国際交流支援システムの開発及び実証実験 |
本システムは教育現場の必要性と授業支援にポイントを絞って開発されたことが大きな特徴である。教育現場と連携を取り、学校現場の技術レベルや国際交流実施にあたり障害となっている事を考慮しながら開発を行った。
それが現れているのが、本システムが生徒の学習活動支援そのものに焦点を当てている、という点である。1時間の授業の中で、1人の教員が40人の生徒に個別の英文メール指導を行うことは不可能に近い。しかし生徒が主体となり、生徒の意欲を大切にする授業を実施するには、教員による学習活動支援が不可欠である。本システムで生徒の学習活動支援を実現することにより、この問題を解決している。
実証実験に参加した児童・生徒や教員から挙げられた意見を見ると、英文メール作成に対する苦手意識が軽減したというものや、海外へ目を向けるきっかけとなったというものが見られる。これは、本システムが生徒の学習活動支援に有効な役割を果たしたことを示している。
さらに、感情表現をキーとして例文を検索するという機能については、多様な英文表現を提供することにより、教員を補助すると共に児童・生徒の表現能力拡大を図るという意図が反映されている。また、やがて始まるであろう小学校での英語教育においては、音声やコミュニケーションに重点が置かれると考えられる。そのような分野において、自分の意志を文字で記述するという新しい動きをサポートすることを可能にする。
本システムが学習を支援することにより、生徒は1時間の授業の中で確実に「作品」すなわち英文電子メールを作成することができ、さらにそれを海外の生徒と交換することができる。これにより、生徒に達成感や喜びが生まれ、学習に対する意欲を向上させることが可能になる。
生徒に対するアンケートにおいては、本システムを利用した国際交流をまた行いたいという意見や、今まで英語力の不足によりできなかったことが本システムを利用することによりできるようになったという意見が得られた。また、教員に対するアンケートや実証校からの報告においては、英語が苦手な生徒や英文メールを作成したことのない生徒が授業で英文メールを作成する際に、導入の手助けとして本システムを利用することにより、英文メール作成に対する意欲を向上させることができる、という意見が得られた。
これらの意見からは、英語に対して苦手意識を持っている生徒が本システムを利用して英文メールを作成することにより、英語に対して自信と達成感を持ち、今後の英語学習への意欲を向上させることが可能になることがわかる。
本システムによって、英語は「学力評価の英語」から「コミュニケーションや自己表現の手段」へと変わる。さらに、日常的に海外とつながる環境をもたらし、英語を使う場面を増やすことにより、英語教育そのものの質を向上させる。これはまさに21世紀の国際化を支援するものである。
本システムの特徴として例文検索だけに目が行きがちであるが、本システムは電子メールアドレスを持っていない学校でも利用が可能である。Webメール的な機能を併せ持っているため、インターネットに接続するだけでメールの受発信や送受信メールの参照ができる。
電子メールによる国際交流を行いたいが、メールサーバがなく実施できない、という声は現場の教員からもよく聞かれる。本システムはそのような現場の願いを実現するものである。
また、システムインタフェースにおいては、コンテンツ内容や量に不足があるものの、最初に簡単にシステムの説明をした後は画面上の操作に従ってスムーズに作業をすることができるという意見が挙げられている。例文の検索方法に若干改善が必要であるが、初心者にも利用しやすく利便性の高いシステムであると言える。コンテンツの整備や簡単な利用マニュアルの整備を行うことにより、さらに利便性が向上すると考えられる。
本開発システムは、実証実験以降、以下のURLで継続的に公開しており、実際に学校の授業でも使われている。
http://is.im.mri.co.jp/~english/
本開発システムを利用するには、ユーザアカウントの登録が必要であるが、当該ページでは、そのための申請方法を示している。今後最低1年間は、当該手続きに従って申請してもらうことで、教育関係者には無償でアカウント発行・提供していく予定である。
また、マニュアル等の参照なしでも本開発システムは活用できるものだが、これからの利用者にシステムの活用方法を示すためにも、指導案等とともに、ホームページ上から提供している。これらの情報は、当然ながら、利用申請(アカウント登録)なしで参照することができる。
