新100校プロジェクト成果発表会
テーマ部会

ネットワークを利用した授業企画について
−高度化教育企画:既存データベースの活用に参加して−

多摩大学目黒高等学校 荒尾 吉宣

1.はじめに
 本校で企画実践した「高度化教育企画:既存データベースの利用結果」を通して、ネットワーク(データベース)を利用した授業実践における諸注意や授業の企画補助を行うものである。

2.「日経新聞データベース」を活用した本校での授業実践について
(1)授業実施要綱
実施者 :渡辺典子教諭(社会科)  実施学年:高校2年生(1クラス)  実施時間:1時限(45分)
実施形態:現代社会の授業におけるグループ学習:「環境問題」を取り上げて「日経新聞データベース」を活用して得られた検索結果(関係する新聞記事)を教材として利用した。ただし、事前学習として、企業の環境対策を通常授業において学習した後、グループ単位で検索キーワードの候補を決めておき、データベースの利用に専念できる状態にした。

(2)授業実践に向けての準備
1. 本校の実質回線能力( アナログ28.8bps TRAIN経由の専用線接続 )に合った、授業形態を決める。
・本校のインターネット室で一斉にWWWに接続した場合、稼働台数ごとによるWWWへの接続ストレスを確認した。
 予め人数を決めた生徒たちが一斉にWWWに接続(接続先は限定しない)した場合のWWWへの接続ストレスの状況を確認した。テストを行った曜日・時間帯によって多少ばらつきはあるものの、本校の実質接続能力(授業に支障を来さない範囲)は、一斉接続ベースで10台位が上限(ただし、パソコン部のように放課後で時間的にゆとりがある場合はこの限りではない)と考えた。したがって、既存データベースを活用する際は、同じ所に一斉に接続することを考慮して、WWWに接続するクライアントを10台未満に抑えるため、グループ学習の形態をとらざる負えないと判断した。
 今回、6グループ(1グループあたり6,7人)+教官用の計7台の使用とした。
2. ネットワークを利用するにあたっての事前準備
パソコン(ネットワーク)の利用は、あくまでもオンライン辞書(教具)・文房具の位置づけであって、本来の教科指導に支障を来さないようにしなければならない。したがって、担当教官が授業の運営を見失うことがないようにする体制を整える必要性が生じる。そこで、指導教官をサポートできる生徒を育成することとした。授業実践対象クラスの多くの生徒が日本語入力位は出来るため、数人のアシスタントで間に合うと判断した。
今回授業実践を行ったクラスでは、ブラウザ操作を日頃からパソコン部において行っている3人の生徒を抽出して、「日経新聞データベース」の利用法を中心に約3時間程度修得させた。一方、担当教官も新たにブラウザ操作・「日経新聞データベース」の利用法を約10時間かけて修得した。
3.教材として利用する際の「日経新聞データベース」の機能チェックについて
 様々なキーワードを用いてデータを検索し、その検索結果を評価して、効率的な検索方法を吟味した。
○本校において得られた「日経新聞データベース」の利用に関する諸注意事項
・「検索のスタイル」をこまめに設定するようにしなければならない。…「検索のスタイル」で「全文の組合せ検索」を選択しないと、固有名詞は無視される(例:「独連銀総裁ティートマイヤー総裁」をキーワードとすると、国鉄総裁まで検出されてしまう)
・キーワードが長すぎたり曖昧な場合は、思うような検索結果が得られない場合が多い。…検索キーワードは事前に候補を決めておくように指導が必要である。
・キーワードに対して検索させる期間が長いとき、検索結果の表示までにかなりの時間を要する場合がある。この場合、「検索期間を短縮させる」・「キーワードの再考をさせる」・「検索のスタイルの変更をさせる」等のタイミングをつかんでおき、指導出来るようにしておかなければならない。

