エネルギー・環境問題総合教育用地理情報データ
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(1)計測値の整理
各学校から提示された測定記録シートをもとにデータを吟味し、データベースに入力を行った。
<対象データ>
i) グランドの測定値
ii) 1階の教室の測定値
iii) 屋上での測定値
<データ入力処理>
・ 必ずしも共通条件シートを用いていないケースがあった為、測定記録シートの記入から適宜判断し、データ化を行った。
・ 小数点桁数等が異なる場合など、明らかに記入ミスと判断される計測値に関しては、適宜判断しデータから除外した。
(2)付帯情報のデータベース化
i) 位置情報(緯度、経度)
各学校の位置情報(緯度、軽度)については、測定記録シートに記入されていないケースもあったため、データの統一性を図ることから、GISから得られる各学校の位置情報を用いた。
ii) 標高情報の整理
標高については、国土地理院1/20,000地形図の等高線から判断し、各学校の標高情報を整理した。
iii) 地質情報の整理
地質情報については、地質調査所発行「100万分の1日本地質図」のCD−ROMからGISデータを入手し、各学校の地質情報を取得した。
(3)データベース化
(1)で整理された計測データを平均することによって、共通条件 i) 〜 iii) の計測データを学校(県)単位のデータベースとして構築した。また、付帯情報についてもこれに合わせて追加した。
分析の為の学校別データを以下に示す。
学校別分析用基礎データ
(1)基本統計量
(2)地域別状況
(3)県別状況
県別測定結果(グラウンド)
県別測定結果(1階の教室)
県別測定結果(屋上)
県別測定結果(グラウンド・1階の教室・屋上)
(4)GISによる分析
i) 県別
県別測定結果(グラウンド)
県別測定結果(1階の教室)
県別測定結果(屋上)
ii) 地域別
地域別測定結果(グラウンド)
地域別測定結果(1階の教室)
地域別測定結果(屋上)
iii) 地質図との関係 「産業技術総合研究所地質調査所 出典」
(北海道)
(東北)
(関東・北陸・甲信越・東海)
(近畿・中国・四国)
(九州)
(沖縄)
(1)東経(東西)との関係
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(2)北緯(南北)との関係
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(3)標高との関係
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(4)地質との関係
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地質コード表
コード |
地質区分(岩石区分/地質年代) |
備 考 |
1 |
堆積岩類/新生代・第四期・完新世H |
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2 |
堆積岩類/新生代・第四期・更新世Q3 |
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3 |
堆積岩類/新生代・第四期・更新世Q2 |
|
4 |
堆積岩類/新生代・第四期・更新世Q1 |
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5 |
堆積岩類・非海性/新生代・新第三期・中新世N2 |
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6 |
堆積岩類・非海成/新生代・古第三期・漸新世PG4 |
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7 |
堆積岩類・海成/新生代・新第三期 |
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8 |
堆積岩類・非海成/新生代・古第三期 |
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9 |
堆積岩類・海成/中生代・白亜紀・後期 |
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10 |
