新100校プロジェクト成果発表会
中学校部会

広めようインターネット ―ハードウェアからアプリケーションへー

前橋市立第四中学校 折田 一人

1.はじめに
 あと数年で日本中の学校がインターネットに接続されようとしている。接続されるまでは、とかく回線やコンピュータ等のハードウェアと、それによって得られるであろう成果や問題点に目が向きがちであるが、実際に利用する上では、様々な利用のための条件整備や工夫が必要になる。
 そこで、ここではインターネットを学校で活用するために必要な条件や利用のための工夫等について、物・場・人の3つの観点から考えてみたい。

2.生徒の学習の道具・環境の整備(物)
 21世紀に生きる子供たちのためにインターネットを学校に導入したのならば、子どもたちがインターネットを使って学習する機会を保証しなくてはならない。そのためには、子どもたちがインターネットに接続されたコンピュータを直接操作できる環境を構築することが重要であると考え、本校では毎年校内ネットワークの拡張を行ってきた。本校でのインターネット接続のコンピュータ台数の推移は以下の通りである。
年度 接続回線 サーバー クライアント 設置場所
アナログ専用線 24Kbps PANIX(1) Windows3.1(1) コンピュータ室
アナログ専用線 24Kbps PANIX(1) Windows95β(7) +国際交流室+職員室
アナログ専用線 24Kbps NT(1),FreeBSD(2) Windows95(40),NC(10) +全普通教室+特別教室
デジタル専用線 64Kbps NT(1),FreeBSD(1) Windows95(40),NC(10) 全学校への展開
 現在は全教室からインターネットを利用できる環境が整っているが、本校がここまでインターネット利用環境を拡張してこられたのは、専用線で接続時間に制限がなかったことと、最初からインターネット接続のためのサーバーを持っていたため、運用や拡張性に自由度が高かったことが重要なポイントである。

3.利用のためのカリキュラム(場)
 インターネットを課題解決の道具として活用できるようにするには、その操作方法だけでなく、ネチケットと呼ばれるインターネット上のルールやマナー、効果的な情報の収集や発信などについて計画的・継続的に学習する必要がある。しかし現行の指導要領で独立した「情報」の時間はないので、本校では技術・家庭科の「情報基礎」領域を1年から3年まで10時間ずつ分割して設けることで、
・コンピュータの基本操作やメーラー、ブラウザの基本操作や、ホームページ作成、コンピュータやネットワークの仕組み等の学習(知識・技能)
・ 情報の収集から編集、整理、発信までの情報活用に必要な考え方や方策の学習(情報活用)
・ インターネット利用上のルールやマナー、著作権やプライバシーの保護等の学習(態度・モラル)をそれぞれの学年で段階的・らせん状に学習している。また、それぞれの要素を別々に指導するのでなく、一つの課題を解決していく中で、自然に3つの要素を学習できるように配慮している。
 また、各教科ではそれぞれの教科の目標や受験という障壁があるのも事実なので、そうした枠を超えて、より生徒が自主的に課題解決を行う学習の場として、総合的な学習を選択学習やクロスカリキュラムによって実現したり、国際交流委員会などの委員会活動を新たに設けるなどして、活用の場面をより多く設定できるようにした。更に休み時間や放課後などもコンピュータ室を開放し、コンピュータやインターネットを自由に利用できるようにした。

4.教師への研修と利用支援(人)
 現在の学校ではいくら環境を整備し、生徒に利用方法を指導しても、それぞれの教科の教師がインターネットを活用した学習の機会を生徒に与えなければその利用はできない。そこで、教師への研修がどうしても必要になってくる。そこで、本校では過去3年間にわたり、コンピュータやインターネットの操作方法等を中心に教員への研修を行ってきたが、なかなか教科での活用には至らず、利用する教員としない教員の差が非常に開いてしまった。そこで、今年度は生徒への指導計画を教師にも当てはめ、インターネットを活用した授業の改善に焦点をあてて、以下のように研修を行った。
・コンピュータの基本操作やメーラー、ブラウザの基本操作や、ホームページ作成、コンピュータやネットワークの仕組み等の研修(知識・技術)
・ 課題解決的な学習を中心に生徒主体の学習の手段としてのインターネットの活用をめざす授業実践(情報活用)
・ 広い意味での情報教育の必要性や、授業形態の工夫、教師自身の情報化への対応の必要性など(意識)
そして、実際に1人1研究として個別にテーマを設定し、授業実践を行う研修を行った。教科担当とは、どの場面にどのように課題解決等、生徒主体の活動を位置づけ、その解決の手段としてどうインターネットを活用するか、という計画の段階から話し合いを行い、授業の準備段階から継続的に支援を行った。
 その結果、ほとんどの教員がインターネットを活用した授業実践を行い、インターネットを使って自主的に課題解決を行う子どもたちの生き生きとした姿や反応を直に感じることで、学習へのインターネット活用の意味や課題について自分自身の問題として認識することができた。。

5.成果と課題
 上記のような手だてを講じることで、生徒は課題解決の手段としてインターネットを様々な場面で活用できるようになった。その結果、以下のような成果が見られた。
・ 教師自身がメーリングリストに加入したり、サーチエンジンを活用するなど、インターネットを教材研究や情報交換の道具として活用するようになった。
・ インターネットの活用を契機に、総合的な学習や課題解決学習等、指導方法や内容の工夫・改善が見られた。
・ 海外の学校とメール交換をすることで、英語の学習に集中するようになった等、学習に目的意識が出てきた。
・ 自分で調べたいことをWWWで探したり、メールで質問したりするなど、積極的な学習が見られるようになった。
・ 情報の収集や発信、交流の手段としてのインターネットの特徴や問題点などが実際に体験することで知識としてでなく、意識として伝わった。
・ コンピュータやインターネットを課題解決の道具として活用するための基本的な知識や技術を身につけることができた。
しかし、以下のようにまだ解決できていない問題点があるのも事実である。
・ 「情報」の指導時間が足りず、どうしても操作方法などは「教え込み」になってしまう・
・ 様々なプロジェクトでの連絡・調整、ネットワークの維持・管理、教師への支援など、担当者の負担が非常に大きいが、それを分担し組織化したり、後継者を育てるのが難しい。
・ 個人情報保護の動きが、生徒の自主的な情報発信にまで制限を与えつつある。
・ 情報教育をカリキュラムにどう位置づけ、他教科とどう関連づけていくか。

6.まとめ
 インターネットを学校につなぐ事は始まりであって、目的ではない。大切なのはハードウェアを整えた後の、それをどう活用するかというアプリケーションである。そしてそのためには、前述したようにネットワーク利用環境の構築(物)、情報教育や教科等での活用のためのカリキュラム編成(場)、教員への研修や支援(人)等、学校全体としての取り組みが不可欠である。本校がこうした体制作りを始めた背景には、他の学校の様々な事例の紹介や先達社のアドバイス、地域のボランティアの方たちの協力があったからであり、決して本校1校だけの力で成し遂げられたものではない。今後、これからインターネットに接続しようとする学校も含め、より多くの学校でこうした情報を交換、共有しあい、よりよい活用のための条件づくりを進めていきたい。