7.学習グループ編成の考え方と方法

 学習グループの編成は,学習課題を追究する上で,大変重要な事項であるが,大変難しい内容である,特に,学校間の交流学習を進める上で,相手校の子ども達とグループを作り,共に学び合う心の交流を願った展開などいろいろ考えられるが,それぞれに長所短所がある。

(1) 参加校内で設ける場合の長所と短所

 学習グループを各学校内で設けた場合,校区や学校の実態に応じて,学習をスムーズに進めることができる。そして,各学校に個別の学習テーマがある場合や,学習環境(情報機器の整備など)に大きな差がある場合などは,学校内のグループの方が動きやすく,それぞれ自由に相談しながら活動できる。さらに,見学や実験観察など同じ経験を共有しながら,連帯感を持って学習を進めることができるなどの長所がある。

 しかし,他校との交流学習の際,一方のグループから他方のグループへの情報提供や発表会形式の交流に留まってしまう可能性がある。

(2) 学校を越えて設ける場合の長所と短所

 学校をまたいで学習グループを編成した場合,共同学習としての意味が強くなる。ひとつのテーマについて,お互いの地域で調べたり比べたりという,グループ内で積極的な情報交換が必要となってくるため交流が深くなる。また,分担した役割を責任を持って果たすことが求められので,学習以外の成長も期待できる。

 しかし,学校間でグループを編成する場合,それまでに交流を重ねてお互いを知っておかないと,グループとしての連帯感は育ちにくい。交流学習の最初に実際にお互いが顔を合わせる機会(オフラインミーティング)が必要となってくる。また,テーマについて子ども同士が十分に話し合うことが必要となってくる。学習のまとめや発表の仕方についても,前もって決めておかなければならない。

 最低条件として,意見交換や情報交換が円滑にできるような環境(インターネット・TV会議・掲示板等)が整っていることが求められる。

(3) 両者の組み合わせ

 現実的なグループ編成である。同じテーマについて調べる学習グループが,各学校に共通して編成されていて,各地域の特徴的なことについては,各学校のグループが学習を進めてまとめる。そして,テーマのまとめについては,お互いのまとめを比較しながら,学校をまたいだグループでまとめていくこといった活動ができる。

 こうしたグループを構成する場合,各学校の子ども達の主体的な活動が,基本となるので,各学校で編成されたグループのテーマが,学校間で共通のものとなるように十分な話し合いが必要である。地域の特色に合わせて,全く同じテーマが設定されなかった場合でも,関連付けて各学校が交流できるようにしなければならないだろう。

8.子どもの学習課題の発見・解決への支援の方法

 地域に根ざした総合的な学習を展開するには,子ども達が自分(たち)の学習課題を明確に持つこと,そしてその解決の方法が分かっていて,その方法を使いこなせること,これらが学習を成立させ,成就させるための大前提である。すでに我が国では問題解決学習が1950年前後から現場に深く浸透し,この学びの姿を追究してきた。さらに1960年代には課題解決学習が提唱され,やがて発見学習へと受け継がれていく過程で,この課題発見・解決の重要性,そして教師の支援や指導のあり方が,研究されてきている。こうした教育的遺産が,新しい世紀の総合的な学習の実践研究に継承されていくべきであろう。代表的なものは,次のようなものである。

(1) 学習ファイル等の作成と提供

 ネットワークの利用は,学習における大量の情報のやりとりを前提とする。そのため,子ども達が接する情報もかなりの量に及ぶ。また,それが長期にわたって展開さることも多い。子ども達は,あふれる情報を前に,自分に必要なものとそうでないもの,1次情報と2次情報,得た情報とそれに基づく自己の考察などの違いが分からなくなってくる。情報の大海の中でおぼれそうになる。

 そうしたことを避けるために,彼らに情報の収集・加工・発信計画を立てさせたり,扱っている情報をストックしたりする道具を与えておくとよい。それらは,学習ファイルや学習ボックスの形式をとることが多いが,それらが「ポートフォリオ(学習履歴)」として用いられると,なお,いっそう効果的であろう。また,ネットワークによる交流学習の場合には,学校データベースの中にそうした学習の計画・記録のためのフォルダを準備するというのも,オンラインでの交流をさらに活性化しそうである。

(2) 資料類の準備

 ネットワークによる交流に向けて,子ども達が調べ学習に従事している時,彼らだけでは必要な情報を見つけられられない場合がある。情報活用の実践力の育成のためには,自分自身による情報収集を旨とすべきであるが,呼び水として,教師が基本情報を提供することは決して悪いことではない。

 例えば,図書,新聞,パンフレット,人材リストなどを提供する。あるいは追究に関係の深いサイトのURLを知らせるなどの手だては子ども達の課題発見・解決を大きく左右するだろう。