火山岩類・非アルカリ・火砕流/新生代・第四期 |
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11 |
火山岩類・非アルカリ・苦鉄質/新生代・第四期・更新世Q1 |
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12 |
火山岩類・非アルカリ・苦鉄質/新生代・新第三期・中新世N1 |
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13 |
火山岩類・アルカリ・苦鉄質/新生代・新第三期・中新世N2 |
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14 |
深成岩類・珪長質/中生代・白亜紀・後期K2 |
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15 |
深成岩類・珪長質/中生代・白亜紀・後期K1・K2 |
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16 |
変成岩類・高圧型/中生代・白亜紀 |
(5)相関係数
(6)回帰分析
→ 「北緯」と「i) グランド」の回帰分析をモデル的に試みる。
ただし、相関係数は、-0.314であり、それほど高くないため、直線式を用いて行う。
□分析結果
予測式:放射線量(μSv/h)=-0.001614843×(北緯(度))+0.26201528
予測結果と誤差
簡易放射線測定器「はかるくん」を使用し、自然放射線の測定を通じた「放射線の影響」に関する指導計画及び指導案を以下に示す。本案は、本プロジェクトの委員である、東京大学教育学部附属高等学校 村石 幸正 教諭が数年に渡り実践されたものを教育実践委員会で検討したものである。
科目 理科(物理TA) 学年 1年
単元名 放射線による影響
単元の目標
(1)放射線は何時も身のまわりに存在していることを知る。
(2)意味のない、あるいは誤解に基づく恐怖、偏見をなくす。
(3)放射線の影響と恐さを正しく知る。
単元・時間の流れ
<放射線の学習>
1限 放射線とはどんなものか。
2限 放射線による影響。
3限 放射線の測定・利用、放射線との係わりかた。
エネルギー・環境教育の具体的指導目標
放射線とその影響に対する正しい知識を持たせるとの観点に立ち
i) 放射線とはどのようなものか(種類、性質、単位)
ii) 放射線はヒトにどのような影響を及ぼすのか
iii) 放射線はどんなところにどのくらいあるのか
の3点の知識の習得と理解を目標とする。
エネルギー・環境教育の具体的指導内容項目
単元名 放射線による影響
本時のねらい
放射線は生物に対してどのような影響を及ぼすのか、そしてヒトはどのような影響を及ぼしたのかを正しく知り、「人間と放射線の関係」を学習する。
学習活動展開
(1)放射線はなぜ恐ろしいのか。いくつかその理由を上げてみよう。
ガンになる。
毛が抜ける。 etc
(2)被曝者本人に及ぼす影響はどのようなものがあるのか。
<指導資料―1>
確定的影響 しきい値(影響が現れる最小限の線量)が存在する。
脱毛、白内障、皮膚障害
<指導資料―2>
確率的影響 被曝線量の増加と共に影響の発生確率が増加
ガン、白血病、(遺伝的影響)
(3)遺伝的影響にはどのようなものがあるのか
血友病、ダウン症、糖尿病など、遺伝性疾患の発生頻度が増加する。 |
↓
|
放射線被曝によってヒトに遺伝的影響が誘発されたという証拠はない。 |
↓
|
しかし、動植物に対する実験では遺伝的影響は確認されている。 |
(4)放射線の影響に関するデマ、うわさを聞いたことがあるか。
・ 放射線の医師、原子力発電所で働く人の平均寿命は短い。
・ 放射線の医師、技術者の子供には、女の子が多い。
(5)「はかるくん」で放射線を測ってみた結果は?
<指導資料―3> はかるくん
<指導資料―4> 自然放射線、植物中の放射能、大地からの放射線等
<指導資料−5> 人工放射線 医療用放射線の量
<指導資料―6> 自分自身の1年間の被曝量を見積もって見よう
(6)現在、放射線はどのようなところで、どのように利用されているのか。
次回への課題提示
まとめ
放射線は、被曝者及びその子孫に影響を及ぼす可能性がある。しかし、放射線は特殊なものではなく、自然界に普通に存在する物質の一形態である。したがって、自然放射線程度の量を恐れる必要はない。
