エネルギー・環境問題総合教育用地理情報データ
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3.教育実践活動

3.1 教育実践活動の目的

       本プロジェクトの目的は、自然放射線の測定を通じ放射線についての正しい知識の習得、人体への影響、エネルギー・環境について総合的に理解できる情報の提供を目的とした新しい教育環境の構築にある。そこで、全国規模(平成12年度は、各都道府県1校とし47校を選定した。)で参加協力校を募り、自然放射線の測定を実践しその結果を収集して教育的効果の確認、GISによる各種分析、可視化の効果確認等より実用的なシステムとするための改善点などの基礎的データの収集を実施する。

3.2 教育実践活動の準備作業

      3.2.1 参加協力校の募集と管理方法

         本プロジェクトでは、全国各都道府県別に自然放射線の測定を実施するために、参加協力校を募集することとした。募集に当たっては、ホームページによる公開募集等、募集方法を検討したが、短期間での実践活動ということもあり、平成12年10月の1カ月を要し事務局より直接参加協力を依頼する形式を採った。

         参加協力依頼校の選定については、自然放射線測定というテーマから放射線教育フォーラムに参加されている学校(主な教科は理科、科目は物理)でインターネットに接続している学校と、理科以外での活用の可能性を探るため、インターネットが利用可能(理科以外の教科担当者を含む)な学校より選抜し、事務局より趣旨説明を行ない教育実践活動の協力を仰いだ。

         参加校の管理については事務局が一括して行なうこととし、適宜電話、FAX、郵便、E−メールなどの通信手段により連絡を行うこととした。

         本プロジェクトにおける参加協力校を以下のとおり決定した。

        都道府県名

        ご担当者(敬称略)
        学校名
        公/私
        北海道 山田大隆 札幌開成高等学校 公立
        青森 早坂唯男 県立青森工業高等学校 公立
        岩手 高橋雅子 盛岡白百合学園中学・高等学校 私立
        宮城 馬場兵悦 東北学院中学校・高等学校 私立
        秋田 鈴木清春 秋田和洋女子高等学校 私立
        山形 笹原俊明 県立庄内農業高等学校 公立
        福島 仲川利一 県立白河実業高等学校 公立
        茨城 藤井健司 茗渓学園中学校・高等学校 私立
        栃木 渡邊公鋭 作新学院高等部 私立
        群馬 渡辺幸雄 関東学園大学附属高等学校 私立
        埼玉 西尾信一 県立上尾東高等学校 公立
        千葉 舩田優 県立船橋高等学校 公立
        東京 宮澤弘二 東京家政大学附属女子中学校・高等学校 私立
        神奈川 久保田信夫 立花学園高等学校 私立
        新潟 岡田晋 県立海洋高等学校 公立
        富山 戸田一郎 富山第一高等学校 私立
        石川 樫田豪利 国立金沢大学教育学部付属高等学校 公立
        福井 青木孝文 県立武生東高等学校 公立
        山梨 長谷川準 県立谷村工業高等学校 公立
        長野 北川啓二 県立犀峡高等学校 公立
        岐阜 栗本孝子 県立羽島高等学校 公立
        静岡 大塚功 浜松学芸高等学校 私立
        愛知 村瀬篤 名古屋市立富田高等学校 公立
        三重 原哲也 県立飯野高等学校 公立
        滋賀 泉谷明 県立水口高等学校 公立
        京都 川村康文 国立京都教育大学教育学部附属高等学校 公立
        大阪 山田善春 大阪市立高等学校 公立
        兵庫 塩満博 神戸市立葺合高等学校 公立
        奈良 一柳恵信 県立高取高等学校 公立
        和歌山 浜口美千夫 県立和歌山高等学校 公立
        鳥取 尾ア弘志 鳥取女子高等学校 私立
        島根 井上肇 開星高等学校 私立
        岡山 井上理樹 県立岡山芳泉高等学校 公立
        広島 平賀博之 国立広島大学附属福山高等学校 公立
        山口 山村繁典 県立岩国高等学校 公立
        徳島 谷藤悟 県立池田高等学校 公立
        香川 村尾美明 県立丸亀高等学校 公立
        愛媛 國原幸一朗 松山東雲中学校・高等学校 私立
        高知 藤村幸紀 県立岡豊高等学校 公立
        福岡 坪井峰生 福岡工業大学附属高等学校 私立
        佐賀 一ノ瀬憲昭 県立有田工業高等学校 公立
        長崎 下窄泰治 県立諫早農業高等学校 公立
        熊本 成田廉司 熊本国府高等学校 私立
        大分 河津文昭 県立日田林工高等学校 公立
        宮崎 小玉和清 県立延岡商業高等学校 公立
        鹿児島 武一正 県立鹿児島水産高等学校 公立
        沖縄 垣花桂子 沖縄女子短期大学附属高等学校 私立

