1.2.3 実践事例の紹介

1.2.3.1 小学校の実践事例

鈴木 二正 慶應義塾幼稚舎

  石原 一彦 大津市立瀬田小学校

(1)小学校における情報環境の整備とレイティングの意義

 社会の情報化の進展は、今までの学校における教育環境を変えようとしています。政府による教育の情報化の推進政策によって、学校に配備するコンピュータの台数も見直され、児童一人あたりの台数も欧米との格差が埋まろうとしています。また、コンピュータだけでなく校内のインテリジェント化にも一層の進展が見られ、政府のミレニアムプロジェクトでは「校内LANの構築」が具体的な達成目標として提案されています。従来のコンピュータ教室だけの校内LANから、その線を普通教室や職員室まで延ばして、学校全体をケーブルで結び、校内のどこからでもネットワークにアクセスできる環境がもうすぐ実現されようとしています。このように学校の情報環境が改善されることによって、児童生徒が日常的にネットワークにアクセスできる環境が整い、授業時間だけでなく休み時間や放課後にも自由に子どもたちがアクセスできることになります。そして、すべての学校がインターネットに接続される近い将来、普通教室からインターネットを利用したり、休み時間に児童生徒が自由にインターネットにアクセスできるようなことが学校で実現されようとしています。

 実際、100校プロジェクトなどの先進的なプロジェクト参加校の多くは、校内LANをいち早く整備して普通教室からインターネットを使えるように情報コンセントの設置を行っています。また、新学習指導要領で新たに実施されることになる「総合的な学習の時間」においては、児童が自らの課題解決のためにサーチエンジンを駆使して情報検索を行う学習場面が想定されています。それらの学習活動を有効にするためには、図書室や特別教室など校内の様々な場所からネットワークにアクセスできる学習環境の整備が必要とされるのです。つまり、校内LANの構築とインターネットへの接続が子どもたちの学習環境を飛躍的に向上させる日も近いと言えるでしょう。

 しかしこのことは手放しで喜べることではありません。子どもたちが自由にネットワークを利用できるようにするためには、まだ数々の課題が残されています。その一つに、WWW上に存在する教育上不適切な情報をいかに対処するか、という問題があります。はだれもが情報発信に参加できるという優れたインタラクティブなメディアですが、一方で発信内容の責任が発信する個人に問われるだけで、情報そのものの質を問われたり、信憑性が確かめられたりすることはありません。情報発信者の良心にのみWWW責任を持つインターネットのメディアとしての特性は、一方でその危うさをも有していると言わざるをえません。

 従来の教育システムでは、学習素材はあらかじめ精錬され、教材にまで磨き上げられた上で、いかに効率よくこの教材を児童生徒に定着させるかが主要な任務であった。そこで教材として与えられる情報は、何段階もの専門家によるフィルターを経た上で、学習者に届けられるのです。つまり、厳選された安全な食材から作られた食事と同じで、この食事を前にして、学習者に「いかに食べさせるか」が課題であった。教師はその食材がどのような畑で採れ、どのような栄養が含まれているかを吟味することなく、上手に食べる方法を指導していればよかったのです。教師も生徒も、教材として記されている情報については、疑いを差し挟む余地はなかったのです。
 ところがインターネットから情報を取り出すということは、泥水に手を突っ込むのと同じです。泥水をかき分けてその中にある自分に必要な情報を選び出さなければなりません。泥水の中には金貨が埋まっているかも知れないし、ザリガニがいて、手をはさまれるかも知れません。インターネットの教育利用とは、このような混沌とした現実世界に学校教育を誘い込むものです。  情報化社会に生きなければならない子どもたちには、インターネット上のデータを自由に検索できる情報活用能力を身につけさせることが大切です。そのためには、情報倫理教育を系統的に実施することで子どもたちに不正な情報に対処する方法を身につけさせながら、技術的方策によって児童が安全に利用できる環境を整備することが必要です。その技術的方策の一つとして教育上好ましくない情報を教室から遮断するフィルタリングシステムは学習環境として必要になるのです。フィルタリングシステムは子どもたちに届けられる情報を制限することによって、逆に子どもたちがインターネットを自由に使う環境を提供するものです。今後、教育現場でこのフィルタリングシステムが導入され、適切に運用されることで、より多くの子どもたちの情報活用能力が向上し、情報化社会を生きる力が育つことを期待します。(文責 鈴木)

