平成12年度 「全国発芽マップ実践企画」
|
2000年度の全国発芽マップの活動について評価するため,ここ3年間は,毎年12月に参加校を対象としたメーリングリスト調査を実施している。
これは,当該年度の全国発芽マップの活動について,参加校からの意見という形での評価を行うためである。また,一年間の活動を踏まえて次年度への希望を集めることで,活動内容を改善する目的がある。
そこで,今年度も,従来のやり方に倣って,すべての参加校を対象とした電子メールによる調査を実施することにした。
調査はメーリングリストを利用して実施した。すべての参加校の教師が加入しているメーリングリストに,質問内容を配布し,無記名式の回答を指定したメールアドレスに返送するよう,依頼した。
質問事項は,次のような事項である。
I.
|
学校等について |
II.
|
全国発芽マップへの参加が児童・生徒や教師にもたらしたものについて |
III.
|
メーリングリストについて |
VI.
|
今後について |
回答形式は,選択法と自由記述法である(資料3-2)。資料3-2のような質問内容を,2000年12月20日に,参加校の教師用メーリングリストに流した。この際,調査は宮崎大学の4年生から流すという形式を取り,集計結果は卒業論文とプロジェクト報告書の両方に利用されることを明記した。
調査項目配布後,調査への回答の催促を12月24日,12月31日,2001年1月7日の3度にわたってメーリングリストに流した。
調査対象は,2000年12月20日の時点で「全国発芽マップ」の教師用メーリングストに登録されていた教師である。この時点で加入校数は161校であった。
多くの学校の3学期が始まって1週間が経過した時点まで回答の受付を続け,2000年1月15日に終了した。この時点での回答数は,37件であったので,この37件の回答を有効回答と見なし,集計対象とした。
有効回答をよせてくれた学校種の内訳を,表3-2-1に示す。
表3-2-1 メーリングリストによる調査への
回答者の内訳(回答件数:37件) |
小学校 |
32 |
中学校・高等学校 |
4 |
その他 |
1 |
小学校が32校と,大半を占めている。「その他」は,学校外で小学生を集めた「クラブ」である。
次に,表3-2-2に回答者が所属する学校規模を示す。
表3-2-2 学校の規模
|
質問項目では,400人以上のを一つの選択肢にしたため,400人以上の学校が13校と多くなっている。しかし,その次に多いのは,100人から199人の学校で,小学校でいえば各学級1学級程度の比較的小規模の学校である。
また,10人未満が3校,10〜49人が4校といったように,かなり小規模な学校の参加が目立つ。今年度の活動で,一つの中心になった北海道の鵡川小学校も,児童数10人未満の学校である。
過去に活躍した学校にも,このような超小規模校がいくつかあり,小規模校の参加と活躍が目立つことは,全国発芽マッブの一つの特色と言える。
回答者の,「全国発芽マップ」への参加年数の内訳を表3-2-3に示す。
表3-2-3 全国発芽マップへの参加年数
|
回答者のうち24人は全国発芽マップへの参加が1年目,7人が2年目である。全国発芽マップが,6年目の企画であるにもかかわらず,長年参加している教師からの回答は非常に少ない。企画開始当初からの6年間参加している教師からの回答は1件であった。
全国発芽マップのメーリングリストで交わされる対話を6年間見続けると,年度毎に活躍する教師の交代が見られる。最初から継続して参加している教師もいて,要所要所で登場するが,ずっとアクティブなままで活動を続けている人はいない。
今回の調査の回答者の大半が,参加1年目の教師であることは,この傾向を顕著に反映している。
表3-2-4〜表3-2-11に,,全国発芽マップへの参加が児童・生徒や教師にもたらすものとして掲げられた事項への,回答者の賛否の分布を示す。
植物成長の地域差については,表3-2-4のように37人中31人が「そう思う」と回答している。