      3.2.2 測定条件の設定

         自然放射線の測定条件については、教育実践検討委員会にて審議した結果、統一条件としてグランド、1階の教室、屋上の3種類を設定(資料−1参照)し記録シートに記入する方法を用いた。また標準条件以外に例を上げ自由課題を設定し測定を実施するよう依頼した。記録シートについては、Webよりダウンロードできるようにするとともに、参加協力校へ郵送することとした。

         測定と指導方法については、簡易放射線測定器「はかるくん」の使用の手引きに従って実施することとし、生徒のレポート感想等を提出して戴くとともに、指導計画案に反映するため実践後、事務局より実践状況、留意点、結果の取りまとめ等について追跡調査を実施することとした。

      3.2.3 測定器の手配

         自然放射線の測定器については、財団法人 放射線計測協会 のご協力を仰ぎ簡易放射線測定器「はかるくん」の参加協力校への無償貸出しを行なった。

         貸出しに当たっては、本プロジェクト事務局より、参加協力校一覧を放射線計測協会に提出し、1校当たりの3台の一括貸出しを依頼した。

3.3 指導要領との対応関係

      3.3.1 現行の指導要領との関係

         現行の指導要領と自然放射線測定を通じた放射線、エネルギー環境教育関連との対応関係は、「総合理科」の「資源・エネルギーとその利用」の中で「放射能及び原子力の利用とその安全性の問題にも触れること」となっている。また、「理科TA」では、「太陽エネルギーと原子力」の中で、「原子力については、放射能及び原子力の利用とその安全性の問題にも簡単に触れること」としている。「物理TB」では、「電子と原子」の中に放射能の内容が位置付けられ「放射能および原子力の利用とその安全性の問題にも触れること」なっている。

         また、「物理U」では「原子の構造」、「原子核の変遷」、「素粒子」などがあり、「地学TA」では「資源と人間生活」の中の「エネルギー資源」の内容の取扱いで「太陽放射の熱エネルギー、化石燃料及び核燃料のエネルギー」が対応している。「地学TB」では、「太陽の形状と活動」、「恒星の放射」、「地学U」では「銀河の形状」「宇宙の進化」などが対応関係にある。

      3.3.2 新指導要領との対応関係

         エネルギー・環境問題及び放射線について学習指導要領との対応関係を、高等学校学習指導要領(平成11年3月)により調査した。高等学校の学習指導要領については平成11年3月29日に全面的な改定が行なわれ、平成15年4月1日より年次進行により段階的に適用されることとなっている。

         新しい高等学校学習指導要領では、地理歴史、公民、理科など各教科・科目においてこれまで以上にエネルギー・環境に関する教育の充実が図られている。特に理科では、科学が直面している問題や科学と人間生活とのかかわりについて学び、科学的なものの見方や考え方を養う新たな科目として「理科基礎」が設けられ、また現行の「TAを付した科目」と「総合理科」の内容の一部を統合し、新たな科目として「理科総合A」及び「理科総合B」の計3科目が新設されている。また、現行の「TBを付した科目」、「Uを付した科目」のうち、より基本的な内容で構成し、観察、実験、探求活動などを行ない、基本的な概念や探求方法を学習する科目として「物理T」、「化学T」、「生物T」、「地学T」が設けられ、これらの科目の内容を基礎に、観察、実験や課題研究などを行ない、より発展的な概念や探求方法を学習する科目として「物理U」、「化学U」、「生物U」、「地学U」が設けられている。

         以下に高等学校の理科における目標と「理科基礎」、「理科総合A」、「理科総合B」「物理U」の各科目においてのエネルギー・環境及び放射線に対する取り扱いの概要を示す。

        理科の目標

           学習指導要領では理科の目標を「自然に対する関心や探求心を高め、観察、実験などを行ない、科学的に探求する能力と態度を育てるとともに自然の事物・現象についての理解を深め、科学的な自然観を育成する。」としており、学習指導要領解説では、「高等学校の理科の目標は、総合的な目標」であり、高等学校の理科のねらいを次の4点に要約している。

          (1)目的意識をもって実験、観察などを行なうことにより、知的好奇心や探求心を喚起し、自ら学ぶ意欲を高め、自然を主体に学習しようとする態度を育てること。

          (2)実験、観察を通して探求活動を行ない、科学的に自然を調べる方法を身に付けるなど、探求する能力と態度を育てるとともに、問題解決能力を養うこと。

          (3)自然にかかわる基礎的・基本的な学習を通して、自然の事物・現象にみられる原理・法則等を理解し、自然についての仕組みや働きについて分析的かつ総合的に考察する能力を養い、さらに進んで科学的な自然観を育成すること。

