6.学校での実践例(2)


教材Webページコンテスト「ThinkQuest'99 Internet Challenge 」に参加して


ThinkQuestとは?


 ThinkQuestシンククエスト(主催:Advanced Network & Services, Inc.)は、1996年に米国で始まった教材Webページコンテストです。2?3名の中・高校生が一つのチームを組み、半年?1年かけて他の生徒が学習に利用できるWeb作品を英語で制作します。同じ学校の生徒でチームを組んで参加することもできますが、異なる国の生徒同士がチームを組み、協力しながら作品を制作する事が奨励されています。作品制作は全て生徒自身が行いますが、各チームには1?3名までコーチと呼ばれる大人(多くの場合教員)が制作上の指導役・相談役として付きます。作品のテーマによって「科学・数学」、「芸術・文学」、「社会科学」、「スポーツ・保健」、「学際(複数の学問分野にまたがるもの)」のいずれかの部門に応募します。

ThinkQuest Webページ(http://www.thinkquest.org/


 制作された作品は、その教育的な価値や品質のみならず、作品が完成するまでにいかに協力しあえたか、インターネットの特性を活かしたインタラクティブ性の見られる作品かどうか、完成した作品が世界の人々からどれだけ広くアクセスされているか、またその可能性があるかどうか、などが評価されます。審査の結果、部門ごとに「プラチナ賞(Platinum)」「金賞(Gold)」「銀賞(Silver)」が決定するとともに、部門を越えて最も優秀な作品には「最優秀賞(Best of Contest)」が与えられ、生徒には25,000ドルの奨学金が授与されます。

http://library.thinkquest.org/10131/


 97年に最優秀賞(Best of Contest)を受賞した作品は『Where Earth Meets Sky: The Himalayas(地球が空に触れる場所:ヒマラヤ山脈) 』で、ヒマラヤの地理的な位置、地学的な生成過程、トレッキングガイド、多様な動植物などを網羅的に紹介するとともに、その生態系が現在環境問題にさらされているということを伝えています。また、アクセスしたユーザーがヒマラヤについての情報を加えられたり、ヒマラヤに関するクイズに挑戦できるなどインタラクティブ性にも優れていました。


 98年に最優秀賞(Best of Contest)を受賞した作品は『The Soundry (音の科学館) 』で、音について様々な角度から研究した作品です。「耳の仕組みと音を感知する方法」「音の物理学」「音の理学的、技術的応用」「音声技術の歴史」「インタラクティブ音声実験室」の5つのカテゴリから、音についての知識と理解を深めることが出来ます。

http://library.thinkquest.org/19537/

 これらの作品はもちろん他の受賞作品も含めてどれも研究の質、サイトの構成、Webデザインとすべてにわたってレベルが高く、様々な学生Webページコンテストの中でも、最もレベルが高いものではないかと思われます。そして年々コンピュータやインターネット技術が進化するとともに作品のレベル、コンテストへの参加者が増えてきています。このことからも世界の中高校生が競ってThinkQuestにチャレンジしていることが理解できます。


ThinkQuest '99 Internet Challenge セミファイナリスト


 「ThinkQuest '99 Internet Challenge 」は98年11月より参加募集を開始し、世界78カ国2,596チーム(6,567名)が参加し、最終的には744作品の提出がありました。日本からも29チーム(65名)が英語での教材Web作りに挑戦しました。Internet Society の管理のもと、8月下旬よりオンラインによる第1次審査が行われ、セミファイナリスト153チームが発表され、その中で佐藤有希さん(高校3年)と柴田巧君(高校3年)が参加した2チームが選ばれました。


 佐藤さんは米国と南アフリカの高校生とチームを組み、文化大革命を中心とした現代中国について研究した作品「Discovering China: The Middle Kingdom」を制作しました。この作品は文化大革命を中心に、国家の成り立ち、事件、人物を丁寧に調査しまとめ、150ページ以上にも及ぶ内容があります。また、ビデオ映像をRealVideoで配信したり、様々な分野で活躍している人物、中華料理のレシピ、クイズ、掲示板など、見る人が内容を理解するとともに、楽しんで学習できるように工夫しています。テーマの絞り込みやページ構成は佐藤さんを中心に話し合われ、佐藤さんが英文テキストを書き、南アフリカ共和国のアレックス君がリサーチと集計を行い、アメリカ人のマイケル君がページをデザインしてWebページを組み立てるというように作業を分担して行いました。

