新100校プロジェクト成果発表会
高等学校部会

オンラインディベートによる学校間交流〜その2〜

東北学院中学高等学校 名越 幸生
nakoshi@jhs.tohoku-gakuin.ac.jp
1.はじめに
 『オンラインディベート』とは,ディベートのすべてのコンテンツをネットワーク上で展開し,行うものである。ディベートは現在,学習指導要領への導入が検討されているが,今のところは各々の先生方の裁量で,国語・社会・英語を中心に、理科や道徳などの既存のカリキュラムを指導する際に用いられている。本企画は、特に国語でおこなれているような「ディベート"を"教える(ディベート技術の習得)」のではなく、「ディベート"で"教える(ディベートの活用)」ことに主眼をおく。テキストベースのディベートは、発言を作成し主張することにも、相手の主張を聞くことにも、『コミュニケーションをとる責任』が存在していることを明確な形にする。と同時に、テキストベースでディベートを進行させることが、生徒にメリットをもたらす。特に、ハンディを持った生徒が健常の生徒と対等な立場で一つのことをすることや、ディベートの初心者と経験者とが対戦をする時などに有効である。
 本発表では、今年度に生徒たちが行った2回のディベートの実践と、教員と技術者とで行われたディベートの実践から、インターネットの利用状況と、参加者の感想を元に、企画がもたらした成果と今後の課題について報告する。

2.『オンラインディベート』の発想〜前年度『通信ディベート』実践から
 本校では昨年度、100校プロジェクトの取り組みとして『通信ディベート』を行なった。企画には5校の参加があり、特に西多賀養護学校高等部からは筋ジストロフィーという病いを負う生徒達が参加した。『通信ディベート』では、実際にディベートをする人(ディベーター)を、ネットワークを用いて支援する、という視点から、検索システムとMLによるリサーチ活動、インターネットリレーチャット(IRC)によるディベーターへの助言等が行なわれた。しかしながら、実際のディベートそのものは、生徒達が会場に集まり、ネットワーク上ではなく口頭で行なわれた。また、西多賀養護学校の生徒がディベートそのものに、リアルタイムで参加するまでには至らなかった。
 しかしながら、『通信ディベート』では、学校間の交流を促す工夫として、 (1)学校対抗の形を排除し、ディベートを「勝敗を決するもの」ではなく「コミュニケーションの道具」として活用 (2)様々な学校の生徒が一つのテーマについて考える際に、MLを「相互思考の場」として設定 の2点が為された。また、ディベート全体をメール中心に展開することが,複数の学校の時間割構成の配慮のためにも,また、ハンディを持った生徒が対等の立場で参加できるためにも有効であることが分かった。『オンラインディベート』は、上記の良い部分を引き継ぎ、デメリットを克服する形を目標として企画が検討された。

3.ディベート"で"教える〜『オンラインディベート』の特徴とディベートを用いるねらい〜
 ディベートとは「ある一つの論題について、肯定側と否定側に分かれ、一定のルールに従って議論が行なわれ、最後に審判によって勝敗が下される」討論の形式である。会議等の討論と異なり、ルールによって発言の制限があるが、発言の機会は双方に平等に与えられる。ディベートを行なうメリットとして(1) 客観的分析力が身に付く (2) 論理的思考力が身に付く (3) 発表能力が身に付く (4) より良い聞き手になれる (5) 情報収集力が身に付く が挙げられている(松本道弘『やさしいディベート入門』(中経出版)P.31〜33)。ここで挙げられたメリットはそのまま、『オンラインディベート』においても目標にしている。
 加えて、『オンラインディベート』は、インターネットという開かれた空間で行われる。これは、教室、更には学校という枠を越えて、距離を隔てた生徒たちの間で意見が交換されることを可能にする。更に、ディベートをメール主体に行うことによって、ハンディーを持った子ども達や,積極的な発言が苦手な子ども達でも,自分の意見を十分にまとめて発言することが可能になる。より多くの出会いと交流が「心の教育」を進める意味でも重要である。
 また、テキストによるディベートは、発言と発言者との関係が明確に残るので、不適切な発言は不利益を生む。そして、ディベートで勝つためには、相手の主張を正しく理解する読解力を要する。"書くこと""読むこと"の両方に、総合的な"日本語を使う力"が養われる。