(2)小学校でのSFSの運用実験

(1)実験条件 実証実験にあたり、次のような環境、条件で実験を行いました。

 インターネットへの接続は、OCNエコノミーの専用線(128k)を使い、リモートアクセスルーターで校内LANと接続しています。インターネットサーバとしては、学校向けのオールインワンサーバである「Box-Qun」を利用し、ファイアーウォールの内側にある児童用の端末にはプライベートのIPアドレスが設定されています。このコンピュータ室で使われる児童用の端末はデスクトップ型が17台とノートパソコンが8台ある。それに高学年の普通教室に設置されている5台のデスクトップを加えて、全部で30台のパソコンがつながっています。インターネットサーバの上流にSFSサーバを設置し、インターネットサーバのキャッシュ機能によって大変効率よく運用できています。

<SFSサーバ>

 SFSサーバ1台

(Celeron 400MHz、メモリー128Mbyte、ノートパソコン)

 インターネット端末台(コンピュータ室25台、普通教室5台)  ラベルビューロはダウンロードしておき、キャッシュのみでフィルタリング

<システム構成>

OCNエコノミー -- リモートアクセスルータ -- SFSサーバ-- インターネットサーバ--端末

<実施期間>

 期間 2000年1月18日から2月29日(朝休み、中間休み、昼休み、放課後にPCルームや教室の端末を自由に利用させます)

<フィルタリングの設定>

 PrimarySchoolB

(児童が自由にサーチエンジンを使う、小学校高学年)


(2)実験の経過

 今回の実験では、児童が自由に使うプロファイルとして、「PrimarySchoolB」を設定しました。

 利用形態としては、授業で使う場合と子どもたちが休み時間や放課後に自由に使う場合とを想定しています。

 小学校の場合、授業での利用については教師の指示によって子どもたちが作業することになるので、サーチエンジンを利用しない場合は特に過度の心配はありません。コンピュータの配置にもよるが、最近では中学高校で見られるような講義型の配置が少なくなり、壁面や島状の配置が多くなっています。コンピュータの画面が見渡せる配置に変わってきているため一斉授業での利用では特にフィルタリングを行う必要がないでしょう。しかし、授業中にサーチエンジンを利用させる場合や、総合学習などで学習活動が分散される場合などにはやはりフィルタリングが必要とされるようになります。実際の授業であった話ですが、高学年の理科の授業で「人体の仕組」について学習していた際にグループごとに調べ学習でサーチエンジンを利用させたことがあります。その際に、「尿」というキーワードで一般向けのサーチエンジンを利用していた子どもたちから「大人向けの情報かもしれない」との反応が返ってきたことがあります。実施には好ましくないページが表示されたのではなく、それらのページがリストアップされたのですが、授業の場面でサーチエンジンを子どもたちに利用させると、このような場面に遭遇する危険性があります。

 サーチエンジンの利用で一番問題となるのが、「予期しない情報」が不用意に表示されてしまうことです。そこで表示される情報が、万一教育上好ましくない情報であれば、学習を行っている子どもたちへの大きな負担となります。そこでこれらの情報をあらかじめ遮断するシステムであれば、子どもたちにサーチエンジンの自由な利用を保障することができるのです。同じ理由で、普通教室においてある端末を自由に利用したり、コンピュータ教室の端末を休み時間や放課後に自由に利用する際にも、このようなシステムであれば子どもたちに自由に使わせることができるのです。

(3)実験の成果

 昨年度に開発されたクライアント型のフィルタリングシステムに比べて、今回実験に用いたサーバ型のシステムは画面が表示される速度が格段に改善されています。キャッシュサーバーの上流に設置されていることもあり、体感的にはフィルタリングかかけられていないシステムとほとんど見分けがつかないと言っても過言ではありません。したがって、速度を確保するために、フィルタリングが必要ないと判断された場合にはシステムを停止させ、必要だと思われる場合にのみ動作させるという煩雑な運用が必要なくなりました。今回開発されたシステムであれば、システムを恒常的に稼働しても端末への負担がかからないと言っていいでしょう。

 また今回のシステムはサーバ型であるために端末の設定やプロファイルの登録などを一括して登録できるのも大きな進歩であると言える。端末ごとに様々な設定を行ったり、ログの記録を解析するなどの運用上の煩雑な作業から開放されたことは、学校で専任のシステムの管理者を確保できないという現状から言っても運用する利点は大きい。