全国発芽マップで,児童・生徒から立ち上がってくる問題解決活動の一つのきっかけとして仕組んでいる「植物成長の地域差への気づき」には,多くの教師が賛成している。
しかし,3校の教師が「そうは思わない」と回答していることは,かならずしもすべての学校の児童・生徒が,このことに気付くとは限らないことを示している。ケナフの成長は,単純に地域の緯度や気温によって決まるのではなく,土や日照条件など多様な条件の組み合わせで決まる。したがって,植物成長の「地域差」が表れにくい場合があるのも事実のようである。
表3-2-4「1. 児童・生徒が植物成長の地域差を認識する」への回答
|
児童,生徒が観察をする習慣ができたかどうかについては,表3-2-5に示すように37人中30人が「そう思う」と回答している。
植物の成長を根気強く観察することは,簡単なように見えてなかなか継続できないことである。全国発芽マップで,一つの植物の同時栽培を全国で実施していることのねらいの一つは,児童・生徒に他校のとの比較という目的意識を持たせることで,意欲的に観察ができるようにすることがあった。
今回の結果は,それが多くの学校で成功していることを示している。ただし,すべての学校でそうなるというわけではないことも,同時に示された。
表3-2-5「2. 児童・生徒が観察をする習慣ができる」への回答
|
表3-2-6から,児童の学習意欲に変化が生じたのは,37校中26校であったことが分かる。
37校中26校という数字は,当初想定した数字よりも少ないものであり,今後さらにその実態や原因について検討しなければならない。
ただ,もともとこういった協同的な学習への取り組みが盛んな学校では,今回の企画による変化があったかどうか分からないのも事実である。
表3-2-6 「3. 児童・生徒の学習意欲に変化が起こる」への回答
|
表3-2-7から,児童の学習に変化が起こったとの回答のあった学校は,37校中24校である。
全国発芽マップへの参加が,児童・生徒に従来とは異なった学習方法を学ばせる効果のあることを示唆している。全国発芽マップでは,総合的で幅広い学習内容を取り扱うだけでなく,他校の児童・生徒との協同的な学びを促すというねらいが生かされていることを示している。ただし,学習方法の変化が,学級単位で起こったものか個人単位で起こったものか分からない。また,どのような変化が起こったのかは不明であり,これらについては個々の事例についての検討を待たなければならない。
表3-2-7「4. 児童・生徒の学習方法に変化が起こる」への回答
|
全国発芽マップへの参加が,自分自身が環境問題を考えるきっかけとなった教師は,37人の回答者中31人である(表3-2-8参照)。今年度の活動で栽培に取り組んでいる「ケナフ」が,環境保全,及びそれに関する議論と深い関わりのある植物であるために,このような結果が表れていると考えられる。
表3-2-8「5. 教師自身が環境問題を考えるきっかけとなる」への回答
|
しかし,表3-2-9によると,児童・生徒が環境問題を考えるきっかけとなった学校はね37校中26校に留まっている。
児童よりも教師の方が環境問題について考えるきっかけとなったケースが多いことは,全国発芽マップの特徴をよく表している。全国発芽マップでは,教師用のメーリングリストを用いた情報交換や対話が行われているため,教師間での問題意識の共有が起こりやすい。
その一方で,児童・生徒の方は,必ずしもすべての話題を共有するとは限らない。環境問題は,全国発芽マップを通してかかわることのできる一つのテーマであるが,必ずしもすべての学校の児童の活動が環境教育と関係しているわけではないことの表れである。
表3-2-9「6. 児童・生徒が環境問題を考えるきっかけとなる」への回答
|
表3-2-10によると,他の学校との交流があった教師は37人の回答者のうち32人である。教師の交流は,継続して活発なようである。
表3-2-10「7. 教師が他の学校の教師と交流する」への回答
|
ところが,表3-2-11によると,児童・生徒が他校の児童・生徒と交流した学校は,37校中23校であり,教師ほど学校間交流は多くない。これまでの全国発芽マップの児童・生徒間の交流は,TV会議かface to faceの交流にほぼ限定されている。すなわち,交流のための適当な手段に乏しい状態である。