4.『オンラインディベート』の実施
本年度は、以下の3回のディベートが行われた。(※オンDは『オンラインディベート』の略称)

第1回オンD
  3校で6チーム
  7月8日(火)〜7月17日(木)
  『茶髪・ピアス・ルーズソックス等のファッションは、高校生らしい。是か非か』
  否定側勝利
教員+技術者間オンD
  5校+技術者1名で8チーム
  11月11日(火)〜11月27日(木)
  『日本の学校今日行くに、飛び級制度・飛び選抜制度を導入すべし。是か非か』
  未判定
第2回オンD
  5校+個人参加1名で18チーム
  12月16日(月)〜2月5日(木)
  中絶を扱ったテーマで生むことに対する是非
  未判定

5.インターネットの利用
 『オンラインディベート』を進めるに当たって、以下のようなネットワークの利用を行った。
(1) メールの送受信
 大方の発言を、メールにて送受信した。特に、福島盲学校の生徒にとっては、メールを送受信すること自体が画期的なことであった(福島盲学校の実践報告を参照)。
(2) メーリングリスト(ML)の利用
 企画運営用・生徒+教員交流用・肯定側、否定側の各チーム相談用、技術者用のメーリングリストが用意された。肯定側・否定側のMLは、ディベートの流れを確認し合ったり、考えの行き詰まりを解消するのに有効であった。
(3) IRC(インターネット・リレー・チャット)の利用
 リアルタイムな質疑応答の場面に用いた。タイピング速度の差を解消するために、第2回オンDでは、一人対二人の質疑応答も為された。また、第1回オンDでは、質疑応答の前に定期的にチャットをする機会を設けた。フリートーク中心だったが、これが参加校同士のコミュニケーションを促進したり、タイピングの練習になった。
(4) ディベートのWWW公開
 ディベートのすべての発言がテキストになっているので、WWW公開が容易であった。
また、教員+技術者オンDでは、立論のテキストからWEB上にある証拠資料へのリンク、第2回オンDでは、ディベーターが自ら証拠資料を画像データとして作成し、反駁からリンクを張るということも為された。

6.参加者の感想から
◇良かった点
広域的な企画で,斬新だった。他校の生徒と交流が出来たことは良かった。
◇困難を感じたこと
チャットの際のキーボード操作が大変。スケジュールが慌ただしい。字数調整が大変だった。
相手が見えないため,発言の意図が理解できずに,悔しさを感じた場面もあった。
→これに関して、「自己紹介の段階で、写真を貼付してメールで送ることや、CU-SeeMeなどを利用して、映像も送れるものを使うのはどうか」という提案を、清泉女学院の上野先生より頂いた。
◇ディベート自体に関しての感想
身近な話題に対して,肩の力を抜きながらも真剣に取り組めた。自分の主義主張を確立したり,他人の意見を聞けたことは良かった。また、筋道をたどり,自分の意見を良く説明し理解してもらうことの大切さを学んだ。
ディベートは初体験だったが,おもしろかった。勝敗が決まるまで熱く行えた。
(テキストの発言は)便利でじっくり考えさせられた。

7.まとめ
 今年度の3回のディベートによって、『オンラインディベート』の形が整った。参加校も福島盲学校を含む5校に増え、更なる参加希望もある。高校生の個人参加もあったことに加えて、メール交換の楽しさを知ったり、証拠資料をhtml画像化したりなど、生徒達のネットワーク利用促進の度合は、教員側を上回るものがある。
 一方で、複数の学校が一つの企画を進めようとすると、どうしても日程的な問題が生じる。そのために、ディベートがスケジュール通りに進まず、ディベート独特の緊張感に欠ける面も見られた。また、それぞれの生徒の持つ『心の壁』を越える企画にするためには、複数の学校を一チームにした団体戦など、更なる工夫が必要と考えている。
 来年度も継続して行う予定である。企画に興味を持って下さった方から、是非とも御連絡を頂きたい。