 また、数多くのプラットフォームに対応しているのも利点としてあげられます。学校にはUNIXを扱える教員はまだまだ少ないが、Windowsマシンなら扱える教員は多くいます。SFSはWinマシンにも対応しているため、教員がこのシステムを自校の環境に活用する機会を数多く提供できることになるでしょう。(文責 石原)

 

1.2.3.2 中学校の実践事例

「放課後のインターネット端末開放」 長谷川 元洋 松阪市立中部中学校

(1)はじめに

 フィルタリングソフトは必要無く、「自由に使わせればいい」という方針の学校も少なくありませんが、昼休みや放課後など教師の目が届かない時間帯にPCルームを開放している学校は少ないことでしょう。放課後や昼休みに公開しない理由の多くが、生徒が教育上不適切な情報にアクセスする可能性があるため、開放について校内でコンセンサスが得らないことだと思います。

 しかし、総合的な学習の時間などにおいて、課題解決的な学習やプロジェクト的な学習活動を展開するためには昼休み、放課後のインターネット端末の使用を保障することが学習環境の整備項目のひとつになってくるでしょう。また、文部省は2005年までにすべての教室をインターネットにつなぐ計画を打ち出していることから、各教室に置かれたインターネット端末は休憩時間など、教師の目の届かないところで使用される状況がでてきます。

 間近に迫った学校のインターネット環境の整備に備えて、SFSにより、生徒が教育上不適切な情報にアクセスすることを防ぐことができ、放課後にインターネット端末の開放ができるかどうかを検証してみました。

(2)実験条件

 実証実験にあたり、次のような環境、条件で実験を行いました。

<SFSサーバ>

 SFSサーバ1台

(Celeron 300MHz、メモリー128Mbyte、ノートパソコン)

 インターネット端末2台

 ラベルビューロはダウンロードしておき、キャッシュのみでフィルタリング

<システム構成>

 INS64 -- ダイアルアップルーター -- SFSサーバ -- 端末

<実施期間>

 期間 2000年1月13日から2月1日(放課後、PCルームを開放)

<フィルタリングの設定>

 JuniorhischoolA2

(生徒が自由に使う場合(直接先生の指導が無い)中学1−2年生・自由時間)

図1 設定画面

(3)実験の様子

 ネットサーフィンを初めて体験する生徒がほとんどであったため、Yahooなどのディレクトリサービスを最初に説明し、その後、フリーキーワードでの検索を説明する形をとりました。また、自宅でインターネットが使用可能で、日頃、いろいろなサイトにアクセスしている生徒には意図的に教育上不適切と思われる情報へのアクセスを試みるように指示しました。ページを閲覧中に不適切な情報だと思えるページが表示された場合は教師に申し出るように伝えました。

 使用するプロファイルはJuniorhischoolA2(生徒が自由に使う場合(直接先生の指導が無い)中学1−2年生・自由時間)に設定して実験を行いました。Yahooで検索したページの多くはブロックできましたが、Gooで検索したページの中にブロックできないものがたくさんでてきました。

 インターネット上では、毎日、次から次へと新しいサイトが生まれており、すべてをフィルタリングによりブロックすることは物理的に不可能であるため、検索エンジンを使う際のキーワードでブロックすることが有効です。図2はその設定画面です。

 

図2 キーワードによりブロックするための設定

 実際、生徒の様子を見ていて、直接、URLを入力して、有害情報にアクセスすることは少なく、検索エンジンにより、サイトを捜し、閲覧することがほとんどでした。キーワードでブロックをすることは、タイプミスなどによって、偶然、教育上不適切な情報にアクセスしてしまうことも防ぐことができるため、非常に有効だと思います。ただ、キーワードによるブロックは有益な情報までブロックしてしまう可能性もあるため注意が必要です。

 また、ポルノや残虐な画像があるページよりも心配なのはチャットやショッピング、オークションのページでした。高校生や大学生、社会人とチャットにより会話し、自分のプライバシーに関することを書きこんでしまわないか?ゲームキャラクターのカードのオークションなどで詐欺にひかかってしまわないかという心配の方が大きかったです。

 日常の授業でインターネット上でのセキュリティーについて、教えておくことは大切ですが、今回のようにまだ授業で教えていない生徒がインターネットを使用する際に簡単に相手を信用してしまうことが大変、心配です。なぜなら、ふだん学校の中では「友達を信用する」という考えを基本に普段の行動を指導することが多いため、インターネットの使用にあたっても、生徒は相手を信用してしまう可能性が高いといえます。