大切なのは、
i) 放射線被曝の影響を過大評価して騒ぎたて、その結果として被曝した人を差別しないこと。
そして
ii) いかなる不必要な放射線もあびないようにすることである。
資料
<指導資料―1> 確定的影響、確率的影響の概念図
<指導資料―2> X・γ線の1回全身被曝と身体的影響
X・γ線1回全身被曝と身体的影響
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実効線量[Sv] |
症 状 |
備 考 |
0.05 |
ほとんど臨床症状なし |
これ以下では晩発生障害だけが問題 |
0.1 |
ほとんど臨床症状なし |
放射線管理上の処置が必要 |
0.25 |
ほとんど臨床症状なし |
これを超えると医師による診断を要す |
0.5 |
リンパ球の一時的減少 |
|
1 |
吐き気、嘔吐、全身倦怠 リンパ球著しく減少 |
|
1.5 |
放射線宿酔 50% |
|
2 |
長期白血球減少 |
死亡率 5% |
4 |
死亡 30日間に50% |
半数致死線量 LD50/60 |
6 |
死亡 14日間に90% |
|
7 |
死亡 100% |
100%致死線量 |
<指導資料―3> 「はかるくん」
<指導資料―4> 植物・土壌中の放射能
食物・土壌中の放射能
土壌や岩石中の放射性物質濃度[Bq/Kg] |
|
カリウム40 |
100〜700 |
ウラン238 |
10〜 50 |
トリウム |
7〜 50 |
食物や肥料中の放射性物質濃度[Bq/Kg] |
|
玄米 |
20〜 70 |
精白米 |
10〜 30 |
肉 |
40〜 70 |
魚 |
40〜190 |
ほうれん草 |
70〜370 |
海藻 |
10〜370 |
牛乳 |
20〜 70 |
サラダオイル |
180 |
ビール |
5 |
ウィスキー |
50 |
60%塩化カリ肥料 |
9600 |
<指導資料―5> 医療放射線の線量
病気の検査や診断で受ける放射線の量
診断部位 |
診断1件当たりの 実効線量[mSv] |
|
撮
影 |
頭 部 |
0.13 |
胸 部 |
0.065 |
|
胃 |
2.0 |
|
バリュウム注腸 |
3.2 |
|
腰 椎 |
1.5 |
|
膀 胱 |
1.9 |
|
股 関 節 |
0.32 |
|
歯 |
口 内 法 |
0.029 |
パノラマ |
0.043 |
<指導資料―6> 1年間の被曝量の概算表 放射線量の概算
あなたが1年間に受ける放射線量の概算
通 常 の 放 射 線 源 |
||
住環境 |
「はかるくん」で測定した、あなたの家の放射線量 |
|
食生活 |
飲食物、空気(日本平均) 核実験などによるフォールアウト(放射性降下物) |
0.35 0.04 |
生活環境 |
X線と放射線医療 胸部X線撮影の年間回数 ___×0.065 mSv 腹部X線撮影の年間回数 ___×2.0 mSv その他のX線撮影の年間回数___×0.32 mSv 放射性医薬品の使用年間回数___×0.30 mSv ジェット機による旅行1時間毎に0.005mSv加算 テレビの鑑賞1日平均時間___×0.0015 mSv
|
|
原子力発電 所との関係 |
1日の内発電所敷地の境界線上平均時間 ___× 0.002 mSv 1日の内1.6Km以内にいる平均時間 ___× 0.0002 mSv 1日の内8Km以内にいる平均時間 ___× 0.00002 mSv 8Km以上離れた所にいる時間はゼロ 注)安全基準の最大値を基にこの試算を作 実際にはもっと低い値がでるはずです |
|
あなたが1年間に受けている放射線量は |
mSv |
1年間に受ける |
放射線量の世界平均値は、おおよそ
|
3.1 mSv |
1年間に受ける |
自然放射線量の世界平均値は、おおよそ
|
2.4 mSv |
参考文献
村石幸正 : 「放射線にたいする認識の調査から」 |
[東大附属論文集]第37号(1994)
|
草間朋子偏 : [ICRP 1990年勧告 その要点と考え方] |
日刊工業新聞社
|
吉田芳和 : 「生活環境と放射線」[原子力実験セミナー・テキスト] |
日本原子力研究所
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指導上の留意点
