新100校プロジェクト成果発表会
高等学校部会
情報モラル教育の実践と課題
東金女子高等学校 高橋 邦夫
1.はじめに
大きく「情報モラル」と括られる情報の取り扱いや情報通信ネットワークに参加する態度,責任ある利用方法について学校教育の中で取り扱う必要性を感じ,教材の準備や諸事象の調査研究などを行ってきたが,ここ1年ほどの間に社会的にも取り組みの必要性が認識され,またその支援ともなる基盤的事業の立ち上がりなどの動きが活発化しているようである。これまでの取り組みとその位置づけについて概観し,今後の方向性について考察したい。
2.これまでの取り組みと話題
2−1.教材の作成
1995年11月〜1996年3月
「ザ・ネット:利用者の指針とネチケット」日本語版の共同制作
http://www.togane-ghs.togane.chiba.jp/netiquette/fauj/
1996年2月2日
「ネチケットガイドライン」RFC1855日本語版の発表
http://www.togane-ghs.togane.chiba.jp/netiquette/rfc1855j.html
1996年3月
「ネチケット情報(ネチケットホームページ)」運用開始
http://www.togane-ghs.togane.chiba.jp/netiquette/
2−2.意見情報交換・提案・トピックなど
1996年9月
「わかなプロジェクト」開始
http://www.cec.or.jp/es/wakana/
1996年11月
インターネット上の有害情報に対応するための研究状況の調査
1996年12月
ホームページにおける個人情報の掲載に関する議論
1997年1月
「安全で自由な情報発信のための提案」
http://www.togane-ghs.togane.chiba.jp/report/safepub.html
1997年3月
「ネチケットホームページの運用を通じて」(平成8年度成果発表会報告)
http://www.togane-ghs.togane.chiba.jp/report/seika97/
「学校教育におけるネットワーク利用の倫理的問題」(IEICE-FACE)
http://www.togane-ghs.togane.chiba.jp/report/face96.html
1997年9月
レイティングシステム教育利用実験開始
http://www.cec.or.jp/net/h9kikaku/rating.html
1997年10月
「情報倫理教育への取り組みについて」(CEC活用研究会報告)
http://www.togane-ghs.togane.chiba.jp/report/tg971001/index.htm
「学校教育と情報倫理,ネチケット」(情報処理学会EIP)
http://www.togane-ghs.togane.chiba.jp/report/eip9710.html
1997年12月
学校ネットワーク管理者のガイドライン草案(わかなプロジェクト)
http://www.togane-ghs.togane.chiba.jp/togane-ghs/wakana/WAKANA1V0R3.TXT
1998年1月
「美術工芸」「世界史」教材データベース
http://www.togane-ghs.togane.chiba.jp/db/art/
http://www.togane-ghs.togane.chiba.jp/db/history/
(授業等で安全に利用できるサーチエンジンの共同構築に向けて実験中)
3.授業での指導例
情報処理の授業においてインターネットの利用実践を扱っているが,情報モラル関係の指導は以下のように展開している。
(1)利用開始前
種々の危険やネチケットの存在などを教え,正しく判断して正しく行う態度が求められることを,4つの重要項目を強調しながらインターネットの利用の開始前に総論として説明する。
重要項目1:コンピュータの向こうには人間がいる
相手が機械ではなく人間であること,自分ひとりではなく聴衆がいることを意識して行動・発言する態度を持とう。
重要項目2:実社会と同様,外部の危険を予期し備える
詐欺や偽情報がある。現実性チェックの常識を働かせよう。信頼できる情報以外は信用せず,他人に流してもいけない。閲覧時には良質な情報を求めよう。
個人情報保護にも留意。悪用される可能性を考慮しておくこと。(プレゼント付懸賞への応募で氏名住所電話が名簿業者に流れることも)
重要項目3:迷惑行為はトラブルにつながる
気付かぬうちに迷惑をかけることがあるので,ネチケットを知ろう。知的財産権を尊重する態度を持とう。
重要項目4:ネットワーク社会への貢献。
情報はギブ・アンド・テイク。質問をしたらサマリ(まとめ)を投稿するなど,自ら貢献する態度が良いネットワーク市民の条件である。
(2)利用中
電子メール,WWWなどのサービスごとのネチケット細目など心がけるべきことを場面に応じて随時指導する。
(3)トラブル発生時
トラブルが発生した時には,連絡を受けたり発見した後,すみやかに状況を調査し,必要な対処を行う。対処とは生徒への注意,指導のほか,外部からの介入の場合には相手への抗議警告,再発防止のための技術的防御措置の検討などである。
4.今後の展開
今後必要と思えるもの,携わっていきたいと思うものとして以下のようなものがある。
教材開発
ネチケットおよび情報モラル教材の開発と提供
ネチケットガイドラインの解説および一般化
情報モラル教育に関する小中高大のカリキュラムの開発
学校サイトにおける情報発信のガイドラインの検討
環境構築
教育用レイティングシステムの整備構築
安全に利用できるサーチエンジンの構築(教材データベースの充実を含む)
K-12のバーチャル・クローズド・ネットワークによる安全なコミュニティの構築
5.まとめ
いつのまにか情報モラル教育に関する活動に興味を持って携わるようになった。これまでの実践をこの見地から見つめ直すと相互に関連が深いことに気付いて驚いている。これまでのこと,これから予定していることを総合すると,以下のような提言にまとめることができる。
インターネットを教育に活用するという立場での教育実践の取り組みがある一方,インターネットそのものを体験的学習の場として活用できる可能性に注目したい。これは近来叫ばれている「心の教育」に関連することで,インターネット上での交流体験,トラブルの経験を積むことで,子供たちが,卒業後の社会生活に対応できる問題解決能力を養成できるとする立場である。ネットワーク上では身体的危害を受ける可能性は少なく,また技術的な保護も可能であるから,その意味では実社会よりもはるかに安全に体験的学習ができる場になり得る。失敗し,失敗の体験から学ぶことも含めて,子供たちが安全に社会的適応力を身につけ,人格を磨く機会として学校教育の中でのインターネットの活用を位置づけることは意義深い。また,そのような子供たちを保護育成する体験的学習の場として,子供が安全に交流できるコミュニティの環境を技術的保護手段の援用によって構築することも必要である。学校教育段階において礼儀正しいコミュニケーションの習慣を養成することで,健全な市民としての態度を養い,10年後20年後の社会をより豊かで住みよい社会にする礎になるものと信じている。