PICSの概要

(Platform for Internet Content Selection)


 PICS(Platform for Internet Content Selection;インターネット情報選択のプラットホーム)とは、インターネットにおける情報の発信を制限することなく、受信者が設定した情報選択のレベルに合わせて、情報を選択的に受信(フィルタリング)できるようにするための基盤となる技術的仕様です。World Wide Webコンソーシアム(W3コンソーシアム)のPICSワークグループによって1995年の夏から開発を進められ、標準規格として提案され、インターネットの情報の選択的閲覧のための技術的規格として、国際社会において広く採用が検討されています。   
 基本となる発想は、情報コンテンツに対するラベルづけです。PICSラベルと名付けられた機械可読形式の内容評価コメントを原本のコンテンツの属性情報として付加し、コメント属性情報に基づいて自動的な選択的受信を可能にします。当初は、子供がインターネットにアクセスする際に、親や教師が閲覧先をコントロールする目的で設計されましたが、PICS準拠の製品が多数提供されてきた結果、種々の目的にも対応できるようになってきました。ラベル情報の形式には汎用性があり、将来はインターネット上の情報検索、プライバシー保護、知的所有権の管理等の目的にも有効利用できるよう拡張される予定です。   
 PICSはインターネット上の情報に対しラベル付け(レイティング;評価)し、任意の基準に基づいた分類により受信者側で情報を選別し、「見せたくない」または「見たくない」情報を排除する(フィルタリング)方式を採っています。フィルタリングを行うためには、レイティングデータが必要で、情報発信者自身が情報に対してレイティングするセルフ・レイティングと、流通している情報に第三者が付加的なレイティングを行うサードパーティ・レイティングとがあります。サードパーティ・レイティングのデータは、インターネット上の情報内容を様々な観点から評価できるよう、異なる価値観に基づく複数の種類が存在しても構いません。フィルタリングソフトウェアは設定に基づいて、そのような多様な情報源からのレイティングデータを参照し、受信者が受信する情報、または親や教師が監督下の子供たちに与える情報をコントロールすることが可能になります。   
 ただし、PICSというのは、あくまでも技術的な仕様を規定したものであり、ラベルの分類基準やラベルの内容、フィルタリングの方法までは規定しないし、ソフトウェアやレイティングシステムを提供するわけでもなく、それらは外部の活動にまかされています。第三者が開発するWWWブラウザ(WWWを見るためのソフト)、Usenetニュースリーダー(電子ニュースを読むためのソフト)、その他のPICS互換のインターネット用アプリケーションにより、親や教師は各種の評価サービスまたはその組み合わせの中から好むものを選択できることになります。具体的なクライアントソフトとしては、マイクロソフト社が1996年に公開したパソコン上のWWWブラウザソフトウェアである「インターネットエクスプローラ3.0」にはすでにPICS準拠のフィルタリング機能が組み込まれています。   
 フィルタリングの方式には、有益な情報だけに閲覧を許すホワイトリスト方式と、問題サイトの排除をするブラックリスト方式の2つの方式があります。ホワイトリスト方式は厳格だが安全度が高く、ブラックリスト方式は自由度が高いが安全度は劣るという傾向がありそれぞれ一長一短がありますが、評価ラベルとして提供されるレイティングデータが充実すれば、どちらの方式でも実用上の差異は少なくなるでしょう。   
 情報提供者は自分自身でPICS規格のラベル情報を作成するか、もしくは第三者機関のPICS評価サービスが評価認定の際に発行するPICS規格のラベル情報を入手し、自己のコンテンツに付加しておくことができます。こうしておくことで、PICS準拠クライアントソフトからのアクセスの際に、クライアントソフトがあらかじめ設定されたアクセスレベルに応じてアクセスの可否を自動判定し、選択的閲覧が可能になる仕組みです。PICS規格では自作ラベル情報、第三者機関によるレイティング認定ラベル情報のいずれも許容していますが、どのラベル情報に基づいてアクセスを許諾するかは受信側の設定に委ねられています。PICSに準拠した評価認証(レイティング)のための基準作りは世界各地で進行中です。   