Discovering China: The Middle Kingdom
http://library.thinkquest.org/26469/


 柴田君はデンマークとスイスの高校生とチームを組み、臓器移植問題などを中心に生命倫理について研究した作品「The Bioethics」を制作しました。この作品は、 バイオエシックスを医療の場としての倫理観としてとらえず、人々の生活、生命に関わる全ての事象に対する倫理として位置付け、歴史、人間の権利、医療、臓器移植、クローン技術、政策など様々な視点から研究を行っています。RealVideo技術を使っての、研究者のインタビュー、TV Learning Sysytemを作り、学習者がより理解しやすいように制作してあります。またこの作品は、英語、ドイツ語、日本語の3カ国語のバージョンを制作しました。


The Bioethics
http://library.thinkquest.org/29322/


作品の制作過程


 今回参加した佐藤さんも柴田君も、ThinkQuestのサイト(http://www.thinkquest.org)にある「Team Maker」に登録し、メンバーを探しました。「Team Maker」では、自己紹介をするとともに、自分は何が得意でどんなテーマで作品を制作したいか、そしてどんなメンバーを探しているか、を記述します。そしてメールでやり取りを行う中でチームを編成し、コーチを決めて、正式な登録を行います。本校の2人はともに海外の高校生とチームを編成したので、コミュニケーションやミーティングはすべて英語でメールかICQのチャットを利用して行いました。実際の制作は、テーマ選び、研究の打ち合わせ、作業分担、調査、取材、Webの作り込みまで様々な作業がありますが、これらの作業を2月からはじめて8月15日に完成して提出しなくてはならないのです。先に示したように、2,596チームが参加した中で744作品の提出しかなかったということに6ヶ月間意欲を持ち続けて作品を完成させることの難しさを物語っていると言えます。


ファイナリストの発表

 10月の下旬、第2次審査が行われました。この結果、最終審査に進むファイナリストが26チームに絞り込まれ、社会科学部門(Social Science)で佐藤さんのチーム「Discovering China: The Middle Kingdom」が選ばれました。この作品は9月に公開されてから60万件以上のアクセスがあり、「Yahoo USA」のCool Siteや「CNN.com」の10月のCNNHeadlineNEWSでも紹介されました。このような点も審査段階で評価の対象となります。

 

 最終審査と授賞式は、11月20日?22日にロサンゼルスのユニバーサルシティーのヒルトンホテルで行われることになり、佐藤さんと私がロサンゼルスに向かいました。


ロサンゼルスでの最終審査と授賞式


(1)11月19日

 11月19日に日本を発ち、ロサンゼルスのホテルに到着して受付けに行くと、ThinkQuestのスタッフが「Congratulations」といって満面の笑顔とともに握手で歓迎してくれました。もうここに集まった時点でみんなで讃えあう環境ができていました。26チーム総勢150名以上とスタッフが50名以上が世界中から集まり、これからの4日間このホテルで、びっちりとしたスケジュールをこなしていくことになります。

 私達のチームは生徒が日本、アメリカ、南アフリカ共和国、コーチが日本、アメリカ、インドと、まさに国際チームでした。これまでメールとチャットでしか会ったことのないメンバーに初めて会えるのですから、まさに感動の対面でした。

感動のチームメンバーとの対面

 しかし、対面の感動もそこそこに翌日から始まる最終審査で面接が行われるため、メンバーとコーチで「The Generator」という会場に向かいミーティングを始めました。そこには大きなモニュメントとともに50台以上のコンピュータが設置されており、 各国から集まったファイナリストたちがすでに集まってミーティングを行っていました。どのチームも短い時間の中で最終審査の対策をたてなければならないので必死でした。

各チームに1台ずつコンピュータが与えられ、そこでミーティングを行ったり、スタッフや他のチームメンバー、コーチが回ってきて説明をしたり交流するという1日でした。

The Generatorでミーティング

夜はディナーとともにイベントが行われ、ゲームや交流会などで楽しい時間を過ごしました。佐藤さんも私も、到着した初日にアメリカ、シンガポール、韓国、インドなど各国の生徒、コーチと交流できました。

イベント終了後、午後10時から12時まで各チームでミーティングが行われました。これでは時差も関係ないという状態でした。


(2)11月20日


 20日と21日の2日間は各チーム最終審査でした。部門によって面接会場が分かれており、各チーム1時間面接を受けます。「Discovering China」チームは午後1時?2時でしたので、午前中に最終ミーティングを行い面接に挑みました。面接は審査員3人とチームの生徒3人で行われます。当然英語で面接が行われるので、佐藤さんもそれを一番楽しみに する反面心配していたのですが、問題なくしっかりと受け答えができたようです。