          (4)多様な自然現象について客観的に考察して合理的に思考する能力を育成するとともに、科学や自然と人間のかかわりの視点に立ち、自然を総合的にみる見方や科学的なものの見方を育成することを重視すること。

        理科基礎

           「自然の探求と科学の発展」の中で、「エネルギーの考え方」を取り上げることとしており、「科学の課題とこれからの人間生活」の中で「物質とエネルギー、生命と環境、宇宙と地球などの分野から、現在および将来における科学の課題と身近な人間生活とのかかわりについて考察させる。」となっている。

        理科総合A

           「資源・エネルギーと人間生活」の中の「エネルギー資源の利用」で「蓄積型の化石燃料と原子力及び非蓄積型の水力、太陽エネルギーなどの特性や有限性及びその利用などについて理解させる。」とし、「多様なエネルギー資源が発電や熱源に利用されていること及び蓄積型のエネルギー資源の成因、分布、埋蔵量の有限性及びこれらがエネルギーとして利用できる過程についての概略を扱い、環境への配慮が必要であることにも触れること。原子力に関して、天然放射性同位体の存在やα線、β線、γ線の性質にも触れること。」としており、学習指導要領解説では、「核燃料など原子力に関しては、例えば、ウランなどの天然放射性同位体の存在や、それらの放射線としてα線、β線、γ線の性質などにも触れる。また核分裂の連鎖反応による熱が発電に利用される点を火力発電との対比で簡単に示し、エネルギー資源としてはいづれも有限であることを扱う。その際、臨界にもごく簡単に触れる。環境への配慮については、例えば、化石燃料が温室効果をもたらす二酸化炭素の発生への対応や、原子力発電の安全対策や管理にも触れる。」としている。

           また、「科学技術の進歩と人間生活」の中で「科学技術の成果と今後の課題について考察させ、科学技術と人間生活とのかかわりについて探求させる。」とし「生徒の興味・関心等に応じて、物質や資源の利用、エネルギーの変換や利用など科学技術に関する身近な課題を取り上げ、科学技術と人間生活とのかかわりなどを平易に扱うこと。」としており、学習指導要領解説では、「物質や資源の利用、エネルギーの変換や利用、あるいはそれら双方にかかわりのある身近な科学技術の課題例としては、次のようなものが考えられる。」とし「原子力発電の現状と放射性廃棄物の管理、天然の放射性物質と放射線の利用」などをあげている。

        理科総合B

           「人間の活動と地球環境の変化」の中で「生物とそれを取り巻く環境の現状と課題について考察させ、人間と地球環境のかかわりついて探求させる。」とし、「生徒の興味・関心等に応じて、水や大気の汚染、植物の遷移現象、地球温暖化など生物とそれを取り巻く環境に関する身近な課題を取り上げ、人間と環境とのかかわり、地球環境を保全することの重要性などを平易に扱うこと。」としている。

        物理U

           「原子と原子核」の中の「原子核と素粒子」で「原子核について放射線及び原子力の利用とその安全性の問題にも触れること。」している。学習指導要領解説では、「原子核については、核反応、核分裂、核融合を扱う。」とし、「その際、恒星のエネルギー源や原子炉に関連して連鎖反応、臨界などに簡単に触れるとともに放射線の医学的利用などを扱う。またα線、β線、γ線、中性子線などの放射線及び原子力の利用とその安全性の問題にも触れる。」としている。

           また、学習指導要領解説において、課題研究では、「特定の物理的事象に関する研究」について「適当な課題を設定し、研究を行ない、創意ある研究報告書を作成させ、研究発表行なわせることがねらいである。」とし、課題の例として、「放射線の観察とその性質を調べる」を上げている。

        理科・科目の履修

           理科については、すべての生徒に履修させる教科・科目(必履修教科・科目)とし、科目の履修については、「理科基礎」、「理科総合A」、「理科総合B」、「物理T」、「化学T」、「生物T」及び「地学T」から2科目(「理科基礎」、「理科総合A」、「理科総合B」のうちから1科目以上を含むものとする。)となっており、原子力を含むエネルギーや放射線、資源および環境などに関する学習を、科目の選択方法にかかわらず必ず行うこととなり学習の充実が図られている。

