新100校プロジェクト成果発表会
中学校部会

100校プロジェクトの成果と課題
−酸性雨調査プロジェクトの3年間の実証実験をとおして得られたもの−

広島大学附属福山中学校 長澤 武

1.はじめに
 酸性雨調査プロジェクトは、1995年8月、広島大学総合科学部の中根周歩教授の支援のもとに、100校プロジェクトの企画の1つとしてスタートしました。広域ネットワークを学校教育に有効に利用するための実証実験の場として、環境教育の重要な分野である酸性雨の調査研究を位置づけたことになります。事務局からの呼びかけに応じて、参加して下さった学校は 1995年度は40校、1997年度は47校になりました。100校プロジェクト参加校だけでなく、日本各地から様々な校種の学校の参加によってすすめられたこの実証実験は、データを蓄積するためのデータベースがうまく運用されたこともあり、当初の期待以上の成果をあげることが出来ました。
 このプロジェクトに学校が参加するに当たって、次に示すように2つのアプローチの仕方があったように思います。
 1)インターネットを学校教育に取り入れていくために、このプロジェクトへの参加によってインターネット利用の  経験を積みたい。学校の教育活動のなかへ、インターネットを位置づけていくための手法を探ってみたい。イン  ターネットの教育利用の可能性の模索が中心となったアプローチの仕方です。
 2)学校で行っている環境教育をより効果的なものにし、生徒の活動を意欲的なものにするために、インターネット  という今日的な手法の導入を意欲的に行いたい。環境教育の推進が中心となったアプローチの仕方です。
プロジェクトの計画・立案の段階では、環境教育の推進というアプローチからの参加が多いのではないかと考えていましたが、3年を経過した今、現状分析や参加校へのアンケートを通して、このプロジェクトはインターネットの教育利用の可能性を模索するための実証実験という色彩が強かったと考えています。もちろんいくつかの参加校の実践は、インターネットを使った環境教育として、非常に価値のあるものであつたことはいうまでもありません。今回の発表は、3年間の実証実験を通して得られたデータをもとに、インターネットの教育利用の現状と問題点を報告し、インターネットを学校教育の中に効果的に組み込んでいくための方法についての提案をしたいと考えています。

2.プロジェクトの3年間の経過
1995年 8月  酸性雨調査プロジェクトを全国の学校に提案(10月参加校の締切り)
     10月26日メーリングリストを開設。 acid-menber@cec.or.jp
1995年12月   酸性雨調査プロジェクトのホームページ完成。
1996年 1月   参加校による入力開始。本格的な運用開始。
           各校の取り組みについての調査。
1996年 4月   1996年度の基本構想を決定。
1996年 7月   100校プロジェクトの共同利用企画の1つに決定。
1996年 8月   参加校の追加募集。      
1996年10月   イオンクロマトグラフによる雨水の分析のための試料の採取。冷凍して事務局に送付。
1996年12月   広島大学総合科学部中根周歩教授の研究室で分析。
1997年 2月   英語版のホームページを公開。
1997年 3月   化学分析の結果をホームページで公開。
1997年 4月   1997年度の基本構想の決定。
1997年 7月   新100校プロジェクトの重点企画の1つとなる。
           高度化教育企画の「定点観測データの共有・活用実験」の1つとなる。
1998年 2月   研究報告書の作成。
1998年 3月   次年度以降の研究計画の作成。
           ホームページの改訂。

