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第1部 交流学習 実践記録
本企画のアイデア提案者と企画内容を擦り合わせて、具体的な河川の予定、テーマ内容、参加校の予定などを企画化した。また、複数河川を選択する場合は、暫定検討会を開催してどこが何を調査(動物、植物、環境、産業、文化等)するか検討することとした。
検討した結果、同一河川の上流、中流、下流に位置する学校同士が、各種メディアを活用して河川の流域独自の自然と生活、歴史と文化、産業経済の実態、流域間の特徴などを協働で調査し、インターネットを介して他流域との学校間および児童間の交流を行いながら、地域で生活する児童生徒が、その地域の特色を理解し、その理解に基づいた他地域との交流学習によって差異や類似性等の関連認識を深めるテーマとすることとした。また、検討した結果、学習課題の設定しやすい実施河川を吉野川に決定した。
上流域校、中流域校、下流域校をそれぞれ1校選定し、幹事校1校と協力校2校を募集することにした。企画内容の公表と参加校募集を目的に企画書と募集要項をホームページに発表しが、参加校の応募がなかった。
参加校の応募がなかったため、上流校に高知県大豊町立豊永小学校、中流校に徳島県三加茂町立三庄小学校を選定した。これらの小学校と折衝の結果、1999年9月に参加校に決定した。下流校については徳島市立の小学校を選定することとし、下流域の小学校と折衝した結果、1999年10月に徳島県板野郡吉野町立柿原小学校が参加することになった。
企画の具体的実施内容と推進内容を検討するため、研究グループを設置した。実施体制は、下図のようにした。
役割分担:
研究グループ:企画の推進、マニュアル作成の方針の検討・決定、マニュアル作成
幹事校:研究グループへの参加、実践校との連携指導、マニュアルの分担作成、評価活動支援
協力校:研究グループへの参加、幹事校との連携、マニュアルの分担作成、 評価活動支援
支援企業:研究グループへの参加、機器機材の手配、
事務局:研究グループの設置・運営、幹事校・協力校への実践支援、 マニュアルの作成、評価活動支援
実施スケジュール以下のように設定した。下流域の参加校の選定が予定より1ヶ月遅れたが、その他のスケジュールは大体予定通り実施できた。
本企画は、いわゆる「遠隔−共同学習」の研究開発プロジェクトである。したがって、情報通信網を介しての子どもたちの交流が大きな柱である。子ども達はホームページを閲覧したり、テレビ会議システムを用いたり、さらには電子メールを送受信したりして、遠く離れた子ども達と情報や意見の交換を繰り広げる。それは、他の「遠隔−共同学習」の場における子ども達と同様、近未来の学校の姿を示してくれる。
しかし、本企画が目指したのは、そんな華やかな活動だけではない。オンラインコミュニケーションは、本企画の学習活動の中にあって確かに主役ではあるが、舞台には脇役もいれば、舞台裏には裏方もいるし、大道具や小道具も必要であるように、地道な日常的な学習活動もあるはずである。
そもそも、「遠隔−共同学習」には、どのような大きさのいかなる舞台が用意されるべきなのか。本企画は、「遠隔−共同学習」を支える舞台、脇役や裏方、大道具や小道具などを探ろうとしてスタートした。これが、本企画の独自性でもある。特に、次の3点に注目した。
「遠隔−共同学習」では、ふだんは顔を合わせない子ども達が意見や情報を交換する。だから、そのやりとりの中身、すなわち、コンテンツにはずいぶんと工夫が必要である。こうした学習を成立させるためには、子ども達の学ぶ内容が、学校や地域をまたいで共通項をもつと同時に、それぞれの学校や地域が独自性を有しているべきだという提案は、すでになされている。河川・街道・海岸線など線に象徴されるつながりは、そうした2面性を持つ好素材である。本企画では、「同一河川流域」という舞台が子ども達に共通項と独自性を提供してくれることを確かめつつ、実践したものである。この実践を通して、交流学習の実践マニュアルを作成することを意図している。
学習環境の整備上の問題や指導者の資質の問題もあって、交流学習を、映像や文章だけのバーチャルな交流のみに頼るのは難しい。教育的意義からすれば、バーチャルな世界とリアルな体験の組み合わせ、その往復作用こそが尊重されるべきであろう。 オンラインコミュニケーションの持ち味を最大限に引き出すような学習活動、名脇役を果たす学習活動は何か。それを見出すことも本企画の意図である。
本企画では、オンラインコミュニケーションを安定して展開することを心がけ、合わせて、それを可能とする学校の情報機器環境の基準を確認することも目的とする。インターネットの回線速度、テレビ会議システムのインターフェース、マルチメディア型パソコンの台数などの条件が、どの程度まで整えば「遠隔−共同学習」を開拓し、それを維持できるのか、こうした道具の数や質について、最低限の基準を見出したい。
学習プロジェクトの教師による推進の可能性と問題点を明らかにすることも、本企画のねらいである。100校プロジェクト以来、「遠隔−共同学習」の実証実験は、どちらかといえば学校外の機関の強力なコーディネートのもとで、企画・運営されてきた。それは必ずしも悪いことではない。ただし、「遠隔−共同学習」の推進が教師達の手に余るからだという考えではいけない。すべての学校にインターネットが敷設されれば、ほとんどの場合「遠隔−共同学習」の企画・運営の主体は教師になる、ということであろう。
その日をイメージして、本企画は、学習プロジェクトの計画・実施・評価のイニシアチブをすべて参加校の教師に委ねる。もちろん、参加校以外の企画委員もプロジェクトの推進に全面的に協力する。しかし、意思決定の主体は、あくまで参加校の教師陣である。参加校外のメンバーによってあらかじめ決められた活動を、各学校の教師らがこなすという姿勢ではなく、教師自らが学習プロジェクトの方向性を探りつつ、意思決定をしながら展開する。
教師自身による意思決定は、当然、当該校間での調整作業を要請する。カリキュラムや情報機器環境などは、学校が違えば、その枠組みや整備状況は大きく異なるのが普通である。2つとして同じ学校はない。学校外機関が「遠隔−共同学習」をコーディネートする場合なら、各校の状況を俯瞰して、特定の学校だけが突出しないような配慮が働く。しかし、教師達がイニシアチブを取る「遠隔−共同学習」では、第三者が関与しない分、学校の状況の差が学習プロジェクトの進展を妨げる要素になる危険性が出てくる。自校の枠組みを、暗黙のうちに他校にも期待してしまうからである。また、今回の交流学習でもそうであったが、学習プロジェクトへの参入の時期にズレが生じることさえある。
学校間の共通理解や相互扶助を促す仕組みは何か、条件や参加時期・形態の異なる学校間では、いかなる調整作業を試みればよいのか、コラボレーションを保つ秘訣は何か、こうした問いへの答えも本企画は探ろうとするものである。
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