フィルタリングの概要


(a)フィルタリングの仕組み   
 コンピュータに、フィルタリングソフトウェアを組み込んでおき、情報提供サイトの種別、レーティングサービスの種別およびレベルを設定します。設定は親や教師など管理者のみが知るパスワードでロックされ、子供が変更することはできません。子供は、親や教師の監督なしにインターネットへアクセスできますが、あらかじめ設定されたレイティングレベルに適合しないサイトへのアクセスはブロック(遮断)されます。    
(b) レイティング(ラベル付け)   
 インターネットで情報のフィルタリングを行うためには、まず、インターネット上の情報に対してラベルを付ける必要があります。このラベル付けをレイティングまたはコンテントラベルと言い、インターネット上のURL、文書データ、写真データ、映像データ等にラベルを付与します。また、レイティングを行うには、情報をある基準で分類し、その分類に基づいたデータでラベルを構成することになります。この分類基準のことをレイティングシステム(レイティング基準またはラベル基準)と言います。分類は複数種類であったり、階層構造であったり、その目的に合わせて自由に構成できます。   
 レイティングには情報提供者自身がその情報に対しラベル付けするセルフレイティングと、第三者がインターネット上で流通している情報に対してラベル付けするサードパーティレイティングがあります。前者は、インターネット上への多量のラベルの提供に適しており、より簡単で自然な方法です。後者は、異なる価値観に基づいた付加的なラベル付けが可能で、ある限定された範囲の受信者を対象にしたレイティングもできます。   
 両親や教師等のインターネットアクセス管理者が独自のラベルを作成することもできます。一般に、フィルタリングソフトウェアはこの機能のことを「オーバライド」機能と言っています。   
 一サイトまたは一つの情報(文書等)には、異なる機関が提供する複数個のラベルを付けることができます。これにより、一つの情報に対する幾つかの異なる価値観に基づいたレイティングも可能です。   

(c) レイティングサービス   
 レイティングサービスは個人、グループ、機構または企業がインターネット上の情報に対してラベルを提供するサービスのことです。このサービスはあらかじめ設定されたレイティングシステム(基準)に基づき、application/pics-serviceというMIMEデータ形式で記述されます。この形式で作成されたラベルは、PICS準拠のフィルタリングソフトウェアで処理することができます。   
 レイティングサービスはラベルビューロー(ラベルをネットワークにより配信するコンピュータシステム)またはCD-ROM等により提供されます。ラベルビューローによるレイティングサービスは有料の場合と無料の場合があり、運営に関わる経費は、会費や寄付を集めるとか、あるいは商用オンラインサービスなどの他機関にラベル情報の利用や再配信のライセンスを販売することなどによって賄われています。   

(d) フィルタリングソフトウェア   
 フィルタリングソフトウェアは管理者がフィルタリング条件を設定する時の会話処理と、受信者がインターネットにアクセスする時にPICS準拠のラベルを読み込み、情報アクセスのブロックや許可等の処理を行うソフトウェアです。   
 フィルタリングソフトウェアには、Internet Explorer、Netscape、SurfWatch等の有料のものと、AOL、AT&T Worldnet、Compserve、Prodigy等が提供している無料のものがあり、構成形態は3種類あります。1番目は、MicrosoftやNetscapeが採用した方法で、フィルタリングソフトウェアを各コンピュータのブラウザに組み込む方法です。2番目の方法は、Cyber PatrolやSurfWatchの様に、ネットワークプロトコルの監視制御機構として組み込みます。3番目の方法は、インターネット上のどこかで実行されます。たとえば、ファイアーウォールや専用(プライベート)ネットワークと連動して使用されるプロキシー(代理)サーバで使用される方式です。   
 また、フィルタリングソフトウェアにはソフトウェアにレイティングラベルのセットが附属しているものと、附属していないものがあります。後者は、PICS準拠のレイティングサービスを利用する方式です。   

