第4章 子ども用交流の場のデザインと運用について

− 教師も交流 作戦会議の部屋 −

金沢大学教育学部 教育実践総合センター
講師 加藤 隆弘


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キーワード 小学校,インターネット,ひろば,電子会議室,学校間交流

「学習支援部会」による考察

     Eスクエア・プロジェクトの先進的情報技術活用企画として実施された「子ども用交流ホームページ『子どもの広場』プロジェクト」におけるモデル校での実践活動をサポートするために設けられた「学習支援部会」の立場から考察する。

 

1.はじめに

     「子どもの広場」では,子どもたちが交流するための掲示板に加え,教師・スタッフが自由に情報・意見を述べあう,「先生のひろば」が解説されているほか,オフラインミーティング,授業参観の機会などを積極的に提供してきた。学習者がより深く交流し,学びへとつなげていく活動をするためには,まずそれぞれの教師が交流しあうことが大切である,との考え方に基づいたものである。それぞれの教師が,学習者・学校・地域の個性・実態について把握していることを述べあったり,それぞれの学習のねらいに基づいて,教室での授業や学習環境構成,発問等を通しての状況づくり……学びのストーリー(文脈)の構築を連携して行ったりすることで,交流の質が高められることが経験的に明らかになりつつあるからである。

     ここでは,これまで「子どもの広場」で用いてきた教師の連携手段のいくつかについて簡単に説明してみよう。

 

2.「先生のひろば」 掲示板「作戦会議」を中心に

     今回の「子どもの広場」の特徴として教師・スタッフ向けの掲示板の充実が挙げられるだろう。「作戦会議」「実践報告」「インターフェイス」など,それぞれ役割を明確にした掲示板が用意され活用されてきたが,なかでも最も重要な役割を果たしたのが「作戦会議」掲示板である。

      ・地域の特徴,クラス・生徒児童の実態を紹介しあう中で,新しい掲示板設置(すなわち学習テーマ設定)の提案,交流先の決定などを行う

         参加校はそれぞれ,様々に異なる地域・学校の特徴,クラス・学習者の実態を抱え,このプロジェクトに参加している。交流の質を高めていくために教師は互いの「差異」「同質性」をにらみながら,「このクラスの学習者にはどの交流・学習がもっとも響くだろうか」などとシミュレートし,学習のメインストリームをどこに引き寄せるかを(学習者個別間での交流・学習の進行とは別に,教師の側で学習のねらいを持って)決定していくことになる。授業・学習環境の構成,発問などを通して,より深い交流・学習が行われる仕掛けを,教師は各クラスで行っていくことになる。

      ・「〜をおねがい」 発言・返答の喚起,他の交流手段の確保など

         「〜してみませんか」「〜情報を掲示しました」といったタイトルが「作戦会議」掲示板にはずらりと並ぶ。これは「ウチのクラスでは〜について,デジカメで写真を撮ってきて掲示したりしています。ぜひ,反応してください。」ということを,学習者直接にではなく,教師に対して喚起するものである。反応の有無が直接,次の学習への動機に関わるばかりでなく,反応をお互いに行っていく中で適当な問題や資料の提示,議論を進めるための諸力を培う場の確保につながるのである。また,提案を受ける側の教師は,クラスの学習の流れをにらみながら「どの程度」積極的に関わるかを判断し,「状況づくり」をしていくことになる。

      ・「素朴な疑問・質問」から共通理解を深める

         それぞれの参加者がためらいなく,現在進んでいる実践についてのアイディアを提案したり,疑問・質問などを意識/無意識に投げかけたりするなかで,見逃してしまいがちな留意点や情報,ねらいなどを意識化・共有化することができる。

       この掲示板を通して,教師自身がネットワーク上での交流の力を培いつつ,「子どもの広場」全体が,教師のネットワークを用いた新たな授業・クラスづくりへの視点提供の場となっているのである。

       

3.オフライン会議(北陸・関東各ブロック会議,全体会議)

     「子どもの広場」では,教師間の交流・情報交換をネットワークに完全に依存するのではなく,ブロック会議を各二回開催し,全体会も開催することになっている。

     各実践校の教師・支援スタッフが直に対面し,議論を深める場を持つことで,互いのより詳細な学習状況への理解,学習の見通しについて集中的に,かつ誤解を恐れずに議論・検討することができる。また,ネットワーク上での交流に熟練している教師と,これから慣れていこうとする教師との掲示板上での「見かけの温度差」を埋める具体的な情報交換・イメージ形成を行えることで,実質的な授業づくりへお互いをフォローする状況が生まれるなど,開催の主題以外にも様々な波及効果を期待できるため,今後も同様の学習を立ち上げ,推進する際にはできる限りこういう機会を持ちたいところである。

     

4.授業(実践)参観

     今回はあまり多くの機会をもてなかったが,各実践にスタッフ・他校の教師が参加し,整理・議論を行うことができれば非常に大きな成果が期待できる。参観する側,される側双方のイメージを具現化できることで,その後のコミュニケーションをより円滑に,かつ的確に進めることができる。また,具体的な授業,集団・個別学習者を検討の素材にあげることで,実践者自体の報告からは見いだされなかった問題・改善点,取り上げたい課題・方法などを検討し,共有することができる。

     ここでは特徴的な連携手段について取り上げたが,ネットワーク上のコミュニケーションを用いた学習では,それぞれの状況に応じた適当なコミュニケーション手段を教師の側も確保し,十分な情報交換と学習についての検討を行う必要がある。これからもより効果的な連携手段を開拓していきたい。



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