新100校プロジェクト成果発表会
テーマ部会

ネットワーク上の教育用ソフトウェアの共同作成と利用

東京都立駒場高等学校 天良 和男

1.はじめに
 教育現場でのインターネットのインフラの整備は、従来の教育の内容と方法に大きな変革の奔流を引き起こす可能性がある。 本企画の「ネットワーク上の教育用ソフトウェアの共同作成と利用」は、近未来にすべての学校で整備されるインターネット環境を踏まえて企画されたプロジェクトである。
 パソコンが学校に導入された当初は、DOS+BASICの環境であったため比較的容易にプログラムの作成ができた。また、それほど多くの市販のソフトウェアがなく、市販のソフトウェアを購入するための予算がなかった。さらに、新鮮さもあって多くの自作ソフトウェアが開発された。 やがてWindows環境になり高度な技能を必要とし、内容的にも複雑で多機能なソフトウェアが要求されるようになり、購入予算も増えていくにしたがって自作よりも市販のソフトウェアの割合が増加していった。
 しかし、インターネットという環境が整備されつつある現在、自作の教育ソフトウェアを共同で作成したり利用する仕組みを整備する必要が生じてきた。 市販のソフトウェアは一人の開発者が開発することは極めて少ない。多くの開発者が共同で作成している。これからは自作のソフトウェアもこうした共同開発が必要とされるのである。すべての学校がインターネットで結ばれるようになれば、自作ソフトウェアを異なる学校の先生同士で共同で作成することができるのである。
 また、共有利用においてもインターネットは非常によい環境である。 従来、フロッピーディスクなどの記憶媒体を郵送することによって自作のソフトウェアを配布していた。また、実行する前にはインストール作業が必要であった。しかし、インターネットを使えば、利用だけであればダウンロードやインストールの必要がない。ホームページを閲覧するだけで簡単にプログラムを実行させることができるのである。
 本プロジェクトは、このようなインターネットを利用した新しい環境による自作のソフトウェアの共同作成、共有利用などのあり方に関する調査・研究を行った。

2.本企画の実施
 本企画は、インターネット上で動作するソフトウェア、特にWeb上で動作する教育ソフトウェアについて、学校の先生方が共同で作成する方法。また、作成したソフトウェアを共同で運営管理する方法、利用する方法を調査研究した。
 このような企画を実施するため次のような方法を取った。
・研究グループの設置
 本企画を推進するために研究グループを設置し、企画の内容、実施方法等について検討した。

主 査 天良 和男  東京都立駒場高等学校
委 員 角  順二  東京都立国際高等学校
委 員 木名瀬 伸博 東京都渋谷区立笹塚中学校
委 員 芳賀 高洋  千葉大学附属中学校
協力者 大野 三郎  日本サン・マイクロシステムズ(株)
協力者 緒方 秀俊  マイクロソフト(株)
表1.研究グループのメンバー

・参加者の募集
 平成9年7月より参加者を募集し、45名の参加があった。本企画の参加者は、学校単位でなく、個人単位での参加とした。
(参加者が所属している学校数は、小中高で23校である、その他大学や一般等が参加している)
・参加者への支援
 事務局より、参考となるホームページの紹介や企業を講師とするJavaやAxtiveX等の勉強会を開催した。勉強会においては、Web上のソフトウェア開発や今後の動向を行った。
本企画のURL http://www.cec.or.jp/kenkai/jsoft/jsoft.html
・ソフトウェアを運営管理するための管理システムの作成
 Java等のアプレット・ソフトウェアやスクリプトを含むHtml、サーバソフトウェア等を登録、検索を行うサーバ上の管理システムを作成した。図1は自作ソフトウェアの登録用Html画面である。この登録により、数名の審査員に自動的に登録状況のメールが送られ、各自の審査状況を判断し、自動登録又は却下がされる仕組みを用意した。

ソフトウェア登録用の画面
図1.ソフトウェア管理システムのソフトウェア登録用画面
URL:http://www.cec.or.jp/kenkai/touroku/
  js-ysinsei.html

3.Web上で動作するソフトウェアの可能性
 Web上で動作するソフトウェア開発言語として現在Javaが注目されている。この言語を例にWeb上で動作するソフトウェアの教育利用面での可能性として次の点があげられる。
・従来Web上で公開されていた文字、音声、動・静止画像といった情報の他にプログラムを発信することができる。この事により対話的なコミュニケーションが実現できるようになった。
・アーキテクチャに依存せず、複数のオペレーティングシステム・プラッフォームをサポートしており、データも標準化されているという特徴を持っている。この事により学校に導入されている多くのコンピュータ設備をそのまま活用して利用することができる。
 Web上で動作するJavaアプレットなどの教育用ソフトウェアを利用すれば、従来の情報教育は一変する。Webブラウザが各学習者のコンピュータで利用できるようにしておくだけで、その都度必要なソフトウェアを事前にすべてのコンピュータ一台一台に導入する必要がなくなる。サーバに必要なWeb上で動作するさまざまな教育用ソフトウェアや情報、教材を一括して管理しておくか、インターネットに接続してあれば、その時の学習もしくはそれぞれの学習者に応じて、必要な教育用ソフトウェアを各学習者のWebブラウザ上で実行させることができるようになる。特に、Javaについてはセキュリティの面が充実しており、ネットワークで利用する場合に、非常に安定しており、安全性が高い。 また、学校などのコンピュータ教室を利用して授業等を行う学習支援者の負担の軽減にも寄与すると考えられる。

4. Web上のソフトウェア開発の可能性
 ネットワーク上の教育ソフトウェアの共同作成と共有利用の目的を達成するには、部品化やVRMLとの連携、CGIとの連携等いくつかの高度化技術や方法が今後必要となる。ここでは極めて重要な位置を占める部品化について述べる。
 自作の教育ソフトウェアを他者に配布する場合、ソフトウェアの改変を目的にしない場合には部品化を念頭において開発する必要はないが。本企画のように自作のソフトウェアをインターネットを通して共同作成したり共有作成する場合には、部品化したほうがより多くの人たちに利用されやすいといえる。 例えば、部品化しないで作られた関数の学習ソフトウェアは数学でしか利用されないことが多いが、そのなかでグラフを表示する部分を部品化して開発すれば、理科の自然現象や社会科の社会現象のデータをグラフ化する部品として利用できるからである。

5.まとめ
 本企画において、Web上で動作するソフトウェアを対象に、その開発、管理運営、利用について現場の先生方と共同で行える方法や技術について検討してきた。本企画の対象とされる開発技術や応用技術、利用技術は現在進化中のものであり、本企画を進める上で非常に多くの課題に突き当たってきた。例えば、Javaでソフトウェアを開発する上での言語仕様の変化、開発ツールやマニュアル等の入手、作成したソフトウェアを管理するシステムの開発の後れ、当初予想していなかった教育用サーバクライアントシステムのニーズの高まりなどである。これらの環境の中でますますインターネット上で動作する教育ソフトウェアの可能性が高まっていると考える。今後も、これらの課題を何らかの形で解決しつつ、よりよい学校におけるインターネットの教育利用に繋げて行きたい。