今年度のプロジェクトでは,児童・生徒用のWeb上での対話を支援するための専用掲示板を開発したが,今年度の実践にはまにあわなかった。
これについては,来年度以降に児童・生徒用の電子掲示板が導入されたときに,交流する学校数が増加するかどうかに注目したい。
表3-2-11「8. 児童・生徒が他の学校の児童・生徒と交流する」への回答
|
表3-2-12は,児童・生徒の学習意欲の変化があると答えた教師から寄せられた,具体的な変化の内容である。
ここには,明確な目的意識,継続的な観察の実行,自ら取り組んでいるという自信,メールの積極的な返信などの具体的な意欲の表れが記されている。
これらの意欲は,教師の適切な関わりによって生じていることはいうまでもない。しかし,ここには,決められた活動にルーチンワークとして取り組んでいるという気持ちではなく,「自らの意志で,自ら考えたやり方で」取り組んでいるという児童・生徒の姿が描き出されている。
表3-2-12 児童・生徒の学習意欲の変化についての具体的な回答
|
表3-2-13は,児童の学習意欲の変化の要因として,回答者の教師が掲げた事柄である。
ここには,学習意欲の変化の原因として,以下のような事柄が含まれている。
a. 学習活動を自分たちでつくり出している
b. 他県や他校と比較を日々行うことができる
c. 同日同時刻に開始するという一体感
d. 成長の速さなど,ケナフという植物自体の持つ魅力
e. 地域差や距離感
f. インターネットや様々なコミュニケーション機器の活用
g. 問題意識があること
f. 全国的なプロジェクトへの参加
h. その他
表3-2-13 「その変化の原因はなんだと思いますか。」についての回答
|
表3-2-14には,児童・生徒の学習方法の変化の様子が掲げられている。
ここには,次のような事柄が含まれている。
a. パソコンやインターネットの使用の日常化
b. 教師に頼らず自ら調べる姿勢
c. 観察の活性化
d. 観察事実や記録のデータ化
e. 道具的としての教育機器の活用
f. 新聞や図書などの資料へのアクセスの増加
表3-2-14 「児童・生徒の学習方法の変化とは、具体的にどのような変化ですか。」への回答
|
表3-2-15は,児童・生徒の学習方法の変化の原因を掲げたものである。
a. 同じ対象を調べる仲間がいること
b. 他校の情報が参照可能なこと
c. 植物を育ているという責任感
d. インターネットや,情報機器の普及
e. コミュニケーションがあること
f. その他
表3-2-15 児童・生徒の学習方法の変化の原因についての具体的回答
|
表3-2-16は,参加校教師のメールチェックの頻度である。
ほぼ毎日メールチェックしている参加教師が大半である。しかし,中には,週に1度程度という,頻度の低い教師もいる。
表3-2-16 メールチェックのサイクル
|
表3-2-17は,メーリングリストへの投稿回数である。今年度は,爆発的に参加校数が増加したため,従来と比較すると一人の教師の投稿頻度が下がっている傾向がある。
表から,1回だけの教師が7人,一度も投稿したことがない教師が4人いることが分かる。このことは,全国発芽マップに参加している教師が,かならずしも活発な交流活動をしているとは限らないことを示している。
しかし,たった1回しか投稿したことがない教師や,一度も投稿したことがない教師が,このような調査には回答してくれていることは注目に値する。
つまり,メンーリングリストを読むだけのメンバーも,こういった活動に無関心なわけではなく,常に関心を持ち続けていることを示している。そして,本当に必要な場合になれば,登場する可能性を秘めていることが推察される。
このように,ROM(Read Only Member)に徹している会員が一定割合で存在していることは,全国発芽マップの層の厚さと,活動の可能性の深さの源になっているのであろう。
表3-2-17 メーリングリストの投稿経験