(3)授業の実施状況について
授業の開始時にブラウザ操作・「日経新聞データベース」の利用法についてを簡潔に「マックエース」を用いて指導した(システム担当として荒尾が3分位担当した)後、渡辺教諭が「日経新聞データベース」の検索実習を行った。
「日経新聞データベース」のHPを授業開始前に予め開いていたため、システムについての説明後スムーズに検索実習が出来た。検索結果は、グループごとに印刷させて「環境問題」の考察材料とした。
☆留意事項・授業中の状況について
・検索結果が表示されるまでに時間を要したグループが続出した。…「日経新聞データベース」の機能をチェックした際の諸注意事項を踏まえた机間遵守を行い、状況に応じてアシスタントの生徒へ指示を出した。
 検索時間が長くなった原因は、「キーワードに対して検索期間が長過ぎること(キーワードによっては、1年間でのデータヒット件数が1千件を越える場合も生じる)」が最も多く、「検索のスタイル」の項目で「全文・文字列検索」を選択していたことで時間を要した事例もあった。ときには5分以上待っても、こちらで原因がつかめずに検索結果が得られない場合があった。
・キーワードに対して得られた検索結果を閲覧する際、生徒達は見出し及び「合致する部分の表示行」のみでは、情報の必要性を判断しづらい様子で、ヒットされた見出しの中身を確認するため更にHPをめくる作業が加わり、検索結果の選別に随分と時間を費やしている様子であった。
・ヘルパーの生徒は、「期間入力」や「キーワード入力」についての対処は出来ていたが、「検索スタイル」が原因となる場合の対処は難しかった。指導教官や私自身、あらゆるキーワードの検索結果を予期するのは難しく、最良の「キーワード」「期間」「検索スタイル」の組み合わせを指示するのに苦慮した。
○授業で検索したキーワードの例 地球サミット・自然保護運動・地球環境問題・省エネルギー・環境破壊・リサイクル・環境アセスメント 等

(4)「日経新聞データベース」を利用した授業の実施効果
・情報を収集することに労力を費やすのではなく、得らた情報を活用する能力の養成に重点を置くことが出来た。これによって、資料を用いた効率的な授業展開がはかれた。…実施結果は、レポート提出にて評価・必要な情報を選別する能力の育成に役だった。

3.ネットワーク(既存データベース)を利用した授業企画の留意事項について
1.授業を行う場所の回線能力の把握が必要である。…キャパシティーを越えた授業企画は、WWWへの接続ストレスで期待した成果を得ることは出来ない。
2.回線能力に見合った授業形態を構築しなければならない。
3.利用するデータベースを指導教官が事前にかなり使い込んでおくことが必要である。…限られた時間内にネットワークを利用する場合、最も効率のよい利用方法を確認しておくことが必要であり、トラブル回避の意味合いも強い。
4.授業実践対象クラスの生徒の状況に見合ったアシスタントを養成しておくと、効率的な授業展開が容易である。
5.授業実践対象クラスの生徒の全体が、ブラウザ操作を出来るような状態が望ましい。
 (私が担任を務めるクラスでは、ブラウザ操作を身につけさせるために、進学指導の一貫としてロングホームルームの時間内で「本校HP内の"進学情報"」を利用して様々な大学等にアクセスさせて機器に慣れさせている)

4.まとめ
・ネットワークを利用した授業は、現在の教科教育において新しい境地を開き、学習する生徒達の未知の能力を引き出したり成長を促すものと信じている。しかしながら、ネットワークを利用した授業展開を具体的に紹介した事例集はまだ少なく、試行錯誤を繰り返しながら"メディア教育"というものを確立していかなければならないであろう。
今回の報告は、実践事例の少ない中、新しい授業形態に真っ向から取り組んだ渡辺教諭の勇気と意気込みに帰する所が大きい。
・「日経新聞データベース」は、調べたい事柄をぶつけると、すぐに答えを返球してくれる優れものである。他分野においても、このような優れものの出現を期待している。私の担当教科(数学)ではネットワークを利用したメディア教育の確立については長く険しい道のりがありそうだが、教科にとらわれずメディア教育として授業運営の企画補助を行って参りたい。