 教師の目が届かないときに被害に有ってしまわないように教育することが大切ですが、それをすべての生徒にできない場合は、フィルタリングをかけることで被害を防止することは有効な手だてだといえます。また、これにより、検索の際のタイプミスにより、偶然、不適切な情報にアクセスしてしまう危険性は回避できます。

(4)生徒用端末を制御することも可能

図3 デスクトップ上のショートカット

 フィルタリングシステムとしてだけでなく、授業場面においての生徒端末制御システムとしても利用可能です。今回の実験に際し、SFSサーバのデスクトップにSFS StartとSFS Stopをショートカットとして登録しておき、SFSをワンクリックでスタートしたりストップできるようにして使用しました。こうすることで、教師の説明の間はSFSをストップして、Webページにアクセスできなくしておき、活動場面の開始とともにWebページ閲覧を可能にするような端末制御ができます。

 生徒が説明を聞かずにネットサーフィンをしているような状態を防ぐために、インターネットに生徒用端末を接続したことで説明を聞かずにネットサーフィンをしているという状況を防ぐことができるわけです。

(5)学習環境を整えるために導入しよう!

 今回の実験では、校内でフィルタリングの設定ができることと、きめこまやかに設定できる便利さを実感しました。

 昼休み、放課後はAIDS、ショッピングに関するページは閲覧できないが、保健体育ではAIDSに関するページを閲覧可能にし、家庭科の授業ではショッピングのページを閲覧可能にします。教師が教材研究をする時間帯はフィルタリングの設定をはずといったことができます。また、今後、中高一貫教育を実施し、授業によってフィルタリングの設定を変える必要がでてくる学校もでてくるでしょう。教師向け研修会や保護者向け研修会で、インターネットの影の部分について触れる必要がある場面もでてきます。これらのケースに対応できる機能がSFSにあります。

 SFSを導入して総合的な学習の時間にも対応できる学習環境を整えましょう!

(6)展望

 総合的な学習の時間などにおいて、課題解決的な学習やプロジェクト的な学習活動を展開するためには、授業外でのインターネット端末の利用を保障したり、授業や学年によってフィルタリングのレベルを変えるような柔軟性をもったシステムが必要になってくる。SFSはそれらを可能にする機能がそろっています。

1.2.4 国際動向 国分 明男 財団法人ニューメディア開発協会

 インターネットは国際ネットであるので、青少年が安心してインターネットを利用できるようにするためには、国際的連携が必要である。以下では、コンテンツのレイティングに関する海外の動向を紹介する。

(1) RSACi の経緯

 レイティング基準の代表例として、RSACi(RSACによるインターネット上のレイティング基準)がある。RSACiでは、暴力、ヌード、セックス、言葉のカテゴリがあり、インターネット上のコンテンツが、各々のカテゴリに関して0から4までのレイティング値で格付できるようになっている。

 RSACiは、非営利団体 RSAC(Recreational Software Advisory Council)によるレイティング基準であるため、米国ではセルフレイティングの際の実質的な標準になっており、国際的なレイティング基準作成においても、この基準に基づいて検討が進められている。財団法人ニューメディア開発協会が推進しているレイティング/フィルタリング実証プロジェクトにおいても、RSACiの拡張であるSafety Onlineというレイティング基準を使用してきた。

 コンピュータゲームの格付けのために、 RSACによって1994年に作成された最初のレイティング基準では、暴力、言語、ヌード/セックスの3カデゴリしか用意されておらず、ゲーム作成者が自主格付けを行う際に用いる質問/回答表にはイエス/ノ−の回答を前提として作られていた。

 その後1996年には、それをインターネットに適用するための作業が行われ、ヌードとセックスを分離して4カテゴリとし、自主格付けを行う際に用いる質問/回答表もWeb向きに改良して、RSACi として発表された。その際に、その他の多くのカテゴリの追加も検討されたが、質問/回答表とブラウザ内のレイティング設定の両方を4カテゴリのままに保つことによって、レイティング基準をコンテンツ提供者にも両親にも分かりやすくするという結論になった。