|
表3-2-18は,メーリングリストが何の役に立ったかについての質問に対する回答である。それによると,やはり情報交換をあげた教師が多い。
さらに,教師同士が,学習指導について教え合い,助け合っていることが分かる。これは,全国発芽マップのメーリングリストを立ち上げたときには,想定していなかったことであるが,「教師の支援」という意味で,メーリングリストが非常に重要な役割を果たしていることをしめしたけっかである。
こういった,同じ教育実践を共有する教師によるメーリングリスト上では,経験の豊富な教師からの助言が得られたり,試行錯誤の苦労の様子が共有されたりする。そのため,教師は,一人で悩むことなく,お互いに助け合い,連帯感をもって学習指導に取り組むことができる。
ここには,教師たちの「教え」と「学び」の共同体ができつつあることを,この結果は示しており,今後の教師教育や教師支援の一つの方向性として注目可能である。
表3-2-18 「メーリングリストは、何の役にたちましたか」に対する具体的回答
|
表3-2-19に,メーリングリストに期待することを示す。
これによると,やはり情報交換への期待が多い。
次に,交流を期待する声が多い。それに付随して,投稿に対する反応を期待する声がある。投稿への積極的な反応は,参加校数の増大によって下火になりやすいので,今後とくに期待されることであるし,その活性化の手立ても必要になりそうである。
表3-2-19 メーリングリストに期待すること
|
|
全国発芽マップの参加校数が,適度かどうかについては,表3-2-20のように,「ちょうど良い」という回答がある一方で,「多い」という回答も多い。前の問いのメーリングリストへの投稿への反応も,参加校数が増加することによって確かに鈍くなっている。
一方「少ない」という回答も7件あり,この質問への回答者の判断は分かれている。
表3-2-20 参加校数の適切さについて
|
参加校数の適切性についての回答者の判断が分かれていることから,その根拠を表3-2-21に整理した。ここには,参加者一人ひとりの切実な思いが表れている。
まず,参加校数がもっと多い方がよいと考えている教師は,参加校数が多い方が広範囲からの多様な情報を得やすいことを理由に挙げている。「全国発芽マップ」が「全国」にネットワークを広げていることの強を強調する見方である。
一方,学校数が多すぎるのでもっとすくない方がよいと考えている教師の理由は,主として一体感や交流の深まりを期待している。これについて,一つひとつ検討する。
まず「現状では、1つの論題に対し、2,3名の会員による討議であるが、これが10名、20名という規模になった場合、どの程度の内容まで投稿してよいか。つまり、多数の会員による討論が行われた場合、収集がつかなくなるおそれがある。」という指摘がある。これは,メーリングリスト上でのやり取りのテーマ制に注目した意見である。一つのテーマについての議論する参加者が数名ならばまとまりのある協議になるが,10名以上になると,投稿する方もどの程度の内容を書いて良いか判断しにくくなり協議が成立しにくいことを指摘している。
これに近い意見として,「それぞれの思いで取り組んでいてまとまりがない」という者がある。メーリングリストで,すべての意見交換を行うことの限界であるのかもしれない。
また,「162ではやはり、こんなことぽすとしたらとーーー書きかけても途中でやめてしまことがある。」「お互いのつながりの意識が薄まるのではないかと思う」「呼びかけたことに対する反応が得やすくなるが,一体感が減ってくるのではないか」などのように,メンバーのつながりの意識や一体感が低減するため,投稿にも自己規制がかかる状況が生まれている。
さらに,「情報が多すぎてしまうことがあり、メールを読みきれないことがあった」というように,情報過多も問題になっている。参加校数の増加で情報量が増大することと平行して,一人の教師にとっての情報の密度が低下するおそれがある。