(3) 協力教授システムの導入

 いわゆるティームティーチングが,「総合的な学習の時間」の営みとしても,インターネットの教育利用においても,子ども達の課題追究の支援として,重要である。

 子ども達は,いくつかのグループに分かれて学習を進めているので,当然一人の学級担任だけでは,指導助言には限りがある。

 そこで,地域の専門家,上級生や上級学校の子ども達のアドバイス等も広義には協力教授システムの導入と考えてもよかろう。特に,専門家等の人材が活用ができる場合には,情報提供者としてだけではなく,子ども達の学習の評価者としての位置づけが可能になるし,有効である。

(4) テーマやグループの再編成

 ネットワークの利用によって,子ども達は大量の情報と出会う。それは,授業の複線化をもたらす。すなわち,ネットワーク利用の学習では,子ども達が手にしたり発したりする情報が多様化するので,学習の枝分かれ,個別やグループ別の課題追究が必然的に生じる。

 しかも,その複線化は,極めてダイナミックである。学習が進むに連れて,子ども達のテーマが細分化されたり,グループが統廃合されたりする。そのコーディネーションは,担当教師にしかできない仕事であろう。今,どこのグループがいかなる課題解決に従事しているのか,どんな情報を欲しているのか,そうした全体の景色を鳥瞰しつつ,グループの吸収・合併,あるいは分解を適切なタイミングで指示したり提案したりする役割を,教師にはぜひ果たしてもらいたい。

(5) 共有化のための布石

 河川等を題材とする共同学習に典型的に示されるが,「総合的な学習の時間」における子ども達の課題追究には,二つの顔がある。ひとつは先に述べた枝分かれ,複線化という,学習の個別性である。しかし,他方では,児童の追究は同じ舞台で展開されているのだから,そこには,学びの共通性も宿っている。彼らの追究は,スタート時点では個別性が強調されていても,次第に共通性が高まっていく。学習の後半には,それは共同宣言の発表とか,共同作品の制作,さらには共同サイトの構築などの作業へと収斂していく。

 だから,個別またはグループ別の課題追究が繰り広げられている時にも,子ども達に彼らの課題の関係性を俯瞰させたり,仲間の学習の様子や中間的な成果を知らせたりすることが望ましい。これは極めて大事な指導のポイントである。学習が進むにつれて,子ども達は視野が狭くなり,他のグループとの共通点や関連が見えなくなるからである。彼らに,絶えず横の比較,関連性の意識を持たすために,教師に何ができるのか。例えば,各テーマ同士の関連と交流を図り,子どもに自分の調べ学習を自覚させるために「テーマ関連表」を作成・掲示する。あるいは,追究の節目節目でミニ発表会を開催する,などの手だてが共有化の布石として考えられよう。

9.子どもの学習過程・成果を評価する方法

 「総合的な学習の時間」の取り組み,とりわけネットワークによる交流学習については,その学習過程や成果を評価する方法,道具などが十分には蓄積されていない。新しいプロジェクトを展開し,実践の交流と蓄積を重ねていく中で,ふさわしい評価の開発を試みるしかない。だがインターネットスクールの実践や,総合学習の理論と実践を調べてみると,こうした新しい質の評価が,いくつか提案されてもいる。

(1) 学習支援のあり方とポートフォリオの活用

 「評価は,学期末や単元の最後に最終テストで一律に「学力の到達度」を測るだけでなく,自己評価を中心とした子ども自身の「振り返り」の活動が,大きな意味を持ってくる。それは単に自己評価カードを書かせることに終わるのではなくて,自分の学びを第三者の立場に立って,客観的に捉え,次の学びの方向を見定められるように,教師が支援してやることである(リフレクションによるメタ認知能力の発達を促す)。

 他者評価,つまり教師の評価も,アセスメントとして,子どもの学びの過程に寄り添い,その子自身の自律的な学びを促す働きかけとしての評価活動が実施されるべきである。子ども同士の対話やコミュニケーションを媒介にした相互評価も,その子の学びを促進していく上で,有効な役割を果たすし,教師はそうしたことができるように支援をしていくべきである。

 子どもの様々な作品や,書いたものを綴じた学習ファイルなどが,こうした評価のための具体的で貴重な資料となる。ただし学習ファイルは,そのままポートフォリオではない。子どもの作品などを順次累積的に集めたものが,学習ファイルである。それがポートフォリオになるためには,子どもが自分の学びを振り返り,学習ファイルの収集物などを取捨選択し,編集していく活動が不可欠になる。つまり子ども自身の振り返りと選択を経て,学習ファイルがポートフォリオになる。」

 以上の記述は,寺西和子(愛知教育大学教授)が,「授業研究21」に1999年4月から2000年3月まで,学習ファイル(ポートフォリオ)について,連載講座を担当している。この連載の最終回,2000年3月号から,ヒントになると思うものを選び出したものである。