(2) INCOREプロジェクト

 ヨーロッパにおけるコンテンツ・レイティングに関心のある組織で構成されているINCORE(Internet Content Rating for Europe)では、1999年にEU委員会からの予算に基づいて、ヨーロッパの利用者に適切なレイティングおよびフィルタリングシステムを作るためのプロジェクトを実施し、例えばRSACiのレイティングレベルや各国の映倫基準に適合するようなフィルタリング・プロファイルの開発を提唱している。さらに、(不寛容、潜在的に危険な話題や振舞い、個人の詳細情報、財務情報、相互利用性を含む)他のカテゴリについても検討している。マクロに言えば、財団法人ニューメディア開発協会が推進しているレイティング/フィルタリング実証プロジェクトにおいて実施した内容に近い提案である。

(3) 多層ケーキモデルの提案

 ベルテルスマン財団は、ベルテルスマン社の株式の68%を所有するドイツの非営利団体である。(ベルテルスマン社は、世界第3位のメディア複合企業であり、米国最大の出版社である。また、米国においてインターネット加入者の独占的シェアを誇るAOLのヨーロッパにおけるパートナーでもある。)同財団は1977年に設立され、オーナー一家が伝統的に行ってきた政治社会的・文化的コミットメントを継承する役割と、企業の存続を保証する役割を果たしている。

 レイティングおよびフィルタリングへの取組みとして、1998年12月に同財団は、「インターネットにおける責任とコントロールのための自主規制」というプロジェクトを開始した。同プロジェクトの使命は、インターネット上の有害および違法コンテンツに対処するために、自主規制に基づく国際的かつ統合的なシステムの開発を促進することである。同財団はこの自主規制基準の開発促進にあたり、30人規模の専門家からなる国際ネットワークを設立した。同ネットワークでは、「産業界の行動規約」「セルフレイティングおよびフィルタリングのメカニズム」「ホットライン」「法規制」という4つの責任領域を分担して作業を進めることとなった。

 これまでの検討結果に基づく提言では、包括的なアプローチをすること、自主規制を基礎とすること、セルフレイティングとフィルタリング技術を活用すること、コンテンツ評価についてはホットラインを活用すること、法規制と自主規制の連携をすること、メディアリテラシーと教育の必要性など、多くの観点から問題解決に近づこうとしている内容になっている。最後に、このような提言もまたインターネット自体が学習し変化しているのと同様に、常に再評価して変わっていかなければならないと結んでいる。

 その中で、「セルフレイティングおよびフィルタリングのメカニズム」の領域では、米国エール大学バルキン教授による多層ケーキモデルの提案がなされている。このモデルでは、RSACiのアプローチではコンテンツ提供者にとってレイティングするのが難しいので、レイティングとフィルタリングを分けて考える。W3C(World Wide Web Consortium)によるレイティング情報のフォーマット標準およびプロトコル標準であるPICS(Platform for Internet Content Selection)がケーキが載せられている皿である。

 ケーキは3層から成り、下の層(1層)はコンテンツ提供者が自身のサイトをレイティングする際に用いられる基本ボキャブラリ(30〜60程度の用語や表現)である。コンテンツ提供者は、それらに対してイエス/ノ−の回答を行い、これらが数値に変換されることなく、Webページのヘッダ部に用語列として組み込まれる。真ん中の層(2層)は、レイティング・テンプレートである。これは、第三者によって作成され、40〜60程度のボキャブラリ要素があり、それらがカテゴリ分けされている。上の層(3層)は個々のサイトに対するサードパーティ・レイティングを組み込めるように設計される。従来からあるブラックリスト・フィルタリングなどを含み、2層のテンプレートを用いてフィルタリングした結果と組み合わせることができる。

(4) ICRAレイティング基準の状況

 RSACは昨年5月に資金難のため、新設されたICRA(Internet Content Rating Association)に吸収された。ICRAの使命は、世界中のインターネット利用者に、(とりわけ子供にとって)有害とみなされるコンテンツへのアクセスを制限する選択肢を提供するような、国際的に受容されるレイティング基準を開発することである。具体的には、RSACiを拡張して世界的に共通する部分と各国の実情に合わせる部分を整理して、真に国際的に通用するレイティング基準の開発をすることである。 ICRAは、INCOREプロジェクトにおいて検討した内容を実際に開発する提案をEU委員会に行い、既に要求が認められている。この結果、2001年前半まで種々の開発を実施し、ここでの結果をコンテンツ提供者や利用者に啓蒙する予定である。 しかしながらそれを、国際的に通用するICRAレイティング基準に発展させるためには、多層ケーキモデルの提案やセルフレイティングで有害情報のブロックを十分に実現できるのかという疑問に対する回答を用意する必要があり、さらなる検討を早急に実施する必要性に迫られている状況にある。


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