将来活用できそうな応用例   
 新しいインフラは、当初は見えなかったニーズが発生し、予想していなかった方法で使用されることがあります。PICS仕様は新しい機能を追加できるような拡張メカニズムを持っており、この予想外の機能にも対応できるようになっています。特に、レイティングシステムに着目すると、将来は次の様な応用例も考えられます。   

(a) オンラインジャーナル   
 インターネット上でオンラインジャーナルをサービスするような場合、多くの読者によく検証されたラベルを付与することにより、最良の情報を提供できます。また、PICS互換のラベルサービスでは、記事に対するラベル情報として、文字とアイコンを数値で表現できます。そのため、“将来性のある記事”の様に頻繁に使われる注釈をコード化できます。   

(b) 情報検索   
 レイティングシステムはブロッキングよりもむしろ有益な情報を検索する目的で使用され、検索エンジンによる情報の検索や情報一覧表示などのサービスで利用される可能性があります。   

(c) 知的所有権の基準   
 インターネット上の情報の所有者、コピー方法、使用法等をレイティングし、知的所有権の基準として使用することができます。もちろん、これは知的所有権保護の難問解決のほんの一端にすぎませんが。   

(d) プライバシーの基準   
 利用者は自分の個人的な好みとか、どんな情報がウェブサイトとの交信で集められ、どのように使われたか表すことができるラベルを掲示することができます。   

(e) 世評の基準   
 商用サイトでは企業等の過去の実績情報を基に、(3つ星レストランなどのように)企業の善し悪しをレイティングしてベタービジネスビューローと呼ばれるサービスを提供することができます。また、あるネットワークの所有者がそのネットワークで発進された情報の品質についてもレイティングし、悪い世評の情報発信を制限することができます。   

参考:   
PICSホームページ(W3コンソーシアム)   
http://www.w3.org/pub/WWW/PICS/   

日本版PICSサービス

 ネットワークサービス会社の業界団体である電子ネットワーク協議会(事務局は財団法人ニューメディア開発協会内)では、1997年にPICS認証サービスを開始すると発表しました。国際的に広く使われているRSACi等に準拠して日本独自のレイティング選定基準を作成し、ニューメディア開発協会が置く独自のサーバによってレイティングビューロとしてPICS認証サービスを行うものです。    

電子ネットワーク協議会   
http://www.nmda.or.jp/enc/   


RSAC(娯楽ソフト諮問会議)

 RSAC(Recreational Software Advisory Council;娯楽ソフト諮問会議)は、テレビゲームのための評価システムを開発した非営利法人です。Cyber Patrolを開発したMicrosystems社などと協力してRSAC評価システムRSACiをインターネットで実行するための活動にも取り組んでいます。   
 RSACi(Recreational Software Advisory Council on the Internet;RSACによるインターネット・レーティングシステム)は、スタンフォード大学で20年以上にわたり、メディアが子供に与える影響を研究してきたDonald F. Roberts 博士の研究成果に基づいています。基準としては、以下の項目があげられています。   
レベル    暴力    ヌード    セックス    言葉   
Level 0     無傷の闘争、物に対する軽度の損傷    ヌードおよび露出的服装なし    セックスのない恋愛    不快感を与えない俗語、無冒涜   
Level 1:    殺傷された生物、物に対する損傷、闘争    露出的な服装    情熱的なキス    穏やかな悪口   
Level 2:    軽度の流血または傷害を受けた人間    部分的なヌード    着衣のままの性的接触    悪口、性的でない解剖学的言及   
Level 3:    殺傷された人間    性的でない正面を向いた全裸    不鮮明な性行為の描写    強く卑猥な言葉、わいせつなしぐさ、 差別的悪口   
Level 4:    残忍で過激な暴力、拷問、レイプ    刺激的な正面を向いた全裸    性行為の鮮明な描写、性犯罪    露骨で鮮明な性的言及、著しい憎悪の言動   
 RSACは非営利で中立的と位置づけられるため、RSACiの評価基準は各国が採用しようとしているPICS評価基準の標準的なものになると目されています。    
<前ページへ>