次に,「多いことは悪いことではないと思うが、運営が難しい。特に、ML上で共通理解するにも時間がかかるだろうし、ケナフ栽培の経験にもかなり違いが出てきているので、参加校の中でも温度差があるように思う。」「2年目,3年目以上の参加校の担当者の意見が出しにくくなる。」という意見が出ている。全国発芽マップの参加の経験の違いによって,知識の量や質,そして問題意識にも違いが出ている。そのことが,長年の参加者にとって活動しにくい状況を生みだしていることが分かった。こういった問題を解決するには,少人数の掲示板や,その掲示板に付随したメーリングリストなど,全体のメーリングリスト以外に,少人数の意見交換の場が必要であることを示している。
最後に,「科学的データが取りにくい」という意見もある。科学的な調査を実施したい場合には,条件コントロール厳密に行う必要があり,全国の160校では実施しにくい。そういう場合には,小グループを作る必要があることを指摘した意見である。
これらについては,来年度から本格活用する専用掲示板の活用への期待がかかる。
表3-2-21 現在の参加校数160校が「多い」または「少ない」と答えた人の理由
|
表3-2-22に,現在の参加校数160校が「ちょうど良い」と答えた人が書いた根拠を掲げる。これによると,特に問題はないという考えがある一方で,多すぎる場合の問題点と少なすぎる場合の問題点の両方を併記した上で,現状くらいがよいと判断している教師もいる。
現実に参加校が多くなってくることで,メーリングリストに投稿される電子メールの本数が増加している。そのため,これらにすべて目を通したり,そのつど返信したりしようとすれば,参加教師の負荷はかなり高くなる。ところが,参加校が少なくて全国的な広がりがなければ,広範囲のデータを得ることもできず,参加することのメリットが低くなる。
さらに,「また,影で発芽マップを支えている人物がいるということを忘れてはいけないでしょう。規模が大きくなればなるほど,組織を支える人の仕事量は莫大になります。」という意見が出されているように,参加校数が増えた場合の幹事校の負担は計り知れない。
こういった問題点を考えると,参加校数が増えた場合には,現在のように一つのメーリングリストに頼るのではなく,テーマ別の掲示板とか,テーマ別のメーリングリスト,そして,テーマ別の幹事が必要になるであろう。
表3-2-22 現在の参加校数160校が「ちょうど良い」と答えた人の理由
|
2000年度の全国発芽マップで,調査に応じた各校が取り組んだことを,表3-2-23に示す。それによると,今年度の取り組みで多いのは,植物の成長比較,植物を使った紙作りが37校中30校と最も多く,電子メールのやり取り(27校),ホームページの作成(24 校),植物を使った食べ物づくり(23校)がこれらに続いている。
表3-2-23 今年度の全国発芽マップで取り組んだこと
|
表3-2-24に,来年度の全国発芽マップで取り組みたいこととして各項目を選択肢か学校数を掲げる。
この表の数値は,「今年度の全国発芽マップで取り組んだこと」に対する回答とは異なった分布になっている。
表3-2-24 来年度の全国発芽マップで取り組みたいこと
|
「取り組んだこと」と「取り組みたいこと」の比較をするため,表3-2-25を作成した。
表から,「4. 植物繊維を使った布づくり」「7. 手紙のやり取り」「8. テレビ会議」「9. 直接会っての交流」に関して,来年度取り組みたい学校が多いことが分かる。 これらの個々の項目について自由度1の独立性に関するχ2乗検定を行ったところ,「8. テレビ会議」と「9. 直接会っての交流」において,1%の棄権率で有意差が認められた。したがって,「8. テレビ会議」と「9. 直接会っての交流」は,今年度に実際に実施した学校数と,来年度に実施を希望している学校数の間に有意な差がある。テレビ会議や直接会っての交流を規模する教師は多いが,なかなか実施できない実態を反映している。
表3-2-25 全国発芽マップで今年度取り組んだ内容と来年度取り組みたい内容の比較
|
表3-2-26「「全国発芽マップ」への参加によって、インターネットを利用する教育についての見通しを持てましたか。」への回答