いわゆる核兵器や原子力発電問題に流れず、放射線の影響を中心にすえていることを忘れないように授業をする。
その上で、放射線の影響を過大評価及び過小評価しないように指導する。
発展的視点
<長期的展望>
・ 広島での現在の放射線量率の測定(宿泊行事の中で「はかるくん」をもちいて行なう)
・ 広島の人たちは、放射線の遺伝的影響をどの程度に見積もっているか。そして、どの程度恐れているかのアンケート調査(上と同じく、本校の宿泊行事の中で行なう)
<短期的展望>
・ 放射線、放射性物質の性質を利用して、放射線はどのように利用されているか。
備考
広島・長崎で原爆の放射線を受けた人達への調査を含めて「放射線被曝によってヒトに統計的に有意な数の遺伝的影響が誘発されるという証拠は得られていない」というICRP1990年勧告の中にある文章に驚いてしまった。
広島・長崎での原爆による放射線の被曝量は大量であろうから、その被曝者の人々には自身への影響はもちろんのこと、遺伝的影響もあったのではないかと漠然と考えていたからである。
高1全員に「広島で被爆した人あるいはその被爆者の子・孫から生まれた子供のうち、放射線によって遺伝的影響を受けたとみなされる子供の割合はどれくらいだと思いますか」というアンケート調査を行なったところ、以下のような結果であった。
影響を受けたと思う子供の割合
0〜
|
20%
|
23人
|
(21.1%) |
〜
|
40%
|
33人
|
(30.3%) |
〜
|
60%
|
21人
|
(19.3%) |
〜
|
80%
|
21人
|
(19.3%) |
〜
|
100%
|
3人
|
( 2.8%) |
この結果は、どの学年でも大差ないものと思われる。被爆者手帳を持つ母親は、「子供は五体満足だったか」と聞かれるという。また、広島・長崎出身者と結婚しようとすると、反対されるという。
このような誤解・無理解が実際に存在しているという現実をもとに、もっと放射線について正しく知る必要があるという立場からこの授業は企画・立案されている。
<評価>
(1)放射線が被曝者本人に及ぼす影響(身体的影響)、子孫に及ぼす影響を正しく理解できたか。
(2)「放射線被曝によってヒトに遺伝的影響が誘発されたという証拠はない」という事を認識できたか。
(3)放射線の性質、影響を正しく理解できたか。
(4)身の回りの放射線に気がついたか。
<生徒たちの感想(原文のまま)>
・ 放射線というのはとても恐い物というイメージなので、はじめ「はかるくん」で放射線の音を聞いた時、ドキッとしました。なんだかとても不思議だったけど、あんまり怖いものではないというイメージに変わった。
・ 前はただこわいなと思うだけだったが、正しい知識を持つこことが大切だと思った。
・ 自然に放射線が発生していることが興味深かった。家族の人たちが、「はかるくん」を使っている時「うちには放射線なんかない。」といっていた。放射線が自然に発生することを知らない人はたくさんいて、おかしな先入観あるのだと思った。
・ 自分の無知さのためによけいにこわがっていたことがわかった。もっと有意義に使えるものだと思うので、むずかしいけれど、もっと知りたい単元だと思った。
自然放射線の測定を通じたエネルギー・環境学習の活用事例を以下に紹介する。
本事例は、東京家政大学附属女子中学校・高等学校の「自然科学実験講座」で、地学担当 青木 寿史 教諭が実施されたものである。
同校の「自然科学実験講座」は、物理、化学、生物、地学の各科目で、通常授業で取り扱われなかったテーマについて補習することを目的とし、中・高レベルでの自然に関する現象について全て実験により探求することを原則とした講座である。
本事例は、高校2年生を対象に平成13年1月26日(金)、29(月)にそれぞれ20数名が参加し、実施されたものである。
自然放射線の測定とその考察は、「自然科学実験講座」高2Bコースとして講座を設置し、以下のような内容によるプリントを生徒に配布し実施されている。
「はかるくん」による測定要領を簡単に解説し、γ線を測ることを明記し以下の条件での測定を指示している。
(1)屋外での測定
(2)樹木の真下での測定
(3)校舎(屋内、屋上)での測定
測定に当たっては、校舎配置図を示し、校内での自然放射線測定場所を指示し条件を固定する形式を採っている。
自然放射線の測定結果の考察では、樹木の真下での測定値により年間の線量を計算させ定量的な認識と測定条件による放射線量の違いについて2項目の設問を設定した内容となっている。
