100校プロジェクト成果発表会 分科会第2会場

先進的教育システムの開発におけるネットワークカンファレンス型利用企画の実施
テーマ1:身の回りで起きている問題について

東京工業大学教育工学開発センター赤堀研究室

鈴木 丈喜


 ネットワークカンファレンス「身の回りで起きている問題について」の目的は、テ ーマごとの意見交換を通して他校との交流を深め、様々な立場の人の意見に触れ、様々な角度 から問題 を捉える視点を持ち、異なる多くの意見を理解し、相違点を捉える力や相手の意見に 対する自分の考えを整理し表現する力を育成することであった。また、情報リテラシーの視点 からは、 メールやホームページの特長を利用し、多くの情報を整理する能力、相手に分かりや すい情報を発信する能力の養成を目的とした。事後アンケートでは、この目的とコミュニケー ションに おける発展段階を踏まえ、最初の意見交換、二回目以降の意見交換、情報交換終了時 での質問を設定し、児童・生徒の自己評価と教師の観察を通して、その変容を調査することと した。  以下その概要について、児童・生徒の調査結果(41名)、教師の調査結果の順に紹介する。

・最初の意見交換に関する質問

Q[情報発信]正確な情報伝達に不安はありましたか →あった(12%)・少しあった(32%)

Q[情報受信]情報を巧くキャッチできたと思いますか→できた(15%)・ある程度でき た(53%)

Q他人の意見を聞けたことに満足できましたか   →満 足(51%)・ある程度でき た(34%)

・二回目以降の意見交換に関する質問(複数回答可)

Qどのような点に困難を感じましたか → 

自分の考えを正確に伝えること(20名)
相手が見えないこと(19名)
意見交換を行う際の時間差(18名)
相手の考えをきちんと理解すること(13名)
テーマに沿った意見交換を行うこと(12名)

Qどのような点に気を付けましたか  → 自分の考えを整理して発言できるように (24名)
   言葉遣いなど相手に対するエチケット(23名)、できるだけ相手の考えを尊重す る(20名)

※この点に関して、名古屋市立西陵商業高等学校の山口清子先生は「話すことはでき るけど、文章 にするのは…」という生徒の実像を事後アンケートの中で指摘されている。 ・情報交換終了時における質問

Q表現能力が身についたと思いますか → 多少ついた(37%)・どちらともいえない (39%)

Qネチケットの学習に役立ちましたか → 少し役立った(41%)・どちらともいえな い(24%)


 次に、教師の事後アンケート(記述箇所)から一部を紹介する。

 滋賀県大津市立長等(ながら)小学校の松田一彦先生は「3台しかないコンピュータで文章を打たせて家に帰って私がメールで送る。家で受けて学校に持っていきます」という 厳しい環境の中で本企画に参加されました。事後アンケートの中で松田先生は「私にとっても 初めての経験なので今になってこうすればよかったという点はいろいろあります。(中略) 国 語の作文指導の時間にメールを書く時間をとれば、もっと結果がかわったのではないかと思い ます。あと一つは本校の問題なのですが、3学期に入って5年生は、教師、児童とも非常に忙 しくなり(中略)、休み時間と精神的余裕が他のことでなくなってしまったことです。もし、今 後このような企画が有りましたら今回の反省を元にもっと活発にメールの交換をしたいと思い ますので是非お知らせいただきたいと思います」と書かれ、こうすれば参加できるという力強 い実践事例をいただくことができた。
 また、情報発信に至らなかった学校でも「国語の先生に インターネットに参加していただける機会ができた」(長野県篠ノ井西中学校)「(今回の)共同 プロジェクトを校内への(情報教育)普及の手段に考えておりました」(島根県大社中学校)とい った例もあり、今後は校内における「教員間のネットワーク作り」の必要性がクローブアップ されてくると同時に、教育利用における最大の難関にどう立ち向かうかが問われてくるだろう。
 次に、情報発信・情報受信の回数は教師にとって不満の残る結果であったが、意外 にも児童・生徒では満足度の高い結果を得た。これは「身の回りで起きている問題」との距離 の置き方も関係あるが、それ以上に児童・生徒では情報発信を行わない周辺参加であってもそ れなりの満足が得られることと関係があるようだ。生徒にとって「受信」できることの意味は 大きい。
 また、教師の関わりも児童・生徒の「変容」にとって重要である。例えば、長等小 学校では児童に伝達する際「プリントを本人に渡すとともに、あと一枚を掲示してみんなに見 せた」ことが「見知らぬ相手から返事が来たのでとても喜んで いた。また返事が来ないときはそれをまだかと待って いた」という「ワクワクする気持ち」を呼び起こして いると考えられる。さらに、福井大学教育学部附属小 学校の宇野秀夫先生の「励ましたり、共感したりする ような内容を書くような」指導は、非常に重要なこと であり、この後の意見交換は、相手の話題をきちんと 拾い上げて、そこから自分たちの意見を述べるという 「大きな変化」が生じたのである。
 ネットワークにとって大切なものは、<ハード>では なく、相手を思う「優しい心」とそれを支える教師の 「情熱」という<ハート>である。この「まごころ」が あれば、信頼関係への第一歩となるのである。