|
表3-2-27 「来年度の全国発芽マップに参加するとしたらどんな植物を育てたいですか」
への回答(二つまで回答可能)
|
表3-2-28に回答者によって提案された今後の展開へのアイデアを掲げる。
ここには,多様な交流の工夫に関する提案がある。たとえば,プロジェクト形式での活動,目的別・学校種別・地域別の活動,地方毎の「集い」,各校の記録交換をしやすくする工夫などがそれに相当する。
プロジェクト形式や目的別などの活動の場合,従来から取り組んでいる全体のメーリングリストを中心とする交流の他に,小規模な企画を平行して立ち上げることになるであろう。その際には,それぞれの活動の幹事を引き受ける学校あるいは教師が必要になる。そういったことを積極的な引き受ける教師や学校が出てくるかどうかに,今後の展開はかかっている。
また,子どもたち自身によるメーリングリストによる交流も提案されている。児童・生徒用のメーリングリストは,数年前に設置されたが利用がほとんどなかったという経緯がある。来年度は,児童用掲示板での直接対話を促す試みに着手するが,教師による対話促進の取り組みがいっそう重要になる。
表3-2-28 今後の展開についてのアイデアへの回答
|
表3-2-29には,協同プロジェクトを行う上での弊害として回答者からあげられた事項を掲げた。ここには,全国発芽マップなどのようなプロジェクトに参加する教師の苦労がにじみでている。
まず,情報通信機器や回線のハード的な制約が指摘されている。これらが解決されるのは,地域差や学校差があるものの,時間の問題であろう。しかし,ハードウエア環境の学校間格差,教師の機器使用能力の格差などの解決には,かなりの時間を要しそうである。
一方,主として教師の努力によって解決しなければならない,学校間での課題も指摘されている。たとえば,次のような事柄である。
○共同作業のための時間の確保と調整
○会って実際に打ち合わせをしたりする時間がない。時間がないまま企画を実行すると計画が不十分に終わってしまう。
○各学校の取り組み、思惑、時期のずれ
○事務校になったら、協力体制が取れないかも知れない
○共同プロジェクトテーマの設定のむずかしさ。
○HTML共同編集作業などで映像を校外使用のプライバシー問題
○適切な共同作業を進めるためのリーダー、アドバイザーがいるか子どもたちの直接書き込みなどの参加をどのように認めるか
○自分のところの事が忙しく、時間のかかる、他校との共同プロジェクトを希望する学校がどれだけあつまるか。
○指導者の意図することが各校で微妙に違っていること
さらに,校内にもたくさんの問題が指摘されている。たとえば,以下のような事柄である。
○学校内でのとりあつかい。全職員への提案の仕方,連絡調整,など
○担当者だけの仕事になるとその人のあとを受け継ぐ人がいないこと、校内・地域に広げて行かねば本物にならない。
○畑の確保・担当学年内の共通理解・時間の確保
○プロジェクトへの意欲の温度差
○教師間の共通理解
○教員のやる気
○上司の理解
○担当教師の学年が変わることによる継続の困難さ
これらについては,継続した取り組みの中で少しずつ解決していくことになるであろう。
表3-2-29 協同プロジェクトを行う上での弊害についての回答
|
2000年度の全国発芽マップの参加者に対するメーリングリスト調査結果から分かったことを質問分野別に整理する。
全国発芽マップの参加者で,今回の調査に回答を寄せた教師の勤務する学校には,小規模校が多いことが分かった。
全国発芽マッブでは,以前から小規模校や都会から離れた学校が目立った活躍をするケースが多い。これは,この企画が,特定の教科や学年に縛られず,児童・生徒の発想を生かしながら自由に活動を進めるようになっていることと関係が深い。
全国発芽マップでは,一つの植物の同時播種だけが全体の約束事で,以降は,成長記録の比較や,ケナフの場合なら紙作りなどの活動が想定できるが,固定された教育計画を持たない。
これは,異学年が協同で学ぶことが日常化していて,各学年や学級の授業時間を柔軟に変更できる小規模校にとっては,非常に好都合な企画である。