<放射線の計り方の解説資料>
<校舎の配置図>
2回の講座実施で得られた測定値の平均値について以下に示す。
(1)屋外の測定(□で表した位置)
(2)校舎(○で表した位置)
(3)校舎(△で表した位置)
測定結果の考察については、「自然科学実験講座」を受講した生徒がとりまとめを行なっており、感想を含む考察結果については別途報告する。
簡易放射線測定器「はかるくん」を用いた測定実践と、今後のWeb活用による教育的観点からの評価指標を以下に示す。
(1)放射線の種類と性質を正しく理解する。
i) 説明図をもとに、α線、β線、γ線、X線、中性子線の線種とその透過力について比較して、その特徴を知ることができる。
(2)自然放射線の存在を正しく理解する。
i) 説明図をもとに、宇宙線、大地からの放射線、コンクリートなどに含まれている物質から出る放射線、食物に含まれる放射線、空気中に含まれるラドンなど、放射線そのものが身の回りに存在することを認識することができる。
(3)自然放射線の特性について正しく理解する。
ii) 「はかるくん」による測定を実践し、屋内、屋外など計測場所による放射線量の違いを確認し、説明図をもとにその違いの理由を区別できる。
(4)放射線についての単位と、自然放射線の量について正しく理解する。
i) 説明文により、「はかるくん」の放射線を表す単位について説明できる。
ii) 「はかるくん」の測定値を使い、自然放射線の年間の放射線量を計算し、説明図をもとに医療等、日常生活で受ける放射線量との比較により、自然放射線の量はほとんど危険がない量であることを認識できる。
(1)放射線の危険性について正しく理解する。
i) 人工放射線、放射線障害などの用語の情報の中から人体にとって危険なものがあることを検索し示すことができる。
(2)人工放射線の生活利用について正しく理解する。
i) 原子力委員会第五分科会報告書 「国民の生活に貢献する放射線」などを検索し、人工放射線の医療、食品、工業への利用などがあることを知ることができる。
(3)放射線の人体への影響を正しく理解する。
i) 放射線による人体への影響について、情報を検索し放射線量による影響の種類、しきい値などの用語を説明することができる。
(4)放射線が被曝者本人に及ぼす影響(身体的影響)、子孫に及ぼす影響を正しく理解する。
i) 確定的影響、早期影響、晩発影響などの用語について情報を検索し説明できる。
ii) 確率的影響と遺伝的影響などの用語について情報を検索し説明できる。
(5)放射線線に対する理解を深めることが、今後、エネルギー・環境問題に取り組む上で重要な課題であることを認識できる。
今回の測定実践を実施した結果、今後改善が必要な事項として明らかになった課題を以下に示す。
全国規模での自然放射線測定は初めての試みであり、自然放射線量について3種類の統一条件の分析結果からは、次のような傾向が読み取れる。グランドと1階の教室を比較すると教室の方が高い値になっている。これはほとんどの校舎が鉄筋コンクリートにより作られているため建材からの放射線による影響と考えてよく、結果としてグランドなど屋外より高い値を示しているといえる。また、1階の教室と屋上との関係を見るとほぼ同等か、屋上が幾分低い傾向がみられる。これは、屋上が大地から離れているため、大地から来る放射線が減っていると考えてよく、一般的に地上や室内より低くなる傾向を捉えているといえる。良く知られている西高東低という地質など地域特性については地方別の表示で、一般的な傾向を見ることができるようであるが、統計処理を行なうにはサンプル数が不足しており統計値からは相関関係を確認できてはいない。測定値の分析からは、以下のような問題点が指摘できる。
(1)測定データの精度確保
統一条件のデータ精度について各学校から寄せられた内容を検討すると、測定回数、データ数にバラツキがあることが分かった。今後は、測定回数等について一定量を定めデータの精度を確保する必要がある。また、今回の測定実践は、季節的に冬となってしまい、東北地方のグランドの測定値については、積雪等の測定条件を考慮する必要がある。
(2)色分け表示と平均値
当初、各県の傾向を県の形状に従って色分けして表示するという処理仕様を採用する予定であったが、今回の測定結果は「平均値」を表すものではないとの指摘を委員会から受け、第1回目の測定結果の表示では、参加校の測定値という意味合いを強く持たせるため、円形表示に自然放射線量の色分けを施した。今後は同一県内での測定値を増やし、精度を上げていく必要があり、そのためのデータ蓄積機能を強化しておく必要がある。また、各都道府県の平均値を求めGISによる可視化処理を行なうためには、今後相当数の測定結果が必要である。