           なお、中学、高等学校の新学習指導要領と「エネルギー・環境」に関する内容の扱いを資料−2に取りまとめた。

3.4 総合的な学習の時間

       新しい学習指導要領では、教育課程審議会の答申を踏まえ完全学校週5日制の下、「ゆとり」のなかで、「特色ある教育」を展開し、自ら考える力など「生きる力」を育成することを基本的なねらいとして「総合的な学習の時間」が創設された。

       「総合的な学習の時間」では、各学校は、地域や学校、生徒の実態等に応じて、横断的、総合的な学習や生徒の興味・関心等に基づく学習など創意工夫を生かした教育活動を行なうものとするとし、自ら課題を見付け、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、よりよく問題を解決する資質や能力を育てることや、学び方やものの考え方を身に付け、問題の解決や探求活動に主体的、創造的に取り組む態度を育て、自己の在り方生き方を考えることができるようにすることをねらいとしている。

       このねらいの下に、国際理解、情報、環境、福祉・健康などの横断的・総合的課題や、生徒の興味・関心、進路等に基づく課題、知識や技能の深化、総合化をはかる学習活動、自己の在り方生き方や進路について考察する学習活動等を行なうこととしている。

       「総合的な学習の時間」では、どのような学習活動を実施するかは、各学校の判断に委ねられており、また、高等学校においては、学習指導要領に示されていない教科・科目を各学校の判断で設けることが可能となっている。本プロジェクトのテーマは、理科だけでなく社会、家庭、保健体育など各教科で横断的、総合的に扱うことが有効なテーマであるといえる。

3.5 教育実践活動における留意点

       教育実践活動における留意点としては、放射線というと生徒は危険な物というイメージが強いことがあげられる。わが国が原子爆弾による世界最初、唯一の被爆国であることなど、生徒にとって放射線教育はいろいろな問題を含んでいるといえる。ここでは以下に示した項目について留意し、自然放射線の科学的な理解を深め、放射線そのものが身の回りに存在することを認識させることが重要であり、以下の項目について留意する。

      3.5.1 

      天然の自然放射性元素からでる放射線は、ほとんど危険がなく日常的に身の回りに存在していることを観察する。

      3.5.2 

      放射線による人体への影響については放射線量の単位、しきい値等について理解する。

      3.5.3

      放射線の危険性を十分に指導する。放射線は、その扱い方が科学的に安全性が確保されれば、人類にとって有効に活用されていることを理解する。

      3.5.4

      放射線に対する理解を深めることが、今後、エネルギー・環境問題に取り組む上で重要な課題であることに触れる。

3.6 教育実践状況概要報告

       簡易放射線測定器「はかるくん」による自然放射線の測定を実施するに当たってどのような状況で教育実践がなされたか、事務局に寄せられた各校からの実践報告(資料−3参照)を要約し以下にその概要を報告する。

      3.6.1 実践形態

         今回の参加協力校の教育実践指導者は、特に放射線を専門とする理科の物理担当教師とは限らず、また理科の教師であっても、年間の授業計画と今回のプロジェクトの実施時期と連携させ授業として実践することは難しいのではないかと想定していた。また、簡易放射線測定器「はかるくん」は1校に付き3台を測定実践用に配備したが、台数的にも授業での実践は困難であると考えていた。

         調査結果からは、本プロジェクトの参加校の多くは、理科クラブ、物理部などのクラブ活動の一環としての取り組まれていた。また授業での実践では、選択制の講座での実施や、実際の物理や地学の時間を使って実践された協力校も見られた。

      3.6.2 事前学習

         物理等の専門的な授業実践以外では、測定実践の事前学習として放射線の種類や性質、放射線量、自然放射線の存在等、基本的な事項について、物理の教科書と指導書の抜粋によるプリントや、「はかるくん」の使用の手引きなどにより説明し、測定器の操作方法を使用の手引きを利用して実施したとの報告がなされている。自由測定については、生徒の主体性に委ねた学校が多く、予め変化が大きいと想定される場所を決定し測定を実施した学校も見られた。

      3.6.3 生徒の反応

         自然放射線の測定を通した学習としての効果については、「放射線」イコール「怖い物・危険なもの」という感覚が払拭されたことが、数多く寄せられた生徒の感想文(資料−4参照)からうかがえ、測定実践という行為による放射線に関する知識の定着度については高い期待を寄せることができる。

      3.6.4 測定結果のとりまとめ

         測定結果の取りまとめについては、物理での授業実践以外では、自然放射線の存在とその量の認識レベルであり、測定場所による放射線の強さの比較、日常生活における自然放射線量の認識など、「はかるくん」のテキストを使った簡単な取り組みがなされていた。

         変わったところでは、「大学環境系学部進学希望の学生においての面接対策として、その意義について考察させ、面接試験(推薦入学)に役立たせた。」との報告も寄せられている。



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