今後も可能な範囲でより多くの学校現場で有効活用してもらえるよう、シンポジウム等での紹介・広報を行っていきたいと考えている。また、インターネットを通じて本ページをより多くの教育関係者に知ってもらうためにも、EスクエアのWebページからもリンクして頂ければと思う。
生徒・教師の評価から、現在の例文の種類や数は十分でないことがわかる。その一方で、一つのキーワードに対応する例文が多く、検索結果の例文の中から目的の物を探し出すのが大変だという意見も見られた。
学校での電子メール活用を考えると、学校行事や季節の行事がテーマとなることが多い。その都度意識して、年間を通してさらに例文を集めていき、利用者が十分満足する量と内容の例文をそろえる必要がある。また、これらの例文へのキーワード付けを工夫し、利用者が必要とする内容により即した例文を検索できるようにする必要がある。
本プロジェクトのコンセプトである「現場支援」「授業支援」の考えを堅持し、さらに現場に耳を傾け、本システムを利用しながら改善を加えて行くべきであろう。
本プロジェクトにおいては、アンケートや実証校からの報告で多くの意見や感想、提案が寄せられた。今後もこれらの意見を収集し、システム改善に役立てていくためには、教育現場である学校や教員のネットワークを構築し、本システムの利用と意見交換を行う必要がある。高校では実証実験校のネットワークがすでにできあがっているところもあるが、さらに小中学校や、海外で日本語を指導している学校との連携を深めていくことが重要である。
語彙力、文法力が未熟な小学生高学年へのインタフェースの改善が次のステップとなる。
小学校高学年は英語力が低く、英語に対する興味も低いレベルであると考えられる。この場合、使いやすく興味を引くようなシステムでないとシステム利用に対する意欲も湧かない。また、実証校からの報告でも、小学校高学年においては海外に目を向けさせ、海外とのコミュニケーション手段を知ることに意義があるという意見が寄せられている。
これらのことから、小学生の利用に際してはかなり限定した定型を用意し、簡単な英文電子メールの体験をさせることから始める、ということに主眼がおかれるべきであろう。
本システムはインターネット上での利用を前提としており、54kb程度の一般電話回線からの利用も可能である。実証校からの報告では、アクセス時にややシステム速度が落ちるものの、利用には差し支えなく動作するという意見が多かった。
インターネットへの接続環境を問わないため、生徒は自宅からこのシステムを利用することができる。また、辞書機能を備えているため、英語学習をもサポートする。生徒だけでなく、家族全員の学習をサポートすることが可能である。
本システムの利用の場を学校から家庭へ広げた場合、利用者としては児童・生徒の他に主婦や高齢者、障害者が想定できる。これらの利用者の英語力は比較的低いと考えられる。学校教育の利用に限定されず、英語弱者でも本システムを利用して国際交流を実施することが可能になるように、インタフェースの改善やコンテンツ内容の工夫を図る必要がある。
実証校からの報告では、実際に海外教育機関やALTの講師と連携を取って電子メールの交換を行ったという事例がある。また、本システムでは英語から日本語を検索する機能があるということもあり、外国人の生徒や海外教育機関からのアンケート回答が寄せられており、日本との交流を含めた日本語学習への関心の高さがうかがえる。
本システムの海外での利用を促進することにより、海外の日本語学習者の支援と、交流相手の確保を実現することができる。さらに、児童・生徒や教員の国際交流に対する意欲や能力を向上させることができる。そのためには、海外教育機関とも連携を取り、システムの質を高めることが必要である。
具体的には、オーストラリア、アメリカ、台湾など海外の大学や高校には日本語コースが多くある。これらの学校と連携を取って、本システムを用いた国際交流を行うというものが考えられる。
他国の日本語学習者をも意識した本システムは、次の教育課程にある総合的な学習の時間(国際交流分野)を大きくサポートすることが期待される。このカリキュラムは生徒の活動を中心としたものであり、国際交流もその一分野としての位置を占めている。
教育分野でのインターネット利用はさらに進んでいくことが予想される。この動きは日本だけでなく、世界的に進行していくものである。本システムが世界の教育における国際交流を支えるシステムとなることが期待される。
実施企業・団体名:株式会社 三菱総合研究所