(3)地質との関係
今回の統計分析結果はサンプル数がいささか少なく、統計処理的による数値的な判定はできない。地方別に可視化した結果からは、グランドにおいて一般的に言われている自然放射線量の西高東低的傾向の関係を捉えているようだ。しかしながら厳密な関係を捉えたものではない。
グランドの測定値の地質等、地域特性を考慮するならば、露頭している地質と自然放射線量の関連を明かにしておく必要がある。統一条件の一つに、グランド中央を設定したが、学校のグランド中央での測定値がその土地の地質的自然条件を反映しているとは限らない。なぜならば、最近の学校のグランドはアンツーカーなどで舗装されたものも多く、人工的な自然環境となっている場合が多く見うけられるためである。
今後は、地質調査図を活用し、同一県内での同様な地層、異なる地層との差異などをフィールドワークし、地質との関係を明かにして行くといった測定手法を取り入れていくことが必要である。
今回の測定実践では、物理での授業活用という条件は特に設定せず、他の教科担当の教師による測定実践も実施し、本システムの活用の可能性を調査した。その結果、実際に物理の授業での活用を実践された協力校や、地学の授業での活用、課題学習、総合実習などでの活用が報告されており、今後の授業活用を期待するところである。
授業以外での活用は、理科系のクラブ活動での活用が多く物理以外の指導担当教師による実践報告が寄せられており、簡単なプリントや、「はかるくん」のテキストなどによる事前指導、測定後のとりまとめが行なわれ、自然放射線の存在とその量的認識が生徒になされていることから、以下のような問題点が指摘できる。
(1)総合的な学習の時間への活用
指導計画の例を物理を対象に公開して、授業への活用を支援しているが、自然放射線測定の実践を通じたエネルギー・環境問題という学習課題は、横断的・総合的な学習、生徒の興味・関心等に基づく学習として総合的な学習の時間に相応しいテーマである。しかしながら、総合的な学習を指導する教員の専門が理科であるとはかぎらず、むしろ専門外のテーマとなることが予想され、また、横断的・総合的との観点からは理科を専門とする指導教員にも専門外の教科、科目との関連性を求められることになる。
高等学校における総合的な学習の時間は、卒業までに105ないし210単位時間を配当し3ないし6単位を付与することとなっており、こうしたゆとりある学習時間を有効に活用するためには、原子力を含め、資源、エネルギー、環境問題を総合的・体系的に捉えた教育カリキュラムの開発と公開が必要である。
(1)GIS処理
本システムでは、自然放射線の測定値の分析、統計、可視化処理にGISを採用しているが、現在のGISの処理形態はインターネットに直結したものではなく、測定結果をまとめてGISに蓄積し処理、その結果をWebに掲載するというオフ・ライン処理となっている。本システムにおけるGISの豊富な処理機能の活用と効果については、確認できており、教育の情報化、情報通信ネットワークの活用の観点からは、参加校から直接GISを操作できるリアルタイム処理への改善が求められる。
本プロジェクトの公開、普及については、「将来の学校教育の情報化につながる芽を発掘、育成し、それらに必要なノウハウ、技術を確立することを目指したものであり、その成果(教育用ソフトウェア、カリキュラム、マニュアル、ガイドライン、各種報告書など)をホームページやその他の媒体を利用して広く教育界に公開し、教育関係者が自由に利用できる環境を提供します。」と企画の趣旨説明にあるように、教育実践活動の公開、普及方法については、Webを中心に行なう予定である。本サイトのURL:hoshasen.jsf.or.jp等Webに関する情報公開は、(財)日本科学技術振興財団広報はもとより、本プロジェクトに委員として参加された先生方や、協働実践に参加ご協力戴いた全国の学校の先生方の人的ネットワークを活用し普及に努めるとともに、参加ご協力戴いた全国の学校の先生方や委員の先生方が参加されている東京都理化教育研究会、放射線教育フォーラム、物理教育学会、日本理化学協会の「理化全国大会2001」などの関連研究会での成果発表の機会を利用し、広く公開してゆく予定である。