(2) インフォーマルな相互評価の有効性

 総合的な学習の時間の学習内容・活動は,子ども達の主体的な課題発見・解決を前提としているので,子どもによって異なってくる。ひとつの基盤はあるものの,細部については多様な広がりを見せる。この場合,いわゆる発表会形式での情報交換,共有化には限界がある。他者が報告している情報は,自分の課題とのつながりが薄い。それを,発表の瞬間に,追究の基盤に立ち返って自分のものにするのは,大人にだって難しい。

 だから,子ども達に情報交換,追究交流の場を他にも求めたい。そのためには,子ども達同士の,それもインフォーマルな評価を教室に導入するとよい。例えば,教室や廊下に子ども達の研究レポートや作品が掲示・展示されると,友人の研究の過程と成果を子ども達がじっくりと学べる。相互評価もこのようなスタイルで実施されれば,子ども達は,付箋紙を用いて感想を述べたり,気づいたことをそっとアドバイスしたりできる。そして,そのような気楽さが子ども達の認め合いを喚起する。

 総合的な学習で子ども達が取り組む対象は,幅広いし,複雑である。研究の問題点を指摘し始めればきりがない。けれども,それぞれの子どもが進めている課題研究にはどこかしらきらりと輝くものがある。それを互いに見つけさせるような環境を教師は準備すべきであろう。

(3) 外部評価導入の必要性

 総合的な学習の実践では,子ども達が学校外の人々と交わりを深める場合が多い。これは,評価場面でも例外ではない。外部人材の活躍に大きな期待が寄せられる。学習計画や学習の中間段階での形成的評価,学習成果の総括的評価を,子どもと教師だけでなく,外部人材にも担当してもらうというわけである。

 総合的な学習の時間の評価には,学習の過程を重視する,子ども達の進歩の状況を尊重する,といった原則がある。これを遵守しようと思えば,彼らの学習の内容や活動が広がっているし,そもそも教師が内容等にうとい場合も多いので,外部人材の異なる切り口がどうしても必要になる。

 外部人材が,子ども達の取り組みをチェックし,自分たちの立場から,それにアバイスを送る。子ども達の学習計画・成果を聞いて,その問題点や改善点を指摘する。これは,生涯学習時代にふさわしい評価技法であろう。

 授業評価ばかりでなく,カリキュラム評価に関しても同様のことが言える。ネットワークによる交流学習の意義,その成果と課題に関しては,参加校の保護者や地域の方に確認を取らなければいけない。交流によるプロジェクトが教師と子どもの自己満足に終わらないためには,プロジェクト関係者以外の判断も吸収すべきであろう。

総合的な学習の時間の営みは,規制緩和の性格を持っているが,自由と責任は表裏一体の関係にある。独創的なプロジェクトであるほど,子ども達の交流が熱を帯びるほど,その妥当性を検証するシステムの必要性が高いと考えねばなるまい。

10.各学校による取り組みの中間報告とその手段

 中間報告は,各校で立てた学習課題の進展具合を調整する観点から大変重要な過程である。自分たちの学習内容を他の学校に伝えることで,学習テーマの調整,学習グループの再編,交流の仕方の変更などの問題点の発見につながり,新たな課題への挑戦意欲を促進することができ,子ども達の興味や関心も持続させることができる。

(1) 使い慣れたメディアの長所と短所

 報告の方法としては,一番手軽な方法としては,自分たちの言葉を伝えるために書く手紙やEメールなどがあり,また子ども達の意欲を促すビデオレターなどもある。しかし,一方向の伝達手段であり,返信がとどくまでに時間をようするため,即応的な内容には適さない。また,ホームページの活用も学習の成果を共有するという点では,有効であるが,これも中間報告用のメディアとしては,時間がかかり過ぎるため適当とはいえない。どうしてもリアルタイムに情報交換の場が必要となる。TV会議システムの活用や学校訪問による研究協議の場を設けて報告協議を行うことが望ましい。

(2) 中間発表会のタイミング

 学習途中でのオフラインミーティングやTV会議の形式で研究協議は,お互いの成果を把握したり,テーマの絞り込みを行ったり,課題を見つける事が可能になるので,かなり効果的である。日常的な反省協議とは,別に,研究発表形式の計画的な報告会を1か月に一度程度は実施したい。ただ,あまり大がかりではなく,研究協議のねらいを絞って行う方がよい。中間発表をあまり念入りに行うと時間的に負担が多くなり,継続することが苦しくなる。

 例えばTV会議で中間発表会をするとなるとTV会議のための準備が必要になり,本来の調べ学習の時間にも大きく影響してくる。実際に1回のTV会議に2〜3時間の準備時間をとることもある。ただしグループごとのミニ会議となると,もう少し時間は短縮される。


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