めていくかという教育活動の問題である.そして今一つには,それを効率よく運営していく校内体制の確立である.この問題には,校長以下管理職の良き理解と支援,担当以外の教員集団の理解と協力,保護者の支持,事務担当の経済的支援など,多くの人的な問題が含まれる.さらに言うと,教室環境や機器の管理と言った施設・設備・物的な問題も大切な課題である.

 こうした問題を解決するにあたり,もっとも効果的なのは,児童生徒の意欲の向上や変化,楽しそうな笑顔を引き出すことである.これらについては,今回の8校の今後の実践に期待するところが大きい.

 一方,外部の問題とは,言うまでもなく技術的なサポートの問題である.適切な支援機関が,アクセシビリティ機器や回線利用の技術的な課題解決にあたり,各学校が教育内容に専念できるように,支えていく必要がある.今後は,何もかも教員が抱え込むと言った旧来の学校体制を乗り越えていかないと,よりよい教育実践はできない.それほどまでにテクノロジーは発達を遂げ,社会規範や教育のニーズも多様化しているのである.

 学校外の問題としては,今後各学校にインターネット等の設備を充実していく予算的な裏付けや行政の取り組みも含まれる.メーカー,サポートセンター,行政などが一体となり,インターネットの教育的意義の共通理解をはかるべき時が来ていると思われる.

 さて,当面は,前述のアクセシビリティの問題を個別ケースに応じて積極的に解決を図っていく必要がある.そのためには,利用企画メーリングリストメンバーを中心とした,多くの専門家の協力が不可欠であると思われる.

4.3 まとめ

 平成7年度から始まった100校プロジェクトの実践研究も,1年が終了した.繰り返すが,特殊な機器が必要であったり,特殊教育諸学校の持つ校内事情などから,8校がすべて足並みをそろえて実践に関われたわけでは決してない.ましてや,障害種別の偏りから同一学校種が1校しかないために協調・協力の得にくい知的障害,肢体不自由,病弱などの養護学校では,文字通り一からの試行錯誤を経てここまで来たことは称賛に値する.8校がまがりなりにもホームページを立ち上げたり,メーリングリストによって支援を受けながら実践を続けてこられたのは,各校の担当者の多大な努力と,周囲の方々の協力の賜であったことは明らかであり,そうした活動に,まず敬意を表したい.

 そして,メーリングリストに参加された方々の積極的な励ましと,前向きな議論の輪がこの利用企画をここまで育ててくれたわけで,その熱意にもここで厚くお礼を述べる.

 本文中でも触れたが,この企画と研究は,まだ動き始めたばかりである.課題も山積している.しかし,一つ言えることは,関係者をここまで駆り立てているのは,障害をもつ子どもたちの将来に,このインターネットをはじめとした広域ネットワークの活用が大きな教育的意義を持っているということを,皆が了解し合っているからだと思われる.

 いよいよ,来年度は,各学校とも本格的に体制を整えて本格的な実践を進めることとなる.そうした企画を支え,次にこれら広域ネットワークを教育に取り入れようとする多くの学校の子どもたちのために,引き続きメーリングリストのメンバーや関係機関等のみなさんのお力添えをお願いし,本年度の利用企画のまとめとしたい.