3.プロジェクトの現状分析
 1997年10月参加校に調査用紙を送付。プロジェクトの現状について調査を行う。参加校47校中33校からの回答がえられた。このプロジェクトには様々な校種の学校の様々なグループが参加する事によって始まった。参加目的もグループによって異なり、ネットワークの利用が学校教育の中に、大きな変化をもたらすことに対する期待が膨らんだものである。調査を通して得られた成果と問題点をまとめておきたい。
a)プロジェクトへの参加理由及び参加してよかったこと。
 クラブ活動の一環として参加を決めた学校が多い。あわせて理科及び環境教育の教材として利用したいという希望がかなりある。インターネットの教育利用を経験したい、インターネットの活用研究を行いたいという気持ちがどの参加校にもあり、プロジェクト発足当時はこの部分の比重が大きかったと思われる。参加してよかったこととしては、酸性雨の実態が把握出来たこと、全国的な共同学習が出来たこと、インターネットの利点が理解できたことなどがあげられる。
b)プロジェクト推進にあたって、困難であったこと。
 長期間にわたって、観測体制を維持することが、生徒や教師にとって難しい。観測装置の破損等に伴う、費用の負担が大きい。学校における教育活動は1年を単位として進められており、担当教師の転勤等や熱心な生徒の卒業は、プロジェクトの継続的な推進に大きな障害となる。プロジェクトの推進方法に工夫が必要だとの印象をもった。
c)プロジェクトのバックアップ体制について
 ホームページの運用や、データの送信方法などについては、おおむねよい評価をいただいた。データの修正が出来るようにすること、事務局との交流の増加などの希望があったが、参加校と事務局との間の、意見交換の必要性を日常的な運用の中でも感じている。参加校の担当者が電子メールを常時チェックしていない現実があり、メーリングリストが機能しなかったことも、今後の問題として残る。
 事務局でデータを処理して、グラフ化したもの等をホームページに掲載することについては、当面行わない方針で進めてきたが、参加校にはいろいろなケースがあり、今後はある程度のまとめを行った方が、プロジェクトの推進や、インターネットの教育利用の推進につながるのではないかと考えている。
 1998年2月、基盤センターのサーバーに蓄積されているデータが、ハードディスクのクラッシュで壊れるという事故があり、データベースの修復にかなりの時間がかかったことから、サーバーの管理について、大きな課題を残すことになった。
d)他校との交流
 数校の学校で交流の経験があるだけである。このプロジェクトも今後、生徒や教師の交流を深めることで、一層の教育効果をあげるものと考えられる。このためのバックアップも事務局の仕事の1つである。

4.観測データの教育活動への利用
 学習指導要領の3領域、教科・特別教育活動・道徳の中で、インターネットの活用が最も多いのが特別教育活動の領域である。これに比べて、日常の教科の授業の中での活用は、従来の教科の内容や、授業の展開の方法の上で、インターネットの特性を生かした利用が難しく、まだ試行的な実践が始まったばかりである。
 酸性雨調査プロジェクトの参加校においても、スタートから3年を経て、いくつかの学校で授業への利用が試みられるようになってきた。教育活動へのインターネットの利用には、時間をかけての実証実験が必要なことがわかる。
 広島大学附属福山中学校における利用状況は次のようである。1991年度から、カリキュラムの中で環境教育に取り組み、「環境に対する豊かな感受性や見識をもつ人づくり」を目指している。中学2年において、週1時間の理科の課題学習の中で、環境問題を取り上げ、気象及び酸性雨の継続的な観測に取り組むとともに、酸性雨調査プロジェクトや「環境のための地球観測プログラム(GLOBE)」へ参加、1997年度から2年間は「環境データ活用事業(EILNET)」の研究指定校になっている。 課題学習の授業における、「酸性雨調査プロジェクト」への参加は、「世界を視野に入れる」あるいは「世界と手を携える」ことを可能にすることになった。インターネットの利用によって、環境教育は大きな転換点を迎えたといえる。
 「Think Globally,Act Localy」の「Act Localy」の部分でこのプロジェクトは教材を提供しているといえる。

5.まとめ
 酸性雨の調査活動を含めて、環境教育は長期間にわたる教育活動が必要である。このプロジェクトによって、学校における教育活動を支援するシステムの存在が、教育活動の活性化に大きく寄与することが、確かめられたわけである。新100校プロジェクトの今後活動として、学校にとって現実的で、有効な支援システムの開発と、運用のための組織のあの方の解明が行われる必要がある。