序論 子ども用ホームページの作成企画について

国際大学グローバル・コミュニケーション・センター
新谷 隆
shintani@glocom.ac.jp

キーワード 小学校,インターネット,広場,電子会議室,学校間交流


子ども用ホームページの作成企画の先進調査参加報告

 E-スクエア・プロジェクトの先進的情報技術活用企画として実施された「子ども用ホームページの作成企画」におけるシステム試作ならびにモデル校実験の概要を解説する。なお,本稿との関連報告書として,別途「調査報告書」ならびに「利用者手引書」がとりまとめられている。


 子どもたちが主体的に参加できるオンラインの広場の活用は,数々の教育実践報告において,その有用性が述べられている。今後,日本全国で全ての学校がインターネットに接続され,さらにすべての教室からの利用が可能になる頃には,総合的学習や情報関連の授業において,子どもの広場の活用ニーズが大いに高まると予想される。今後,学校間交流等を実現するオンラインの仕組みが多数用意される必要がある。

 子ども向けの広場的な性質をもつホームページないしネットワークサービスは内外にいくつも存在するが,活発に利用されているものは数少ない。子どもたちの家庭からの活用をターゲットとしたサービスにはいくつか活発な事例があるが,種々の学校における事情を十分考慮して,学校からの教師や子どもたちの積極的な参加を実現できている広場はほとんどない。  数少ない例外の一つが民間のコンソーシアムが支援する「メディアキッズ」プロジェクトである。メディアキッズは,学校単位での参加を原則として,子どもたちが主役の実践を過去6年間程にわたり続けてきた。ここ数年は,メディアキッズが用意した専用のシステムを活用して,多い時で100校程度,少なくとも数十校ほどの学校が学校間交流を活発に繰り広げている。

 子どもたちや教師が参加できるオンラインの広場は,もっと数多く用意される必要がある。ところが,活発に利用されるような子どもの広場は,誰でも苦労なく簡単に構築・運用できるわけではなく,ノウハウや工夫が必要である。そして,そのノウハウや工夫は,一部のグループなどには蓄積されているものの,多くの教育関係者に広く伝播されているわけではない。

 本企画では,メディアキッズに続く日本で2番目の本格的な全国版のオンラインの子どもの広場の構築・運用を目指し,必要な調査,試作,実験を行った。メディアキッズとの最大の違いは,はじめての実践校,はじめてインターネットを利用する先生や子どもたちに向けた広場の構築・運用に強く焦点をあてた点である。メディアキッズが極めて意欲的な教員が中心となって新しいタイプの授業実践事例の開拓をし続けるコミュニティとしての性格を持っているのに対して,本企画では,実践未経験の学校でも参加できる敷き居の低さを実現することを当初からの狙いとした。

 本企画は,全国4万校の子どもたち全てが参加できる広場のありかたの考案を目指したものではあるが,その受け皿となる日本を代表する決定版のオンライン広場のサービスの構築実験をすることではない。そもそも日本に一つだけ全ての子どもたちが参加するコミュニティを作るという着想には無理がある。よく理解しておかねばならないポイントは,オンラインの広場が,人と人が出会い,親しくなり,そこにかかわる人々によるコミュニティ形成の場であるという性質である。そしてオンラインのコミュニティを作るには,そこでの活動を活性化させるための参加者に関しての適正な規模を考慮しなくてはならない。つまり,4万校全てを一つの枠組みに所属させるというのは,オンラインのコミュニティとしては規模が大きすぎる。  さらに,日本に一つしか子どもたちのためのオンラインのコミュニティしかない,という状況は,あまりに画一的過ぎる展開である。むしろ,全国規模ないし地域単位等で,多種多様なものが多数用意されるのが望ましい。そうなれば,学校は参加するオンラインのコミュニティを柔軟に選択できる。目的や用途に応じて,多様な学びの機会を見つけだすことができるであろう。

 本企画の当面の目標は,試作・実験するシステムをデモンストレーションしたり,参加体験を重ねながら,子どもの広場の有用性や構築・運用ノウハウをより多くの教育関係者に理解してもらうことである。そして最終的な目標として実現を期待するのは,本活動を理解し経験した方々が中心となって,新しい,別の子どもの広場の構築に力を注ぎ,全国各地に数十,数百の個性的なオンラインの学びの広場が次々に構築されてゆく運動に結びつくような展開である。


 本報告書は4章で構成されている。第1章ではインターネット上の子どもの広場の有用性と必要性を解説する。そして第2章では今回試作した実験システムの概要を述べる。さらに第3章ではモデル校による実証実験のようすを報告し,続く第4章では子ども用の交流の場のデザインと運用に関して分析を行う。最後に今後の課題に言及しながら議論のまとめを行う。


システム試作ならびにモデル校実験と並行して,子ども用のホームページに関する実態調査を行い,インターネット上において提供されているオンラインの広場の構築及び運用に関する要件抽出を行った。調査の結果は,別途「調査報告書」にとりまとめられている。さらに,試作システムの活用のための利用者ガイドブックを作成した。ガイドブックは,学校の教職員向けのものと,児童・生徒向けのものをそれぞれ作成し,「利用者手引き書」としてとりまとめた。本報告書とともに,調査報告書ならびに利用者手引き書を参照することで,「子ども用ホームページの作成企画」の1999年度の活動全体の様子を参照することができる。


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