緊張の面持ちで挑んだ面接も笑いを交えた和んだ雰囲気で行われたようです。

 面接会場前で緊張の面持ちのメンバー

面接内容は以下の要領で行われました。


 1、自己紹介

 2、生徒それぞれがどのようなコンピュータ環境で作業を行ったか説明

 3、質問事項

  ・どのようにしてチームを編成したか

  ・テーマに中国を選んだ理由は

  ・チーム内での作業分担はどのように行ったか

  ・参考資料、調査は何をどのように行ったか

  ・Webサイトはどのように制作したか

  ・このサイトでほこりに思える部分はどこか

  ・著作権はどのように許可を得たか

 4、プレゼンテーション(3台のコンピュータを使って生徒それぞれが審査員に説明する)

  ・このサイトを制作する段階で見やすさ、ナビゲーションはどのように工夫したか

  ・Real Video はどのように編集したか


 胃が痛くなるような思いで挑んだ面接も無事終了し、午後はメンバーとランチをとりながらホテルの近くのショッピングモールに出かけました。夜もディナーとともにパーティーが行われ、ゲーム大会などのイベントがたくさんあり楽しい時間を過ごしました。

パーティー会場で韓国の高校生と佐藤さん

(3)11月21日


 明日の授賞式を控えて、今日は1日各種ツアーに参加して、観光できました。ハリウッドツアーやユニバーサルスタジオツアーが準備されており、それぞれ参加したいツアーに申し込みをして出かけました。夜はファイナリスト全員とスタッフでユニバーサルスタジオに出かけ、各アトラクションを楽しんだ後ディナーパーティーが行われました。

 このときにはチームメンバーはもちろん、チームに関係なく参加している生徒、コーチ、スタッフが気軽に話し掛けたり写真をとったり、笑い声が絶えないくらい楽しんでいました。


(4)11月22日


 いよいよ審査結果の発表と授賞式です。朝食をとりながら今年のThinkQuestの運営の報告や次年度のThinkQuest2000のアナウンスとともに会議が行われました。10時からは「The Generator」会場で、地元の中学生を招いて、各チームがWebサイトをプレゼンテーションするというイベントが行われました。ロサンゼルス市長やCNN、各国のテレビ局など多くの人が集まり、会場には人が溢れるといった状況でした。

 午後は授賞式のリハーサルが行われました。会場に入ると、大きなスクリーンとセットが準備されており、これから行われるセレモニーの説明が行われました。どのチームも昨日の雰囲気とは違い、緊張した面持ちです。

そして午後4時からいよいよ授賞式です。この模様はRealVideoでインターネットでライブ中継されるとともにCNNで全米で放送されました。

ThinkQuestの創設者であるアル・ワイス氏から挨拶のあと、各部門の審査結果が発表されました。各部門毎にプレンゼンテーターから、銀賞(Silver)、金賞(Gold)、プラチナ賞(Platinum)の順で発表されました。

授賞式(Award Ceremony)

 その結果、「Discovering China: The Middle Kingdom」は銀賞を受賞しました。ThinkQuestに参加登録をしてから10ヶ月間、様々な努力を重ね完成させた作品が、世界中の人々から評価され、このような形で受賞できることはすばらしいことであり、感動の場面でした。

銀賞(Silver)を受賞した佐藤さん

 

Discovering Chinaチームメンバーとコーチ


まとめ


 今回集まったファイナリストの生徒、コーチはすばらしい人々であり、このThinkQuestを支えているスタッフもまたすばらしい人たちばかりでした。このThinkQuestに参加して得たものの多くは、これらの人たち、そして作品を制作する段階で出会った書籍、インタビューした人々、メールでやりとりしてきた人たちとの出会いであり交流であったと感じています。 そして、ファイナルに残った作品はどれもすばらしいものばかりでした。ファイナルに残れなかった作品もすばらしい作品が数多くあります。世界中の子どもたちに教材となるWebページを作るという目的で、出会い、悩み、喜び、涙しながらこれだけのすばらしい作品を作り上げることができたのです。

 インターネットは、問題解決に大きく貢献すると同時に様々な問題を抱えながら進化しているものであり、 決して万能ではありません。しかし、出会えることもなかった人たちとのコミュニケーションを作り上げ、そして協力しながらWebサイトという形で作品を提供することができるすばらしいツールなのです。自分自身、今回のThinkQuestの参加は、これからの情報教育のあり方、授業で何を伝えていくべきなのか、その答えの重要なヒントを与えてくれたと思っています。


 最後に佐藤有希さんの受賞の感想を紹介します。

「審査の際に、英語力の不足のために伝えたいことを十分に伝えることができなかったことが悔しいです。でも、多くの人が私のサイトに関心を示してくれたこと、私の片言の英語を熱心に耳を傾けて聞こうとしてくれたことがとてもうれしかったです。また、世界中に多くの友達ができたことはかけがいのない宝物です。」 

 

出発の朝、ブルガリアのチームと


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