新100校プロジェクト成果発表会
小学校部会

養護学校におけるインターネット利用への試み
−身近でわかりやすい使えるネットワークへ−

福井大学教育学部附属養護学校 水野 雅人

1.はじめに
 本校に在籍する児童・生徒の障害、程度は多様である。平成7年度から始まった100校プロジェクトでの試みの一つとして修学旅行先の学生さんや全国の教育関係者の方々とのメール交換を試みたりしたが、メールのみではイメージを持つことが難しく、継続することが難しい場合が見られた。そこで知的発達障害の子どもたちにとっては、身近であること、わかりやすいこと、使えることをまず配慮することが重要でないかと考えた。
 そこで、平成9年度の実践は、障害児教育の会員制のネットワークであるチャレンジキッズに参加し、個人情報が保護される中で自由に活動し、共通する身近な話題に興味を持ちながらネットワークに慣れ親しんだり、表現する力を伸ばせないかと考えた。また、より地域的な情報であればわかりやすく、興味を持て、生活に役に立つのではないかと考え、インターネットボランティアとして福井大学教育学部文化情報社会課程の学生に、学生さん自身の情報を含めた身近な内容のWebを作成してもらい本校への情報提供を試みてもらった。その際に、お互いを理解し、イメージを持ち続け、実感を持てるようにするためにオフラインでも交流した。また、マウス操作が困難なためにネットワーク利用が困難な児童・生徒のためにタッチパネルを用意し、インターネットボランティアが作成したWebや既成のものへの閲覧活動の改善を試みた。
 
2.ネットワーク利用環境、状況について
 サーバー1台、ネットワーク利用可能パソコン12台(このうち、2台を借用し、事務用に1台、またノートパソコンが8台)、64kbpsの専用線接続。
 平成9年度は正規のクラブの時間以外にパソコンクラブの生徒が週3回程度、放課後に主体的に利用している。

3.平成9年度の活動から
(1)チャレンジキッズへの参加
 チャレンジキッズは、平成8・9年度の文部省の機器利用研究指定校である滋賀大学教育学部附属養護学校を中心とする全国の特殊教育諸学校・学級の会員制のネットワークで、27校共同で実践・研究を行っている。
 本校は実質的に平成9年度から参加し、親しみやすく、楽しいユーザーインターフェースで興味を持ち続けながら、メールを読み書きしたり、絵を送ったりして楽しんでいる。
(2)インターネットボランティアとのオフラインを含む交流と子どもたちの生活を支援する情報提供への試み
 最初、メールに画像等を添付する形での情報提供を考えていたが、ネットワークへの影響を考慮し、Web作成による情報提供に変更した。作成に当たり、相互の理解と交流を深めるためにパソコンクラブの生徒と会ったり、本校の研究集会を見学してもらうなどした。作成した内容はインターネットボランティアである学生自身による画像を含む身近な生活情報のページ、パソコンクラブの生徒の知りたい情報や見たいホームページへのリクエストに応えるページ、タッチパネルの利用を考慮したお話のページなどからなる。

(3)タッチパネルを用いたWeb閲覧活動の改善への試み
 マウス操作が困難な子どもたちのためにインターネットボランティアが作成したWebを含め、既成の興味を持ちやすいWebへタッチパネルを用いてアクセスすることを試みた。
 その際には、そのWebで用いられている画像の利用許可を得て、本校のホームページではないローカルなページに載せ、その画像に触れることでそのWebにアクセスすることにした。タッチパネルは直感的で理解し操作しやすいためか2回目でWWWブラウザの戻るボタンを確実に押せるようになり、自分の見たいものを見れるようになる児童もいた。

4.過去3年間の個別事例から
(1)メールボランティアとのメール交換、ネットワーク会議の例(高等部3年Aさん)
 友だちがメールの交換をしているのを見て興味を持った。初めは学部内で友だちと交換日記をすることから始めた。そしてやる中でメールの交換をしたいために、電子メールのパスワードを覚えたり、覚えたワープロの簡単な操作を友だちに教えることができた。複数の人とメール交換を試みたが、その中で静岡県の大学生さんとは良くメール交換を行うことができ、時には主体的に放課後に残ってメールを書くなど、数十通のメールを意欲的に読み書きした。またネットワーク会議ソフトを用いてリアルタイムでの音声交信でイメージを持ち、興味をさらに持ち続けることができ、チャットやお絵かきを友だちと一緒に楽しむことができた。
(2)パソコンでの描画を用いた交流(高等部3年Bさん)
 平成8年度途中にパソコンクラブ(放課後実施)で活動を始めてからは、本人の主体性に任せ、自由に好きなお絵描きをした。その描画を利用して、クリスマスE-mail募集に応じてくれた方に本生徒が描いた絵を添付したりして交流した。そのやりとりの中からBさんの絵をホームページに掲載してくれる学校もあった。チャレンジキッズに参加してからも自由に絵を描き,チャレンジキッズの中の小さな美術館という部屋に送り続けた。その中で多くの人の存在に気づき,自分の絵を注文してもらうということや継続して自分の絵を贈るという意識を持てたようである。さらに多くの人の好意的な評価で自信を持ったようで、いろいろな人に実際に自分の絵を印刷して使うなり役立てて欲しいという意識が生まれ、育てることができたと思う。さらにメールの文字の色や大きさを自分なりに楽しんで決めながら、意欲的にメールを書くことができた。そしてその後の福井大学の学生さんとの交流でも学生さん一人ひとりに絵を描いている。

 

5.まとめ
100校プロジェクト開始までは、学校としてパソコンクラブもなく、また子どもたちがパソコンを特に使ったということもなく、そして担当教員の知識や経験もほとんどなく、手探りでネットワーク利用の模索を続けてきたこともあり、まだ十分に子どもたちや教員に還元できている状況とは言えない。ただ今後は、インターネットに慣れ親しむことを含めて利用そのものを目的にするだけではなく、できれば日常の生活の一部としてさりげなくネットワークを利用するというかたちでも利用を進めていきたいと思う。
 今後もプロジェクトに参加できるならば、本校ホームページからの情報発信や教員のネットワーク利用を進めながら、子どもたちの生活を支援する情報を提供して頂く地域のインターネットボランティアを拡大し、インターネットボランティアネットワークの形成を目指していきたい。その際には、学校だけではなく、協力して頂ける方々のWebも利用させて頂きたいと考えている。そして技術的な進歩に目を配りながら、個に合ったネットワーク利用についてさらに探究していく必要があると考えている。

謝辞
 この実践を推進するに当たっては情報処理振興事業協会(IPA)、財団法人コンピュータ教育開発センター(CEC)、北陸地域情報ネットワーク協議会(FITNET)、福井大学情報処理センター様各位には、本校のネットワーク利用環境の導入、回線利用等に関して多大な御支援を頂いており、また接続の労をとって頂いた福井大学教育学部の宮坂先生、インターネットボランティアの募集、利用環境の整備に当たって頂いている福井大学教育学部の塚本先生の各位に謝意を表します。