さらに,全体での教育目標は特に定められていないため,個々の学校の担当教師の教育上の目的を自由に設定できることも,一人の教師の裁量の大きい小規模校が,自由な活動を行うことを容易にしている。
ところが,大規模校では,多くの学年や学級が連携して動かなければならないめ,全国発芽マッブのように,あまりにも柔軟な企画には参加しにくい場合がある。実際の個々の状況を聞くと,比較的規模の大きい学校が,学校を上げてこの活動に取り組んでいる例は少なく,関心のある教師や,その学級,教科などでの取り組みという場合が多い。
このように考えると,全国発芽マップは,大きな学校が学校ぐるみで参加を前提とするよりも,小規模校とか,学級裁量の大きい学校の一つの学級の参加を前提とした方が良さそうである。つまり,実質的な参加の単位は,学校または学級である。
全国的な協働学習プロジェクトを企画するとき,これからは,こういった観点が必要であろう。
全国発芽マップへの参加は,児童・生徒や,教師に学習意欲や学習方法などの,多様な変化をもたらしている。
しかし,環境問題を考えるきっかけとなったかどうかや,他校との交流については,児童・生徒と,教師の間では違いがある。表3-2-30と表3-2-31で,これらについて児童・生徒と教師を比較する。
表3-2-30「環境問題を考えるきっかけとなる」についての児童・生徒と教師の比較
|
表3-2-31 「○○が他の学校との交流をする」についての児童・生徒と教師の比較
|
これらの表によると,全国発芽マップへの参加が環境問題を考えるきっかけとなったり,他校との交流につながったりしたのは,児童・生徒よりも教師の方が多くなっている。
教師自身が学ぶことは,全国発芽マップの文化として以前から指摘され来たことである。しかし,他校との交流を,まず教師自身が行っていることは,この企画が教師の教育支援という役割を伴っていることを示している。
今後は,児童・生徒の学びを支援することと同時に,教師の支援という意味での存在意義に注目しながら組織やシステムの改善を図る必要がありそうである。
メーリングリストの利用は,参加校数が増加したことによって,昨年までとは違った状況が生じている。
まず,参加校が全国的に増加したことで,情報源としての価値は再認識されている。ところが,その一方で,参加教師の経験年数や関心の違いから,投稿しても反応が返って来にくかったり,投稿自体を躊躇したりする現象が生じていることが分かった。これは,参加校が少なかった頃にはなかったことである。
これについては,来年度以降に使用する専用掲示板で,教師がテーマ別や地域別など,多様な単位での対話を行う試みをしながら,適切な方法を模索しなければならない。とくに,どのような単位を作ればいいのか,また,人数の規模はどのくらいなのかは,未だに不明であり,今後の課題として残っている。これは,様々なやり方での取り組みを通して適切な方法を編み出すことになるであろう。
今後については,従来,取り組みの少なかったTV会議や直接会っての交流に取り組みたいという意見が多かった
TV会議については,設備の整備が進むにつれて実行する学校が増加するであろう。しかし,直接会っての交流は,近くの学校間でないと困難であし,逆に近いと協働学習の意味が薄れてしまう。おそらく,直接会う試みは,一部の学校に限られるであろう。
来年度以降に栽培する植物については,ケナフが大きな支持を得ている一方で,その他の植物栽培への希望もあることが確かめられた。従来は一つの植物に限ってきた取り組みを,会議室別に別の植物に取り組んでみることが来年度の課題である。
学校内の調整の大変さと同時に,他校との時間的な調整の必要があるため,学校間の協働学習には障害が多いことが,調査の回答から明らかになっている。しかし,それでもなお,全国発芽マップのような企画を通して,他校といっしょに協働な学習に取り組みたいという教師や児童・生徒が多い。
調査結果は,様々な課題が存在することを示したとともに,教師と児童・生徒がそれを乗り越えて学校間の協働学習に取り組んでいることを明らかにした。