新100校プロジェクト成果発表会
小学校部会

全国発芽マップからはじまるコラボレーション
−小学校理科学習における全国発芽マップ’97の可能性−

宮崎大学教育学部附属小学校 根井 誠

1.はじめに
 最近インターネットやコンピュータネットワークなどのことばは,あたりまえのように聞くようになってきた。またテレビ会議システムや衛星を使った同時授業なども盛んに行われるようになってきた。しかし大切なことは,活用を図ることで子供たちの学びがどう変わるのかということである。それがなければただの流行にのった授業ということになる。
 私たちは今,未来を生き抜く子供たちを目の前にして,何をすべきか,何ができるのか,しっかりとした見通しをもって日々の実践を進めていかなければならない。

2.これまでの全国発芽マップの経緯
 「全国発芽マップ」はインターネットを活用した全国的な栽培活動である。概要は,まず同日,同時刻に一斉に全国各地で種をまく。その生育の様子や子供たちの活動を電子メールやホームページ等で情報交換したり,データをまとめたり,交流を図ったりする。そのようなインターネットによる共同的な学びの場を通して,理科や社会科等の教科のねらいを実現すると同時に,総合的な学習に発展することを期待するというものである。100校プロジェクト校を中心に参加校を募り,これまでに平成7年度にかぼちゃ,平成8年度に綿を栽培した。本年度にケナフ(アオイ科,Kenaf, (Hibiscus cannabinus L.) )の栽培を試た。日本で学校がインターネットに接続し始めた時期に行われた実践であり,試行錯誤を繰り返しながら続けられてきた。その過程の中にインターネットの教育利用における示唆が含まれていると思われる。

3.全国発芽マップ’97概要(http://www.fes.miyazaki-u.ac.jp/HomePage/kyoudoupuro/hatuga.html)
 全国発芽マップも3年目を向かえ,メーリングリストを通して全国に植える植物を募集したところ,横浜市立本町小学校から「ケナフ」という提案を受けた。
 この「ケナフ」は,アオイ科の植物である。成熟すれば下部が直径3〜5cm, 高さが3〜4Mになる植物で,広く東南アジアや中国,アフリカ,カリブ海沿岸,米国南部で栽培されている。 また,非木材紙資源として注目されている。さらに二酸化炭素を多量に吸収するために 地球温暖化の防止にもつながると考えられており,理科教育ばかりでなく,環境教育の上でも有用性がある。また活用の在り方しだいで「総合的な学習」にも発展していく可能性も高い。

4.コラボレーションへの扉
 コンピュータネットワークを利用することで,子供たちに新しい学び方を提案できると考える。その一つは人々とのかかわり方からという視点である。ネットワークは多様な人々とのかかわりが含まれた学習環境である。多様な人的資源を子供自身が活用することは,将来の情報化社会に必要な力となる。またネットワーク活用においては,子供一人一人が,情報の収集家になったり,発信者になったりすることができる。このような情報の収集,加工,発信という表現のサイクルの中で,子供たちは自分のよさを発揮する。さらに遠隔地へ時空を超えて情報を発信していく。共感・共創できる教材の開発はこれからのネットワークを利用した学習の課題であり,生き方を含めた知の形成に役立つはずである。共に感じ触発しあい,共に創りあげていく活動〜創らずにいられない〜これが目指したコラボレーションである。
 コラボレーションのはじまりは,平成9年5月12日の正午であった。北海道から鹿児島まで,気象条件や地域性の違うそれぞれの学校の子供たちは,それぞれの思いでケナフの種を蒔いたのである。
 さらに秋には,ケナフから紙をすいて葉書への加工も望める。よって子供たちの夢字をのせた手書きの葉書がそれまでの電子郵便にとって代わって,全国の子供たちの間を行き交うという夢も同時にもてたのである。
 未知なるコラボレーションへの扉を全国50の学校が共に開いたのである。

5.授業実践 6学年理科「わたしたち地球人」について
 理科学習で学んできたことをもとに思考し,表現し,自分をふくめた生物の存在が地球環境と大きくかかわり合っている認識にたち,自分たちと地球の存在をとらえられる。すなわち,この単元は,人や他の動物,植物はそれぞれ単独で生きるのではなく,食べ物,水,空気などを通して,相互につながり合って生きていることをとらえることができる。それは人が生きていくためには,植物や動物が必要であり,空気と水がなければ生きていくことができないことである。またこの単元は植物も光合成をするためには人や動物が排出した二酸化炭素を必要とすることから,それぞれがかかわり合って生きているという見方や考え方を伸ばすことができるのである。
 上記の観点から全国発芽マップでの栽培植物である「ケナフ」は,地球温暖化問題や森林減少など様々な環境問題への気付きを子供に考えさせる好教材であった。また全国に一斉に種を蒔き,育て,その情報を発信し合う体験活動を位置づければ,なお一層生物界と地球環境について総合的に思考しながら,学習が展開できると思われる。

【4学校同時授業場面】

【大津市立平野小学校発表場面】
 次のような会議が行われた。(一部抜粋)
平野小学校:「ケナフを使って紙すきしました。こんな紙ができました。」
福井小学校:「私たちも年賀状にして宮崎に送ります。」
宮崎附属小:「4mの大きさに育ったケナフを紙にするのは楽しみです。このことは非木材での紙づくりなので森林保護につながりますね。」
人吉東小 :「私たちも球磨川の環境を調べています。これからも一緒に環境について調べていきましょう。今度こちらで育てている蛍を送ります。」
宮崎附属小:「今日はみなさんありがとうございました。」
 このような交流を通して子供たちは,ますます共感を深め,共創活動(コラボレーション)へ思いを巡らせていったのである。そして全国で紙すきが実施され,電子郵便に代わり手書きの葉書での交流が始まったのである。

6.全国発芽マップ’97活動の展開と広がり
 観察などの共通データをとって科学的な意識を高めるとともに,電子掲示板を取り入れて子供の参加の場も広げ,考え方や意見の交流を期待しているところである。参加学校で独自の活動も展開された。
 ・掲示板機能の活用(滋賀大学教育学部附属小学校/岡山芳泉高等学校)
 ・ケナフを送ろうプロジェクト(熊本県湯島小中学校)
 ・共同編集絵本制作「ケナフは虫たちのホテル」(静岡県清水国際学園)

7.まとめ
 子供たちの栽培体験がインターネットによって支られ,よりかけがえのない学習に発展したのである。このような視点から,本実践は,インターネットによって行われる教育の可能性の一部を提示できたのではないかと思う。
 観察などの共通データをとって科学的な意識を高めるとともに,21世紀に向かってコラボレーションの有効性はさらに高まるはずである。